現在でもトヨタ センチュリーはあらゆる国産車の中でも別格中の別格。トヨタのフラッグシップというより『日本車のフラッグシップ』的な独特のポジションにある特殊な車ですが、その源流は1964年に発売された『クラウンエイト』にありました。クラウンの名を持ちデザインも2代目クラウンと酷似しているものの実際には全く別格の車であり、国産乗用車初のV8エンジン搭載車でもあったのです。
最上級VIPカーを国産車メーカーの手で
1950年代からプリンス セダン(プリンス)や初代クラウン(トヨタ)、そして1960年代になるとグロリア(プリンス)やセドリック(日産)、ベレル(いすゞ)といった国産高級車が出揃ってきます。
ただし、国賓や高級政治家、大企業のトップなどが乗る最上級VIP向け大型高級車は大排気量で大型、車内もゆったりとして信頼性も高いキャデラックなどアメ車が未だに幅を利かせていました。
自動車産業の復興をアピールしたいメーカーとしても、こうした超VIPクラスが乗る車を作るのは悲願であり、プリンスはグランドグロリア(2,500cc 1964年5月)、日産もセドリックスペシャル(2,800cc 1963年2月)といった大排気量大型車を発売します。
これらは大排気量エンジンを搭載してホイールベースを拡大。
車内の前後スペースのゆとりこそ実現していたものの、全幅拡大まで手をつけていないストレットリムジン的な車でしたが、全幅も拡大して単なるクラウン派生車の域を超えていたのがクラウンエイトでした。
見た目は2代目クラウンに似ていたものの、中身は全くの別車
1964年4月に発売されたクラウンエイトは、2代目クラウンとデザインがよく似ており、ペリメーター式フレームの採用やサスペンション形式なども含め、一見するとクラウン拡大版に見えます。
しかし、ホイールベース50mm、前後トレッド160mm、全長120mm、全幅150mmも拡大された寸法はデザインはどうあれ全くの別車というべきで、乗用車用ガソリンエンジンとしては日本初のV型8気筒エンジン(2,600cc)を搭載し、走りと車内のゆとりはまさに別格。
この時代にしてパワステ、パワーウィンドウを備え、ドアを開閉させるラッチを電磁作動とした電磁ロックドア(ただしバッテリーが上がると開閉できない)や、前後三角窓も電動開閉式でした。
また、オプションでオートドライブ(クルーズコントロール)、6ウェイパワーシートも用意。
さらに『コンライト』と呼ばれるオートライトを備え、明るさに反応して自動でヘッドライトなど灯火類を点灯・消灯させるだけでなく、普段はヘッドライトがハイビーム、対向車が来るとロービームに自動で切り替わるオートハイビーム機能すらありました。
そしてホーン(クラクション)すらも、それぞれ周波数の異なる3つのホーンが強く美しい和音を奏でる『トリプルホーン』で、『超高級車としての充実感は世界にひけをとりません』という宣伝文句は伊達ではありません。
なお、ミッションは初期には『トヨグライド』コラム2速ATでしたが、後に4速フロアMTや3速オーバードライブつきMT車も追加されています。
主なスペックと中古車相場
トヨタ VG10 クラウンエイト 1964年式
全長×全幅×全高(mm):4,720×1,845×1,460
ホイールベース(mm):2,740
車両重量(kg):1,375
エンジン仕様・型式:V 水冷V型8気筒OHV16バルブ
総排気量(cc):2,599
最高出力:85kw(115ps)/5,000rpm(グロス値)
最大トルク:196N・m(20.0kgm)/3,000rpm(同上)
トランスミッション:コラム2AT(トヨグライド)
駆動方式:FR
中古車相場:皆無
まとめ
クラウンエイトは発売後、1967年7月までの3年3ヶ月で3,834台を生産しました。
しかし、やはり2代目クラウンと同じデザインでは特別な高級感に欠けたのか、あるいはクラウンが3代目にモデルチェンジ(1967年9月)すると必然的に古いデザインになったためか短命で終わり、代わって完全オリジナルデザインのセンチュリーが登場して今に至ります。
充実した先進装備とゆとりある車内スペースを実現したとはいえ、構造的には『クラウン拡大版』にほかならなかったクラウンエイトが短命だったのは必然でしたが、センチュリーのパイロットモデルとしての役割は十分に果たしたと言えるでしょう。
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