ホンダ車が唯一251cc以上の2ストロークエンジンを搭載したホンダNS400R。当時、同カテゴリーではスズキRG400Γ、ヤマハRZ350が峠やサーキットで支持されており、2ストロークカテゴリーにおいて出遅れ気味だったホンダにとっては、起死回生を狙った1台でした。そして、しげの秀一氏著の人気マンガ『バリバリ伝説』では主人公・巨摩郡が乗っていたことでも注目を集めたモデル。そんなNS400Rはどんなバイクだったのでしょうか。

 

バリバリ伝説12巻

出典:https://amzn.to/2lE6oOD

 

 

ホンダのワークスマシンNS500のレプリカとされたホンダNS400R

 

1985年 ホンダNS400R

1985年モデル ホンダNS400R ホンダ・レーシングトリコロールカラー / © Honda Motor Co., Ltd.

 

1985年 ホンダNS400R

1985年モデル ホンダNS400R
ロスマンズ・インターナショナル社カラー / © Honda Motor Co., Ltd.

 

ホンダNS400は、1985年5月10日に本田技研工業(株)から発売されたレーサーレプリカバイクです。

ホンダはNS250R、NS125R、NS50FといったNSシリーズをいくつか発売し、NS400Rはその最上級モデル。

エンジンは387ccの水冷2ストロークV型3気筒エンジンを搭載し、車体を覆うカウルは当時のWGP(ロードレース世界選手権)500ccクラスに参戦していたホンダのワークスマシン、NS500と同じカラーリングであるホンダ・レーシングトリコロールカラーとロスマンズ・インターナショナル社カラーが設定されました。

 

1983年 ホンダNS500を駆るフレディ・スペンサー / © Honda Motor Co., Ltd.

 

当時ホンダのWGP戦歴は、1983年にフレディ・スペンサーが500ccクラスと250ccクラスのダブルタイトルを獲得し、1983年・1984年の2年連続マニュファクチャラーズタイトルを獲得していました。

そんなチャンピオンマシンのレプリカバイクということもあり、消費者からは熱い視線が注がれ、海外にも輸出される事に。

現在でも、世界中のNS400Rのエンスージアストによりオーナーズクラブが運営されるなど、2ストフリークから今なお人気の高い1台です。

 

レプリカとはいえ、外観はそっくりそのままだけど中身は全く別物?

NS400RはNS500の最新技術の数々を惜しみなく投入し、開発したとホンダは宣伝していましたが、当時はそんなに人気が出ることはありませんでした。

同クラスのヤマハRZ250/350、スズキRG250Γ/400Γと比べればマイナー車とされ、あまりパッとしないまま1986年には生産を終了し、販売期間はわずか2年という短さだったのです。

 

実はMVX250Fの兄貴分だった

 

ホンダ MVX250

ホンダ MVX250F / © Honda Motor Co., Ltd.

 


NS400Rのベースとなったのは、1982年に発売されたMVX250Fとされています。

そんなMVF250Fは2ストV型3気筒エンジンを搭載したモデルで、元々は排気量をアップしたMVF400Fも発売される予定でした。

しかし、MVX250Fはホンダが想定してたより販売台数を伸ばすことができず、MVF400Fの発売は見送られることに。

そして、400cc2ストバイクをベースに当時フレディ・スペンサーがタイトルを獲得したワークスマシンNS500のレプリカとして発売を計画。

すでに出来上がっていたとされるMVF400Fのエンジンをベースに、400ccクラスの2ストレーサーレプリカの販売に乗り出したのです。

ゆえに、NS500のV型3気筒エンジンは前バンク1気筒/後バンク2気筒でしたが、NS400RはMVX250Fと同じ前バンク2気筒/後バンク1気筒。

排気量が387ccと少し中途半端だったのも、幻に終わったMVX400Fのなごりとされています。

また、NS500と同じ構造を使用する際に問題となったのは後バンク2気筒が後方排気でシートカウルの下を通るため、チャンバーからの熱がシートに達して熱くなることや、シートが高く幅広になってしまう事でした。

それを後バンク1気筒にすることで問題を解決し、公道でも乗りやすい仕様に!

MVX250Fの公道での乗りやすさを追求してエンジン設計を大幅に変更。

MVX250FからNS400Rへそのまま継承されたのです。

 

なぜNS500の公道仕様は登場しなかったのか

 

1982年 ホンダ NS500

1982年 NS500 / © Honda Motor Co., Ltd.

 

NS500は水冷2ストロークV型3気筒エンジンを採用し、ヤマハYZR500やスズキRG500は4気筒エンジン。

それでもNS500を投入した1982年シーズンからフレディ・スペンサーが3位を獲得。

翌年にはタイトルを手にするなど、3気筒マシンであるNS500の採用は大成功をおさめます。

一方、2輪車市場ではヤマハがRZV500R、スズキがRG500Γと公道を走行できる2スト500ccマシンを登場させ、市場で人気を獲得すためにはGPマシンと直結したバイクが必要でした。

もちろん、ホンダもNS500を公道仕様にした商品の開発を目指していましたが、それでもWGPにおいてホンダは2スト全盛期にあえて4ストエンジンを搭載したNR500で参戦したり、本田宗一郎氏の信念でホンダは4ストが主力というのが企業理念のようになっており、ホンダ社内の開発者も打倒2ストという並々ならぬ思いを持っていたのです。

しかし、NS500はホンダの2輪モータースポーツ専門会社『HRC』により開発されたマシンであり、ホンダの営業部がNS500の公道仕様開発を持ちかけても、HRCが首を縦にふることはなかったそうです。

ちなみに、NR500やNS500の開発に携わった福井威夫氏は、HRCが設立された時にHRC初代取締役に就任し、2003年にはホンダの第6代目社長にまで登り詰めました。

7代目社長の伊東孝紳氏もホンダの開発者だったことから、社内で開発部が強い意見を持っていたのでしょう。

市場のニーズや営業部の戦略と開発部の信念の食い違いが、NS500の公道仕様が誕生しなかった大きな理由とされています。

 

これぞレーサーレプリカ!設計や使用パーツはかなり豪華!

 

1985年 ホンダNS400R

© Honda Motor Co., Ltd.

 

NS400Rはアルミ製のダブルクレードルフレームを搭載しており、コンピュータ解析によって軽量・高剛性を追求し、アルミニウムの表面にはアルマイト処理が施されています。

また、サスペンションにはフロントに荷重調整可能なエアアシスト・サスペンション、リアにも荷重調整ができるプロリンク・サスペンションが搭載され、当時調整可能なサスペンションを前後に搭載しているのは珍しい事でした。

さらに、ブレーキとサスペンションを連動して作動させ、ブレーキ時に急なノーズダイブを抑える『ブレーキトルク応答型アンチバイブ機構(TRAC)』を装備。

排気系には、前バンク2気筒に電動でエンジン回転数を検知し、自動的に排気容積を変化させて効果的な脈動効果が得られる自動調整トルク増幅排気機構(ATAC)を搭載。

さらに、コンロッドの高速耐久性を高めるためにハイスピードステンレス製のニードルベアリングを採用。

低いエンジン回転数域でも高いトルクが得られるように設計されています。

その為、もしMVX250Fのエンジンがベースになっていることでユーザーがガッカリしたとしても、それを払拭させるほどの最先端技術を採用し、MVX250Fからかなり進化したモデルでした。

 

ホンダNS400Rのスペック

 

1985年 ホンダNS400R

© Honda Motor Co., Ltd.

 

1985年モデル ホンダNS400R
全長×全幅×全高(mm) 2,025×720×1,125
軸距(mm) 1,385
シート高(mm) 780
乾燥重量(kg) 163
乗車定員(名) 2
エンジン種類 水冷2サイクル90度V型3気筒ピストンリードバルブ
排気量(cc) 387
ボア×ストローク(mm) 57.0×50.6
圧縮比 6.7
最高出力(kW[hp]/rpm) 43.3[59]/8,500
最大トルク(N・m[kgf-m]/rpm) 50[5.1]/8,000
トランスミッション 常時噛合式6段リターン
タンク容量(L) 19
タイヤ 100/90-16
110/90-17
ブレーキ形式 油圧式ダブルディスク
油圧式ディスク
サスペンション方式 テレスコピック(円筒空気バネ併用)
スイングアーム(プロリンク)
燃費(km/L) 29.0(60km/h定地走行テスト値)
価格 629,000円

 

まとめ

2ストエンジンで251cc以上のバイクは希少かつ魅力あるカテゴリー。

しかも、V型3気筒という形式のエンジンは世界中を探してもNS400Rや兄弟車のMVX250Fだけで、かつワークスNS500のレプリカであったため、レーサーレプリカ好きには憧れのバイク。

唯一無二のエンジンを搭載したNS400Rは、まさに名車といえる1台です。

 

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