どんなイベントでもそうですが、そこには参加したり見に行ったりするお客様だけではなく、そのイベント自体を運営している人間がいます。モータースポーツでもそれは同じで、皆さんがレースに参加したり観戦するためには、まず主催者がイベントを開催しなければ始まりません。今日はそんなイベントを支える「裏方」の世界を、ある小さな草イベントから紹介します。
CONTENTS
モータースポーツイベントを支える裏方の世界、知っていますか?
皆さんがモータースポーツイベントに自ら参戦する、あるいは観戦する際に欠かせないのが、そのイベントを開催する主催者です。
例えば友達同士が寄り集まって開催する走行会、あるいはオフ会のなど、身内だけの小規模なイベントから、顔見知りでも無い不特定多数の参加者や観客を集め、統一されたルールの下で開催する一般向けの大規模イベントまで、一言でイベントと言っても色々あると思います。
今回は、その中でも一般参加型イベントに焦点を当ててみました。
参加型の一般向けイベントは、メジャーレースでも小さな草イベントでも基本の構造は変わりません。
主催が同時に参加者や観客でもある「仲間内の集まり」とは異なり、初参加で素性の知れない人のエントリー(参加受付)を取りまとめ、大なり小なり事務作業を行い、当日は可能な限り安全に、迅速にイベントを進行させる、それが裏方の任務です。
「自分たちがやらなければイベントは消滅し、モータースポーツの灯がまたひとつ消えてしまう。」
決して華々しくは無いけれども、その情熱は実際に参加するドライバーやクルーに負ける事はありません。
今回は筆者が主催しているジムカーナ風タイムアタックイベント「DCTMダイチャレ東北ミーティング」(以下、DCTM)での経験を通し、裏方にスポットを当てていきます。
オーガナイザー(主催者)とオフィシャル(スタッフ)の役割
モータースポーツの裏方には、大きく分ければ主催者そのものである「オーガナイザー」と、イベント中に各種作業を行うスタッフ、「オフィシャル」に分かれます。
一人何役かをこなしたり、オーガナイザーが当日はオフィシャルも兼ねる場合もありますが、安全やタイムスケジュールなどを考えると、どうしてもそれなりの人手は必要で、慢性的な人手不足や、高齢化などで体力と技術を両立した人材確保に悩む主催者も少なくないでしょう。
イベントによっても多少の差はありますが、DCTMの場合は以下のような役割分担となっています。
オーガナイザー
オーガナイザーはイベントの運営に関わる部分の作業が主で、以下のような仕事をこなしています。
・イベントの広報宣伝
・スポンサーへの営業や交渉
・エントラント(参加者)からのエントリー(参加申込)受付や情報の管理
・オフィシャルや会場DJ、音響スタッフなど人の手配やギャラの交渉
・サーキットなどとの日程や協力体制、占有料金の交渉
・経費の管理など会計
・保有あるいはレンタルする機材の管理
・当日ドライバーに配布する資料や参加賞、景品などの準備
・イベント会場の設営や撤収
・場内アナウンスなど走行に直接関わらない部分の管理
これに加えて、メジャーイベントでは観客の誘導や送迎といった業務も入ってくるでしょう。
オフィシャル
対してオフィシャルはイベント開催中を中心に、下記の作業がメインとなります。
・参加車両の誘導
・同、スタートやゴールの管理
・計時作業とその集計
・コース脇から車両のチェックやペナルティの有無、走行中断の判断
・コースからの障害物除去や、コース内で動けなくなった車の撤去
・各種救難、消火活動など
・パドック内での交通整理
・その他、イベントを安全に進行させるための各種作業
参加者や観客のオーガナイザーorオフィシャル化は是か非か?
これに対し、ごく小規模なイベントでは参加者とオフィシャルを同時に確保すべく、観客も含めて「総オフィシャル化」(手伝える人はよろしく!)という体制を組むケースもあります。
ただし、その場合はドライバーがオフィシャルを兼ねると負担が激増し、どちらをやっても注意力が散漫になって危険な状況を呼ぶことも。
観客がオフィシャルを兼ねる場合も、そもそも見るのがメインですから自分の好みの車やドライバーを目にしてしまうと、これも注意力散漫の元となってしまいます。
それを見越して余裕のあるタイムスケジュールを組む方法もありますが、基本的にはどちらかに集中してもらうのが好ましいと言えるでしょう。
また、意外に重要となってくるのは「報酬」の面で、友人の無償ボランティアで成立しているイベントも中にはありますが、やはりそれなりに重労働となるので、士気やモラルを保つ意味でも、最低限でも無報酬は避け「有償ボランティア」的な発想で報酬を支払い、スタッフを確保する事が重要です。
なお、収益が確保できていれば正式にパートや正社員などで雇用すべきですが、そうもいかず有償ボランティア形式の場合は「あくまで手弁当で手伝ってくれる有志」であることを理解し、個人の都合などに最大限配慮すべきな事は言うまでもありません。
オーガナイザーにはどうやったらなれる?
あくまで「DCTMダイチャレ東北ミーティング」のようなJAF非公認の草イベントに限った話ですが、主催者たるオーガナイザーはやる気さえあれば誰でもなることは可能です。
JAF公認イベントの場合は、まず主催自体がJAF加盟 / 準加盟クラブであることなど必要な条件がありますが、草イベントにはそういった制約はありません。
誰もが真っ先にハードルに感じる資金面での問題ですが、これも「まず手持ちでできる限りのことをやる」と開き直ってしまえば、大したことでは無いのです。
ただ、占有料金が非常に高い会場での開催は難しいかもしれませんが、いろいろな場所での可能性を探ったり交渉したりと、金が無ければ知恵と情熱を傾けるのみ。
ちなみに筆者が2009年秋にDCTMの開催を決意した時は、不況の中で勤め先から契約を打ち切られ、その先の保証も何も無い失業者の1人でした。
貯えも僅かでしたが時間だけは有り余っていたので、有志に声をかけて少しずつ作業を分担してもらいつつ、資金が足りない分は稼げばいいと割り切ったのです。
なお、基本的にオーガナイザーというのは、自分ひとりで何でもやろうとすると心身ともに行き詰ります。
いざという時に頼れる、自分の代わりをある程度任せられる右腕的存在や、ちょっと年季の入ったご意見番的な存在が周りにいるだけで、グッと楽になるでしょう。
オフィシャルにはどうやったらなれる?
これはもうJAF非公認イベントであれば、よほど人手が足りているイベントで無い限り「オフィシャルをやりたい!」と言えば、諸手を上げて大歓迎。
これがJAF公認イベントですと、例えばスターターや走行車両に対するペナルティの判定、旗を振る役割は、それを可能とする審判の資格が必要ですが、草イベントはルールを理解してもらい、責任者からの指示に従ってもらえればすぐオフィシャルになることができるのです。
もちろん、ある程度ドライバーとしての経験や知識があればそれに越したことはありませんが、情熱さえあれば指導役をつけ、あとは適材適所と経験あるのみです。
実際、DCTMでも開催を始めて早々の2010年に女子高生がオフィシャル志願してきましたが、体格の小ささから万が一の時に走行車両からの視認性を考え、一番目立つスターターポジションに配置しました。
彼女はそれ以来6年以上スターターの任についており、2017年現在ではある程度安心して任せられるベテランの域に入りつつあります。
しかしそれは本当に例外的なケースで、「自分は走りたい」という人に無理してオフィシャルをやってもらっても、やはりいざとなると走る方が優先になりがちです。
「自分で走るほどではないけど、モータースポーツに関わっていたい」という情熱のある人は、イベントの主催者にオフィシャル志願を伝えてはどうでしょう?
必要なのは「どんな形でもモータースポーツと関わりたい」という情熱
オーガナイザーにせよオフィシャルにせよ、必要なのはとにもかくにも「情熱」です。
筆者の場合は2000年頃、当時参戦していたイベントがあまりにも楽しかったので、
「今の主催者が辞めてしまったら、俺たちでやろうぜ!」
と、仲間と話し合っていたものでした。
数年後、本当にそのイベントが無くなった時、かつての仲間はほとんど疎遠になってしまいましたが、幸い新たに気のいい仲間、熱い情熱を秘めていた仲間が加わってくれたおかげで、新しいイベントを開催し、今まで続けることができました。
それも、数は少ないながらも「自ら走るだけではなく、走る場の存在が大事」という情熱を持った仲間に恵まれたことに尽きるのです。
もちろんイベントを開催するだけではなく、参戦ドライバー抜きにイベントは成立しませんから、走りたいドライバーにはドシドシ参加いただくのは大事です。
しかし中には、料理を食べるより食べてもらう事が好きな人もいるように、「走るより、走れる場を裏方として支え続けたい」という情熱を持った人がいるのです。そんな人こそ天職!
あなたも自分が足を伸ばせる場所でイベントが開催されていたら、「モータースポーツという文化」を守るために、一役買ってみませんか?
まとめ
レースやタイムアタック競技、ラリー、ドリフトと、モータースポーツというのは見ていて華々しい場面に目が行きがちで、まず車やドライバーなど乗員、そしてそれをサポートするチームスタッフなどが注目されるのは、間違いありません。
しかし、そうした場面の隅には、陰から支えるオフィシャルの姿が必ずあるのです。
そして、コントロールタワーや本部から全てを見渡し進行管理するオーガナイザー、あるいはその裏、はたまた全く別な場所で、会場の喧騒から離れて支える姿も見られます。
なかなか知られることの無い、そうした人々のことも少し記憶の奥底に留めて頂ければ、イベントの楽しみ方も変わってくるかもしれません。
モータースポーツは参加者、観客、そして数々の裏方の想いが交錯し、混ざり合って盛り上がるもの!
これからも機会があれば紹介させていただければ幸いです。
あわせて読みたい
バイクの祭典!?日本最大の草レース!テイストオブツクバを知っていますか?
まだ現役!数々のモータースポーツで活躍した名車ホンダ・シビック(EG6)の魅力とは?
ナンバー付きワンメイクレース「Vitz Race」の魅力とは?歴代車両から振り返ってご紹介します。
[amazonjs asin=”B000AR5X0K” locale=”JP” title=”イスカ(ISUKA) スタッフバッグキット(4マイセット) イロベツナシ 357000″]
Motorzではメールマガジンを始めました!
編集部の裏話が聞けたり、月に一度は抽選でプレゼントがもらえるかも!?
気になった方は、Motorz記事「メールマガジン「MotorzNews」はじめました。」をお読みいただくか、以下のフォームからご登録をお願いします!