まだいすゞが独自に乗用車を生産していた時代、SUVを除けば最後のヒット作となったのが2代目のジェミニでした。初代から一転、FF(前輪駆動)化されると同時に車格も1ランクダウンされ1,500~1,600ccクラス大衆車となった2代目ジェミニでしたが、『街の遊撃手』シリーズのTVCMで一躍人気となり、いすゞ最後の栄光を担ったのです。

掲載日:2019/04/18

2代目いすゞ ジェミニ(FFジェミニ)  / © TOYOTA MOTOR CORPORATION.All Rights Reserved.

いすゞ主導で開発されたGMグループ大衆車、2代目ジェミニ

 

いすゞを傘下に置いたGMに頼み込む形で、オペル・カデットをベースにGMグローバルカー、『Tカー』の一翼を担った初代ジェミニでしたが、1974年の発売から10年近く経つと、国産同クラス最後のFR(フロントエンジン・後輪駆動)車となるほど古くなっていました。

そこで2代目ジェミニが企画されますが、今度はGMのグローバルプラットフォームを使うのではなく、いすゞが開発・生産する小型車をGMグループでも販売する形へと変わります。

同時にコンセプトも見直されたため、パワーユニットをコンパクトに収めてキャビンを最大化でき、時代が求めていたFF(フロントエンジン・前輪駆動)車に転換。

1.6~1.8リッタークラスだった初代から排気量も抑えられ、1ランク小さい1.5~1.6リッタークラスの大衆車になりました。

そして日本での販売に先駆け、1984年にGMの『シボレー』ブランドでシボレー・スペクトラム(後にジオ スペクトラム)として北米での販売が始まり、日本では1985年5月にいすゞ ジェミニとして登場します。

ただし、この時まだ初代ジェミニも販売を継続しており、FRの初代ジェミニに対してFF版の2代目ジェミニが併売される事になったため、初代ジェミニの生産を終える1987年2月までは『FFジェミニ』の名で販売されていました。

こうしたメカニズムが一新される時期の新旧モデルの併売は、他にもトヨタがコロナやカリーナで行っています。

 

パリで自由すぎるジェミニにお茶の間はアングリ!『街の遊撃手』シリーズCM

 

 

2代目ジェミニはそのデビュー当初、基本的には『ちょっと小ざっぱりしたヨーロピアンな4ドアセダンと3ドアハッチバック』という雰囲気で、エンジンも1.5リッターSOHCのみと平凡そのもの。

「カローラやサニーのいすゞ版だね。」で終わってしまうようなモデルであり、いすゞファンやマニアを除けば、そうそう語り継がれる要素など持ち合わせている車では無いはずでした。

また、後に有名になるキャッチコピーはデビュー当初のCMから使われていましたが、「走るほど、街の機嫌が良くなるぜ!」と言われても、最初はあまり目立たず、街の遊撃手どころか、ヘタするとディーラーの守備要員になる可能性すらあったのです。

しかし、ある時から2代目ジェミニのCMを見た者は、TVを見たままポカーンと開いた口が塞がらなくなります。

軽快な音楽に乗ったジェミニが、単なるFF大衆車でとりたててパワフルでもレースで活躍しているわけでも無いジェミニが、パリの街中でフィギュアスケートの名演技をこなすがごとく踊っているのです!

2台横に並べばそのまま揃ってスピンターン、前後に並べば前のジェミニはターンしてそのままバックし、2台とも走り続け、噴水をジャンプで飛び越え、地下鉄の階段を下りてホームを走り、自由気ままに走り放題やりたい放題。

このパターンのCMが流れた瞬間、当代随一のカースタント技術によってジェミニは一躍スターダムに上り詰め、『CMで売れまくった車No.1』があるとすれば、まず最初にノミネートされるような車になりました。

 

もちろんスポーツ仕様はレースやラリーで活躍

 

インタークーラーターボを搭載した2代目ジェミニ・イルムシャーターボ / 出典:http://www.en.japanclassic.ru/booklets/27-isuzu-gemini-1987-jt150.html

 

もちろん『街の遊撃手』シリーズCMのイメージだけで名声を稼いだわけではありません。

1986年にはSOHC2バルブエンジンのままながら、ネット120馬力のインタークーラーターボを搭載した『イルムシャー』が登場。

そして、1988年には1.6リッターDOHC16バルブエンジンを搭載しロータスチューンのサスペンションを組んだ『ZZハンドリング by ロータス』が発売され、イルムシャーにも同じエンジンを搭載したモデルが登場するなどジェミニのスポーティ2枚看板となります。

また、『ハンドリング by ロータス』は上品でちょっと高級なヨーロピアンテイスト、『イルムシャー』はホットモデルとキャラクターが分かれており、イルムシャーはラリーやレースで活躍します。

国内レースでは1987年のJTC(全日本ツーリングカー選手権)やN1耐久に短期間、あるいはスポットでの参戦が見られる程度。

全日本ラリーでは、1,600cc以下のマシンで戦われるBクラスで1.6リッターDOHC版のジェミニ・イルムシャーRがマーチRと優勝争いのデッドヒートを繰り広げました。

 

主なスペックと中古車相場

 

 

2代目いすゞ ジェミニ(FFジェミニ)  / © TOYOTA MOTOR CORPORATION.All Rights Reserved.

 

いすゞ JT190 ジェミニ ZZ-SE ハンドリングbyロータス 1989年式

全長×全幅×全高(mm):4,195×1,680×1,390

ホイールベース(mm):2,450

車両重量(kg):1,010

エンジン仕様・型式:4XE1 水冷直列4気筒DOHC16バルブ

総排気量(cc):1,588

最高出力:99kw(135ps)/7,200rpm

最大トルク:140N・m(14.3kgm)/5,600rpm

トランスミッション:5MT

駆動方式:FF

中古車相場:30万~35万円(各型含む)

 

まとめ

 

2代目いすゞ ジェミニ(FFジェミニ) / Photo by Riley

 

2代目ジェミニはCM効果もあって大人気となり、いすゞにとっても、ジェミニにとっても、そして全てのFF大衆車にとってもイメージアップに大きく貢献した伝説的な1台となりました。

しかし、ヒット作というのはそれが熱狂的に歓迎されるほど冷めるのも早く、常に新しい話題を提供し続けていかないと、その熱狂を維持することはできません。

その意味で、数々の名作を生んだ2代目ジェミニのCMや、イルムシャー、ハンドリング by ロータスと矢継ぎ早に投入したスポーツモデルや特別仕様車は、果たして元が取れたのかと疑問に思います。

実際、2代目ジェミニのヒットにも関わらず、いすゞ乗用車のGM頼み体質には何ら変わりが無く、3代目ジェミニ発売からわずか3年足らずで乗用車の独自生産から撤退してしまうのです。

だからこそ2代目ジェミニはいすゞ乗用車最後の栄光として記憶されるべき車であり、『街の遊撃手』はいつまでも人々の心の中で踊り続けることでしょう。