一度は沈静化したものの、ターボ車の登場で再燃した「軽自動車パワーウォーズ」。その本格的な火付け役となり、ライバルに対抗したパワーアップを続けたのがダイハツL70型ミラでした。ホットバージョンの「TR-XX」は今もなおダイハツ軽ホットハッチ伝統の称号として、その復活が望まれています。

 

©DCTMダイチャレ東北ミーティング

 

 

軽自動車にもターボや4WDが登場する中、衝撃の50馬力!

 

Photo by Tadahiko Hyodo

 

1980年代前半、普通車で始まったターボ車や4WD車の波が軽自動車にも押し寄せました。

折しも1979年の初代スズキ アルトを契機に商用車登録(4ナンバー)の「軽ボンネットバン」(軽ボンバン)人気が爆発!

各メーカーとも、安価な軽ボンバンを主力として魅力的なモデルを投入していた時期です。

付加価値の追加でライバルに対抗すべくターボや4WDの設定が相次ぎましたが、初期のものはインタークーラーも無く最高出力もグロス40馬力台と、やや控え目。

そこに1985年8月、新型の直列3気筒SOHC2バルブエンジン「EB」型にインタークーラーターボを組み合わせ、一気にグロス50馬力台を突破して52馬力(ネット50馬力)を達成したのが、ダイハツ L70VミラTRです。

デビューから3ヶ月後の同年11月にはエアロパーツで武装したホットモデル「ミラTR-XX」が登場。

デザイン、性能ともに「ヘタなコンパクトカー程度ならカモれる」軽スポーツの時代が幕を開けました。

 

ダイハツ L70Vミラとはどんな車だったか

 

Photo by FotoSleuth

 

2017年9月現在も7代目L275系が販売されているダイハツ ミラ。

その2代目L70系はどんな車だったのでしょうか?

スズキ フロンテ派生車として登場したアルト同様、軽乗用車(5ナンバー登録)のクオーレ派生車として誕生した軽商用車(4ナンバー登録)のミラは、物品税の免除や軽自動車税が安いという軽商用車のメリットを活かし、アルト同様に初代から販売の主力となっていました。

そこで2代目ミラではミラ(L70V)が中心、その5ナンバー版がクオーレ(L70S)と主従逆転した形のデビューとなったのです。

 

Photo by Tadahiko Hyodo

 

商用車登録でありながらエアコン・パワステ・パワーウィンドウといった(当時としては)豪華装備を標準、またはオプションで備えた「パルコ」や、エアロバンパーやリアハッチスポイラーなどエアロパーツで外観も派手なターボ車「TR-XX」もミラのみに設定。

クオーレにもターボ車クオーレCRの設定はありましたが、過激な「CR-XX」的なモデルは設定されないまま、1989年のマイナーチェンジでミラに統合されました。

これにより、ダイハツ軽自動車の主力ブランドは「ミラ」で統一され、ほかにスペシャリティカーのリーザと商用軽1BOX/トラックのハイゼットという、シンプルなラインナップになったのです。

 

ライバルに対抗したパワーアップ

 

Photo by Tadahiko Hyodo

 

「第2次軽自動車パワーウォーズ」を巻き起こしたL70VミラTR-XXでしたが、もちろんライバルも黙ってはいませんでした。

ミラTR-XXのデビューから1年3ヶ月後の1987年2月、スズキがCA72V初代アルトワークスを発売。

それまで同じF5Aエンジンでもインタークーラーターボ仕様をアルトターボに、DOHC4バルブ仕様をアルトツインカムに搭載していたスズキでしたが、両者をドッキングしたDOHC4バルブインタークーラーターボ仕様F5Aを開発。

しかもL70VミラTR-XXのEB20エンジンは燃料供給が旧弊なキャブレター式だったのに対し、CA72Vアルトワークスは新世代のEPI(※1)で、リッター100馬力超えのネット64馬力を発揮し、軽自動車馬力自主規制の基準になりました。

もちろんダイハツもこれに対抗。

EB20をEFI(※2)化して58馬力を発揮するEB25を搭載した、「ミラTR-XX EFI」を1987年10月に投入したのです。

 

Photo by Tadahiko Hyodo

 

しかしF5AのDOHC4バルブエンジンに対して、EB25はSOHC2バルブのまま。

これではアルトワークスに馬力で劣るのも仕方がないか…と思われていました。

ところが、そこからがダイハツの底力で、1年後の1988年10月には64馬力にパワーアップしたEB26へとTR-XX EFIを更新。

ライバルがDOHCマルチバルブの「精密機械化したスポーツエンジン」に頼る中、SOHC2バルブの「実用ターボエンジン」のまま、550ccエンジンで自主規制値を達成したのはダイハツだけだったのです。

【各社のホットモデル向けエンジン(550cc時代末期)】

スズキF5A:直列3気筒DOHC4バルブEPI・インタークーラーターボ・64馬力

三菱3G81:直列3気筒DOHC5バルブECI(※3)・インタークーラーターボ・64馬力

スバルEN05Z:直列4気筒SOHC2バルブEGI(※4)・インタークーラースーパーチャージャー・61馬力

ダイハツEB26:直列3気筒SOHC2バルブEFI・インタークーラーターボ・64馬力

※ただし、スズキF5AのDOHCターボ仕様は78馬力の予定が運輸省(現在の国土交通省)の指導で64馬力に抑えられ、そのまま自主規制値になったという説もあり。

※1 電子制御燃料噴射装置のスズキ名

※2 電子制御燃料噴射装置のトヨタ / ダイハツ名

※3 電子制御燃料噴射装置の三菱名

※4 電子制御燃料噴射装置のスバル名

 

キャブターボかEFIターボか?スペックだけでは語れないホットモデル用エンジン

 

Photo by Tadahiko Hyodo

 

前項で紹介した通り、最終的に自主規制値に達するほどパワーアップされたL70系ミラのターボエンジンですが、実はEFI化以降も初期以来のキャブレター式ターボエンジンが最後までラインナップされていました。

もちろんスペック上はEFIを採用したEB25(58馬力)やEB26(64馬力)が上回りましたが、ECU(コンピューター)が入ったエンジンはアクセルワークに対してリニアな吹け上がりとは言い難く、レブリミッターの存在もちょっとした「お邪魔虫」となったのです。

そのため、キャブレター式ターボのEB20(50馬力)がスペックこそ劣るものの、セッティングさえ決まっていればフィーリングは、はるかに良好と考えるユーザーも少なくありません。

 

Photo by Tadahiko Hyodo

 

ECUが無いのでレブリミッターも無く、必要とあらばタコメーターの針をレッドゾーンに叩き込み、サージングを起こすまで回してもなかなか壊れない「野蛮な魅力」を持ったEB20搭載車が1990年まで購入できたのは、特筆すべきことでしょう。

双方を乗り比べた経験のあるユーザーには、「高速道路の巡航などはEFIターボが楽だったが、スポーツ走行ではここぞという時に踏んだだけ回ってくれるキャブターボが良かった」という思い出があるかもしれません。

 

ラリーでダイハツ・スズキ対決を始めたL71VミラTR-XX 4WD

 

出典:http://storia-x4.com/X4-history2.htm

 

1987年まで、G100SシャレードGT-tiを全日本ラリーのBクラスに投入していたダイハツでしたが、1,600ccクラスのライバル相手に1,000ccターボではさすがに分が悪く、1988年からはAクラスに転向。

そこでは既に、フルタイム4WDのCC72Vアルトワークスが日産 マーチやスバル ジャスティと争っていましたが、ダイハツもフルタイム4WDのL71VミラTR-XX 4WDをEFIエンジンと同時に設定したこともあり、この激戦区に参入したのです。

新規格(660cc。現在の視点からは旧規格)のL200SミラTR-XXアヴァンツァートへバトンタッチするまで、2年少々の参戦で3勝を上げ、全日本ラリーAクラスは完全に軽4WDターボ対決へと移行していきました。

こうして短い間でしたが、近代ダイハツ軽自動車がモータースポーツに関わり、スズキ アルトワークスと数々の激闘を繰り広げる序章となったのです。

 

Photo by Tadahiko Hyodo

 

それ以外に、メジャーなモータースポーツで活躍する機会の無かったL70V / L71VミラTR-XXおよび通常版のL70系ミラですが、ダイハツ車専門のジムカーナイベント「ダイハツチャレンジカップ」をはじめとするローカルイベントでは、手頃な入門車として活躍しています。

 

まとめ

 

Photo by Tadahiko Hyodo

 

軽自動車初のDOHCターボで、現在に至る64馬力自主規制を作るという、衝撃的なデビューで知られる初代アルトワークスとは異なり、L70V初代ミラTR-XXにはそうした「伝説的要素」はありません。

しかし、第2次パワーウォーズを勃発させ、ライバルから続々と同種のハイパワー軽ホットハッチが生み出されるキッカケとなったという意味では、十分以上にエポックメイキングな1台なのです。

その記憶や、続くL200系、L500系の活躍もあり、「ミラTR-XX」にはアルトワークスとはまた異なる種類の熱いファンが今でも数多く存在します。

その熱意は「アルトワークスに続き、ダイハツもミライースでTR-XXを復活させるらしい。」という噂まで生んでいますが、初代の軽量ハイパワーに過激なエアロパーツという「TR-XXらしさ」を継承しての復活に期待したいところです。

 

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