今でこそSUVやスポーツサルーンも手がけますが、911を代表とするスポーツカーメーカーとしてのイメージが非常に強いポルシェ。そのポルシェが第2次世界大戦終結直後、その名を冠した初の市販スポーツカーとして世に送り出したのが356で、最初期のプロトタイプ356.001が1948年に完成後、1966年5月に最後の356Cが納車されるまでの18年間で格段の進歩を遂げ、続く911への道を開いたのです。

ポルシェ 356クーペ / ©TOYOTA AUTOMOBILE MUSEUM
ポルシェ博士の息子、フェリーが開発に携わったオーストリア生まれの356

グミュント時代に作られた、ポルシェ 356/2 / © 2018 Porsche Japan KK
第2次世界大戦前の1931年、フェルディナント・ポルシェ博士は設計事務所を構えて独立し、戦車など軍用車両から後のVW タイプ1(ビートル)となる国民車Kdfなど、数々の車を開発しました。
そして第2次世界大戦が始まると、連合軍の爆撃を逃れるために本拠地のシュトゥットガルトからオーストリアのグミュントに疎開し、そこで終戦を迎えます。
しかしシュトゥットガルトの本社敷地は連合軍に接収されたため、引き続きグミュントでの活動を強いられる事に。
また、それだけでなく、フェルディナント・ポルシェ博士は戦犯容疑などでフランスに収監されてしまいますが、息子のフェリー・ポルシェが保釈金を支払い、1946年に帰国。
その後、フェリーはレーシングカーのポルシェ 360を開発するなどしてポルシェ博士の保釈金を稼ぐ一方、ポルシェの名を冠した市販スポーツカーの開発に着手しました。
ベースとなったのは第2次世界大戦前にKdfをベースに開発、『ベルリンローマ速度記録車』としても知られる、ポルシェ 60K10またはポルシェ 64と呼ばれたレーシングカー。
Kdfのシャシーに空力に優れたボディを載せ、Kdf用エンジンをチューンして40馬力にパワーアップした1,131ccエンジンを搭載して最高速度140km/hを発揮したこのレーシングカーは、既に356の特徴を持っており、戦後10年越しで復活を遂げたとも言える1台でした。
VW タイプ1をベースに段階的な高性能化を図ったスポーツカー

ポルシェ 356A 1600スピードスター / © 2018 Porsche Japan KK
1948年に完成した356プロトタイプ『356.001』の姿形は戦前のポルシェ 64に似ており、かつてのKdf、戦後本格生産を開始したVW タイプ1のエンジンを40馬力にチューンして搭載するなど共通点は多く、64の現実的な市販モデルに見えました。
しかし、中身は鋼管スポーツフレームにアルミボディを載せた、実質的には公道走行可能なレーシングカーというべきモデルで、インスブルックのレースで入賞するなど早くも頭角を現します。
その後、グミュント時代最後の試作モデルである356/2で『VW タイプ1の鋼板プレスプラットフォームとサスペンションをベースに、タイプ1用フラット4(水平対向4気筒)をチューンしたエンジンとオリジナルボディを載せる』という356の基本形が成立。
VWとのコンサルタント契約でポルシェの経営が安定し、シュトゥットガルトに帰還した1950年4月から生産を開始。
356/2のアルミボディから鉄製ボディになった『356プレA』と呼ばれる初期型から、本格的な生産が始まりました。
当初はリアに補助シートを持つ2+2シートのクーペボディのみで、エンジンもタイプ1をチューンしたとはいえさほどパワフルとは言えず、4輪独立懸架ながらトーションバーサスペンション、4輪ドラムブレーキなどいかにもタイプ1ベースのスポーツカーという趣です。
しかし、VW タイプ1をベースとしてその頑強さや信頼性も受け継いだことで、大掛かりな補強を必要としないロードスターボディの追加や動力性能の強化など、時間をかけて一級のスポーツカーへと熟成されていきました。
途中から『カレラ』モデルに追加されたDOHCヘッドや、最大2リッターまで拡大され最高出力140馬力を誇るエンジン、4輪ディスクブレーキなどで強化され、内装も鉄板むきだしからフルトリム化など、性能面でも装備面でも充実していったのです。
ドイツへの風当たりが厳しい時期から参戦したレースで本領発揮

ポルシェ 356B ロードスター / Photo by Nathan Bittinger
前述のようにポルシェ 360などのレーシングカーを販売したり、オーストリア国内レースに参戦させるなどして、戦後のポルシェは戦前同様、モータースポーツでその名声を取り戻そうとしていました。
その努力が実り、1951年のル・マン24時間レースには競技長シャルル・ファルーによる招聘でポルシェワークスの初参戦が実現します。
しかし未だ敗戦国ドイツへの風当たりが強い中、しかもかつてドイツが占領した国への『完全アウェー参戦』です。
しかもポルシェワークスの356SLは最低限のレース用改造を受けただけで市販車同然、エンジンも45馬力の1,086ccエンジンに過ぎませんでしたが、終わってみれば完走28台中の総合19位、1.1リッタークラス優勝!『耐久王』ポルシェにふさわしいスタートでした。
以後、ル・マン24時間では1952年に356SLが、1960~1961年に356Bが、1962年に356GSアバルトがクラス優勝、1956~1959年のニュルブルクリンク1,000kmレースでは356Aが4年連続でクラス優勝するなど活躍。
その間、ポルシェワークスの主力は550や718、904など、より強力なレーシングカーに移っていきましたが、356も後の911や914、924などのごとく、『市販車ベースマシンの耐久性を証明』する役割を果たしています。
主要スペックと中古車相場

ポルシェ 356B 200GS 『カレラ2』 / © 1998-2018 TOYOTA MOTOR CORPORATION. All Rights Reserved.
ポルシェ 356B 2000GS カレラ2 1961年式
全長×全幅×全高(mm):4,010×1,670×1,330
ホイールベース(mm):2,100
車両重量(kg):1,010
エンジン仕様・型式:Type587/1 空冷水平対向4気筒DOHC8バルブ
総排気量(cc):1,966
最高出力:130ps/6,200rpm
最大トルク:16.5kgm/4,600rpm
トランスミッション:5MT
駆動方式:RR
中古車相場:無し(ただしレプリカは278万~698万円)
まとめ

ポルシェ 356A 1600 ハードトップ / © 2018 Porsche Japan KK
当初のクーペモデルから北米市場の要望でオープンモデル(ロードスター、スピードスター、コンバーチブル、脱着式ハードトップ)が設定されると人気は爆発、ヨーロッパと北米でポルシェ 356は大人気のスポーツカーとなりました。
しかし1966年に惜しまれつつ販売終了、ただし後継の911がフラット6搭載の高性能マシンで非常に高価だったため、914登場までユーザーをポルシェにつなぎ止めるべく、356同様のフラット4搭載911の廉価版、912も発売されて人気を回復した一幕も。
そんな356以来、ポルシェには『高性能モデル(911)』と並行して『エントリーモデル』が必要となり、その意味で言うと356の後継は912、914、924 / 944 / 968を経て現在の718ボクスターにつながるのかもしれません。
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