英国スポーツカーの、TVRタスカンを知っていますか?一度目にしたら忘れられない奇抜なデザインに、軽量コンパクトなボディーや、自社開発のエンジンなどなど、非常にユニークなピュアスポーツカーです。しかし、乗りこなすのも、維持していくのも相当な苦労があるクルマ。そんなTVRタスカンをご紹介します。

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英国生まれのライトウェイトスポーツ・TVRタスカン

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スパルタンなライトウェイトスポーツと言われると、ロータス エキシージやケータハム スーパーセブンなど、英国車を思い浮かべる方は少なくないでしょう。

以前Motorzで紹介したラディカルも、そんなクルマの1台です。

このように英国は軽量でハイパワーなスポーツカーブランドがいくつも存在し、その中のひとつにTVRタスカンがあります。

この車名を聞くと、どうしても石原軍団の映画で撮影中の事故を起こした、悲しい過去を思い出すかもしれません。

2003年8月に、TVドラマ『西部警察』のロケ現場で、俳優の池田努氏が運転するタスカンが、見物客に突っ込んでしまい、5名の重軽傷者を出す事故を起こしてしまいます。

そして事故翌日のニュースでは、その時の映像が大々的に放送されたことで、危険なクルマというイメージが付いてしまいました。

『危険なクルマ』と言い切れば、TVRのオーナーやファンに失礼かもしれませんが、このクルマだけは素人が調子に乗ってアクセルを踏み込むことを、厳重に禁止したくなる事は、否定できない事実です。

TVRとは

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TVRは、イングランド北西部のアイリッシュ海ブラックプールで、1946年に創設された自動車メーカーです。

創設者であるトレバー・ウィルキンソン氏(1923~2008年)は、ブラックプールで生まれ1946年、23歳のときに独立して、エンジニアリングビジネスを開始。

1949年からオリジナルシャシーの製作を開始し、他社製エンジンを搭載したスポーツカーの開発を専門にします。

そして1992年に発売されたグリフィスは、TVR史上最大のヒット作となり、世界各国に輸出されたことでTVRの知名度が一気に上がり、イギリスのスポーツカーメーカーとしての地位を確立していきました。

しかし、ハンドメイドのスポーツカーにこだわり続けたため、他メーカーに比べて小規模なメーカーだったこともあり、創業から度重なる経営悪化や従業員解雇を繰り返し、ウィルキンソンから手を離れてからも4度も経営者が変わっています。

2013年には、TVRの全所有権が、実業家のレスエドガー氏とジョンチェイジー氏が率いる英国の会社に売却され、TVRの拠点はイングランド ハンプシャー群のホワイトリーに移転。

現在も新車の開発・販売を継続し、生産台数はわずかではありますが、コアなファンの要望に応えるクルマ作りを続けています。

強烈なインパクトの6眼ヘッドライト

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ボディは、丸みを帯びた大きなうねりを見せるパネルに覆われてます。

フロントには6眼のヘッドライトとウィンカーが並び、リアのテールライトもあえて隠しているのかと思うほど、小さくマフラーの上部に備えられています。

横から見ると、典型的なロングノーズ ショートデッキのボディラインで、ボリューム感が感じられますが、ホンダ S2000とほぼ同等なボディサイズにまとめられています。

生産はほぼ受注生産体制なので、カラーはオーナーの希望に合わせてペイントされることも特徴のひとつでした。

しかしTVRは、光回折顔料(Spectraflair)、光干渉顔料(ChromaFlair)、リフレクト、パールといった派手なカラーリングを標準色として販売され、タスカンの個性を引き立ててます。

ボディはFRP製のパネルを全面に使用し、余計な制御や装備をそぎ落としたことで、車重は1100kgに留められました。

そのため、ライトウエイトスポーツと言えば聞こえがいいですが、車体の中には強烈なパワーのエンジンが搭載されています。

エンジンは400馬力の自社製インライン6

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搭載されたのは自社製の直列6気筒DOHCエンジンです。

TVRのような小規模メーカーが、エンジンを自社開発したとことにも驚かされますが、 1992年にグリフィスの大ヒットにより、年間生産台数が2,000台以上になったとされており、それが、エンジンまで開発し始めた理由です。

設計にあたったアル・メリング氏は、もともとバイクのエンジン開発をしていたことから、プロトタイプ開発の際にシリンダーヘッドを1991年式スズキ GSX-R750を参考にしたとされており、それにより、TVR社製のエンジン『AJP8』、そしてタスカンに搭載された『AJP6』が誕生しています。

シリンダーヘッドとブロックはアルミニウム合金で仕上げられ、ボア×ストロークと排気量は96mm×83mmの3,605ccと96mm×92mmと3,996ccの2種類。

馬力・トルクが異なる、4つの仕様が設定されています。

仕様の詳細は、排気量3,605cc・最高出力350bhpのMk1-3.6、排気量3,996cc・最高出力360bhpのMk1-4.0、排気量3,996cc・最高出力380bhpのMk1-4.0レッドアローズ、排気量3,996cc・最高出力390bhpのMk1-4.0Sで、2003年にはMk2-4.0が400bhpまでパワーアップされました。

また、Mk2-4.0Sの最高速は時速314km。0-60mph(約97km/h)までの加速は、3.7秒です。

他のメーカーには独創的なデザインの内装

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乗り込もうとすると、まずどこにドアハンドルがあるのかが、わかりません。

ドアの表面に取っ手はなく、開けるにはドアミラー下にあるボタンを押して開錠。

室内からはセンターコンソール上部のオーディオ脇に設置された、小さなボタンを押すことで開けます。

内装デザインは未来的ともレトロモダンともいえない、独創的な曲線美をまとったデザインです。

また、オーディオや空調、パワーステアリングなど最低限の装備は搭載されましたが、扇形のスピードメーターには指針タイプのスピードメーターのみ。

回転数を示すタコメーターは、デジタル表示タイプのみとなっています。

これは、慣れるまで相当な時間がかかりそうな装備です。

ABSやトラコンは皆無!ドライバーのスキルのみが頼り

池田努氏が西部警察のロケ中に起こしてしまった事故ですが、この事故の要因とされたのは、ABSやトラクションコントロール、安全装備のエアバッグが全く搭載されていないことです。

タスカンが発売された1999年は、ABSやトラクションコントロールは、世に出るクルマほぼすべてに装備されていましたが、タスカンにはそれがなく、オプション設定もされませんでした。

トランスミッションは、5速マニュアルのみ。

1,100kgの軽量車両に360馬力以上のエンジンが載っているため、アクセルをむやみに踏み込めば、リヤタイヤが空転し、コントロールを失うのは確実です。

しかも、ABSが搭載されていないとなると、タイヤがロックして、なかなか止まり切ることができないため、普段乗りの乗用車感覚で運転するのは危険すぎます。

アクセル、ブレーキ、ステアリング、さらにはシフト、クラッチ操作すべてに気を配らなければ、痛い目を合うでしょう。

スペック

2001年式 TVRタスカンS
全長×全幅×全高(mm) 4,235×1,810×1,200
ホイールベース(mm) 2,361
乾燥重量(kg) 1,100
エンジン種類 直列6気筒NA
排気量(cc) 3,996
ボア×ストローク(mm) 96×92
最高出力(kW[PS]/rpm) 291[395]/7,000
最大トルク(N・m[kg・m]/rpm) 420[42,8]/5,250
トランスミッション 5速マニュアル
タイヤサイズ 235/40ZR18
245/40ZR18

まとめ

Photo by TheCarSpy

タスカンはどこをとっても、TVRの独創性を感じさせられる一台です。

日本に輸入された台数はわずかでしたが、中古車で探してみると、数台はヒットします。

また、400万円代から購入できるため、買えなくはない価格。

しかし、タスカンは英国でも故障が多いことで知られたモデルでもあります。

乗りこなすのも維持するのも難しい1台ですが、いろいろな意味で危険すぎるクルマであっても、それすら楽しめるのが、真のエンスージアストではないでしょうか。

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