軽1BOXや軽トラックをベースに、あるいは一部流用して開発された小型トラックや小型1BOX車は現在でも存在しますが、まだ小型車自体が現在の軽自動車並に小さかった時代に存在したトヨタ ミニエースこそは、小型1BOX/トラックと軽1BOX/トラックの中間的なコンパクト1BOX/トラックの元祖でした。しかもこの車、初代パブリカをベースとして1960年代に作られたのです。

 

トヨタ ミニエース /  出典:https://www.toyota.co.jp/jpn/company/history/75years/vehicle_lineage/catalog/60015837A/pageview.html

 

初代パブリカのパワーユニットを活かした『軽より小回りが効いて高性能』なミニエース

 

トヨタ ミニエース トラック / 出典:http://www.en.japanclassic.ru/booklets/toyota-miniace-1967-up100-01.html

 

現在の自動車作りではセオリーとなっている、プラットフォームやメカニズムの共有ですが、それは昔も変わらず、乗用車は単独ではとても開発費がペイできませんでした。

現在では同じグループや業務提携関係にあるメーカー同士などで、セグメント毎に共有していますが、かつては同じプラットフォームを使った商用のライトバンやピックアップトラック開発がオーソドックスなやり方でした。

そして、トヨタ初の国民車的大衆車として発売した初代パブリカにも、同様の商用モデルが存在していました。

パブリカに搭載されていた空冷フラットツイン(水平対向2気筒)エンジンやパワートレーンは、『ヨタハチ』ことトヨタ スポーツ800以外に使い道の無かったため、採用車種を増やす目論見が立てられます。

そしてパブリカバン/トラック用の790cc2U-Bエンジンをやや低速トルク重視な特性にセッティングし、全長は同じなものの、全幅とホイールベースを少々短縮した上でキャビンをフロントに移動したキャブオーバースタイルのトラック、ミニエースを1967年11月に発売しました。

ショートホイールベースで当時の軽トラより小回りが効き、最大積載量は軽トラを150kg、パブリカトラックに対してすら100kg上回る500kg。

当時360ccだった軽トラの倍以上の排気量で余裕のパワーを発揮し、高速道路でも当時の軽トラではありえない公称最高速110km/hに到達。

それでいて価格は軽トラ並という、素晴らしいコンパクトトラックが誕生したのです。

 

軽1BOXベースでこそ無いものの、後のドミンゴなどを先取りする7人乗り『コーチ』

 

トヨタ ミニエースのバリエーション / 出典:http://www.en.japanclassic.ru/booklets/toyota-miniace-1968-up100.html

 

ミニエースのラインナップは発売当初、トラックとパネルバンの2種類でしたが、1968年8月には2種類の1BOXボディが追加されました。

1つは貨物登録の『ミニエースバン』で、後席を右に寄せた2人乗りとして左サイドスライドドアから荷室へのアクセスを容易にした4人乗り(最大積載量300~400kg)と、3人乗りで5人乗車と積載能力を両立した5人乗り(同200~400kg)があります。

 

小さくとも7人乗り!トヨタ ミニエースコーチ / 出典:http://www.en.japanclassic.ru/booklets/570-toyota-miniace-1967-up100.html

 

加えて2人がけの3列目シートを追加した7人乗りの『ミニエースコーチ』まで同時に追加した事もトピックです。

後の初代スバル・ドミンゴと比べても、全長こそ160mm長いので車内前後方向空間に不足はありませんが、全幅はむしろミニエースの方が50mm狭いくらい。

さすがに少々窮屈だったのではとも思われますが、車が今ほど大きくもなく、7人乗りミニバンで長距離レジャーに出かける時代でもなかったので、さしたる問題とはならなかったのかもしれません。

パワーウェイト比較は1リッター56馬力(グロス)で900kgの初代ドミンゴ4WDが16.07kg/psに対し、790cc36馬力(同)で790kgのミニエースコーチは21.94kg/psだったため、定員フル乗車はキツそうですが、周囲の車もそうハイパワーでは無い時代なので、これも問題では無さそうです。

案外、車というものはそうそう急がない限り現在の動力性能は過剰ではと思ってしまいそうですが、当時はエアコンなどはほとんどなく、仮にあったとしてもエアコンの負荷をかけたフル乗車に備えるなら、やはり『あの時代だから許された車』なのかもしれません。

 

主なスペックと中古車相場

 

© TOYOTA MOTOR CORPORATION.All Rights Reserved.

 

トヨタ UP100C ミニエースコーチ 1968年式

 

全長×全幅×全高(mm):3,585×1,380×1,630

ホイールベース(mm):1,950

車両重量(kg):790

エンジン仕様・型式:2U-B 空冷水平対向2気筒OHV4バルブ

総排気量(cc):790

最高出力:26kw(36ps)/4,600rpm(※グロス値)

最大トルク:62N・m(6.3kgm)/3,000rpm(※同上)

トランスミッション:4MT

駆動方式:FR

中古車相場:皆無

 

まとめ

 

トヨタ ミニエース トラック © TOYOTA MOTOR CORPORATION.All Rights Reserved.

 

軽自動車並、あるいはそれ以上に小回りが効いてたくさんの荷物か7人乗れるミニエースは、今でもなかなか魅力的な車に感じます。

実際、後のドミンゴをはじめ軽1BOXベースの3列シート7人乗りミニバンがいくつも登場し、ハイゼットカーゴ/トラックの拡大版と言えるライトエース/タウンエースが今でもトヨタから販売されています。

ミニバンの方は結局FFのコンパクトカーをベースとしたシエンタやフリードが主流になりましたが、それらの元祖的存在であるミニエースが1960年代後半に既に存在していたのは驚くしかありません。

コンパクトな水平対向エンジン搭載車なことが災いし、厳しい排ガス規制で2U-Bが廃止された時の代替えエンジンが無かった事から1975年に廃止されましたが、ミニエースが産み出した新しい価値観は、それからわずか8年後に初代ドミンゴを発売したスバルをはじめ、現在まで様々な車に受け継がれています。

 

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