6月18・19日に行われた2016ル・マン24時間耐久レース。トップを快走していた#5トヨタTS050ハイブリッドが、最後の最後でまさかのスローダウン。残り3分でトップが入れ替わるという劇的なエンディングに。結果的に#2ポルシェ919ハイブリッドがトップチェッカーを受け、ル・マン2連勝を飾った。しかし、翌日ポルシェのFacebookページでこんなメッセージが。
レースに勝利したのは自分たちだが、共に戦ったトヨタにも敬意を表したいというもの。つまり、トヨタが魅せた24時間の走りは、彼らも認めるほどの実力だったということなのかもしれない。世の中では特にラスト3分だけを切り取って「結果だけ」が報道されているが、実際にトヨタはポルシェを相手に24時間にわたってどんなレースを繰り広げていたのか?今回はあたらめて振り返っていこうと思う。
ル・マン重視で開発したTS050ハイブリッド、直線勝負で競り勝てる強さ
雨でセーフティカー先導で始まった今年のル・マン。
開始50分のところで本格的にスタートが切られたが、ここ数年は常勝チームと言われていたアウディ勢の1台が早々にトラブルが出てしまい後退。
前半からトヨタとポルシェの一騎打ちになっていった。
その中で一際目立ったのが今年新マシンを投入したトヨタの走りだ。
ル・マンで勝つことを最優先に考え開発された「TS050ハイブリッド」は、直線スピードが大きな武器の一つだったのだ。
序盤の混戦でもライバルを置き去りにするほどの速さをみせ、ポルシェ勢と互角のバトルを繰り広げていく。
昨年はこの時点から明らかに遅れを取り始め、レース全体を通してポルシェの背中にも近づくことができなかった。それが1年経って見違えるほどの進歩をみせていた。
「今年のトヨタはイケるのかもしれない」
そう感じるほど、明らかな違いを序盤からみせていた。
ライバルより1周多いスティント、見えないところでリードを作る戦略
さらに今回色々なところでも注目を集めていたのが、トヨタのスティントの長さ。
ポルシェ、アウディ勢が13周して給油のためピットインするのに対し、トヨタ勢は1周多い14周の戦略を採用。
24時間の中で、合計30回近くピットストップを行わなければならないル・マン。この1周の差を積み重ねていけば、トータルで2回はピット回数を減らすことができる。
実際に序盤は#1ポルシェがリードする展開だったが、ナイトセッションを終えた夜明けで有利になれるように、トヨタ陣営は少しずつ動いていたのだ。
実際にスタートから5時間を経過した時点でも、何のトラブルもなく進めていたため、着実に「トヨタ向き」の流れになっていたのは間違い無いだろう。
小林可夢偉がファステストラップで突破口を開く
とは言っても、#1ポルシェが先行し、現状の順位として有利な展開に持ち込めていなかったトヨタ。もどかしい展開が続いていたが、そこに突破口を開いたのが小林可夢偉だった。
2014年までF1に参戦し表彰台の経験もある可夢偉。今年からトヨタのWEC(LMP1)レギュラードライバーに抜てきされた。
ル・マンには2013年にLM GTE-Proクラスからの参戦経験はあるが、最高峰LMP1での挑戦は初めて。
海外メディアからも注目を集めていた可夢偉の最初のスティントだったが、ここ一発での勝負強さをみせた。
5時間を経過するところで#1ポルシェがピットイン。その間に可夢偉は一気にペースを上げていく。
80周目に3分21秒831をマークすると、翌81周目に3分21秒445を記録。結果的にこれが全体のファステストラップとなった。
この2周がきっかけとなり、6時間を過ぎたところで同一ピット回数でもトップをキープ。実質的に逆転してトップに浮上することができた。
この後は前述の14周スティントを続けていけば、さらにリードを広げられる計算。悲願のトヨタ初優勝へ、期待が少しずつ膨らみ始めレース後半に突入していった。
しかし、相手は名門ポルシェ。そう簡単にトヨタを逃さなかった。