これを軽トラックと呼んでいいものか、しばらく迷った。
深い漆の黒に、金と青が散る。光の角度によっては紫にも見える。荷台を覆う巨大なキャノピーを開けると、中から1.9メートルの引き出しがすべり出てくる。

作ったのは、広島県の共立工業。創業50年、大型トラックの荷台などを手がけてきた架装メーカーだ。同社のカスタム軽トラックブランド『GRASSHOPPER(グラスホッパー)』の最新作にあたるこの一台は、11月3日から6日にかけてアメリカ・ラスベガスで開かれる世界最大級の自動車アフターマーケットの祭典「SEMAショー」へ出展される。
目次
調色レシピに存在しない色を、兜から導き出す
まず目を奪われるのが、ボディカラーだ。何色と呼べばいいのか分からない。
「テーマは漆の色です」と語るのは、開発責任者の椿谷氏。かつて有名メーカーのデザイン部門で腕を振るったベテランデザイナーである。

「我々がイメージする漆とはどんなものか。もし調色するなら、どう作るだろうかと考えました」
行き着いたのは、兜だった。松山城で見た兜の黒漆。そこに添えられた金の飾り。首元を締める、青い組紐。この配色をそのまま車体に持ち込むと決めた瞬間、色は自然に決まっていったという。

アメリカ人が好む「サムライ」のイメージに寄せながら、表面をなぞっただけの安っぽい和風には落とさない。そのための漆だった。
アクセントの赤に込められた、異例の色指定
サイドに走る赤いライン。インパクトはあるが、どこかドス黒い赤だ。これは何をイメージしたのか。

「サメのエラが開くと、中の赤いものが見えるでしょう。あの感じです。色を作ってもらう時にお願いしたのは、濃い血の色にしてほしいと。それも、僕の腹の中に溜まっているような血の色を表現してくれと」

クリーンな赤ではダメで、ドス黒くあってほしい。そう伝えて作らせた色だという。
全長1.9メートル。荷台に収められたステンレスキャビネット
この車の真骨頂は、キャノピーを開けた先にある。

広がるのはステンレス製のキャビネット。中央の巨大な引き出しは、長さ1.9メートル。実際に引き出してみると、片手で余裕を持って動くのに、ペラペラした頼りなさがまるでない。長いものを支える剛性感は、長年トラックの荷台を作ってきた技術の蓄積そのものだ。

両サイドにも引き出しが並ぶ。浅いものは工具の収納に、反対側は折りたたみチェアが3〜4本収まる大容量仕様。側面の扉は90度で固定でき、テーブルや作業台としても使える。

上から蓋を開けて手が届く引き出しもある。

「車中泊をされた時に、夜中に小腹が空いたなと思ったら、中からカップヌードルを取っていただく。そういうことですね」
取材の場で決まった車名「スポーツメカニック」
これまで各モデルにはそれぞれ名前が与えられてきた。この車はどうなのかと尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「忘れてました。名前がないんです」
生まれたばかりなので、この場で決めてもいいという。スポーティであること、工具を積むメカニック向けであること。その二つを踏まえ、椿谷氏が口にした名前が、そのまま車名になった。

キャンプ道具を積んでもいい。職人が工具を積んでもいい。命名の瞬間に立ち会うという、予定にない出来事だった。
シリーズの原点は、畑の草刈り用の一台
グラスホッパーというシリーズは、どこから生まれたのか。1号車の発想源を尋ねると、驚くほど身近な話が返ってきた。

「当時、畑の草刈りに定期的に帰っていたので、軽トラが欲しいなと。でも軽トラはかっこ悪いから嫌だなと思って。どうせ乗るなら、かっこいい軽トラに乗りたいと」

スケッチを1枚描いて社長に見せたところ、「これ行きましょうよ」という話になった。それが1台目だという。独特なキャノピーの形状は、アメリカ軍の軍用車両ハンヴィーから着想を得ている。
大型トラック架装で培った技術の凝縮
最後に、椿谷氏が語った一言が印象に残った。
「使っている技術も知識も材料も機械も、大型トラックの荷台作りと違うことは何もやっていないんです」
ただし、違いはある。
「12メートルを超えるような巨大な車をやっていると、細かいディテールに目を向けることが難しくなる。だから品質を高める、こだわりを極めるということから、こういう取り組みをして、そこを強化していきたいという思いもありました」

1号車がいきなり高い完成度を持っていた理由が、ここにある。ゼロから始めたのではなく、50年分の技術を小さな車体に凝縮したのだ。
2年ぶり2度目のSEMAショーへ
SEMAショーへの出展は、2024年に続いて2回目となる。前回は背中にグラスホッパーの紋を入れた法被で臨んだが、今回は火消しが着ていたような半纏を新たに作ったという。こだわりは、車だけに留まらないらしい。

「大和魂ということも当然ですけども、日本の美というものを、この宮島の対岸のこの場で作っているというところを表現したかった。そういう思いです」
漆の黒を纏った軽トラックが、11月、ラスベガスの照明の下に立つ。
提供【GRASSHOPPER(共立工業株式会社)】
詳細スペック・製作相談はこちら https://www.truck-body.jp/grasshopper/