1990年代の、まだ勢いがあった頃の三菱自動車は、RVブームで一大旋風を巻き起こしたパジェロのみならず、軽自動車から大型乗用車まで一通りのラインナップを取り揃えていました。もちろんスポーツカーにも力を入れており、1994年10月にGTOの弟分としてデビューしたのが、第15回1994-1995日本カー・オブ・ザ・イヤーも受賞したFFスポーツクーペ、「FTO」です。

三菱 FTO Photo by peterolthof

三菱らしい先進スポーツクーペをアピールした、FTO

三菱 FTO 出典:https://www.mitsubishi-motors.com/jp/company/history/car/

1960年代に三菱500で4輪自動車市場へ参入、1969年に発売した初代ギャラン以降は、初期の混乱も脱し、若者ウケもする立派な自動車メーカーへと成長していった三菱自動車。

1980年代に入って発売された初代パジェロが、RVブームの波に乗る大ヒットとなります。

当時は三菱こそがRVブームを牽引する代表選手というイメージすらありましたが、小は軽乗用車のミニカから、大は大型高級乗用車のデボネアまで販売しており、1990年に発売された初代ディアマンテで3ナンバーセダンブームを起こすなど、現在の三菱からは考えられないほど多彩なラインナップと、ヒット作を抱えるメーカーでした。

イメージリーダーとしてのスポーツカーも、1990年に豪快な加速を誇る3リッターV6ツインターボの4WDクーペ「GTO」を発売。

ギャランVR-4やランサーエボリューション、ミラージュ サイボーグRと、多彩な顔ぶれだったものの、安価なスポーツクーペだけはミラージュアスティ(1993年5月初代発売)くらいで、少々手薄です。

そこで1994年10月に発売した1.8~2リッター級スポーツクーペが「FTO」で、かつて1970年代に販売していた「ギャランGTO」の弟分、「ギャランクーペFTO」を踏襲する形で、先に販売されていたGTOの弟分というポジションでした。

ミラージュアスティがどちらかというと通勤快速的なセクレタリーカーで、デザインもミラージュそのものだったのに対し、FTOは流麗な専用ボディと三菱らしいハイテクを凝らした先進スポーツクーペである事が評価され、発売直後には第15回1994-1995日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞しています。

FFスポーツとしての素性より評価された先進性

三菱 FTO 出典:https://www.favcars.com/mitsubishi-fto-gp-r-wallpapers-71736.htm

FTOのエンジンラインナップは、1.8リッター直4SOHCの「4G93」(125馬力)、2.0リッターV6DOHCの「6A12」通常版(170馬力)と、可変バルブ機構MIVECを組み込むことでリッター100馬力を誇るトップグレード版(200馬力)の3種類です。

ベースとなっているのは当時のランサー/ミラージュ4ドアセダンで、ホイールベースやサスペンション形式は共通ながら、水平に近く寝かせられたヘッドランプカバーが印象的な流面形のフロントから、ボリューム感たっぷりのグラマラスなリアへ駆け上がるようなデザインは軽快なスピード感があり、ベース車とも兄貴分のGTOとも一線を画しています。

全長がベース車より30mmばかり長い程度ながら、それだけノビノビとしたデザインにできたのは、5ナンバーサイズにこだわらなかった(全幅1,735mm)ためで、前後フェンダーに十分な存在感を与え、グッと低めたルーフ(全高1,300mm)と合わせて、わかりやすいワイド&ローなスポーツカー観が与えられていました。

発売当時の最上級グレードに与えられた200馬力版6A12は、十分なトルクのある低回転域からアクセルペダルで一鞭、MIVECが高速カムへ切り替わると気持ち良くレブリミッターまで吹け上がるエンジンで、がさつな作りの直4エンジンにありがちなノイズや不快な振動も皆無なのは、さすがV6エンジンと感心します。

1.3~1.6リッター級小型大衆車のランサー/ミラージュをベースに、ギャランの自然吸気・高性能仕様(7代目ギャランのVX-R)にも積まれた200馬力V6エンジンのため、十分にパワフル(全開加速では3速の途中でスピードリミッター到達)なだけでなく、前後オーバーハングをギリギリに詰めていたおかげで、振り回すのも楽しい車でした。

とはいっても、日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考理由もそうだったように、FTOで最大の売りは初搭載となる学習機能付き電子制御AT「INVECS-II」です。

4速ATでしたが、シーケンシャルシフトのように前後に動かすスポーツモードが備えられており、「ATでもMT感覚で楽しめるスポーツクーペ」として、CMでも「世界初 INVECS-IIスポーツモード4A/T」という表記とともに、スポーツモードでの手動変速シーンを紹介しています。

それゆえ、FFスポーツクーペでありながらAT車の販売比率が多かったと言われており、現在のDCT(デュアルクラッチトランスミッション)や、8速以上でマニュアルモードもある全段ロックアップ型ステップATを搭載したスポーツカーの先駆けと言えるかもしれません。

短期間ながら、レースなどモータースポーツでも活躍

JGTCのGT300クラスで1998~1999シーズンを戦ったテイボン・トランピオFTO/©鈴鹿サーキット

先進のINVECS-IIはともかく、素性のよいエンジンを積んで運動性も高い小型軽量FFスポーツクーペとなれば、あらゆるモータースポーツで活躍しそうな印象があり、実際JAFの公式リザルト記録を見ていると、ラリー以外のあらゆる競技にFTOの名が見られます。

派手なところでは1998年・1999年シーズンにJGTC(全日本GT選手権・現在のSUPER GT)のGT300クラスへ、ラリーアートの企画・統括によりチーム・テイボンのFTOが参戦。エンジンはHKSチューンの4G63ターボへ換装されていましたが、1999年には最高位クラス2位、シリーズランキング6位の好成績を残しました。

ただ、もっとも幅広い活躍が期待されそうなジムカーナやダートトライアルといった、短距離スプリント系のタイムアタック競技での実績は、全日本ジムカーナCIIクラスで高橋利武選手のFTOがクラス優勝などの大活躍をしたのを除くと、はかばかしくはありません。

というのも、FTOがデビューした翌年、1995年10月にはホンダから初代「インテグラタイプR」(3ドアDC2/4ドアDB8)がデビューしてしまっており、当時のジムカーナA車両(ナンバーつき改造車)では、トヨタ MR2(SW20)からインテグラタイプRへの世代交代が巻き起こります。

そんな中でもFTOを使ったドライバーは少数ながらもエントリーしていましたが、インテグラタイプRと比べてしまうと、V6エンジン搭載と競技ベース車不在が原因と思われる100g近く重い車重や、1速と2速のギア比が離れていてつながりが悪く、他ギアもクロスレシオ化されているとは言い難いミッションという差は大きかったようです。

結局、ジムカーナにせよダートトライアルにせよ、ハンディを克服可能な大規模改造が可能なC車両や、実質シルエットフォーミュラ的な車両でも参戦できるD車両で参戦できるクラス以外では、FTOが存分に活躍できる余地がなかったのは残念なことでした。

ただし、競技で酷使された車両が少ないため、200馬力仕様6A12では当時のMIVECにつきものの、カム切り替え機能が働かない「半ベック」や「ナイベック」といった内部部品の摩耗による故障は少なく、後々まで機関良好な個体は多かったとも言われています。

主要スペックと中古車価格

三菱 FTO Photo by Rutger van der Maar

三菱 DE3A FTO GPX 1994年式
全長×全幅×全高(mm):4,320×1,735×1,300
ホイールベース(mm):2,500
車重(kg):1,170
エンジン:6A12 水冷V型6気筒DOHC24バルブ MIVEC
排気量:1,998cc
最高出力:147kw(200ps)/7,500rpm
最大トルク:200N・m(20.4kgm)/6,000rpm
10・15モード燃費:-
乗車定員:4人
駆動方式:FF
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)マルチリンク

 

(中古車相場とタマ数)
※2021年2月現在
38万~129万円・8台

登場時期が悔やまれる、珠玉のFFスポーツクーペ

三菱 FTO Photo by Mark van Seeters

デビュー早々の日本カー・オブ・ザ・イヤー受賞など、当初は華々しく扱われたFTOでしたが、登場翌年に初代インテグラタイプRが発売されてしまっては立つ瀬がなく、それ以降は地道にラインナップされ続けたものの、2000年9月にひっそりと消えていきました。

言わずと知れたランサーエボリューション、シビックタイプRが出てからも覇権を争ったミラージュRS、存在感の大きいGTO、GT路線へ振ったギャランVR-4と華々しい顔ぶれの三菱スポーツの中でも地味な存在になってしまったのは、1994年10月という発売時期の遅さが致命的だったかもしれません。

MIVEC仕様の200馬力版6A12エンジンそのものは、1993年10月にギャランVX-Rへ搭載されてデビューしており、できればそれより早く、少なくとも同時期にデビューしていれば、いずれインテグラタイプRに塗り替えられるとしても、トヨタのセリカよりはメジャーな存在になれたのではと思うと、デビューのタイミングが悔やまれます。

マツダのランティスなどもそうですが、当時の2リッターV6スポーツはフィーリングを絶賛されつつも玄人好み過ぎて、大多数のユーザーに響くスペックやモータースポーツでの成績に欠けていたため、どうしても「知る人ぞ知る存在」になってしまうが、なんとも惜しいところです。

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