当時の親玉GMを説き伏せて発売し、ソコソコの人気となった初代や、「街の遊撃手」のキャッチコピーで華麗なカースタントをこなすCMで人気だった2代目、いろいろあった3代目と続いたいすゞの小型車「ジェミニ」。業績不振で1992年に次期モデルの独自開発をあきらめましたが、「まだいすゞで買っていただけるお客様がいるうちは」とばかりにホンダ ドマーニのOEM供給を受け、4代目と5代目が2000年まで販売されていました。

4代目いすゞ ジェミニ(初代ホンダ ドマーニOEM) /  Photo by Riley

ドマーニOEMで落ち着きを取り戻した4代目ジェミニ

4代目いすゞ ジェミニ(初代ホンダ ドマーニOEM) / 出典:http://www.webcarstory.com/voiture.php?id=11765&width=1920

2代目(最初のFFジェミニ)に続き、GMの世界戦略車構想に組み込まれ、1990年3月に発売された3代目いすゞ ジェミニでしたが、クーペやハッチバック、派生車のピアッツァ/ピアッツァ・ネロやPAネロの販売は伸び悩みました。

もっともオーソドックスな4ドアセダンは孤軍奮闘し、受注は好調だったものの、北米との同時ヒットに対していすゞの生産能力には限界があり、バックオーダーを抱えているうちにユーザーが引いてしまい、せっかくの販売機会を逃すという悲運に見舞われます。

そうこうしているうちにバブルが崩壊。急激に悪化する経済情勢の中で、いすゞの業績は悪化していき、3代目ジェミニ系各車の販売不振も重なって、ついに1992年12月、いすゞは次期ジェミニの独自開発を断念。1993年半ばで生産も終了し、SUVや1BOX車を除くいすゞ独自の乗用車生産を終了しました。

しかしジェミニの歴史は、まだ終わりません。

1993年4月にホンダと相互OEM供給に同意していたいすゞは、ビッグホーン(ホンダ ホライズン)やミュー(同 ジャズ)を供給する代わり、1992年11月に発売された初代ホンダ ドマーニのOEM供給を受け、1993年9月に4代目ジェミニとして発売します。

同じホンダの小型セダンでもシビックフェリオではなくドマーニだった理由ですが、まずホンダの基幹車種でイメージの維持も大事なシビックフェリオに対し、ドマーニはバブル時代の開発で独自デザインな部分も多かったとはいえ、あくまでクリオ店でも販売するためのシビックフェリオ派生車で、当初からマイナー車になる運命だった車です。

さらに先代にあたるコンチェルトと同様、イギリスのローバーとも提携しており、ローバー400シリーズとは兄弟車だったため、若干ヨーロピアンテイストが加わり、独自生産時代は「イルムシャー」や「ハンドリングbyロータス」をラインナップしていたジェミニとは、親和性が高いとも言えました。

つまり「いすゞエンブレムをつけた同じデザインの車が走っていてもホンダのイメージに影響が少なく、かつジェミニの雰囲気を受け継げる車」として、初代ドマーニはうってつけの車だったのです。

当初1.6リッターSOHC VTEC版「ZC]を積んだ標準グレード「C/C」と上級グレード「G/G」の2本立てでスタートし、1995年2月に「C/C」へ経済性の高い1.5リッターSOHC VTEC-E(リーンバーン)仕様のD15B搭載車を追加。

初代スバル レガシィセダンのOEM供給を受けた2代目アスカ、「アスカCX」に1.8リッター車がラインナップされていたため、初代ドマーニの1.8リッター車は4代目ジェミニには設定されませんでした。

そもそもいすゞのバスやトラックを使う法人向けや、いすゞで買い替え予定だった従来ユーザー向けに継続販売する小型セダンという役回りだったので、独自生産時代のスポーツグレードやハッチバック車などが欠けていても大きな問題とはならず、ドマーニがモデルチェンジされる1997年まで問題なく販売されています。

地味な車ではありますが、主要市場の北米を意識してやや奇抜なデザインだった3代目に比べ、落ち着いたヨーロピアン調小型セダンとなったことに加え、OEM元のドマーニがそもそもマイナーだったため、同じくらいの頻度で見かける程度には売れたようです。

当時、「あ、ドマーニだ珍しいな」と思って振り向くと、テールに大きく「GEMINI」と書かれた姿からは、まだまだいすゞの健在ぶりが伺えたものでした。

(主要スペック)
いすゞ MJ1 ジェミニ G/G 1993年式
全長×全幅×全高(mm):4,415×1,695×1,390
ホイールベース(mm):2,620
車重(kg):1,050
エンジン:ZC 水冷水平対向4気筒SOHC VTEC16バルブ
排気量:1,590cc
最高出力:96kw(130ps)/6,600rpm
最大トルク:145N・m(14.8kgm)/5,200rpm
10・15モード燃費:15.4km/L
乗車定員:5人
駆動方式:FF
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F・R)ダブルウィッシュボーン

(中古車相場とタマ数)
※2021年3月現在
流通皆無

最後の5代目ジェミニは、6兄弟の日本向けいすゞ仕様

5代目いすゞ ジェミニ(2代目ホンダ ドマーニOEM) / 出典:http://www.webcarstory.com/voiture.php?id=11768&width=1920

1997年2月、ドマーニから数日遅れでモデルチェンジした5代目ジェミニは、2代目ドマーニから1.8リッター車が消えてほぼ同じグレード構成となり、引き続き1.5リッター/1.6リッター車の2段構えで、後者もリーンバーン仕様のVTEC-E版D16Aが搭載されました。

特筆すべきは、シビックフェリオを基準にした、以下のごとき6兄弟構成です。

1.ホンダプリモ店向けEKシビックフェリオ(2代目)
2.ホンダクリオ店向けドマーニ(2代目)
3.ホンダベルノ店向けインテグラSJ
4.北米のホンダ高級ブランド「アキュラ」向けアキュラEL(初代)
5.タイで販売するインテグラSJのいすゞ版バーテック
6.日本で販売するドマーニのいすゞ版ジェミニ(5代目)

英ローバーとの提携が続いていれば7兄弟になるところでしたが、同社は1994年にBMWが買収してしまったため、もうホンダとはほぼ無関係になっています。

5代目ジェミニとしては、アキュラELからフロントグリルなどを流用したため2代目ドマーニとは若干雰囲気が異なりましたが、バブル崩壊とRVブームによる、メーカーを問わない4ドアセダン全般の販売不振や、いすゞが小型乗用車の独自生産から撤退した事実の浸透もあって、販売はよく言えば予定通り堅調、より現実的には低調でした。

この頃にはドマーニもインテグラSJも販売不振だったため、いずれも街で見かけるのは稀なマイナー車となり、2000年9月にシビックフェリオがモデルチェンジする際、ホンダの車種整理でシビックフェリオとアキュラELのみを残して全ての販売終了が決まります。

5代目ジェミニも2000年をもって販売を終了し、ここで1974年に初代がデビューしてから約26年間販売されてきたジェミニの歴史は、ようやく終わりを迎えました。

(主要スペック)
いすゞ MJ5 ジェミニ 1600G/G 1997年式
全長×全幅×全高(mm):4,480×1,695×1,390
ホイールベース(mm):2,620
車重(kg):1,100
エンジン:D16A 水冷水平対向4気筒SOHC VTEC-E16バルブ
排気量:1,590cc
最高出力:88kw(120ps)/6,500rpm
最大トルク:144N・m(14.7kgm)/5,000rpm
10・15モード燃費:16.4km/L
乗車定員:5人
駆動方式:FF
ミッション:CVT(ホンダマルチマチック)
サスペンション形式:(F・R)ダブルウィッシュボーン

(中古車相場とタマ数)
※2021年3月現在
59万円・1台(2000年式1500C/Cの5MT車、走行4,000km!)

「消化試合のセットアッパー」として完全燃焼したジェミニ

4代目いすゞ ジェミニ(初代ホンダ ドマーニOEM) / Photo by TuRbO_J

3代目ジェミニのデビュー当初から暗雲がチラついていたとはいえ、バブル崩壊後のいすゞ転落劇はマツダや日産以上に急激で、「気がついたら乗用車メーカーとして存続できなくなっていた」という印象です。

あまりに急だったのでユーザー側も唖然とするばかりで、ジェミニやピアッツァ、PAネロを廃止すると言っても、いすゞのバスやトラックを使う事業者の営業車、SUVユーザーのアシ車を含むジェミニユーザーの買い替え需要は残っており、「初代ドマーニのOEMで、ほとんど変わらない車」どころか、4代目ジェミニは案外重要な役割を担います。

それゆえ新車販売当時はヘタするとドマーニとの差がないのでは?と思うほどよく見かけ、ビッグホーンやミューといったSUVではまだ強気だったため、このままOEMでしばらくセダンも続けるのかな?と思ったほどです。

しかしジェミニがOEMに切り替わってからの存在意義は、あくまで「まだいすゞから買ってくれるお客様がいる間はと、終わりの見えた消化試合でも登板を続ける中継ぎのセットアッパー」でした。

5代目へモデルチェンジ後、さすがにあまり見かけなくなったジェミニは役目を終え、RVディーラー「いすゞスクエアジャパン」の廃止まで販売を続けた4代目アスカ(ホンダ アコードOEM)に、いすゞ乗用車のクローザー役を託すと、日本自動車史の表舞台からはひっそり消えていきます。

OEMだからと決して安く扱うべからず、アッパレ完全燃焼いすゞ ジェミニの巻は、これにて終幕となりました。