2014年に創設された電気自動車の世界選手権”フォーミュラE”。近未来のレースとして誕生したこのシリーズは3度目のシーズンを終え、多くの自動車メーカーの注目を集めています。メルセデスやポルシェなどの大手自動車メーカーが続々と参戦を表明し、日本からは日産がルノーに代わって参戦を開始するという報道も目立ってきました。ここまで注目度で伸び悩んでいたフォーミュラEが、ここへ来て急成長を見せようとしているのです。

 

©FIA FormulaE

 

 

ルノーに代わってフォーミュラEに参戦すると見られている日産

 

©FIA FormulaE

 

電気自動車の世界最高峰レース、フォーミュラEにおいて来季から再び日本のチームが誕生することが現実味を帯びてきました。

シリーズ創設当初に参戦したアムリン・アグリに続いて、今度は日産が現在参戦しているルノー・eダムズに代わって参入すると報じられています。

日本の大手企業である日産の参入は、現在まだ噂段階であるフォーミュラEの日本開催や、すでに大きなシェアを誇る日産リーフの販売促進に大きく繋がることが期待されているのです。

しかし、これまでは人気という面においてもやや低空飛行だったこのシリーズに参戦する理由は一体何なのでしょうか?

 

日産にとってフォーミュラE参戦はどのようなメリットがあるのか?

 

出典:https://www3.nissan.co.jp/vehicles/new/leaf.html

 

まず、日産がフォーミュラEに参戦するメリットから見ていきましょう。

すでに日産が販売しているリーフは電気自動車産業において広いシェアを獲得しており、国内に留まらず海外でも大きな支持を集めています。

特にアメリカにおいては2017年度も好調が続いており、アメリカに本拠地を置くテスラ・モータースが根強い人気を誇る中でリーフはBMW i3やフォルクスワーゲンのe-ゴルフを抑えて1万台を超える販売実績を築き、アメリカ国外で生産された電気自動車としてはトップの地位を獲得しました。

テスラが勢力を強めていることもあってリーフ以外の車種は売上が伸び悩んでいる状況のなか、リーフだけが以前より勢いを強めており、日産は電気自動車でのシェアを確実に広げつつあるのです。

では、日産と同じグループ会社であり、フォーミュラEに参戦するルノーはどのような状況なのでしょうか?

 

©︎Groupe Renault

 

ルノーも日産と同様に電気自動車での販売台数は増加しており、高い人気を誇るゾエやガソリン市販車としても馴染みの深い”カングー”のEVモデルなど幅広い車種を生産し、ヨーロッパの電気自動車シェアではトップに立っています。

しかし、世界的な販売台数では日産がルノーを大きく上回っており、同グループでより多くのシェアを獲得している日産で参戦した方がメリットが大きいと判断したことが、今回のフォーミュラE参戦の主な狙いと見られています。

また、フォーミュラEは現在世界11カ国を転戦するだけでなく、ニュースなどでも世界的に報じられる機会が増加するという大きなメリットを兼ね備えています。

すなわち、日産を擁するルノーグループではヨーロッパでのシェアをルノーで、世界的なシェアは日産で獲得するという狙いがあり、日産をPRする舞台としてフォーミュラEの参戦を選ぶと見られているのです。

 

創設から3年経過、大手ワークスチームが続々と参戦を表明

 

©FIA FormulaE

 

では、なぜこのタイミングでルノーから日産へのスイッチを考えているのでしょうか?

現在フォーミュラEに参戦している10チームの中でマシンを製造しているマニュファクチャラーは9チームあり、その中でも市販車も製造しているのは先述のルノーに加え、シトロエン、ジャガー、ネクストEVの4チーム。

フォーミュラEが世界の電気自動車の進化を促すレースだという狙いがありながら、市販車製造を行っているのが4チームというのは少ない気もします。

なぜなら、これまでは多くのメーカーが様子見とも言える姿勢を示してきたのです。

そして、それがフォーミュラEというカテゴリーの注目度に大きな影響を与えてきたことは間違いないでしょう。

しかし、2018年以降はすでに参入しているアウディを含め、ドイツの御三家と呼ばれる自動車メーカーが揃って、フォーミュラEへの参戦を始めようとしているのです。

 

出典:https://bmw-i.jp/BMW-i3/

 

すでにi3を販売し電気自動車でのシェア拡大を狙うBMWに加え、今年に入り電気自動車の開発を始め2020年に発売を目指すポルシェが2018年からの参戦を発表。

さらにはメルセデスも2019年からの参戦を表明しており、今後フォーミュラEはワークスチームの戦場と化そうとしているのです。

そして、その戦いが激しくなればなるほど日産にとっては好都合と言えるでしょう。

ドイツの御三家が参戦するともなればヨーロッパどころか世界中の注目が集まることになり、その強大なメーカーに勝利することは大きなPRに繋がる事は間違いありません。

すでに一定の性能が確立されているガソリン車などに比べ、電気自動車は性能面が発展途上にあり、まだ性能のアピールが多くの人々に行き届いていない状態と言えます。

そして今後、このように注目度が高まる期待が持たれるフォーミュラEは電気自動車の広告の場として、これ以上ないシリーズに変貌する可能性を秘めているのです。

 

他のトップカテゴリーを飲み込みつつあるフォーミュラE

 

©︎Porsche AG

 

大手自動車メーカーがフォーミュラEに参戦することを発表していますが、その大きな理由は将来の自動車産業を見据えての判断であることは間違いありません。

こうしたメーカーの参入によりフォーミュラEの話題性は徐々に高まっており、他のトップカテゴリーを差し置いて大手のメーカーの主戦場になろうとしているのです。

また、フォーミュラEに参戦するに当たってポルシェはWEC(世界耐久選手権)からの撤退を決断し、メルセデスはDTM(ドイツツーリングカー選手権)からの撤退を決断しました。

 

©DTM

 

これによりWECに参戦していたアウディとポルシェは今後フォーミュラEに名を連ね、トヨタはWECに取り残されるという形になりました。

トヨタはこれまで水素をエネルギー源として走行するMIRAIの開発に注力してきたこともあり、EVにおける思想は他のメーカーと一線を画す方向性を示してきました。

しかし、今年の頭に入ってトヨタは2014年に生産終了したEVを復活させる方向へ転換。

現在は、小型電気自動車であるeQを販売しています。

それはこうした他メーカーの動きを受け、トヨタもフォーミュラEの存在を無視できない状況に傾きつつあると言えるのではないでしょうか。

さらにはアストンマーチンも参戦に前向きな姿勢を見せており、2019年に発売を予定しているEVへのフィードバックに期待を寄せているとの意見も報じられています。

この動きは各メーカーの威信をかけた戦いに注目が集まるだけでなく、少し視点を変えると現在EV産業において猛烈な勢いを誇るテスラ・モータースに対抗する包囲網を、世界各国のメーカーがフォーミュラEで形成するという見方もできるのです。

 

F1チームもフォーミュラEの動きに注目

 

©Pirelli

 

フォーミュラEに注目しているのは、自動車メーカーだけではありません。

F1でお馴染みであるマクラーレンは創設当初にモーターとインバーターを供給しており、2018-19シーズンからはフォーミュラEの共通バッテリーの供給権を獲得し、徐々にその関係を深めつつあります。

マクラーレンの代表を務めるザク・ブラウン氏もフォーミュラEに対し前向きな姿勢を見せており、まだ参入の形式ははっきりしていないものの、技術開発だけでなくチームとしての参入も検討していると述べました。

また、マクラーレンと同じくF1の名門チームであるウィリアムズ(アドバンスエンジニアリング)もジャガー・レーシングにバッテリー供給を行っており、フォーミュラEにおける技術開発の重要性を尊重するという意向を示しています。

そんな彼らが今後さらに関与を深めていく方針を持っていても、全く不思議ではありません。

 

©Pirelli

 

こうしたF1チームとの関わりはフォーミュラEにとって非常に有意義で、有名なブランド力を持つF1チームの知名度が興味を引くだけでなく、F1で高い人気を誇ったドライバーの参戦を促すきっかけにもなるのです。

実際に2016年末限りで引退を表明していた(引退を撤回し現在はF1参戦中)フェリペ・マッサは、引退後にフォーミュラEへの参戦を前向きに考えており、ウィリアムズの技術提供を受けるジャガーでのテスト走行に参加。

マッサの今後の去就は未定であり、今季末限りでF1を引退するとなると彼が来季ジャガーからフォーミュラEへ参戦するという道筋も十分考えられるでしょう。

こうした経緯で人気ドライバーを獲得できるルートを広げられるという点からも、F1チームとの関わりは様々な意味においてシリーズの発展に大きく寄与することになるはずです。

 

数年後にフォーミュラEでワークス勢による大戦争が起こる!?

 

©FIA FormulaE

 

では、ここまで多くの自動車メーカーやレーシングチームが、フォーミュラEに興味を示すのは何故なのでしょうか。

大きな要因としては、将来的に電気自動車の普及は間違いないものと見られており、自動車メーカーが生き残るためにはこの分野の開発は避けて通れないという事はご存知の通りです。

しかし、これ以外にも自動車メーカーが関心を示す理由があります。

それは、レギュレーションが市販される電気自動車の開発に貢献するために作られていること。

これは他の自動車レースと同じことでは?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、現在のレギュレーションでは空力などに関する開発は禁止されています。

そのため、市販車へのフィードバックに大きく貢献できる動力源の開発に注力することができ、モーターやバッテリーの開発競争を促すことに繋がるのです。

 

©FIA FormulaE

 

また、この開発可能な箇所を制限することはコスト削減にも貢献するだけでなく、人員をパワートレインの開発に充てやすくなるというメリットも兼ね備える結果に。

フォーミュラEは、あくまで電気自動車の未来を賭けた争いなのです。

こうした明確な目的を持つフォーミュラEは創設から3年が経った今、多くの自動車メーカーの興味を引くシリーズへと生まれ変わろうとしています。

 

まとめ

 

創設時には近未来の自動車レースとして大きな注目を浴びたフォーミュラEですが、創設から3年が過ぎてもそれほど注目されるシリーズとは言えない低空飛行を続けてきました。

迫力あるエンジン音も無く、「まるでラジコンが走っているようだ。」などといった厳しい意見があるのも事実です。

しかし、4度目のシーズンを迎えようとしている現在、大手自動車メーカーたちの心を掴むことに成功したフォーミュラEは転換期を迎えようとしています。

メルセデス、ポルシェ、BMWといったメーカーは電気自動車の未来を賭けた争いに加わることを決断し、そこに日産も加わるとなれば、フォーミュラEは自動車メーカーたちの戦場と化すことに。

それは2000年代後半にF1でワークスチームが集結された状況とよく似ており、数年後には自動車メーカーのプライドを賭けた戦いによって勝敗の重みが今以上に増すことで、興行としても更に盛り上がりを見せる可能性を十分に秘めています。

ライバルの一歩先を目指す自動車メーカーたちの賛同を勝ち取った今、フォーミュラEは改めて注目すべきシリーズとして生まれ変わるのです。

 

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