輸入車情報を見ていると、輸入車には「正規輸入車」と「並行輸入車」の2通りがあり、どうも日本国内の正規ディーラーが販売した車以外は並行輸入らしいという事はわかります。しかし、具体的にどんな車が並行輸入となるのでしょうか。メリットやデメリット、さらに中古輸入車が並行輸入車だった場合のリスクなどについて、簡単に説明しましょう。
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大雑把には「メーカーから直接仕入れれば正規輸入、それ以外は並行輸入
「正規輸入車」と「並行輸入車」は法律で明確な違いが定められているわけではなく、法律上「輸入車は輸入車」でしかありませんが、用語としては一般的によく使われています。
両者の違いを簡単に説明すると、日本国内には「インポーター」と呼ばれる、メーカーとの直接取り引きで、クルマを仕入れる権利を持った業者が存在し、メーカーが「日本向けに作った車(日本仕様車)」をインポーターが仕入れ、直営店や特約店、代理店で販売されれば、「正規輸入車」となります。
このあたりは国産車でいうと、日本のメーカー、たとえばトヨタが日本各地のトヨタディーラー(地域販売会社)で販売するために生産し、ディーラーの直営店、あるいはディーラーから仕入れた街の整備工場などが代理店で販売した車が「正規の国産車」と呼ばれる事と変わりません。
ならば「並行輸入車」とは何かと言えば、「海外の現地ディーラーや個人など、メーカー以外から仕入れをし、販売する輸入車」で、一般的には「日本では、販売されていない車種」や、「日本で販売されていないグレードや仕様、ブランド」などが当てはまります。
ただし、日本で正規販売されている車種やグレードでも、「日本仕様に設定されていない装備が欲しい」などの理由により、あえてメーカーから仕入れなかった場合は、並行輸入車になるため、最大の違いは「メーカーとの直接取り引きで仕入れたかどうか」です。
原則として国連の相互承認協定など、国際的な基準を定めた国際協定に加入している国同士の新車取引に限られる正規輸入車とは異なり、並行輸入車は日本の保安基準や排ガス規制などの法規を満たしていれば、どんな車でも構わず、中古車も輸入できます。
中古車の場合は、製造年が特定できればその時代に合わせた日本国内の基準が適用されるため、タイヤがホイールで覆われていないオープンホイール車など、国産車ではなかなか見かけない旧車が、時々新しいナンバーをつけて走っているのも、それが理由です。
日本で販売していない車を海外、国産メーカー問わず輸入できるのが最大のメリット
並行輸入車の最大のメリットは、「日本で正規販売されていない車を購入できる」事でしょう。
フォードやクライスラーなど、日本から撤退してしまったメーカーやブランドの車は、今や並行輸入するしか購入する手段はありません。
また、ベンツやBMW、GM、ポルシェなど、日本に正規ディーラーがあるメーカーの車でも、全車種全グレードを販売しているわけではないため、欲しい仕様が正規販売されていなかった場合は、並行輸入で買うしかありません。
さらには、国産車メーカーでも海外専売で日本では売っていない仕様、たとえばアメリカ向けの巨大なSUVやミニバン、左ハンドル車、軽自動車の大排気量仕様(1,000~1,300cc級エンジン搭載車)、MT車も国内販売されないケースが増えたため、国産車(あるいは国産車メーカーの海外生産車)が輸入されるケースもあるようです。
「なぜ、この仕様を日本では売ってくれないのか!」と嘆く声が国産車・輸入車問わずよく聞かれますが、後述するデメリットを許容できるなら、並行輸入での購入を検討した方が早いかもしれません。
また、「海外では発売されたものの、日本ではなかなか正規輸入が始まらず、もう待ちきれない!」という場合に、並行輸入でいち早く買ってしまうというパターンもあるようです。
これらの事情から、言うまでもなく、並行輸入で得られるのは日本国内で正規販売されている車では得られない満足感やステイタスシンボル、企業の場合は広告宣伝効果などとなります。
さらに、日本国内で販売されている車種では戦闘力や宣伝効果に限界を感じ、正規販売していない競技専用モデルを並行輸入して、モータースポーツへ投入するケースも近年では増えており、TCRジャパンのセアト クプラ(スペイン)、全日本ラリーのシュコダ ファビア(チェコ)など、マイナー車好きにはたまらない豊富な車種ラインナップの拡充にも一役買っています。
通常のメンテナンスやサービスは受けられない事もある?並行輸入のデメリット
もちろんいい事ばかりではなく、並行輸入ならではのデメリットも存在します。
最初から日本で販売するために保安基準へ適合した仕様や、まとまった数を輸送保管する事によるコストの削減、購入後のサービスなど、至れり尽くせりの体制が取られた正規輸入車に対し、並行輸入車はコストパフォーマンスの面で不利になる傾向があるのです。
そもそも「パフォーマンス」の部分はオーナーの気分次第でいかようにも解釈できるから良いのですが、国内にストックされているわけではない補修部品、部品が届くまでの時間を埋める日常の足といったコスト、さらには不具合が判明してもリコールやサービスキャンペーンのハガキが自宅に送られてくるわけではないサービス体制など、問題はいろいろあります。
過去には、初代セルシオの販売を待ちきれずに北米から初代レクサスLS400を購入したものの、トヨタディーラーでの点検整備を断られた話や、東西ドイツ統一の象徴として話題になった東ドイツの国民車「トラバント」を並行輸入してみたものの、セルシオ用の触媒やタイコをつけてさえ排ガス規制に通らず、登録できなかったといった話もありました。
後者は自己責任としても、前者のように「並行輸入車は仕様が異なれば、正規ディーラーでのサービスが受けられない」という印象は根強く、それは半分事実です。
一応、独占禁止法の絡みで「並行輸入車だからという理由だけでは点検整備や修理を断れない」という事にはなっていますが、その後のユーザー獲得という思惑もあってか、「並行輸入車でも時間さえいただき、費用をかけても良いならば、できる範囲で受け入れます」という輸入車の正規ディーラーは増えました。
とはいえ、たとえば故障診断を行うテスターが正規輸入車にしか対応していないため、部品は直接輸入するとしても、何をしたらいいのかわからない場合もあり、「店で対応できる範囲を超えた点検整備」を理由に入庫を断られるケースは、皆無ではありません。
そのため、なるべくなら並行輸入車の購入時には、「購入後も面倒を見てくれる店で購入する」のが望ましいのですが、地域によってはそうもいかず、欲しい並行輸入車があっても断念せざるをえないケースもありそうです。
その中古車は大丈夫?!買ってみたら並行輸入車だったというケースも
デメリットに関しては、最初から並行輸入車とわかった上でリスクを承知で買うのなら、さほど問題にはならないかもしれません。
一番問題が生じるのは中古で輸入車を買うケースで、特にこれといった知識もなく「なんとなく左ハンドルで輸入車らしいし、今どきMT車でラッキー!」くらいの気分で購入してしまい、その後しばらくしてから車検や故障、修理のためにディーラーなどへ入庫しようとした際に、初めて並行輸入車だとわかった場合などは少し大変です。
何しろ、少し珍しい装備なくらいでありふれた車だと思っていたら、「正規輸入車ではないので、ちょっとこれは時間と費用がかかりますね。」と言われる可能性が高く、最悪の場合、「スイマセン、これはウチでは手に負えません。」という可能性すらありえます。
しかもそういう時に限って、あまり車に詳しくない中古車店(車に関わるお店の全てが、クルマ好きで販売するクルマにも精通しているとは限りません)で購入したため、事前の説明も不十分で、「聞いてないよ!」とトラブルになるケースは実際にあるそうです。
できれば購入時に、正規輸入車かどうかを、それも口頭での「大丈夫!」ではなく、車検証に型式が「(排ガス記号)-(型式)」で記載されているかなど、正規輸入車とわかるような証明を求めるべきでしょう。
多少のリスクはあっても、乗ってみたい並行輸入車
クルマ好きが、国内外メーカーの海外専売車に対し、「この車、日本でも売ってくれないかな」と思っても、なかなか実現しないのは、メーカーなりインポーターなりが検討した末の、「日本で売れたとしてもごくわずかで、イメージアップなどのメリットもない。」という企業としてやむをえない判断ゆえの事です。
少数派の希望はなかなかかなわないとはいえ、それはあくまで正規販売車(日本国内で正規販売されている国産車や、正規輸入販売車)での話で、並行輸入なら、ちょっと予算を頑張って、リスクも承知の上なら、実現できない事はありません。
特に最近は「日本で発売しても売れないかもしれないけど、魅力的な海外専用車」の話題が多く、米国トヨタの車などは某中古車情報サイトで447台(2021年4月26日現在)も情報があるなど、流通状況はかなり活発です。
駐車場や面倒を見てくれるショップ、ディーラーのアテがあるなら、あるいは販売している店がメンテナンスもしっかりと見てくれそうなら、周りとはちょっと違った夢に向かっての一歩を、踏み出してみてはいかがでしょうか?