最新、最大、最小、世界初と、「世界で一番」をアピールする車は数多くありますが、後から考えると「いったいどういう意味があったのか?」と思うような「一番」も少なくはありません。三菱自動車が3代目ランサーと同ミラージュセダンへ搭載した1.6リッターV6エンジンもその典型的な例で、1.8リッター化された4代目ともども世界最小クラスの量産4輪自動車用V6エンジンでしたが、そこに三菱はどんな夢を見たのでしょうか。
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量産4輪乗用車用エンジンとして世界最小!1.6リッターV6エンジン「6A10」
「世界で一番」というネタを扱う時には、「本当かな?」と疑うのが執筆者の性というもので、今回も「3代目のランサーとミラージュセダンに搭載されたV6エンジンは、本当に世界最小なのかな?」と、調べるところから始まります。
まずレーシングエンジンなら、1.5リッターV6ターボエンジン時代のF1などの定番モノがあり、「一般に販売される量産自動車用」6気筒エンジンの中でという事なら、イタリアのベネリ セイのように747cc直6エンジンを搭載した市販2輪車があるため、「世界最小のV型6気筒量産乗用車用」くらいにした方が良さそうです。
また、三菱が1.6リッターV6の「6A10」型エンジン搭載車をデビューさせる前には、ーノス プレッソへ搭載されて発売。「わずかな期間、世界最小のV6エンジンだった」と言われる1,844ccV6の「K8-ZE」型ですら、それよりずっと前の1950年にやはりイタリアのランチア アウレリアに1,754ccのV6エンジンが搭載されて、市販されています。
K8-ZEが「登場時点で世界最小」と微妙な表現をされているのは、どうもこのアウレリア用1.8リッターV6の存在によるものなようですが、三菱6A10の排気量は1,597ccなため、2輪車用を含めた市販乗用車としては、どうも本当に世界最小だったようです。
当初のコンセプト通リ「小さな高級車」になりきれたか?!
1991年10月に、同年3月に開催されたジュネーブショーで「世界最小の1.8リッターV6エンジン」を搭載したユーノス プレッソが発表された7ヶ月後、3代目ランサーの発売とともに、「世界最小の1.6リッターV6エンジン搭載」が発表されました。
しかし実際の発売は1992年2月で、姉妹車の3代目ミラージュセダンにもV6搭載車を追加。それぞれ「ランサー6」、「ミラージュ6」を名乗り、末尾に「6」がさんぜんと輝く車名エンブレムがリアに装着され、サイドにも「V6 DOHC 24VALVE」とデカールを貼ってアピールします(こういうエンブレムやデカール、最近はとんと見かけなくなりましたね)。
デビュー当初のグレードはランサー6がロイヤル / MXリミテッド / MXサルーンで、ミラージュ6がロイヤル / VIEリミテッド / VIEサルーン。
それぞれが1.5リッター直4DOHCエンジンを積む上級グレードのランサー6/ミラージュ6版という位置づけで、どちらもロイヤルは4速ATのみで200万オーバーの高級グレード、他は5速MTもラインナップされましたが、いずれもFFのみです。
先行したユーノス プレッソは「若い人にも上質なV6エンジンのフィーリングを味わってほしい」という事で、「安価で若者向けのV6エンジン車」という位置づけでしたが、税別165.8万円からという価格は、3ドアハッチバッククーペなら致し方ないところ。
対するランサー6 / ミラージュ6は143.3万から。こちらの方が安いのは若者向けというよりファミリカー需要の大衆向けというべきで、マツダでも同じエンジンを積んだ4ドアセダンのクロノスは153.3万円からと、若干大きい分だけ三菱車より高かったものの、プレッソより安い設定です。
ここで、当時のランサー6/ミラージュ6のライバルに相当する各社の1.3~1.6リッター級セダンで、1.6リッターエンジン搭載グレードの価格を並べてみます(いずれも税別)。
- トヨタ カローラセダンSE-G(1.6リッター直4DOHC・115馬力):158.6~167.9万円
- 同GT(1.6リッター直4DOHC・160馬力):170.1~179.4万円
- マツダ ファミリアセダンGT(1.6リッター直4DOHC・130馬力):146.3~155.6万円)
- 日産 サニースーパーサルーン スプレンド(1.6リッター直4DOHC・110馬力・159.8~167.3万円)
- 日産 サニーGTS(1.6リッター直4DOHC・110馬力・167.9~175.4万円)
・いすゞ ジェミニセダン イルムシャー(1.6リッター直4DOHC・140馬力・155.0~164.3万円)- いすゞ ジェミニセダン ハンドリングbyロータス(1.6リッター直4DOHC・140馬力・162.2~171.5万円)
- ホンダ シビックフェリオSiR(1.6リッター直DOHC VTEC・170馬力・163.0万円~189.1万円)
- 三菱 ランサー6/ミラージュ6(1.6リッターV6DOHC・140馬力・143.3~210.8万円)
なんと、複雑で部品点数も重く高価になりがちに思えるランサー6/ミラージュ6が一番安い価格設定なだけでなく、性能面でも遜色ありません。
ただ、この中では異質なのがランサー6/ミラージュ6の「ロイヤル」で、210.8万円なら同じ三菱でも1クラス上のギャランでも標準的なグレード、MX(2リッターV6SOHC・145馬力・198.9~208.6万円)が買えてしまいます。
つまり、ランサー6/ミラージュ6の「ロイヤル」は、小型大衆車でも1クラス上の上質感を味わえる、「小さな高級車」的なポジションにあったと言えそうです。
ランサー/ミラージュ6がデビューした数カ月後、1992年10月にはミラージュ3ドア・サイボーグRと同じ175馬力の1.6リッターDOHC MIVECエンジン4G92を搭載した「ランサーMR」、「ミラージュセダン・サイボーグR」が登場します。
動力性能や燃費面では全くかなわないランサー6/ミラージュ6の生きる道は、V6エンジンによる上質感のみとなってきますが、そうなると「ロイヤル」および、廉価版としてMXサルーン(1994年1月「MXリミテッド」より改称)くらいのラインナップで良さそうです。
しかし、さらに安いMXエクストラ(同「MXサルーン」より改称)もラインナップし続けたため、結果的には高級グレードから廉価グレードまで搭載される、ただV6というだけの実用エンジン扱いになっていたのが、惜しいところでした。
結局、ランサー6/ミラージュ6は1995年10月にそれぞれ4代目へとモデルチェンジした際に、ボア&ストロークを拡大。1.8リッターへと排気量がアップされた6A11へと更新され、引き続き4G92を搭載した4気筒版ランサー/ミラージュ上級グレードとの差別化が図られます。
しかしその頃の三菱の小型4ドアセダンで話題なのはランサーエボリューションばかりで、三菱の1.8リッターエンジンといえば、新型ギャラン/レグナムに搭載された直4ながら直噴エンジン「GDI」に、華々しいスポットライトが当てられていました。
そしてランサーとミラージュセダンにV6エンジン車やMIVEC高性能車、1.8リッターDOHCターボ4WDが残っているのも忘れ去られ、たまにV6エンジンの話題になっても「まだ売っていた珍車」扱いになっていきます。
それでも「最高級グレード」としてラインナップされていたランサーV6 MXサルーン、ミラージュ V6 VIEサルーンですが、1997年8月のマイナーチェンジを乗り越えた後、1998~1999年頃にひっそりと販売を終了。
マツダのK8-ZE搭載車はとっくに生産を終了していたため、最後の1.8リッターV6エンジン車となりました。
主要スペックと中古車価格
三菱 ランサー ロイヤル 1992年式
全長×全幅×全高(mm):4,270×1,690×1,385
ホイールベース(mm):2,500
車重(kg):1,080
エンジン:6A10 水冷V型6気筒DOHC24バルブ
排気量:1,597cc
最高出力:103kw(140ps)/7,000rpm
最大トルク:147N・m(15.0kgm)/4,500rpm
10・15モード燃費:-
乗車定員:5人
駆動方式:FF
ミッション:4AT
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)マルチリンク
(中古車相場とタマ数)
※2021年2月現在
3代目ランサー/ミラージュともにV6エンジン搭載車は皆無
三菱 CK6A ランサー V6 MXサルーン 1995年式
全長×全幅×全高(mm):4,290×1,690×1,395
ホイールベース(mm):2,500
車重(kg):1,120
エンジン:6A11 水冷V型6気筒SOHC24バルブ
排気量:1,829cc
最高出力:99kw(135ps)/6,000rpm
最大トルク:167N・m(17.0kgm)/4,500rpm
10・15モード燃費:-
乗車定員:5人
駆動方式:FF
ミッション:4AT
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)マルチリンク
(中古車相場とタマ数)
※2021年2月現在
4代目ランサー/ミラージュともにV6エンジン搭載車は皆無
「小さな高級車」になれなかったランサー6/ミラージュ6
発売当初からその存在意義を疑問視され、新車販売当時から見かけることが非常に稀なレア車扱いだった三菱の1.6リッター/1.8リッターV6エンジン搭載車でしたが、最初に「ランサー6/ミラージュ6」とエンブレムをつけられた時点で、後にちょっとしたブームとなる「小さな高級車」になる素質はありました。
確かにV6エンジンらしく静粛性やスムーズな吹け上がりは高級感を感じさせ、ショートストロークで低回転トルクに難ありと言っても、175馬力MIVECエンジン搭載グレードと同じ加速重視のギア比としたミッションにより、ドライバリティに難ありとまではいきません。
むしろ高速巡航時の静粛性や燃費の良さを考えれば(一般道では10km/Lを切るので良いとはいえなかったにせよ)、小型ツアラーとしての需要はあったのではと考えられます。
ただし、そのためには通常のランサー/ミラージュセダンより高級感を感じさせる内外装(本当に高級である必要まではない)が必要でしたが、一貫して「V6エンジンを積んだだけのちょっと高価な普通の車」として販売されていたのが、惜しいところです。
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