ホンダが生み出した超マニアックな原動機付自転車『ドリーム50』は、高精度な4サイクルDOHCエンジンを搭載し、1960年代に活躍したホンダ50cc市販レーサー『カブレーシングCR110』の復刻モデルです。そんな奥深いドリーム50について、詳しく紹介します。
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ホンダ創立50周年の集大成は原付のドリーム50
「たかが原付、されど原付!」そんな表現がピッタリ当てはまるが、ホンダ・ドリーム50です。
ホンダが創立50周年を記念して、4輪車ではS800を現代版にアレンジさせて登場したのがS2000、そして2輪車では市販レーサー カブレーシングCR110(以下:CR110)の復刻版としてドリーム50を世に送り出したのでした。
要は企業としての大きな節目である半世紀の集大成に、ナナハンでもニーハンでもなく原付を採用し、古き良きホンダレーシングバイクを現代に甦らしたのです。
そうして快適性や機能性などは眼中になく、車体のカッコよさ、エンジンの美しさを醸し出す究極の原付バイクが誕生しました。
ちなみに、同時に登場したS2000は2シーターオープンスポーツでありながら、高いボディ剛性を誇り、前後の重量配分は理想的な50:50。
2リッターNAのFR車では最良のコーナリング性能を実現させ、高回転まで一気に回るVTECの性能と相まって幅広い層に支持されて、絶版となった今なお中古車市場で大人気のモデルです。
一方、ドリーム50はホンダマニア、旧車マニアからは反響が高かったものの、あまりにもマニアック過ぎたせいか、32万円という価格設定が高すぎたのか、なかなか販売数が伸びず、わずか3年で生産終了となりました。
当時は若者の間でビッグスクーターと400ccアメリカンが流行っていたので、若年層からはあまり注目されず、2000年にカタログ落ちしても余った在庫を当分のあいだ店頭販売するお店が続出していた始末です。
ホンダ・ドリーム50とは
ホンダ ドリーム50は、1995年に開催された第31回東京モーターショーで参考出品され、その後1997年2月28日に発売された、50ccの原動機付自転車です。
当時生産されていた4ストローク50ccでは唯一のDOHC4バルブエンジンを採用し、カム駆動系はチェーンギア駆動となっていますが、サイレントチェーンとオートテンショナーリフレクター、またサブギアトレインを採用し、心地よい単気筒サウンドを演出しつつ静粛性に優れたメンテナンスフリーを実現していました。
また、CR110のスタイルを踏襲しながらも、前後にディスクブレーキと、ウインカー、ニュートラル、サイドスタンドの各インジケーターに当時ではまだ珍しかったLEDを搭載し、現代的なパーツがいくつも採用しています。
HRCからレーシングコンプリートカーまで発売
ドリーム50を開発したエンジニアたちは、相当な50ccレース好きだったのでしょう。
ドリーム50がわずか3年で生産終了になっても、その後ドリーム50のレーサーマシン『ドリーム50R』をHRCから登場させて、CR110の復刻モデルは公道仕様のみならず市販レーサーマシンまでも再現してみせました。
そんなドリーム50Rは、HRCが開発したKitパーツを組み込まれ、エンジンは1.4PSアップの7PSを13,500回転で発揮。
さらに手を加えたフルコンプリートマシン『ドリーム50TT』まで登場させて、カム、クランク、キャブ、クロスミッションなどの至るところをチューニングされたエンジンは、18,000回転まで回る超高回転仕様でした。
また、ドリーム50R/50TTを活躍させる場を設けるために、ホンダはドリームだけで競い合うレース『ドリーム/レトロ50カップ』まで開催します。
ドリーム50のユーザーが、そこまで多くないにもかかわらず、これほどまてまにドリーム50が特別扱いされたのは、歴代のホンダ車でも稀でした。
このレースの開催により、NSR50やNS50Rほど速くはありませんでしたが、1960年代に行われた50ccレースの雰囲気をユーザーは思う存分楽しめたのです。
50ccのミッション付き原付が、ごくわずかしか新車で販売されていない今となっては、とても羨ましいかぎりです。
ドリーム50にはホンダ・50ccレーシングバイクの歴史が凝縮
ドリーム50のベースとなったCR110は、ホンダの歴代ファクトリーレーサーマシンと、とても密接な関係を持っています。
ホンダは1958年に初代カブにあたるC100を発売。
ここで注意したいのが、モデル名に”100″や”110″とありますが、すべて50ccです。
当時は50ccのレースが世界中で行われており、1962年からロードレース世界選手権にも50ccカテゴリーが創設されることが決定。
ホンダは参戦するために、50ccレーサーマシンの開発に着手します。
当時は4ストよりパワフルな2ストが主流で、ロードレース世界選手権50ccクラス初年度のシリーズタイトルは、2スト単気筒ロータリーバルブエンジンを搭載したスズキ RM62が獲得しました。
しかし、本田宗一郎は4ストに並々ならぬこだわりを持っていたため、ホンダが投入したワークスマシンは、4スト単気筒DOHC4バルブを搭載したRC110というモデルだったのです。
後継モデルにあたるRC112では50ccで2気筒化され、1966年に登場し、更に進化したRC116は21,500回転で14馬力を発揮しました。
そしてホンダは、RC116で50ccクラス初のシリーズタイトルを獲得したのです。
話は戻りますが、1962年に登場したRC110をベースにした市販レーサーモデルCR110を発売。
さらに、国内で50ccの市販車レースが盛んにおこなわれ、その出場車両のレギュレーションで、年間50台以上販売されているバイクという条件があったため、ホンダはRC110に保安部品を付けただけのホモロゲーションモデル、『カブレーシングCR110』を発売します。
市販レーサーモデルと同じモデル名でややこしいのですが、当時はサーキットではなく、ダートでレースが行われていたため公道走行可能なカブレーシングC110は、スクランブラー仕様になっていました。
このように1960年代のホンダ50ccレーサーバイクは、さまざまなモデルが生み出され、現在の4スト50ccエンジンの基礎を作り上げていったのです。
スペック
Dream50 | Dream50R | ||
---|---|---|---|
型式 | A-AC15 | AR02 | |
全長×全幅×全高(mm) | 1,830×615×945 | 1,790×615×945 | |
軸距(mm) | 1,195 | 1,195 | |
乾燥重量(kg) | 81 | 71 | |
エンジン型式 | AC15E | AR02E | |
エンジン種類 | 空冷単気筒DOHC4バルブ | 空冷単気筒DOHC4バルブ | |
排気量(cm3) | 49 | 49 | |
内径×行程(mm) | 40.0×39.6 | 40.0×39.6 | |
圧縮比 | 10.1 | 11.7 | |
最高出力(kW[PS]/rpm) | 4.11[5.6]/10,500 | 5.14[7.0]/13,500 | |
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm) | 4.11[0.42]/8,500 | 4.41[0.45]/10,500 | |
変速機 | 5速 | 6速 | |
タイヤ | 前 | 2.50-18 45L | 2.50-18 45L |
後 | 2.50-18 45L | 2.50-18 45L | |
新車価格(円) | 329,000 | 438,000 |
まとめ
年 | 内容 |
---|---|
1958年 | ・C100発売 |
1959年 | ・ホンダがロードレース世界選手権に参戦開始 |
1960年 | ・スーパーカブC110発売 |
1962年 | ・ロードレース世界選手権に50ccクラスが設立 ・50ccクラスにワークスマシン・RC110/RC111を投入。 ・2気筒エンジンのRC112をシーズン途中から投入。 ・50ccクラスでルイジ・タベリ選手がシリーズ3位 ・市販レーサー・CR110カブレーシング発売 ・公道走行可能モデルCR110カブレーシング発売 |
1963年 | ・50ccクラスでルイジ・タベリ選手がシリーズ8位 |
1964年 | ・ロードレース世界選手権にRC113/RC114を投入 ・50ccクラスでラルフ・ブライアンズ選手がシリーズ2位 |
1965年 | ・ロードレース世界選手権・50ccクラスにRC115を投入 ・50ccクラスでラルフ・ブライアンズ選手がシリーズ2位 |
1966年 | ・ロードレース世界選手権・50ccクラスにRC116を投入 ・50ccクラスでラルフ・ブライアンズ選手がシリーズタイトルを獲得 |
1997年 | ・2月28日ドリーム50発売 |
1998年 | ・1月28日ドリーム50スペシャルエディションを1,000台限定発売 |
2000年 | ・ドリーム50生産終了 |
2003年 | ・HRCからドリーム50R発売 |
2005年 | ・HRCからドリーム50TT発売 |
ドリーム50は、ホンダが原付でも4ストにこだわったという歴史が集約されたバイクです。
ホンダのレーシングスピリッツが集約され、ホンダファン、ホンダのエンジニア、そして本田宗一郎氏にとっての”夢(ドリーム)”を詰め込んだのがドリーム50でした。
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