1970年代後半、フランスのオイルメーカー・エルフが始動させた「elfプロジェクト」をご存知でしょうか。当時は各バイクメーカーが様々な個性あるバイクを生み出した時期でもありました。その中でも最もアバンギャルドなバイクは、elfプロジェクトのバイクだったと思います。そんなelfプロジェクトとはなんだったのか、そしてそこから生み出されたバイクとはどんなものだったのでしょうか。

 

エルフ 3 ハスラム

Photo by PSParrot

 

elfプロジェクトとは?

 

 

elfプロジェクトは、フランスの石油会社「Elf Aquitaine(エルフ・アキテーヌ)」が始動したバイク開発のプロジェクトで、フランス人のレーシングカーデザイナー アンドレ・デ・コルタンツ(André de Cortanze)により指揮がとられました。

 

アンドレ・デ・コルタンツはどんな人?

 

アンドレ・デ・コルタンツは大学卒業後Alpine(アルピナ)に入社し、ルノーがF1に参入するためのテストシャシーの設計を行っていました。

そしてelfプロジェクトに携わった後、プジョー ・タルボットのスポーツ部門にテクニカル・ディレクターとして入団し、ラリーとル・マンの優勝に貢献。

さらに、1993・1994年はF1チームのザウバーでF1マシン・ザウバーC13の設計に携わり、1998~1999年にはトヨタへ移籍。

ル・マン24時間耐久レースに参戦した時の、トヨタTS020の設計も務めました。

2輪車分野でもelfプロジェクトを指揮したことで、2輪車と4輪車の両レースで多大な功績を残した数少ないモータースポーツエンジニアです。

 

elfプロジェクトのバイクはどんなものだったか?

 

アンドレ・デ・コルタンツは、マシンを開発するうえで4つの目標を述べました。

1.より低い重心を達成する。
2.フロントサスペンションに自然のアンチダイブを組み込む。
3.従来のレーシングバイクより車重を減らす。
4.今まで使用されたシャーシと重複した構造を排除する。

 

elfプロジェクトで開発・製造されたバイクは、これらの目標を遂行するため、バイクの骨格となるフレームを持たず、フロントとリアのサスペンションシステムを片持ちのスイングアームにしました。

また、重心を低くするためにマフラーのエキゾーストパイプをエンジン上部から取り回し、ガソリンタンクをエンジン下に配置。

今となっては考えられない設計に思えますが、elfプロジェクトはホンダのバイク開発・製造に大きな功績を残すことになるのです。

 

プロアームはelfプロジェクトにより生み出された

 

 

最初に制作されたelfプロジェクトのバイクは、ヤマハ製のエンジンを搭載していましたが、それ以降はホンダがelfプロジェクトにエンジンを供給し、さらにホンダはelfプロジェクトのマシンでGPレースにも参戦するようになりました。

そしてelfとホンダは共同でelfプロジェクトの開発を進めたことで強固な関係をもち、WGP(ロードレース世界選手権)の1986年シーズンが終わると、elfのGPマシンで開発を進めてきた片持ちスイングアームをホンダとelfの間で特許を取得、「プロアーム」と命名する事に。

実はVFR、RVF、NSRなどホンダを代表するバイクに搭載されているプロアームは、elfプロジェクトによって生み出された技術なのです。

 

elfプロジェクトといえば「ふたり鷹」

elfプロジェクトのバイクは、漫画「ふたり鷹」(小学館)に登場したのをご存知の方もいらっしゃると思います。

こちらは「少年サンデー」に1981~1985年まで連載し、アニメ化もされた人気のバイク漫画で、作者の新谷かおるさんの趣味がバイクな事もあり、ふたり鷹以外にも主人公の高校生が自分探しのツーリング旅をする様子を描いた「左のオクロック!!」というバイク漫画も出しています。

 

elfプロジェクト歴代マシン:elf-x

 

elfプロジェクトで最初に作られたバイクは「elf-x」で、1978年のパリショーで公開されました。

エンジンはヤマハTZ750に搭載された750cc水冷2ストローク4気筒エンジン(120馬力)が搭載され、フレームを持たずにチャンバーをエンジン上部に取回してタンクはエンジンの下に配置。

足回りは、エンジンのクランクケース部分にフロントサスペンションのアーム、ギアボックスにリアスイングアームが取り付けられ、これら特殊な作りにより前後重量配分を50:50に近づけた為重心が低く、レーシングカーを思わせるスタイリングでした。

そんなelfプロジェクトの歴代マシンは、elf-3でフレームを搭載するまでフレームレスなどの基本設計を変更することなく、elf-xからelf-e、elf-2と改良が進んでいきました。

 

elfプロジェクト歴代マシン:elf-e

 

1979年、elfプロジェクトは「elf-x」から「elf-e」へとなり、ホンダ製1000cc4ストローク4気筒エンジン(125馬力)を搭載して最高速度を280km/hまで出せるようになります。

そして1981年にボルドール24時間耐久レースでデビューし、1983年シリーズまでEWC(世界耐久選手権)へフル参戦しており、イタリア・ムジェロサーキットで行われたEWCイタリアGPでは3位入賞を果たしました。

 

elfプロジェクト歴代マシン:elf-r

 

elf-R

出典:https://de.wikipedia.org/wiki/Elf-Rennmaschine

 

elfプロジェクトではバイクでの最高速を狙うため、1986年にelf-rを登場させました。

そして空気抵抗を極限まで減らした独特のカウリングを身にまとい、1986年9月14日にイタリア・ナルドサーキットで321km/hの世界記録を樹立すたのです。

 

elfプロジェクト歴代マシン:elf-2

 

elfプロジェクトはelf-2にホンダ市販レーサーの2ストローク3気筒500ccエンジン(120馬力)を搭載し、1984年WGP(ロードレース世界選手権)のフランスGPでデビューします。

ライダーはChristian Leliardが勤め、ステアリングとサスペンションにハブセンターステアリングとマルゾッキ製サスペンションが搭載されました。

 

elfプロジェクト歴代マシン:elf-3

 

elf-3

出典:https://de.wikipedia.org/wiki/Elf-Rennmaschine

 

elf-3が登場する前に、プロジェクトを指揮してきたアンドレ・デ・コルタンツが去り、新しいプロジェクトリーダーにダニエル・トレマが就任しました。

ダニエル・トレマは、elf-3からフレームを搭載することを決め、ホンダワークスと同じ500cc2ストローク3気筒エンジン(137馬力)を採用。

ライダーは1985年WGPシリーズ第5位だったロン・ハスラムが起用され、elf-3でWGP参戦を開始した1986年シーズンのランキングは9位、マカオGPでは優勝を果たしました。

 

elfプロジェクト歴代マシン:elf-4

 

elf-4はホンダNSR500と同じ500cc2ストロークV型4気筒エンジン(140馬力)を搭載し、1987年シーズン第11戦チェコGPから投入。

マカオGPで、昨年に続いて連覇を果たしました。

 

elfプロジェクト歴代マシン:elf-5

 

 

 

1988年シーズンに投入するelf-5にはカーボン製フレームが搭載されましたが、オフシーズンのテスト期間にフレームとマシンのマッチングに苦しみ、ブレーキでも問題が生じたので、急遽マグネシウム製のフレームに変更。

ブレーキには、ニッシン製のものが取り付けられました。

しかし、開発不十分でタイトル争いに加わることができず、ロン・ハスラムはシリーズを11位で終える事になります。

同時に、このシーズンを最後にelfプロジェクトが終了し、ロン・ハスラムは翌シーズン、スズキへの移籍を決めたのです。

 

まとめ

 

1978年から10年間続いたelfプロジェクトは、それまでの常識を覆すバイクを送り出し、見ている人々を驚かせ好奇心を引き付けるバイクを創造してきまいた。

グランプリでチャンピオンを獲得するというのはとても難しいことですが、それを他のバイクと重複しない設計で達成するのは、ほぼ不可能と言われています。

それに挑戦し続けたelfプロジェクトは、見ている人を楽しませ、プロアームという技術も生み出したことで二輪産業に大きな功績を遺し、MotoGP・WGPの歴史に伝説を刻む事に成功したのです。

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