レーサーレプリカバイクが好きな方であれば、ホンダNR750というバイクの名前を聞いたことがあると思います。1気筒あたり吸気と排気バルブを各4本、計8バルブとしたスペシャルエンジンを搭載し、25年前に車両価格520万円で限定300台のみ発売されたバイクです。今では現存する車両はかなり少なくなり、中古車は新車時の価格以上のプレミア価格で取引されています。そんな、ホンダNR750についての詳細や誕生した経緯などをご紹介します。
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ホンダ NR750はどんなバイクだったのか
NR750は1992年に本田技術工業(以下:ホンダ)が発売した大型バイクです。
そんなNR750で特筆すべきは、1気筒あたり8バルブを搭載するために楕円ピストンが採用されたことで、V型4気筒DOHC32バルブのエンジンを搭載し、車両価格が520万円で限定300台のみ販売されました。
NR750発売前に世界GP参戦マシンNR500を開発
NR750の誕生を解説する上で最も重要なトピックスは、かつてホンダは2ストロークエンジンが主流だったロードレース世界選手権に4ストロークエンジンで参戦していた過去があり、そのときのマシンがNR500であったことではないでしょうか。
世界GP復帰から登場したNRプロジェクト
ホンダは1967年に、4輪車の開発と量産に力を注ぐため、それまで参戦していたロードレース世界選手権参戦からの撤退を決定。
その後、CB750FOURやベンリィ90などヒットを出しますが、レースへの参戦がなくなった事で新しい技術を検証する場がなくなり、技術で他メーカーから取り残されてしまうのではないかという危機感を持っていました。
そこで、1977年11月にホンダはロードレース世界選手権500ccクラスに復帰することを発表したのです。
プロジェクト名はNew Racingの頭文字をとって「NR」とし、3年以内に世界チャンピオン獲得を目標としていました。
楕円ピストン・8バルブで目標は130馬力
当時世界GPに参戦するマシンの主流は2ストロークエンジンでしたが、ホンダは他メーカーにはない革新技術をもつマシンで勝つことを目標としており、NRプロジェクトでは4ストロークエンジンを採用、8つのバルブを一つのシリンダーに収めるため長円形ピストンを搭載することで130馬力を発揮する独創的なエンジンの開発を進めました。
常識を覆す「エビ殻フレーム」
Honda #NR500 #ovalpistons γιατι 19.000rpm… pic.twitter.com/WsOiZQMUhI
— VR77™ (@vr77mag) 2017年7月4日
マシン名はNR500と名付けられ、排気量は499.5ccの100度V型4気筒DOHC32バルブエンジンを搭載。
さらにフレームも今までの概念を覆すほど革新的なものが採用されることになり、それが「エビ殻フレーム」と呼ばれたアルミフレームでした。
バイクのフレームと言うと、骨格となるパイプを組み合わせたフレームに外側のカバーとなるカウルを装備するものですが通常ですが、エビ型フレームはカウリングそのものがフレームとなるモノコック構造になっていたのです。
そして、カウリングの板厚は1mmしかないにもかかわらず、エンジンをフレーム内に差し込んで搭載するカセット式となっていて、エンジンとフレームが組み合わされることにより車体の高剛性と軽量化を実現しました。
1979年イギリスGPでデビュー
NR500は1979年の世界選手権 第11戦イギリスGPでデビューを果たします。
エンジンは目標とする130馬力に達しませんでしたが100PS/16,000rpmを達成し、ライダーは片山敬済とミック・グラントが起用されました。
しかしデビューから苦戦が続き、レースを重ねるにつれ徐々にNR500は改良されていきます。
そして4ストロークエンジン特有の強烈なエンジンブレーキを抑えるバックトルクリミッターを開発し、1980年にはエビ殻フレームからパイプフレームに変更。
1981年にはVバンクを100度から90度に改良し、目標だった最高出力130馬力までパワーアップされたのです。
3年間での目標を達成できず、NR500からNS500へ
1979年に始動したNRプロジェクトの企画書内では、3年以内に世界チャンピオンになることが記載されており、1981年シーズンまでにNR500が年間チャンピオンになることが使命となっていました。
しかし、1レースでポイントを獲得できるかできないかという状況が続き、それを実現することは難題。
鈴鹿200kmレースでは4ストロークエンジンの燃費の良さを生かし勝利をあげ、1981年7月にアメリカ・ラグナセカサーキットで行われたインターナショナルレースではフレディ・スペンサーが優勝するほどのポテンシャルまで引き上げられましたが、世界GPでは1981年シーズンも1ポイントすら取れずシーズンを終える結果となります。
ホンダは3年間でNR500を目標とする性能まで到達させることが出来ず、1982年からマシンを2ストロークエンジン搭載のNS500に切り替える事を決定。
NR500の開発は終了となりました。
NR500からNR750への転換
ホンダは1982年にNR500から見切りをつけNS500へとシフトし、そのシーズンから早くも3勝を達成。
翌年にはフレディ・スペンサーが世界GP500ccクラスのシリーズチャンピオンとなり、NS500の投入は大成功となりました。
その結果、NRプロジェクトは消滅したかのように思えましたが、排気量を変えて再びNRが登場することになるのです。
ホンダNR750デビュー
1987年に世界耐久選手権ル・マン24時間耐久レースにNR750を投入させました。
NR750はNR500のエンジンをバンク角90°から85°へ変更し、排気量を748.76ccまでアップさせたマシンです。
残念ながらル・マン24時間耐久レースではリタイヤとなりましたが、同年12月に開催されたオーストラリアのスワンシリーズにも参戦し、優勝を果たします。
これでホンダのNR750でのレース参戦は完全に終了し、その後NR750の市販化へと発展していきました。
1992年5月にNR750を発売
ホンダは1992年5月25日に、ホンダNR750を発売しました。
NR750は、NR500と同様に楕円ピストンと1気筒あたり8つのバルブがついたエンジンを搭載し、炭素繊維強化樹脂やチタン、マグネシウムなど高価な軽量素材を採用。
他にも倒立フロントフォーク、アルミツインチューブフレーム、マグネシウムホイールなどの当時の最高技術を集め、ホンダの最先端技術を結集した次世代ロードスポーツバイクでした。
NR750の世界記録
NR750は1993年の8月28日~8月29日にイタリア・ナルドコースで世界最高速チャレンジに挑戦し、世界記録でギネスブックにレコードを残しています。
この時のチャレンジでは、ライダーにイタリア人のロリス・カピロッシを起用し、使用したNR750は155馬力までチューニングが施され、車体は185kgまで軽量化されました。
そして右・左周回平均速度299.825km/hを記録し 、750cc部門で世界記録を樹立したのです。
NR750のスペック
全長×全幅×全高(m) | 2.085×0.890×1.090 |
軸距(m) | 1.435 |
シート高(m) | 1.435 |
乾燥重量(kg) | 223 |
エンジン種類 | 水冷4ストロークV型4気筒DOHC32バルブ |
総排気量(cc) | 747 |
内径×行程(mm) | 101.2(長径)×50.6(短径)×42.0(行程) |
圧縮比 | 11.7 |
最高出力(PS/rpm) | 77/11,500 |
最大トルク(kgm/rpm) | 5.4/9,000 |
NR750の中古車価格
NRの中古初めて見たわ pic.twitter.com/dmm3WWo1X7
— 猫友㌠ (@nekotomo1017) 2017年10月8日
現在NR750が発売されて25年が経ち、中古車市場でのタマ数はかなり少ない状況となりました。
販売価格は最安値でも500万円以上となっており、中古車店の価格表示は「Ask」としているところもあるため、かなり高額で販売していると見られます。
既に旧車の域にまで達しており、現在のNR750オーナーは大切に保管している方が多いため、個人売買でも話に乗ってくれるオーナーは少ないかもしれません。
まとめ
NR750の市販化は、バブル時期も相まって実現しました。
しかし発売日直前にバブルが崩壊したことでキャンセルが相次ぎ、発売しても数年間は新車が店頭で余っている状況が続いたこともありました。
売れ残ったNR750は、当時のライダーにとっていつかは乗りたい憧れのバイクでしたが、1996に大型自動二輪免許を教習所で取得できるようになり、国内でハイスペックな大型バイクが次々と発売されるようになったことで、ライダー達のNR750に対する意識は薄れていったのです。
そんなNR500から憂き目が続いたNR750でしたが、ホンダがNR500の開発で培った技術は、NR750やその他のバイクへ技術のフィードバックされています。
2ストロークが廃止され、ほぼ4ストロークのみとなったバイク産業で、高性能なホンダの4ストロークエンジンは、NRでの開発経験が活かされている事は疑いようのない事実。
NR750はバイクの進化に、大きな功績を残した1台なのです。
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