クルマの後部に取りつけられている「リアウィング」は、ただの飾りやファッションではなく、走行性能を向上させるための機能を持ったパーツです。今回は、そんなリアウィングの役割と効果などについて解説していきます。

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/GT%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B0#/media/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Osaka_Auto_Messe_2014_(77)_TEAM_TOYO_with_GP_SPORTS_180SX.JPG

リアウィングとは

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/GT%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B0#/media/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Porsche_911_GT1-96_rear-right_Porsche_Museum.jpg

「リアウィング」とは、車体後部に装着される、翼断面を持ったエアロパーツのことです。

リアウィングはその名の通り、飛行機の翼のような形をしており、おもな役割は「ダウンフォース」を発生させて車体を地面に押さえつけ、走行時の安定性を得ること。

また車体に沿って流れる空気が、ボディから剥離してしまうのを防ぐ「整流」も、リアウィングの役割のひとつです。

ダウンフォースとは?

出典:一般社団法人 日本機械学会/http://www.jsme-fed.org/experiment/2012_12/002.html

リアウィングは、飛行機の翼を裏返したような形状になっています。

ちなみに、飛行機の翼は上向きに膨らんだ形をしており、離陸時に翼の後ろ半分を下向きに傾けることで揚力を得て、地面から浮き上がります。

一方で、リアウィングは下向きに膨らんだ形をしており、翼の後ろ半分は上向きに傾いています。

この形状のおかげでリアウィングは上面に流れる空気よりも、下面に流れる空気の流れが速くなり、下面の空気の流れが速くなると上面よりも気圧が高くなるため、下向きの力(ダウンフォース)が発生するのです。

その結果、車体が浮き上がってしまうような高速走行時でも、後輪がしっかりと路面に接地するのでスピンの危険性が減り、ブレーキング時やコーナリング時もリアグリップ低下を抑えられるので、安定した走りが可能となる仕組みです。

どれくらいのダウンフォースが発生するの?

TOYOTA PRIUS apr GT

出典:https://supergt.net/news/single/16806

しかし、どれくらいのダウンフォースが発生するかは、一概には言えません。

なぜならダウンフォースの増減は車体の空力設計や、リアウィングの取り付け位置、角度、ほかのエアロパーツとの兼ね合いなどによって大きく変わってくるからです。

確実に言えるのは、リアウィングを装着することでダウンフォースが発生することと、空気抵抗の増減があるということ。

リアウィング自体が空気抵抗になる場合もあれば、そうでないこともあり、最高速度と燃費低下を代償に、高速走行時の車体の安定性が増すことや、燃費を良くしながらも加速時の安定性が増したりもします。

そのためリアウィングの装着によって発生するダウンフォースの量は、風洞実験でもしない限りは分からず、確かに言えるのは「ダウンフォースの発生」と「空気抵抗の増減」があるということなのです。

純正で装着されているリアウィングの役割

Photo by Aaron Lai

インプレッサ、ランサーエボリューション、シルビアなどのスポーツカーには純正でリアウィングが装着されています。

こちらの役割も基本的にはレーシングカーなどと同じですが、より重きが置かれている役割は整流です。

ほとんどの車の後部は四角く角ばっていることが多く、車体に沿って流れてきた空気はトランクの部分に差し掛かるとボディから剥離してしまいます。

空気が車体から剥離すると、その箇所は空気が少ない状態になって渦ができ、小さな台風のようなものが発生。

車体はその小さな台風によって後方へと引っ張られ、スピードが上がれば上がるほど、この後ろへ引っ張る力が強まることに。

純正リアウィングはこの小さな台風を減らすべく、剥離された空気の流れを再び流線形に近づけ、車体後方まで伸ばす役割があるのです。

これによって空気は流線形になって再び流れていき、その流速もリアウィングで加速。

結果、速力の低下が整流効果によって抑えられるのです。

また純正リアウィングの多くが簡素な板状になっているのも、GTウィングに代表される後付けのものとは違って、整流効果に重きを置いていることが理由です。

リアウィングなしでダウンフォースを起こす技術がある

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%95%E3%82%A7%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%BC#/media/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Porsche_962_119_diffuser.jpg

これまでモータースポーツの世界ではリアウィングを装着したり、流線型ボディに試行錯誤を重ねてダウンフォースを発生させ、サーキットでのタイムを向上させてきました。

しかし、現在では車体表面に何かを装着することなく、ダウンフォースを発生させる技術があります。

それが「グランドエフェクト」。

これはリアウィングと同様、飛行機が翼から揚力を得る仕組みと逆の原理ですが、車体全体を一枚のウィングに見立てて行う方法です。

これによって高速走行時に車体は安定し、コーナリング時も通常の車と比べて圧倒的に速くコーナーを抜けることが可能になります。

また、空気抵抗が発生して最高速度低下の可能性もあるリアウィングとは違い、グランドエフェクトでは、最高速に影響が及ぶことはほとんどありません。

つまりグランドエフェクトは、ダウンフォースを味方につけるための「新たなる希望」というわけです。

このグランドエフェクトをいち早くモータースポーツの世界に取り入れた、1977年のF1にデビューした『ロータス78』は、圧倒的な速さを誇りました。

しかし、目に見えない空気の力に頼るグランドエフェクトには重大な問題点があり、空気の流れが変わった際に、急激にダウンフォースを失う危険性もあるのです。

これに起因し、コントロール不能となる事故が多発した為、以降のF1ではフロア下にゆとりを持たせる『スキッドブロック』の装着が義務付けられています。

ちなみに現在ではSUPER GTのようなGTカーにもスキッドブロックは装着されており、ハコ車でさえも恩恵が得られるほどグランドエフェクトの効果は絶大なのです。

まとめ

リアウィングは街乗りでは、あまり必要だと言えるものではなく、機能的には無駄とも言えます。

しかし見た目がカッコよく、機能的云々以前の魅力があるのも事実。

また、空気の力は目には見えませんが、時には我々の想像をはるかに超えた脅威となることも。

近年だと、1999年のル・マン24時間レースでは、ポーポイズ現象を起こし、鼻先が持ち上がってしまったメルセデスベンツ・CLRが、宙を舞う大事故が起きてしまいました。

このように’80年代以降のレーシングカーの歴史は、空力の歴史と言えるほどにモータースポーツと密接な関係にあるだけに、その進化を追ってみるだけでも、面白い発見があるはずです。

Motorzではメールマガジンを配信しています。

編集部の裏話が聞けたり、最新の自動車パーツ情報が入手できるかも!?

配信を希望する方は、Motorz記事「メールマガジン「MotorzNews」はじめました。」をお読みください!