FR、あるいはMRのスポーツカーを多数輩出してきたイギリスのスポーツカーメーカー『ロータス』ですが、1989年代末からの一時期にはFFオープンスポーツを作っていたこともありました。まだまだFFスポーツに否定的な意見が多かった時代に、ロータスが作るとこれだけ素晴らしいハンドリングになる事を実証してみせた文字通りの『ハンドリング by ロータス』、2代目エランとはどんな車だったのでしょうか?

 

2代目ロータス エラン(M100)  / Photo by Martin Pettitt

 

FFだってロータスしたい!2代目エランM100

 

2代目エラン以前の次期エラン候補、ロータスM90(X100)  / 出典:http://www.allcarindex.com/auto-car-model/United-Kingdom-Lotus-M90-X100-GTC/

 

1970年代、傑作FRライトウェイトスポーツ『エラン』の生産を終了したイギリスのスポーツカーメーカー、ロータスではエランの名を受け継ぐにふさわしい新型スポーツカーのプロジェクトが立ち上がっていました。

M90と呼ばれるプロジェクトは創業者コーリン・チャップマンが1982年に死去したことで一時中断しますが、後にX100と改名されて続行。

結局市販化には至りませんでしたが、一時提携していたトヨタの4A-Gエンジンを搭載していたようです。

 

2代目ロータス エラン(M100) S2  / Photo by Kieran White

 

そんなX100が結局お蔵入りになった最大の理由は、ロータスが1986年にGM(ゼネラルモーターズ)の傘下となったことで、GMグループ各社が販売する車の設計やチューニングに関わるようになったロータスは、かなり多忙となっていました。

その中で新スポーツカーM100のプロジェクトが立ち上がり、当初はミッドシップスポーツも考えられたものの、結局FF車となった理由としてはいすゞなどFF車メーカーのチューンを担当する中で、究極のFFスポーツで実力を証明する必要に迫られたからとも言われています。

いすゞが当時開発中だった1.6リッターエンジン『4XE1』の設計、特にDOHC4バルブヘッドにはロータスが深く関与していたようで、GMからもGMグループのエンジンを使うようにと指示があった事から、M100のエンジンには4XE1とそのターボ版4XE1-Tが選ばれました。

こうして1989年に登場したのが、2代目ロータス エラン(M100)です。

 

構造はまさにロータス、究極のFFハンドリングマシン

 

2代目ロータス エラン(M100)  / Photo by Walter

 

発表当初、まず皆を驚かせたのはエランM100がFFオープンスポーツだった事。

当時は既に乗用車のFF化が進んでいたにも関わらず『スポーツカーを名乗るなら後輪駆動は常識』という、現在ですら根強い信仰が非常に濃かった時代で、率直に言ってしまえば評論家もユーザーもただ『FFである』という一点のみで酷評したのです。

これはいわば感情、あるいは信仰の問題でいかんともしがたい事でしたが、実際にエランM100をドライブしたドライバーは一転、そのハンドリングを認めざるを得ませんでした。

FFスポーツ、ことに作動トルクが強烈な機械式LSDを持たないマシンでタイムを削るような走りの経験を持つドライバーなら覚えがあるかと思いますが、FF車は単にステアリングの応答速度さえ良ければいいというものではありません。

前後左右へのロールを有効に使い、決してフロント左右輪のグリップを失わないように走らなければ曲がるも進むもままならず、最悪フロントのグリップが回復した瞬間強烈なスピンに見舞われるなどロクな事になりません。

しかし、エランM100のセッティングは絶妙でした。

GMのテストコースでみっちり走り込んだ甲斐もあり、深くロールさせながらも粘り強く路面をグリップさせ続けるサスペンションにより、エランM100は当時のFF車としては秀逸と言ってよいレベルのコーナリングマシンに仕上がっていたのです。

 

2代目エランにも後のエリーゼなどと同じくレーサー的なモデルがあった。『エランM200スピードスター』(1991年) / 出典:http://www.allcarindex.com/auto-car-model/United-Kingdom-Lotus-Elan-M200-Speedster/

 

また、バッグボーンフレームに軽量なFRPボディを載せるロータスの伝統的構造を踏襲していた上に、いすゞ4XE1エンジンが当時の1.6リッターエンジンとしては十分強力、4XE1-Tターボエンジンに至っては当代随一の出力を発揮したので、パワーも十分。

ライトカバーが開くと下からヘッドライトがせり上がってくるという、初期型の複雑なリトラクタブルライトが単純にライトカバーと一体化したヘッドライトが現れるものに変わると重量軽減はさらに極まり、いつしかエランM100への批判はやんでいったのです。

 

『エランM200スピードスター』を前方から。M100クーペといい、リトラクタブルライトは理想では無かったという事なのだろうか。 / 出典:http://www.allcarindex.com/auto-car-model/United-Kingdom-Lotus-Elan-M200-Speedster/

 

さらに構造上、別種のボディを載せることが容易だったためにエランのさまざまな方向性が模索されました。

そして昔のオープンスポーツカーレースのように、開口部を最低限にすべくカバーしたボディに最低限のウインドシールドを備えた『スピードスター』や、クローズドボディの『クーペ』も製作されたようです。

 

詳細不明ながら2代目エランの可能性の1つだったと思われる『エランM100クーペ』(1993年)  / 出典:http://www.allcarindex.com/auto-car-model/United-Kingdom-Lotus-Elan-M100-Coupe/

 

これらは市販されませんでしたが、いずれもリトラクタブルライトから固定式ヘッドライト化されており、ロータスは北米での販売さえ考慮せずとも良いならば、空力や重量面で不利なリトラクタブルライトを使わないのがベストと考えていたのかもしれません。

 

主なスペックと中古車相場

 

2代目ロータス エラン(M100) S2 / 出典:https://www.favcars.com/lotus-elan-s2-1994-95-wallpapers-394406-800×600.htm

 

ロータス エラン(M100) SE 1991年式

全長×全幅×全高(mm):3,803×1,734×1,230

ホイールベース(mm):2,250

車両重量(kg):1,020

エンジン仕様・型式:いすゞ4XE1-T 水冷直列4気筒DOHC16バルブ ICターボ

総排気量(cc):1,588

最高出力:121kw(165ps)/6,600rpm

最大トルク:200N・m(20.4gm)/4,200rpm

トランスミッション:5MT

駆動方式:FF

中古車相場:91.8万~200万円

 

まとめ

 

2代目ロータス エラン(M100) / Photo by Andrew Bone

 

エランM100にとって最大の不幸は、ほぼ同時期にマツダ MX-5ミアータ(日本名ユーノス ロードスター)が発売されてしまったことかもしれません。

マツダが初代ロータス エランを彷彿させるFRライトウェイト オープンスポーツで世界中を熱狂させた中、本家本元が同じライトウェイト オープンスポーツでもFF車というのは、何とも締まらない話に思われてしまったのです。

加えて高騰した開発費により販売価格も高価になってしまったため販売実績は不信を極め、最後には韓国の起亜自動車に製造・販売権を買い取られ、キア・エラン(日本名『ビガート』)として短期間販売されるも、1997年には生産を終了してしまいます。

せめて安価に販売できていれば、『FFエラン』『いすゞエラン』などと陰口を叩かれることも無く、そのハンドリングの評価でベストセラーFFスポーツになったかもしれませんが、結局チャンスは巡ってきませんでした。

新車販売当時はともかく、現在では傑出したFFスポーツとして再評価されているのを見ると、何事も先入観で食わず嫌いをしては、本当に良いものと出会うキッカケを失ってもったいない、と反省させられる1台です。

 

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