トヨタ スープラに直列6気筒エンジン(以下:直6)が搭載され、マツダも新たに直6エンジンを開発していることが明らかになっています。一時は衰退した直6ですが、今なぜメーカーは積極的に開発してるのでしょうか。

BMW・5シリーズ、直6エンジン / © BMW AG

V6から直6へ!シルキーシックスが見直された理由とは

かつて、日産 スカイラインやトヨタ クラウンなどの最上級車種には直6エンジンが採用されており、スカイラインGT-Rに搭載されたRB26やトヨタ スープラ、アリストに搭載された2JZなど、今となっては名機とされるエンジンも直6が多数見られます。

クルマ好きにとって”直6″というフレーズは、聞くだけで心を震わせる響きです。

しかし、高級車やスポーツカーに搭載される6気筒エンジンはV型化されるようになり、BMWを除くすべてのメーカーで直6が消滅したこともありました。

ところが、メルセデスベンツSクラスや話題の新型スープラに直6が採用され、現在マツダも直6の新規開発を進めているなど、にわかに直6が再注目されています。

もともと直6は滑らかなエンジン回転特性をもつことから、直6にこだわり続けるBMWのユーザーの間で『シルキーシックス』と呼ばれ、理想のエンジンとされています。

しかし、時代が求めるニーズが直6からV6へと変わり、再び直6の開発に踏み切ったメーカーには、いったいどのような意図があるのでしょうか。

直6は最も理想のバランスを持つ

直6エンジンのクランクシャフト / © BMW AG

直6およびV12エンジンは、最もバランスに優れたエンジンとされています。

レシプロエンジンは、ピストンが2回上下運動をする間に、吸気→圧縮→爆破→排気の行程が行われ、シリンダー内で爆破が行われると、それに従って振動が発生するのです。

直4であれば、物理的にクランク軸1回転あたりに2回発生する2次慣性力が避けられず、振動を打ち消すためにバランスシャフトという部品をエンジン内に組み込まなければなりません。

しかし直6であれば、エンジンの構造上、6つのシリンダーの爆発が振動をお互いに打ち消しあってくれるのです。

そのためバランスシャフトも必要はなく、エンジン回転がなめらかです。

また、左右にシリンダーヘッドをもつV型ではそれぞれにカムシャフトやプーリー、ターボなら方バンクずつにタービンを搭載しますが、直6ではそれらの部品がそれぞれ一つにまとめられるため、コストが低く、整備性が良いというのもメリットです。

過去に直6が衰退した理由は

© National Agency for Automotive Safety and Victims’ Aid

トヨタや日産では高級車に直6を積極的に採用してきましたが、衝突安全性を重視するうえでV6へ変わっていきました。

直6はシリンダーを6つ直線上に並べたレイアウトなため、エンジンの縦長が長くなり、一方でV6は縦が3気筒、横が2気筒でVバンク角によって横幅が変わりますが、縦長は直6の半分に短縮され、横幅は縦長より長くなることはありません。

クルマが衝突安全性を考慮すると、正面衝突した際にボディがグシャッと潰れて衝撃吸収を果たす『クラッシャブルゾーン』を確保しなくてはならず、直6ではエンジンルーム前方に十分なクラッシャブルゾーンを設けることができません。

さらに、エンジン自体は金属の塊なので強い衝撃でもほとんど潰れないため、衝突時に衝撃を吸収することができないのです。

一方V6であれば、エンジンルーム前方に十分な空間を生み出せ、クラッシャブルゾーンを確保することができます。

また、駆動方式にFFが主流になってくると、直6を横にレイアウトするのは困難なので、セダンやクーペといった中型・大型のモデルでも低排出ガス、低燃費を重視するうえで直4のダウンサイジングターボが採用されるようになりました。

このように、法律と技術の進歩により、直6は時代に沿わないエンジンとなったのです。

駆け抜ける喜びを重視するため直6を継続させたBMW

トヨタ・スープラRZ / © 1995-2019 TOYOTA MOTOR CORPORATION.

初のBMWとトヨタの合作である新型スープラには、BMW製3リッター直6が搭載されています。

スープラを生み出したBMWは、他メーカーがV6やダウンサイジングターボへ変遷していくなかで、直6を作り続けた唯一のメーカーです。

BMWは直6とFR駆動、さらにロングノーズにした前後重量配分50:50の車体設計をセダンやクーペの全ラインナップに採用し、”駆け抜ける喜び”を徹底して追及する姿勢はファンの心をつかんではなしません。

スープラの復活も、BMWの力がなければ実現しなかったでしょう。

衝突安全性が重要視されれるなかでも直6にこだわり続け、衝突安全性の設計上では不利だったにもかかわらず、米国道路安全保険協会の衝突安全性テストでは高い安全評価を得ています。

これは、BMWが徹底してシャシー剛性、強度、事故データ収集の研究を進めてきた結果であり、操作性と安全性を高い次元で両立させました。

V6へ変遷していくライバルメーカーとは逆に、直6の良さを最大限に活かしたクルマ作りがBMWのアイデンティティとなり、ライバルとの差別化をはかったのです。

そのため、直6の官能的なエンジンサウンド、高回転まで気持ちよく上がっていくエンジンフィールはBMWでなければ体感できません。

これがクルマ作りの軸をブレさせることなくBMWが企業努力を続け、スポーティーなブランドイメージを変えないために直6を生産し続けた理由です。

20年ぶりに直6を復活させたメルセデスベンツ

メルセデスベンツ・M256型エンジン / © 2019 Daimler AG.

メルセデスベンツは2017年に、約20年ぶりの直6を復活させました。

メルセデスベンツも衝突安全性を重要視するため、直6からV6に移管したメーカーです。

しかし、ここにきて直6を復活できたのはエンジンが以前よりもコンパクトにできたためで、新型直6エンジンの型式は『M256』型と呼ばれ、60°V6のM276型の後継エンジンです。

M256はM276と異なり、他のエンジンと設計や部品を共有できるモジュラーエンジンであり、2リッター直4ガソリンの『OM654』型、2リッター直4ディーゼルの『M254』型、3リッター直6ディーゼルの『OM656』型を含んでいます。

また、各シリンダー容量を500ccとして、ボア×シリンダーを83mm×90mmにし、M276よりボアで2.9mm短縮、ストロークで4mm延長させ、ビッグボアショートストローク化。

電動パワステや電動ウォーターポンプにより、補機類ベルトを廃止したことで、エンジンの縦長を短縮させ、自由度の高いレイアウトを実現しました。

さらに、直6は直4と共有の生産ラインを構築できるため、V型よりもコストを削減できる良さもあります。

また、M256では最新のターボと電動スーパーチャージャーを組み合わせた過給システムを採用し、V6よりも上回るパワーとトルクを実現させました。

メーカーとしては、性能だけでなく生産性やコストの面から直6を優先させたい考えがあり、直6の復活は技術革新と最新テクノロジーにより実現可能となったのです。

直6開発に踏み切ったマツダの考えは

直6が搭載されるとみられるコンセプトカー『マツダ・ヴィジョン・クーペ』 / ©Copyright Mazda Motor Corporation.

マツダは東京モーターショー2017で直6エンジンの開発構想を明らかにし、次期マツダ6(旧:アテンザ)は直6+FRになると噂されています。

パワートレインは次世代ディーゼルエンジン『SKYACTIV-D GEN2』とSPCCI(火花点火制御圧縮着火)を世界で初めて実現させた『SKYACTIV-X』の直6と思われます。

マツダが直6開発に踏み切るのは、メルセデスベンツやBMWのような高級ブランドへのイメージ変革を狙っているためです。

近年、著しくブランドイメージの革新を推し進めるマツダとして、直6はプレミアム路線に乗せるための新たなウエポンとなるはずです。

まとめ

トヨタ・スープラRZに搭載されるB58エンジン / © 1995-2019 TOYOTA MOTOR CORPORATION.

直6エンジンをリードし続けるBMW。

高級車としての性能向上のために直6を復活させたメルセデスベンツ。

ブランドイメージ向上のために、直6の開発を進めるマツダ。

3メーカーに共通していえるのは、直6エンジンはまだまだポテンシャルを秘めているエンジンレイアウトだと信じていることです。

再びプレミアムクラスに直6が標準となる時代が、もうすぐ訪れるかもしれません。

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