2017年現在、「自動車の動力」に大きな変化が起きつつあります。かつては「未来の動力」だったものが、技術の進歩により次々に実用レベルに到達しはじめたのです。しかし旧来の「エンジン」に代用できるのかと言えば、どれもいまいちもう一歩というところ。どれが将来の主力になるのでしょうか?
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自動車を走らせるのは主に内燃機関(エンジン)とモーターの2種類ですが…
まず現状の整理ですが、一般に市販またはリースされている自動車を動力別に大きく分けると、以下のようになります。
・ICEV:ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなど内燃機関のみの車
・EV:電気自動車
・FCV:燃料電池車
・HV:ICEVと、EVまたはFCV両方の動力を持つ。さまざまな方式があり分類がやや複雑。
他にまだ試験車の段階で製品化はされていませんが、以下の動力も開発されており、今後注目の動力となっています。
・圧縮空気車:高圧タンクに圧縮充填した空気の圧力でエンジンを動かす車。
・蒸気自動車:旧時代の「蒸気機関車」と似ているが、燃焼とは別な方法で作った蒸気圧でエンジンを動かす車。
ICEV(内燃機関自動車)
「Internal-Combustion Engine Vehicle」の略で、すなわち内燃機関のみで走り、内燃機関だけでオルタネータ(発電機)を回し発電する車です。
最近は後述するようなマイルドHV車やそれに準ずる充電機構を持つ車が増えており、ボルボなどが「2019年以降は、ICEVはもう作らない」と宣言している程、純粋なICEV車は減少傾向。
内燃機関とは一般的には「エンジン」そのもので、燃料の燃焼ガスで動かすのはどれも共通ですが、自動車の場合は大きく分けて主に2種類に分けられます。
・ピストンエンジン:燃焼ガスでピストンを動かし、クランクシャフトを回して動力を得る一般的なガソリンエンジンまたはディーゼルエンジン。
・ロータリーエンジン:燃焼ガスでローターとともにエキセントリックシャフトを回転させ、動力を得るエンジン。
※燃料や燃焼方法などさまざまな違いはここでは省略します。
メリット
・燃料を給油できるガソリンスタンドの数が多く、開設も容易。
・給油に時間がかからない。
・燃料を運びやすい。
・別な燃料でも動かせる「バイフューエル車」もある。
デメリット
・有害物質や二酸化炭素を排出する。
・古い車ほど排出ガスが浄化されていない。
・海外だけでなく、日本でもごく一部だが乗り入れ制限される道路がある。
EV(電気自動車)
「Electric Vehicle」の略で、日本語では電気自動車。
バッテリーからの電気でモーターを動かして走りますが、定義としては2種類あります。
BEV(EV)
バッテリーEVのことで、100%バッテリーに充電された電気で走るEVです。
代表的な車種はEV専門メーカーのテスラ車各種と、日産 リーフ、三菱i-MiEV、GM シボレー Bolt EVなど。
メリット
・車自体からは使用時に排気ガスを一切出さない。
・エンジンオイルなど内燃機関のための油脂類が不要で、消耗品や整備点検の手間が少ない。
・エンジンからの騒音や振動が無く、車内外での静粛性が高い。
・充電設備がある駐車場なら、未使用時は丸々充電時間に当てられる。
・車外給電機能があれば、非常用電源としても使える。
デメリット
・現在のバッテリー技術ではバッテリー搭載量に走行可能距離が左右され、大型高級車以外は頻繁な充電を要求される。
・充電時間がかかり、充電スタンドの少なさもあって充電の待ち時間が長い。
・普段止めている駐車場に充電環境が無いと、充電スタンドが少ない地域では充電の待ち時間や、充電スタンドへの距離を配慮した運用しかできないなど、実用性が極端に落ちる。
・停電時の充電方法は太陽光発電パネルなど限られる。
・静粛性が高すぎるため、歩行者などへ気づいてもらうための車外音源が必要になる。
・現在の技術では使用条件によってバッテリーの早期劣化が進む可能性があり、長期使用の際は新車時同等の走行距離を保つためのバッテリー交換など、ICEVよりコストがかかる可能性もある。
BEVx(レンジエクステンダーEV)
充電用補助発電機を搭載したEVで、レンジエクステンダーEVとも言われます。
市販車で代表的な車種はBMWのEV、i3に発電用2気筒エンジンを搭載したレンジ・エクステンダー装備車などで、発電用エンジンの電力で走るシリーズHVとの違いは、走行距離がバッテリーからの電力で走る方が多いとBEVx(レンジエクステンダーEV)、発電機の電力で走る方が多いのがシリーズHVです。
メリット
・バッテリーの充電量さえ十分なら、BEVと同じメリットを受けられる。
・ガソリンスタンドさえあれば、BEVで問題となる「充電スタンドが少ない地域で、次に充電できるのがどこかを把握して走らないといけない」という制限が無い。
・停電時もガソリンを補給できる環境なら自力で充電できる。
デメリット
・発電機を動かす前提の場合、ICEVと同じ排出ガスを出す。
・発電機はあくまで補助用のため車種によっては騒音が大きい。
・発電機のメンテナンスが必要で、その手間はICEVと変わらない。
・発電機に走行能力は無い(あるとHVに分類される)ため、バッテリーやモーターが故障すると意味が無い。
FCV(燃料電池車)
「Fuel Cell Vehicle」の略で、日本語では燃料電池車を意味しており、水素と酸素の化学反応で発電する「燃料電池」から電力を取り出し、モーターを回して走ります。
そのため、BEVとは充電するバッテリーか燃料補給する燃料電池かの違いだけのため、電気自動車の仲間として「FCEV」と呼んだり、補助的にバッテリーを積むため燃料電池とのハイブリッドという意味で「FCHV」と呼ばれることも。
これも燃料電池の方式でいくつかに分かれており、自動車用としては主に2種類に分けられます。
PEFC(個体高分子形燃料電池)
自動車用としては高圧圧縮タンクの水素で化学反応を起こす燃料電池です。
トヨタ MIRAIやホンダ クラリティ Fuell Cellといった市販車は、ほぼこの方式を使っています。
メリット
・排出するのは化学反応後の水と空気だけなので、BEV同様に車自体からは使用時に排気ガスを一切出さない。
・その他のメリットもBEVと同様。
・PEFCは効率は良くないが、作動時に発熱が少なく小型軽量化も可能で、自動車やモバイル機器に向いている。
デメリット
・現状では水素タンクが大きすぎ、小型車以下では採用しても走行距離が極端に短い用途にしか使えない(スズキのFCVスクーターなど)。
・元になる水素の生産、圧縮、貯蔵全てに電力を使い、現状ではBEVに充電するより効率が悪い。
・水素ステーションの数が少なく、設置条件も厳しいため急激な増加は困難。
・水素の輸送にFCVやBEVを使うまでは、結局輸送過程で運搬車の排出ガスが発生する。
・移動式、あるいは自力で水素を作る水素ステーションは一日に水素を供給できる台数が極端に少ない。
・水素ステーション自体に頻繁なメンテナンスが必要で、継続的な営業が現状では困難。
・現状で販売しているメーカー自体がEVに注力し始めており、今後のユーザーサポートや水素供給体制にも不安がある。
・水素をいつでも充填できる場所が非常に少なく、限られた地域と用途以外での実用性が皆無。
SOFC(固体酸化物形燃料電池)
簡単に言えば、PEFCに他の物質から水素を取り出す改質器を追加した燃料電池です。
水素を直接注入せず、物質を水素に改質するための燃料を補給する事により、水素を発生する仕組みで、日産がNV200ベースの「e-Bio Fuel-Cell プロトタイプ」でテスト走行をしている段階の未来の動力候補の1つとなっています。
メリット
・エタノールや天然ガスなど、水素に改質可能な燃料ならば入手しやすいものを選択でき、その燃料も圧縮などが不要なので既存のガソリンスタンドや石油元売り各社などのインフラが使える。
・その他のメリットはBEVxと同様。
デメリット
・改質器が高温を発するほか、排出ガスも出すのでPEFCのようにZEV(排出ガスゼロ車)とは認められない。
・サトウキビなど植物由来のエタノール使用が前提のため、世界の食糧事情などによっては、燃料や穀物などの高騰を招く恐れがある。
HV(ハイブリッド車)
複数の動力を組み合わせたのがHV(ハイブリッド車)ですが、世界初の量産HV乗用車、プリウスが登場した頃とは違い、さまざまな方式が開発されています。
・シリーズHV(発電用エンジン+走行用モーター)
・パラレルHV(発電 / 走行用エンジン+走行 / 充電用モーター)
・スプリットHV(同上)
・プラグインHV(上記3方式に外部からの充電機能を追加)
・マイルドHV(発電 / 走行用エンジン+充電用モーター)
それぞれの方式とメリットとデメリットを紹介します。
シリーズHV
エンジンと発電用モーターは発電に専念、走行用モーターは走行に専念というハイブリッドで、戦車や船舶用としてはかなり大昔から存在し、バス用ではプリウス以前からありましたが、量産乗用車用としては2016年登場の日産 ノートe-powerが世界初となっています。
一応走行にも使えるバッテリーを持ちますが、容量は小さいため発電機を使わずEV走行が可能な距離はそれほど多くありません。
メリット
・EVやFCVと同様、走行に使うのはモーターだけであり、アクセルペダルのみで加速も減速も可能な独特のフィーリングを持つ。
・燃料の補給はICEV(内燃機関自動車)と全く同じで、既存のインフラをそのまま使える。
・走行に使うモーターは低回転からのトルクが非常に大きいため、起伏の激しい地域での低速走行に向いている。
デメリット
・バッテリー容量は非常に小さいため外部への給電や外部からの充電は難しく、BEVまたはBEVxと共通するメリットはモーターによる操作フィーリングのみ。
・高速巡航時に効率的な回転数で走ると燃費が伸びるICE(内燃機関)と違い、郊外や高速道路では発電機の回転数が上がるだけで、街中に比べて燃費が伸びにくい。
・走行中などバッテリー残量の少ない時は発電用エンジンが動き続けるため、騒音対策はICEVと同等のものが求められる。
・同様に、発電用エンジンのメンテナンスもICEVと同様に求められる。
パラレルHV
エンジンもモーターも走行用に使えるもので、エンジンとモーターが同軸上で切り離しできないタイプと切り離してエンジンまたはモーター単独走行が可能なタイプ、そしてエンジンとモーターが別々の車軸に取り付けられ、それぞれ駆動するタイプに分かれます。
代表的な車種は、フィットなどホンダのハイブリッド車。
メリット
・どちらも走行用動力として使えて、モーターが故障してもエンジン単独で走行可能で、モーターの出力によってはモーター単独走行も可能。
・エンジンが苦手とする低回転域をモーターアシストしてエンジンの負担を減らし、排ガスを低減できる。
・HVとしては比較的単純な構造で低コスト。
・モーターでエンジンを始動できるので、セルモーターを無くすこともできる。
デメリット
・モーター出力が低くとも成立してしまうので、結果的にモーターアシストも燃費改善も最小限に留まる場合もある。
スプリットHV
パラレルHVと似ているものの、複数のモーターとエンジンを動力分割装置に接続し、走行 / 発電 / 充電を複雑に制御して同時並行することも使い分けることもできる方式。
トヨタ車のハイブリッド車は全車スプリット式のトヨタTHSおよびその派生型を使っています。
メリット
・状況に応じてエンジン単独 / 走行用モーター単独 / エンジン+走行用モーター / エンジン+走行用モーター+発電用モーターと切り替えて、EV走行、省燃費走行、パワフルな走行まで対応できる。
・動力分割装置をCVT(無段変速オートマ)として使えるので、ミッションが不要。
・エンジンによる走行と発電を高効率で同時に行える。
デメリット
・ミッションが無いことを除けば複雑なメカニズムで制御も複雑、高価になりがちでよほど数を売らないと量産効果で安く販売できず、戦略的安価設定をした初代プリウスなど最初は売れば売るほど大赤字だった。
・複雑な構造のため故障につながる部分も多く、精度の高い生産技術が必要とされる。
プラグインHV
PHEVともPHVとも略される方式で、BEVやBEVxのように外部から充電可能なのが特徴で、それを可能にするため通常のHVよりバッテリー容量が大きく、「エンジンでも走行可能なBEVx」とも言えます。
メリット
・HVより大容量のバッテリーに外部から充電可能なため、短距離ならばEV走行で給油の必要も無く、BEVと同じメリットを受けられる。
・同じく外部給電機能も高く、非常時には日本で一般的な2階建て住宅の電源にもなるほか、バッテリー残量が少なくなればエンジンで発電しながら給電継続可能なため、災害で孤立しやすい場所では非常に重宝される。
・さらに、強力なバッテリー性能を武器に発電用モーターを走行用にも使えるようにすれば、エンジン+走行モーター×2で強力な加速を得られる。
デメリット
・BEVとHVの良いところを合体させた贅沢な仕様のため、高価。
・国産車以外では新車でも外部給電可能な100Vコンセントが無く、単に「充電して短距離ならEVとしても走れるHV」でしか無いため、プラグインHVのメリットを最大限活かせていない。
マイルドHV
通常のHVとは異なり走行用モーターは持たないか最低限の能力しかありませんが、アイドリングストップ時に車内電装品用のバッテリーでエアコンやオーディオなどを使えるようにしたのがマイルドHVです。
2つのバッテリーに充電するためオルタネーター(どんな車にも大抵ついている、エンジンで駆動する発電機)を強化しており、回生ブレーキとして減速時の充電も可能。
代表的なのがスズキのS-エネチャージやマイルドハイブリッドですが、ISGと呼ばれる強力なオルタネーターの出力が上がッた事で初期のパラレルHVに近いところまで能力が上がり、その境目が曖昧になっています。
メリット
・停車時にエアコンやオーディオを使っていても電力を賄える時間が長いので、アイドリングストップの時間を伸ばせる。
・強化されたオルタネーターをバッテリーで駆動して、クリープ現象程度から、場合によっては徐行まで可能で、アイドリングストップ時間をさらに伸ばせる。
・走行中も車内電装品を使うバッテリーは回生ブレーキで充電されるので、エンジンの負担を減らせる。
・最低限の改良でマイルドHV化できるため、低コストで付加価値を高められる。
デメリット
・走行時のモーターアシストは無いか最低限なので、基本的にはアイドリングストップ時間を伸ばすためのシステムに留まる。
・ユーザーには普通のHVと何が違うのかわかりにくい。
まとめ
一口に「内燃機関の車・電気自動車・燃料電池車・ハイブリッド車」と言っても、多くの種類に枝分かれしており、それぞれ特性が異なります。
特性が異なる以上、あまり大雑把に説明しても「例外」が多いので、今や大雑把な説明もできないほどです。
20年ほど前まではガソリンエンジン車とディーゼル車、あとはせいぜいロータリーエンジンがほとんどだったのですが、古いものとたくさんの新しいものがごちゃ混ぜになるのが「時代の過渡期」というものなのです。
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