2017年7月下旬、新型FK8シビックタイプRが発売されました。販売価格は450万円と、高い性能を備えているとはいえ、誰もが気軽に買えない価格である事は確かです。そうなるとやはり懐かしく思うのは、初代EK9シビックタイプRではないでしょうか。世界最速で無くとも安価で良いマシンが買える、いい時代でした。

©︎鈴鹿サーキット

第3弾タイプRは、究極のシビックを目指したEK9!

出典:http://www.honda.co.jp/hondafan/

第1弾タイプRである初代NSXは、超高価で買える人は限られましたが、第2弾の3代目インテグラタイプR(以下、インテR)でいよいよ「誰もが少し頑張れば買えるタイプR」が現実のものとなります。

そしてその決定版は第3弾の、1997年に登場したEK9シビックタイプR(以下、EK9)でした。

ベースはもちろん6代目EKシビックで、それまでもっともスポーティなグレードだったEK4シビックSiR(以下、EK4)のさらに上を行くリアルスポーツバージョン。

しかもタイプRの証明である専用エンジンB16Bがしっかり搭載されており、テンロク(1,600ccエンジン)スポーツ当時最強の185馬力を発揮するエンジンは、VTECサウンドを吹き上げながら気持ちよく回り、軽量化ボディと内外装の各所にタイプR専用パーツを装備。

見た目にも、5穴ホイール(EK4以下は4穴)は明らかに普通のシビックとは異なりました。

(フロントのホンダエンブレムもボンネット先端に移りますが、これは後に追加されたEK3シビックフェリオVi-RSも同じ位置です。)

誰もが頑張らずに買えた、最初で最後のタイプR

Photo by Jose moreno

EK9が歴代ホンダタイプRで特異だったのは、その価格です。

・軽量化されたボディやエンジンなど走行装備を除きパワステやABS、アルミホイールまで省略されたものの、ナンバーも取得できたレースベース車:169.8万円

・エアコンこそオプションなものの、チタン製シフトノブやレカロ製バケットシートなど、タイプR専用装備が施された標準車:199.8万円

・エアコンやオーディオなど快適装備が最初から標準のお買い得仕様タイプR・X:219.8万円

ちょっと大人向けの3ドアハッチバッククーペ(DC2)とファミリー用途にも使える4ドアセダン(DB8)というインテRも安かったのですが、EK9はそれより安く、手軽な「レースから走り屋小僧まで、若者でも頑張らずに買えるタイプR」でした。

そんなEK9で、若い頃にガンガン走った!という人も多いのではないでしょうか?

ナンバーつきスポーツベース車には最適だった!

出典:http://mos.dunlop.co.jp/dirttrial_podium/dirttrial-2016-6

しかもEK9のレースベース車はナンバーを取得して公道を走行する事も可能だったので、改造可能範囲が広いナンバー付き競技車両「A車両」でジムカーナやダートトライアル、ラリーなどを走るベース車として最適。

EK9に近い戦闘力を持ち、それ以上に安かったのは三菱 CJ4Aミラージュ / ミラージュアスティRS(新車価格138万円~)くらいでした。

標準車やタイプR・XもレカロシートやヘリカルLSD、専用サスペンションなどが標準装備され、そのまま競技に持ち込んでもヘタなチューニングカーより速かったので、初代インテRとともにジムカーナ競技の無改造クラスは大盛況!

よくこの種の競技では「買った車でもそのまま楽しめる」と言いますが、その上でハイレベルな戦いを演じられ、安価なEK9は、一番安くモータースポーツを楽しめた車だったのかもしれません。

チューニングノウハウ確立前は、「曲げにくい車」と言われたことも

©︎Motorz

しかし、EK9も最初から無敵のマシンだったわけではありません。

確かにEK4より各スペックは向上したものの、その当初「安定はしているが、タイトコーナーでは重々しくて曲げにくい」と評価されていました。

特に短距離で急激な加減速とタイトなコーナリングやターンを繰り返すジムカーナやダートトライアルでは、あえて乗りやすいEK4を選んだユーザーも少なくはありません。

その最大の要因と言われ、初期にチューニングのキモとされたのがスタビライザーで、フロントは両車同一でしたが、リアはEK9が太い上に取り付け方法が異なり(ブラケットを介すEK4に対し、EK9は車体直付け)、走るステージによっては安定性過剰が問題になりました。

そのため、スタビ交換など足回りのバランスをステージによってどう味付けするかがEK9の課題でしたが、ノウハウ蓄積でやがて克服されていきます。

逆にEK4にEK9のリアスタビ移植で高速コーナーの安定性を向上させたり、エンジンもB16BよりB16Aベースの方がチューニング耐久性に優れる説もあるなど、EK9登場後もEK4には一定の需要がありました。

シビックレースでも主力車種に

©︎鈴鹿サーキット

長い歴史を誇ったシビックのワンメイクレースにも、デビュー翌年の1998年から投入されています。

当時同レースでは1996年に登場したEK4が旧型EG6シビックSiRとの混走を脱した時期でしたが、EK9も98年、99年と2年ほどEK4との混走時期を経て、2000年にはインターカップシリーズ(全国戦)、地方シリーズともEK9のワンメイクとなっていきます。

その後、EK9と初代インテRの生産終了や、2代目DC5インテグラタイプR(以下、DC5)の登場で、ワンメイクレースが一時期DC5に切り替わるまでの短い間でしたが、EK9はエンジンやボディが異なり外観以上に差がつく最強のシビックとして、レースフィールドに君臨しました。

後継車不在から長期間第一線で活躍

©︎Motorz

ホンダという自動車メーカーには時々、「ヒット作の次でガラリとコンセプトを変えるクセ」があり、優れた走行性能を持つかと思えば次の代にそのまま受け継がれない、あるいは一代限りでそれっきりということもよくあります。

モータースポーツシーンでも特定のホンダ車が後継も無く延々とワンメイク状態、あるいはそれに近い形で走り続けることは多く、DC2(初代インテR3ドア)などは、その最たるもの。

デビューから20年が経ったEK9もジムカーナSA1クラスで2017年現在も主力マシンとして走り続けており、ライバルはもっと古いEF8(2代目CR-XのB16A VTEC版)なので、その中では比較的新しいモデルとなっています。

他にダートトライアルSA1クラスなどでも強力なマシンの1台に必ずEK9が上がり、今でも全国各地で健闘を見せているのです。

この事からも、EK9はチューニングのノウハウが確立している「枯れたマシン」であり、若手からベテランまでが扱える名機として、走るステージがある限り活躍を続けることでしょう。

その後のシビックタイプRと、求められる後継車

出典:http://www.jrca.gr.jp/event/2005_2wd_rd4_result.html

EK9は2000年9月にわずか3年余りの生産期間を終えましたが、そのインパクトは強烈でした。

何しろ後に続いたシビックタイプRはイギリス生まれで一回り大きくなったEP3やFN2、そして4ドアセダンのFD2と2リッタークラス。

ニュルブルクリンクサーキット北コースFF最速で名を揚げたFK2(これもイギリス製)に至っては限定車で、一時は日本国内で500万円以上のプレ値がついたほどです。

また、間もなく(2017年7月下旬予定)発売される最新のFK8はイギリス製で高価になる事が予想される上に、スイッチ式電動パーキングブレーキによりサイドターンが困難など、購入できるユーザーや使えるステージは限られてしまいます。

シビック自体EK以降はキャラクターが変わり、そのポジションは現在のフィットが担っていますが、フィットRSにEK9的な役割まで求めるのは酷というものでしょう。

EK9の代表的なスペックと中古車相場

Photo by Kalvin Chan

ホンダ EK9 シビックタイプR レースベース車 1997年式

全長×全幅×全高(mm):4,180×1,695×1,360

ホイールベース(mm):2,620

車両重量(kg):1,040

エンジン仕様・型式:B16B 直列4気筒DOHC16バルブ VTEC

総排気量(cc):1,595cc

最高出力:185ps/8,200rpm

最大トルク:16.3kgm/7,500pm

トランスミッション:5MT

駆動方式:FF

新車価格(当時):169.8万~219.8万円

中古車相場:69.7万~244.8万円

まとめ

「走りを楽しみたいユーザーに、扱いやすいサイズで、かつ安価にそれを提供した本格派マシン」として最高だったEK9シビックタイプR。

これほど「若者が車で走るのを好きになるのにうってつけな車」はその後なかなか登場していません。

ファッション感覚でEK9を買うユーザーも多く、一時は中古車でもそこそこあった程度良好で安価なタマ数も、今では少なくなりました。

そんな今こそ、EK9のような「豪華装備は法規で定められた最低限で良いから、安くて速いマシン」が、最新のシビックタイプRと別に求められているのかもしれません。

「世界最速より、現実的に買える町内最速のタイプRを!」そう思っている人は、結構多いのではないでしょうか?

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