1960年代はじめ、従来のボンネットトラックより小型で取り回しの良い小型ボンネットトラックが自動車メーカー各社から一斉に発売された時期がありました。その流れに乗ったいすゞが1963年に発売したのがワスプで、同時発売のベレットと同じフロントマスクを持つものの、構造は全く異なる商用車でした。1972年に後継車ファスターが登場するまで販売され、パネルバンや移動販売車、ライトバンのベレットエキスプレスも存在します。

 

いすゞ ワスプ  / 出典:https://www.shannons.com.au/club/enthusiasts/bellett64/garage/1965-isuzu-wasp-kr20/photos/

 

小型ボンネットトラックが一斉に発売されたあの頃、いすゞからもワスプ登場

 

いすゞ ワスプ  / 出典:http://www.isuzu.co.jp/em/plaza/info/20181004/index_03.pdf

 

小型トラックは戦前から日産のダットサン トラックが定番車種として君臨していましたが、1957年に登場した4代目ダットサン220型へロングホイールベースの1t積み仕様が登場すると、その使い勝手の良さから好評となります。

そして1.25~1.75t積みのボンネットトラックより小回りが効き、従来より最大積載量を増加させた小型ボンネットトラック人気は当時の国産車メーカー各社を刺激し、一斉にニューモデルが登場したのです。

【初期の400kg~1t積み小型ボンネットトラック】

  • 日産 ダットサン・トラック320型(1961年)
  • 日野 ブリスカ(1961年)
  • マツダ B1500(1961年)
  • ダイハツ ハイライン(1962年)
  • トヨタ トヨペット・ライトスタウト(1963年)
  • いすゞ ワスプ(1963年)
  • ホンダ P700(1965年)

ワスプと同時発売され、フロントのデザインはほぼ共通のベレット /  出典:http://www.isuzu.co.jp/em/plaza/info/20181004/index_03.pdf

 

そんな各社の共通した特徴は、無骨でいかにもトラックという見かけから、大衆にも手が届くモデルが登場し始めていた乗用車風のフロントマスクとなった事。

当時は休日にマイカーとして使える商用車が歓迎される時代だったため、小型商用車のデザインが乗用車並にゴージャスだったのは当然でした。

そのため1.75~2t積みボンネットトラック『エルフィン』を1961年に発売していたいすゞが1963年にワスプを発売した時、同時発売のベレットとほぼ同じフロントマスクを採用したのはコストダウンのためと言われますが、むしろ時流に乗っていた事になります。

 

ベレットの皮を被ったものの、中身は本格商用トラック

 

ベレットではなくワスプがベースのいすゞ ベレットエキスプレス  / 出典:http://www.isuzu.co.jp/em/plaza/info/20181004/index_03.pdf

 

ワスプはフロントマスクこそベレットとほぼ共通なものの、モノコックボディのベレットに対し独立した強固なラダーフレームを持ち、フロントは独立懸架ながらトーションバー、リアはリーフリジッドと構造的にはトラックそのもの。

後にベレットの廉価モデルにも搭載された1.3リッター直4OHVのほか1.8リッターディーゼルエンジンが搭載されており、特に小排気量ディーゼルは当時としては画期的だったものの、オイルショック以前で注目度は低く、むしろ騒音や振動面で嫌われました。

 

いすゞ ワスプ パネルバン / 出典:https://www.favcars.com/isuzu-wasp-van-1963-73-wallpapers-396741-800×600.htm

 

バリエーションは閉鎖式の荷室を持つパネルバンや移動販売車のほか、ライトバンの『ベレットエキスプレス』も1964年9月に発売。

ベレットエキスプレスはベレットの名がつくものの、ワスプのシャシーにベレットのライトバン仕様的なボディを載せたもので、構造的にはワスプの派生車種でした。

 

謎のベレットエキスプレス・ダブルキャブ

 

リアサスペンションからおそらくワスプがベースのベレットエキスプレス派生と思われるダブルキャブピックアップ / 出典:https://kknews.cc/car/elvx9n.html

 

『休日にはマイカーとして使える商用車』が多かった時代、2列シートの5~6人乗りのライトバンやダブルキャブピックアップトラックが各社から販売されていましたが、いすゞでも同様にベレットのダブルキャブピックアップトラック版が存在したようです。

残された画像からはリアサスペンションがリーフリジッドのようなので、エンブレムはベレットですが、ベースはベレットではなくベレットエキスプレス、すなわちワスプのシャシーを使っていると思われます。

商用車を休日にはマイカーで使っていた時代の日本では、こうしたボンネットトラックベースのダブルキャブピックアップも多かった。おそらくこのベレットダブルキャブピックアップもそうした1台。/ 出典:https://kknews.cc/car/elvx9n.html

 

ただしそのようなモデルが発売、実用に供されたとする資料が見当たらず、コラージュにしてはリアビューまで存在するため実在はしたのだろうと思っていたところ、どうも1966年に保育社より刊行された『カラーブックス自動車1』という書籍で紹介されたようです。

市販されたか否かまでは不明なのですが、おそらく1966年の第13回東京モーターショーあたりで商業車ブースに展示されたのかもしれません。

現在まで残る資料は大抵カッコイイスポーツカーや時代を風靡した大衆車、未来を予告するコンセプトカーばかりで、商用車は案外後世まで資料が残らないものです。

現存するカタログなどが見当たらない事からも、ショーへの展示止まりで終わったか、あるいはよほど売れずに短期間で姿を消したかのいずれかと思われます。

実際、ベレットエキスプレスも電動リアウィンドウを下げないとテールゲートが開けない、妙に凝った作りのためか商用車なのにベレットの最廉価モデルより高いといった事情もあり、1967年にはアッサリ生産中止。

後継はフローリアンバンでした。

この頃には手頃な価格の大衆車が次々に登場していたので、『休日マイカー平日営業車』の中でもダブルキャブピックアップは早々に廃れてく流れに巻き込まれたと思われます。

 

主なスペックと中古車相場

いすゞ ワスプ / 出典:https://www.favcars.com/isuzu-wasp-1963-73-photos-396747.htm

いすゞ KR10 ワスプ 1964年式

 

全長×全幅×全高(mm):4,095×1,525×1,615

ホイールベース(mm):2,500

車両重量(kg):1,040

エンジン仕様・型式:G130 水冷直列4気筒OHV8バルブ

総排気量(cc):1,325

最高出力:43kw(58ps)/5,000rpm(※グロス値)

最大トルク:96N・m(9.8kgm)/1,800rpm(同上)

トランスミッション:4MT

駆動方式:FR

中古車相場:皆無

 

まとめ

 

いすゞ ワスプ 出典:http://openiso.org/isuzu-wasp.html

 

人気市場へ参入した割には、いすゞの小型ボンネットトラックやライトバンは売れず、ワスプの現存台数は15台程度。

ベレットエキスプレスに至ってはわずか2台で、それもマイナーチェンジ前の後期型のみと言われています。

と言うのも、いすゞ車という時点で維持の難易度が高いのですが、それ以前にダットサントラックがあまりに強くて他社も太刀打ちできず、ワスプ/ベレットエキスプレスも販売面でとても好評とは言えなかった上に、実用車なのでほとんど使い潰されてしまったのでしょう。

しかしなんと!いすゞの藤沢工場(神奈川県藤沢市)に併設された『いすゞプラザ』では、2018年11月6日から『レストアカー・バックヤードコレクション「ベレットとその仲間たち」』というイベントを開催中。

ベレット/ベレットエキスプレス/ワスプの3台が展示されています。

超貴重なコレクションの展示は2019年2月2日まで開催され、この機会を逃すと次はいつになるのやら…と思われますので、いすゞファンやレア車ファンは、是非足を運んでみてください!

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