マツダ ファミリアといえば2代目のロータリークーペや5代目の初代FF『赤いファミリア』のインパクトが強烈ですが、5代目に先立ちFRのままながらハッチバックを採用、高い実用性と経済性を誇る新世代の大衆車として存在感を取り戻したのが4代目ファミリアでした。旧態依然としていながらオイルショック下のアンチ・ロータリーという逆風の中で奮闘していた3代目からのイメージを一新、ファミリアの中では歴史的な1台です。
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バック・トゥ・ザ・ファミリア!原点回帰と革新の使命を帯びた4代目
2代目 / 3代目ファミリアは、2代目登場時こそ初めて量販車にロータリーエンジン搭載車が設定されるなど話題になりましたが、見方によってはビッグマイナーチェンジで2代目を継続したとも受け取れる3代目(※)では、かなり陳腐化が進んでいました。
(※マツダ公式の『ファミリア開発ストーリー』では、1973年9月に登場したモデルを明確に『3代目ファミリア』としています。)
そして1974年に登場した初代VW ゴルフを契機に、FF2BOXハッチバック車がコンパクトカーの定番化していく中、やや大型化して『ワイド・プレスト』を称したとはいえ、FR3BOXノッチバックセダンの3代目(ファミリアプレスト)のままでは、時代に取り残されかねません。
しかし、当時のマツダはオイルショック以前に『夢のエンジン』ともてはやされたロータリーエンジンが『燃費劣悪で経済性皆無』という烙印を押され、他のエンジンを積んだ車まで巻き込んでの極度の販売不振、経営危機にあえいでいた時代です。
当時、量販車としてマツダの背骨を担うファミリアのモデルチェンジには失敗が許されない上に、贅沢な開発予算など望むべくもありませんでした。
そんな中、排ガス規制をクリアしていたエンジンとFRパワートレーンを流用した2BOXハッチバック車を開発し、1977年1月に発売することになったのです。
なお、4代目ファミリアと同時代同クラス車の新規デビュー、あるいはモデルチェンジ状況は以下の通りです。
【新規デビュー】
ダイハツ シャレード(1977年):FF2BOXハッチバック
三菱 ミラージュ(1978年):FF2BOXハッチバック(後に4ドアセダン追加)
日産 パルサー(1978年):FF2BOX独立トランク(デビュー直後にハッチバックやクーペ追加)
【モデルチェンジ】
4代目マツダ ファミリア:FR2BOXハッチバック
2代目トヨタ スターレット:FR2BOXハッチバック
2代目ホンダ シビック:FF2BOXハッチバック (後に4ドアセダン追加)
このように、初代(1972年発売)からFF2BOXだったシビックを除けば、従来ユーザーへの配慮と旧モデルを極力活かしてコストダウンを求められるモデルチェンジ組はFR組、思い切った新モデル組はFF組とバッサリと分かれています。
ちなみに4代目ファミリアはモデルチェンジ組でしたが、「FRのままでも2BOXハッチバック車の優れた実用性は実現できる。」という確信があり、実際日本のみならず欧米でもそのコンセプトは受け入れられて販売台数も好調。
不振のマツダが生き延びる源泉となっていきました。
なお、2代目途中から改名、『ファミリアプレスト』となっていましたが、大衆車として優れた実用性と経済性を備える2BOXハッチバック車へと大きく変わったことで心機一転、車名を『ファミリア』へと戻しています。
新たな価値観が受け入れられた4代目ファミリア
3 / 5ドアハッチバックおよびライトバン / ステーションワゴンが設定された4代目ファミリアの特徴は、何といっても大きく開くテールゲートから後席を前に倒せば広大になるラゲッジへとかさばる荷物も簡単に載せられる実用性でした。
現在のハッチバック車とは異なり、テールゲート開口部下端はテールランプとその間のナンバープレートより上、かなり高い位置ではありましたが、開口部も容積も小さな独立トランクしか持たない3代目までの3BOXノッチバックスタイルより、格段に便利です。
また、後席床下にデフ、その後ろのリアオーバーハング下に燃料タンクやスペアタイヤが配置されており、FRがゆえにラゲッジの使い勝手に不便が出るのでは?という杞憂は見事に払拭。
よく考えてみればFF車でも4WDモデルなら配置はそう変わらないので、当然です。
現在の視点から言えば、後席座面も前にはね上げたり(ダブルフォールディング)、足元に押し込む(ダイブダウン)機構が無いので前席直前までフラットなラゲッジでは無いのが少々物足りませんが、そうした機構が広く実用化される前の話なので仕方がありません。
むしろ、大衆向け乗用車でありながら簡素な商用車並の実用性を持っていたことが当時としては驚きでした。
エンジンは先代同様、希薄燃焼と酸化触媒を組み合わせて排ガス規制をクリアした1.3リッターエンジンでしたが、翌年にはよりパワフルな1.4リッターエンジン搭載モデルを追加。
このエンジンに3速AT仕様も組み合わせ、イージードライブ要素も加わります。
そしてサスペンションはリアが3代目までのリーフリジッドから、2代目コスモ用を応用した5リンクリジッド+コイルスプリングに代わって走りの質感を向上。
同じ『FR小型ハッチバック』としてトヨタのKP60系スターレットと比較されることもあり、実際マイナーチェンジでヘッドライトが角目になった時に上級スポーティグレードとして『XG』が追加されましたが、この代ではあまり注目されていません。
冴えないヤツらの奇妙な旅『幸福の黄色いハンカチ』でのハマり役
なお、ヨーロッパなどではマツダ 323、北米ではマツダ GLC(Great Little Car)として販売された4代目ファミリアですが、実用性と経済性、環境性能は評価されつつも、あくまでそれは『便利なファミリーカー』あるいはアシ車としてのものです。
つまり、ハッチバック車になったことや、日本のコンパクトカーでそれを普及させた1台という功績を除けば平凡極まりない車ということでもりますが、それゆえに回ってきた役回りが、映画における冴えない愛車の地道な活躍。
映画「幸福の黄色いハンカチ」(1977年)で武田 鉄矢演じる『失恋の挙句ヤケを起こし、工場の退職金で買った新車で北海道に傷心旅行してきた青年、花田 欽也』の買った新車が、デビュー直後の赤い4代目ファミリアでした。
その欽也が網走でナンパした朱美(桃井 かおり)と、ムショ上がりの勇作(高倉 健)と3人の奇妙な縁により、勇作の妻が待つはずの夕張へファミリアで一緒に旅をするというストーリーで、欽也がトイレのため目を離したスキに、仮免止まりの朱美が勝手にハンドルを握って農地の干し草に突っ込むなど、割とヒドイ扱いを受けるファミリアではありますが、最後に感動のエンディングを迎えるまで走り続ける大活躍。
FRとはいえ動力性能で見るべき面が無かったこともあり、4代目ファミリアといえばこの『幸福の黄色いハンカチ』のエピソードが多くを占めるのではないでしょうか。
とはいえ、やはりマツダ車なら行き着く先はドカンとロータリーロケット!
動力性能に見るべき面が無いと前述しましたが、南アフリカの1.4リッター版はテスト時に最高速度145km/hを記録しており、ちょっと物足りないと三菱の1.6リッター『サターン』エンジン搭載版も販売されましたが、燃費が落ちる割に最高速度は148km/h止まりだったそうです。
それでは4代目ファミリアは全くモータースポーツに縁が無いのか?といえば答えはNOで、マイナーイベントながらレースやラリーではマツダ車らしく使われています。
さらに「もっとマツダらしくするならこれだろう!」と言わんばかりに登場するのがやっぱりロータリーエンジンで、13Bターボにスワップした4代目ファミリアがウイリーバーをキシらせながら発進するドラッグレースなど見ると、急にFRスポーツに見えてきたりもしていました。
主要スペックと中古車相場
マツダ FA4TS ファミリアAP 3ドアハッチバック 1977年式
全長×全幅×全高(mm):3,835×1,605×1,375
ホイールベース(mm):2,315
車両重量(kg):820
エンジン仕様・型式:TC 水冷直列4気筒SOHC8バルブ
総排気量(cc):1,272
最高出力:72ps/5,700rpm
最大トルク:10.5kgm/3,500rpm
トランスミッション:5MT
駆動方式:FR
中古車相場:62万円
まとめ
ロータリークーペのあった2代目ファミリア / ファミリアプレストや、FF化で大ヒットとなった5代目に挟まれ、トヨタ KP61スターレットのように小型FRスポーツとして有名とも言い難い4代目ファミリアですが、よく見ると味わい深く注目すべき点は数多くあります。
それは、ハッチバック化で得た高い実用性がヨーロッパで高評価を受けたこと、スポーティーで高級というイメージに偏りかけたマツダが、『優れた大衆車とは何か』を深く考え直したことで、1980年代マツダのヒットへ向けて、大きく前進させたことなどです。
現在でも愛用するコアなファンは少ないとは言え、エンジン縦置きのFR車であるがゆえに、『マツダ唯一のロータリー搭載可能なホットハッチ』として、ドラッグレースで活躍する姿も面白いと思います。
FFファミリア(5代目)の登場で急速に忘れられていった4代目ファミリアですが、映画『幸福の黄色いハンカチ』と共に、長く語り継がれて良い一台ではないでしょうか。
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