“空力の申し子”エイドリアン・ニューウェイ。天才的なその才能を活かし、30年近くに渡りF1のトップデザイナーとして活躍しています。ここ数年はF1への関与を弱めていたものの、レッドブル・ホンダ結成の際には、再びF1デザインに本腰を入れると発表し、注目を浴びました。今回は、ニューウェイが所属した4チームから、F1ファンの印象に残る名車を4台、ご紹介しましょう。

出典:https://www.mclaren.com/racing/heritage/cars/1999-formula-1-mclaren-mp4-14/

天才のデビュー作/マーチ・881(1988)

出典:http://www.marchives.com/gallery-full.htm

ニューウェイのF1のデビュー作であるマーチ・881。

時代はターボエンジン全盛期、マクラーレン ホンダが16戦15勝を達成した1988年に誕生したこのマシンは、当時としては革新的なマシンでした。

空力への優先度がかなり低かった時代に細身のモノコックを採用し、見るからに空力効率の良さそうな車体デザインは注目を浴びます。

このマシンで特に重要なのが、フロントウイングを持ち上げることで、フロア下面に空気を流し込んでダウンフォースを生むという発想です。

これは現在でも用いられている空力の手法であり、まさに現代の空力レーシングカーの祖と言っても過言ではありません。

非力なジャッドのV8・3.5リッターエンジンながら、随所でターボ勢に勝るとも劣らない光る走りを披露します。

特にその空力効果を発揮したのが、路面のスムースなコースで、フロア下面での空気が乱れないため、期待値通りのダウンフォースを発揮しました。

それが顕著に現れたのが、鈴鹿サーキットで開催された日本GPです。

4番グリッドからスタートしたイヴァン・カペリは、ペースの上がらないプロストを徐々に追い詰めると15周目、最終コーナーからの立ち上がりでオーバーテイク!

当時最強のマクラーレン ホンダを相手に非力なジャッドエンジンのマシンがオーバーテイクするシーンに、鈴鹿に集まったレースファンは熱狂しました。

最強の正統派/ウィリアムズ・FW18

Photo by Nic Redhead

ウィリアムズ史上、最もいい成績を残したマシンと言えば、1996年シーズンを戦ったFW18でしょう。

苦労人デイモン・ヒルとF1ルーキー、ジャック・ビルヌーブの二人で16戦12勝を記録。

ヒルがチャンピオンを獲得し、ビルヌーブが2位。コンストラクターズタイトルを獲得します。

FW18は、目新しい機構や奇抜なアイデアもなく、前年型のFW17と見た目もそっくりですが、F1マシンとしての完成度の高さはF1史上5本の指に入ると言えます。

FW18でもフロア下へ流す空気を重要視しており、出来る限り下面へ多く空気を流そうという考えが、高く持ち上げられた細いフロントノーズから見て取れます。

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/1996%E5%B9%B4%E3%81%AEF1%E4%B8%96%E7%95%8C%E9%81%B8%E6%89%8B%E6%A8%A9#/media/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Williams_FW18_cockpit_Donington_Grand_Prix_Collection.jpg

また、ドライバーの頭部保護のためにこのシーズンからサイドプロテクターの装着が義務付けられました。

これは開口部から75mmの高さにしなければならないのですが、そのまま採用すると大きな空気抵抗となります。

そこで考えられたのが、プロテクター最外部だけフィン形状にして75mmを満たし、フィンの内側は低く抑えて抵抗を減らすというもの。

まさに空気が見える男、ニューウェイならではのアイデアと言えるでしょう。

極限の速さ/マクラーレン・MP4-20

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%BBMP4-20#/media/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Kimi_Raikkonen_2005_USA.jpg

2005年のF1シーズンで最も速かったマシンが、マクラーレンMP4-20でした。

19戦中10勝に加えて、ポールポジション獲得数、ファスティング獲得数すべて1位という素晴らしい速さを見せます。

しかし、ドライバーズランキングではルノーのフェルナンド・アロンソに届かず、キミ・ライコネンは2位。

速さは素晴らしいものの、信頼性の面が足を引っ張る形となってしまったいました。

一説では、あまりにも空力を重視しすぎたため、各所にそのしわ寄せが来た結果だとも言われています。

このマシンの特徴は、フロントサスペンションをモノコックに直付けする”ゼロキール”方式。

これは、サスペンションのロアアームを接続するために、モノコックから生えている”キール”と呼ばれる突起を除去した方式です。

これを無くしたことで、ノーズからモノコックの下面まで空気を乱すこと無く流すことに成功したと言われており、その後は他チームも追従していきました。

このマシンのハイライトは、ライコネン史上最高のレースとも言われている第18戦日本GPでしょう。

雨の影響により、予選17番手となったライコネンは決勝で鬼人の走りを披露し、次々と前の車をオーバーテイクしていきます。

そして2位で迎えた最終ラップの1コーナーで大外からルノーのジャンカルロ・フィジケラを抜き去り、見事優勝を果たしたのです。

まさに記録以上に記憶に残る名車と言えるのではないでしょうか。

レースの詳細はこちら→ https://motorz.jp/race/14912/

赤牛の躍動/レッドブル・RB6

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%BBRB6#/media/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Sebastian_Vettel_2010_Britain.jpg

2005年から参戦を開始したレッドブルレーシングにとって、初のタイトル獲得となった2010年のマシンがレッドブル RB6です。

2006年からレッドブルに所属したニューウェイはデザインの裁量権を与えられ、今までよりも伸び伸びと仕事ができるようになります。

そして、2009年のレギュレーション大改革のタイミングで、一気にその効果が現れました。

それまで中段争いが主だったレッドブルは、新鋭気鋭のセバスチャン・ベッテルを擁し、一気にトップチームへと駆け上がったのです。

そして迎えた2010年、昨年他チームより劣っていた部分をしっかりと進化させて誕生したRB6は、シーズン9勝、ポールポジション15回を記録。

見事ドライバー、コンストラクターズのダブルタイトルを獲得しました。

そんなRB6の速さの原動力となったのが、ブロウン・ディフューザーでした。

エンジンから出る排気ガスは高温高速になるため、これをディフューザーへと吹き付けることで効率が上がり、ダンフォースを増大させることが出来ます。

このアイデア自体は古くからあったものの、ブレーキング時などの排気が少なくなるタイミングではダウンフォースが減ることから、挙動が乱れる問題がありました。

そこで、ニューウェイとレッドブルチームは、ブレーキング時でも排気を維持するプログラムを開発することで問題を解決し、このシステムを採用するに至ったのです。

このディフューザーシステムは多大な効果を発揮し、翌年には他チームもこぞって採用することになりました。

そしてレッドブルは更にシステムを改良することで、2011年のRB7も抜群のスピードを見せ、2連覇を果たしたのです。

まとめ

出典:https://ja.hondaracingf1.com/races/2019/brazilian-grand-prix.html?tab=practice

コンピューター上での設計が殆どとなった今でも、紙と鉛筆でデザインしているというエイドリアン・ニューウェイ。

F1の初デザインから30年経った今でも最前線で活躍する姿は、まさに空力の申し子と言えるでしょう。

彼の現在所属するレッドブルは今年からホンダとタッグを組み、今年は3勝を記録しました。

来年のレッドブル ホンダが今年以上の活躍を見せ、タイトルを獲得するための鍵を握るニューウェイが、どんなマシンをデザインしてくるのか。

来年1月に発表されると予想されている新型マシンを期待して待ちましょう。

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