車のボディ形式を紹介する際、「何が違うの?」と一番疑問に思うのが「4ドアセダン」と「4ドアハードトップ」ではないでしょうか。その定義についてはSNSで論争になる事すらありますが、実際のボディ形式の呼び方などは、メーカーの都合や時代に合わせて、案外適当だったりするものです。

往年の4ドアピラーレスハードトップブームで成功した1台、マツダ ペルソナ /  Photo by Riley

セダンとハードトップ、一番の違いは?

2代目以降のプリウスはテールゲートを持つ5ドアハッチバックセダン / Photo by Hadley Paul Garland

特に日本国内で「セダンは売れなくなった」と言われて20年以上になりますが、具体的にセダンとは、どういう車なのでしょうか。ハードトップと言われる車でも、セダンと同じ形の車があるなど、不思議に感じる人も多いかと思います。

昔はさまざまな「セダン」があったのですが、現在では、おおむね前から「エンジンが収められたボンネット、前後左右合計4枚のドアのあるキャビン(乗車スペース)、キャビンの後ろに荷室」で構成された車で、以下の2種類が「一般的なセダン」だと考えれば、間違いないでしょう。

・荷室がキャビンと隔壁で仕切られ、キャビンより低いトランクリッド(フタ)を開閉する独立トランク式(例、トヨタ クラウン / カムリ、ホンダ レジェンド / アコード、日産 フーガ / スカイラインなど)。
・荷室とキャビンが隔壁で仕切られておらず、トランクリッドではなく、キャビンからなだらかに寝かされたリヤガラスごと開くテールゲート(リヤハッチ)で開閉するハッチバック式(例、トヨタ プリウスなど)。

前者は「4ドアセダン」や「3BOXセダン」、「4ドアノッチバックセダン」、後者は「5ドアハッチバックセダン」と呼ばれる事が多く、現在国産車でセダンと呼ばれる車は大抵この2種類です。

これらセダンと、「ハードトップ」と呼ばれる車の最大の違いは「ドアに窓枠があるか」で、あればセダン、なければハードトップとなります(スバルのように「サッシュレスドア」など、独自の呼び方をする場合もある)。

国産車ではかつて「4ドアハードトップ」が大流行した時期があり、現在もヨーロッパ製の輸入車では「4ドアクーペ」という呼び方で、4ドアハードトップが小さな流行となっています。

同車種でセダンとハードトップ両方あった時代もある

「セダン」のイメージがあるトヨタ クラウンだが、この8代目S130系の頃は4ドアセダンと4ドアハードトップ両方あった。画像はハードトップ。/ Photo by Rutger van der Maar

現在の国産車は全て4ドアまたは5ドアセダンとなって、ハードトップ車は存在しませんが、かつては昔ながらの窓枠つきドアのセダンに加え、マイカー時代の到来で高級セダンに窓枠なしドアどスポーティなデザインのボディを与えた、個人ユーザー向けハードトップが同時にラインナップされていた時期もありました。

2020年代の現在とは異なり、1車種でも多様なボディラインナップとなっており、たとえば高級セダンではトヨタのクラウンや日産のセドリック/グロリアに4ドアセダン、4ドアハードトップの両方が存在し、クラウンは(最後はタクシー用のコンフォートがベースでしたが)2018年まで、セドリックも2014年まで4ドアセダンが継続されています。

トヨタのマークII3兄弟も、1980~1984年に販売されたX50/X60系ではマークII、チェイサーが4ドアハードトップと4ドアセダン、クレスタは4ドアハードトップのみ。

それ以降は以下のように、兄弟車でも全く別な道を歩んでいます。

マークII:1988年に発売したX80系まで4ドアセダンと4ドアハードトップ両方設定、X80系セダンは1996年まで継続販売、ハードトップはX100系まで代替わりしながら2001年まで継続、2000年に発売した最終型X110系だけ4ドアセダンのみ。
チェイサー:2001年に最後のX100系が廃止されるまで4ドアハードトップのみ。
クレスタ:2001年に最後のX100系が廃止されるまで4ドアセダンのみ。

おおむね、「タクシーや教習車など事業用車種と、個人向けでもフォーマルな雰囲気を持たせたい車種はセダン、4ドアでもスポーティな印象を持たせたい車種は4ドアハードトップ」という傾向が1990年代まで続きますが、それ以降は側面衝突への対応など、衝突安全基準の見直しや、乗降性の面で有利なセダンのみとなっていきます。

1980年代~1990年代はじめに爆発的人気を誇った「ピラーレスハードトップ」

ピラーレスハードトップブームの最末期に発売された、トヨタ スプリンターマリノ ?/ Photo by RL GNZLZ

もともとハードトップとは、前後ドア間の柱、「Bピラー」とドアの窓枠を廃止し、ドアの窓を全て開ければ左右に素晴らしい開放感が得られることを売りとした「ピラーレスハードトップ」がアメリカで流行したのをキッカケに、日本でも1960年代からクーペ風の2ドア、次いで1970年代には4ドアのピラーレスハードトップ車が登場します。

1980年代のハイソカーブームでは、さらに「ルーフを低くしてスポーティに見せる、デザイン重視なクーペルックの4ドアピラーレスハードトップ」が大流行し、トヨタの初代カリーナEDなど、セダンボディを持たない4ドアピラーレスハードトップ車を多数発売。

「保守派のオヤジグルマや営業車のセダン」に代わり「ファミリーカーにも使える新時代のスポーツカー、4ドアピラーレスハードトップ」が新たなセダンとして台頭し、一時は新たな国民車的存在になりました(今で言うミニバンやSUVのようなものです)。

しかし1990年代に入って大規模なRVブームが巻き起こると、着座位置もルーフも低くて卑屈で狭い、荷物も乗らない、多人数乗車もできない、実際に走るかどうかはともかく悪路走破性も高くない、とミニバンやSUVに対するデメリットばかり目につき、急激に人気を落とします。

さらに、多少デザインがいいだけでスポーツカーほどの性能でもなく、側面からの衝突安全性やボディ剛性の確保といった、新時代の車に求められる要素も満たせないピラーレスハードトップから、Bピラーを追加した「ピラードハードトップ」へ移行すると、安全性や剛性は上がったもののセダンとあまり変わらず、相変わらず狭いというデメリットだけが残りました。

こうなると無理に4ドアハードトップを続ける必要もなく、2000年代に入ると各社ともスポーツセダンを含め、全て4ドア/5ドアセダンへ統合されていき、2009年に5代目へモデルチェンジされたスバル レガシィが、サッシュレスドア(枠なしドア)のピラードハードトップをやめたのを最後に、国産車から4ドアハードトップは消滅しています。

国産セダンの衰退と、輸入4ドアクーペによるハードトップ復活

輸入車で「4ドアクーペ」として復権した4ドアハードトップ、メルセデス・ベンツ CLS500(C218) Photo by RL GNZLZ

こうして4ドア/5ドアセダンのみが残った国産セダンですが、さまざまなユーザー層の若返り策をとったものの、ジャンル全体で販売台数の減少が進んでいきます。

一方でメルセデス・ベンツやBMWのセダンはブランド力もあって比較的好調で、加えて近年はメルセデス・ベンツCLSクラスのような4ドアハードトップ車が「4ドアクーペ」を名乗り、ちょっとした流行となっており、1990年頃の国産4ドアハードトップ全盛期を思わせる様相を呈してきました。

軽自動車にも「セダン」がある。

軽スーパーハイトワゴンでも軽トールワゴンでもない「軽セダン」、ダイハツ ミライース/  出典:https://www.daihatsu.co.jp/lineup/mira_e-s/03_exterior.htm

なお、セダンにはもう1種類、「ハッチバック車をセダンとして定義する」場合もあります。

大抵は「ハッチバックはハッチバック」という認識なので一般的ではないのですが、軽自動車のように「N-BOXのような車はスーパーハイトワゴン、ワゴンRのような車はトールワゴン、では昔ながらのアルトやミライースは何と呼ぶ?」というケースが出てきています。

そのため軽自動車に限っては、スーパーハイトワゴンでもトールワゴンでも1BOX車でもない、スポーツカーを除く乗用車は今でも「セダン」と呼ぶ場合がありますが、それも最近では「軽ベーシック」や「軽コンパクト」など、新たな呼び方が模索されている状態です。

結局はメーカーが何と呼ぶか

この2代目レガシィなど、スバルでは「サッシュレスドアのセダン」だが、つまり窓枠がないので4ドアハードトップであり、要はメーカーの呼び方次第。 / 出典:https://www.subaru.jp/onlinemuseum/find/collection/2nd-legacy-ts/index.html

このように、定義としては窓枠の有無で明確に分けられ、歴史的にはセダンとハードトップが同一車種で別々に作られていた時代もありましたが、現行車種ではその区別をつける事にあまり意義がないため、慣例的に「4ドア3BOX車や5ドアハッチバック車は、ハードトップであってもセダン扱い」で紹介するケースが増えました。

あえて特定の車種で深堀りした紹介をする時には、セダンとハードトップそれぞれの特徴を説明しながら紹介するものの、ジャンルの紹介としては「セダンといえば4ドアハードトップ(今なら4ドアクーペ)も含む」と考えた方がよさそうです。

なお、セダンでもハードトップでも4ドア以外に2ドアや5ドアがありますが、それをセダンの一種、あるいはクーペあるいはまた別ジャンルの一種と考えるかどうかは、あくまで「メーカーが公式に何と呼んでいるか」がもっとも重要で、あまり定義に固執しない事をオススメします。