1974年3月、ジュネーブショーでフォルクスワーゲンは全く新しい1台のスペシャリティーカーを公開しました。それは、初代ゴルフと共通のメカニカルコンポーネントをスタイリッシュな2+2クーペボディに組み込んだVW『シロッコ』です。現代では普遍的といえるコンポーネントを、ドイツで初めて量産販売したという歴史を持つVW『シロッコ』。そのルーツと、使命に迫ります。
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初代シロッコ(1974年~1981年)に課せられた使命
1974年のジュネーブショーでワールドプレミアを果たした初代シロッコには、とても大きな使命がありました。
1960年代に入ると長年に渡り、フォルクスワーゲンのベーシックモデルとして、ドイツ国民から愛されてきた『VWビートル』の、リアエンジン、リアドライブという特殊な構造や旧態化した空冷エンジンなどの問題等から、後継モデルの開発が急務となっていたのです。
そして、フォルクスワーゲンの手により次期モデルの『メカニカルコンポーネンツ』が完成。
これが、ヨーロッパの小型車で主流となりつつあった『横置きエンジンユニットによる前輪駆動車』で、ビートルの後継車として販売されるベーシックモデル、初代『ゴルフ』に採用される事が決定していました。
あまり知られていない事実なのですが、フォルクスワーゲンは次期主力車種となる『ゴルフ』の販売開始後の整備データを収集する目的や、製造方式の安定化を促進する目的で、メカ的に同じコンポーネントを有する初代『シロッコ』をあえて数ヶ月早めに販売します。
なぜなら、シロッコには実験的な販売を担うアドバンスモデルとしての、重要な役割が与えられていたのです。
そして、陰の立役者というべき初代シロッコの販売開始から2ヶ月後に、準備万端の状態で、初代ゴルフは発売されました。
その後、『横置きエンジンユニットによる前輪駆動車』として順調に販売台数を伸ばしたゴルフは、四角いビートルとして世界中で人気を博し、VWを担う小型乗用車としての地位を確立して行ったのです。
ジウジアーロデザイン、カルマンが手掛ける3ドアクーペ
初代シロッコの位置づけは、ゴルフをベースに製作されたスペシャリティーカーというもので、これはちょうどVWビートルのスペシャリティーカーとして販売されていたカルマンギアクーペと立ち位置を同じくしており、その市場を承継するスポーツモデルでした。
ゴルフより100mm低く、25mm広めに構成された車体は、長いフロントノーズや傾斜角の強いフロントウィンドウによりスポーティーにまとめられ、ダックテール風のリヤハッチへとコンパクトにつながっています。
そのデザインを手掛けたのは、当時、イタルデザインに所属していたジョルジェット・ジウジアーロ氏で、初代ゴルフも同じく彼の手により、ともに現代でも通用する普遍的ともいえるボディに仕上がっています。
初代シロッコのエンジンユニットは、大きく分けると2種類で、初代ゴルフの為に新開発された水冷直列4気筒SOHCの1093cc、50ps/6000rpm仕様と、VWパサートに搭載されていた同じく1471cc、70ps/5800rpm仕様がグレードにより積み分けられています。
足まわりはフロントがマクファーソンストラット、リアはトレーリングアームの4輪独立懸架。
ステアリングギアボックスはラック&ピニオン形式で、フロントはディスク、リアはドラムブレーキで構成されています。
また、シロッコの車体架装は、2代目モデルまでコーチビルダーの『カルマン』が実施していて、スタンダードモデルの初代ゴルフと同じメカニカル コンポーネンツから、グレードアップしたスポーティー3ドアクーペが見事に完成されました。
初代シロッコスペック
エンジン形式 | 水冷直列4気筒SOHC(横置き) |
ボア×ストローク | 76.5×80mm |
総排気量 | 1471cc |
キャブレター | ソレックス35PICT5 2バレル×1 |
最高出力 | 70ps/5800rpm |
最大トルク | 11.4kgm/3000rpm |
サスペンション形式・フロント | マクファーソンストラット、コイル |
サスペンション形式・リア | トレーリングアーム、コイル |
ステアリングギアボックス | ラック・ピニオン形式 |
全長 | 3845mm |
全高 | 1310mm |
全幅 | 1625mm |
燃費向上を狙った空力ボディで登場2代目シロッコ(1981年~1992年)
1974年のデビューから順調に50万台以上の販売台数を記録していた初代シロッコですが、時代の変化に合わせて1981年に2代目へとモデルチェンジを行ないます。
そしてヨーロッパでも省エネルギー時代へと突入していた80年代初頭、フォルクスワーゲンも燃費改善や燃費の向上が開発のメインテーマとなっていた為、初代シロッコで問題視されていた空力的に性能が良くないボディ形状を改良するかたちでモデルチェンジが行なわれました。
全高、全幅はそのままに16.5cm伸ばされたボディのデザインを担当したのは、VW社スタイリングセンタースタッフと空力のエンジニアで、前面投影面積がより小さくまとめられたデザインの空気抵抗係数は、初代シロッコの0.42から10%改善された0.38の高数値を記録。
あわせて消費者からの改善要望が多かった『ヘッドスペースの拡大』と、『トランクルーム容量の増加』という意見を取り入れることにより改善されたボディデザインは、実用的なスポーツクーペに生まれ変わっています。
また、各種エンジンユニットやランニングギア、フロアパンなどは初代シロッコを承継していますが、このときの改良により固定式のフロントブレーキキャリパーは全モデル標準装備となりました。
また、その後のマイナーチェンジにより登場したGT-Xは、フロントスポイラー、サイドスカート、リヤスポイラーなどの空力パーツをふんだんに使用したエアロモデルで、そのワイド&ロースタイルにまとめられたユーロデザインは、日本でも人気を博します。
エンジンは、発売当初のドイツ本国では、1300ccのスモールブロック60馬力仕様、1500ccの70馬力仕様、1600ccキャブレター仕様など細かな設定が存在し、インジェクション仕様の1600ccモデルで圧縮比が9.5になった事により110馬力のハイパワーを発生しました。
グループA時代の全日本ツーリングカー選手権に参戦
日本のモータースポーツ分野において2代目シロッコは、1985年からグループA規定で開始された全日本ツーリングカー選手権に参戦。
第2部門(1600cc~2000ccで車重880kg以上)において、日産シルビアとの争いを繰り返した活躍を覚えている方も多いのではないでしょうか。
さらに積極的にモータースポーツに参戦していた俳優の岩城滉一氏(現全日本ロードレース選手権ST600クラス・チーム51ガレージ監督)が、当時のETC(ヨーロッパツーリングカー選手権)仕様のシロッコを輸入し、自らもハンドルを握ってフル参戦。
ドイツのエンゲーリンレーシングでチューニングされたシロッコなエンジンに『マーレー・ピストン』を装着し、排気量は1803cc。
圧縮比を12.1で仕上げられ、ビルシュタイン製ダンパーにガーリングブレーキ等、公認パーツで本格的に装備されました。
そんな2代目シロッコの空力ボディで、ストレートの長い富士スピードウェイや中、高速コーナーの多い鈴鹿サーキットで活躍。
容量ある100リットルタンクを武器に第2部門のダークホース的存在として、観客を魅了していました。
まとめ
バブル景気目前、1985年に開始されたグループA規定の全日本ツーリングカー選手権に、突如参戦を開始した2代目VWシロッコ。
カラフルにカラーリングが施され、岩城滉一氏がハンドルを握るワイド&ローなVWシロッコは、あの近藤真彦氏がハンドルを握って参戦していたDR30スカイラインRSターボとともに、世間の話題を呼び、一般の人にモータースポーツの魅力を広めるきっかけとなりました。
そんなシロッコには、フォルクスワーゲンが社運をかけて開発した『横置きエンジンユニットによる前輪駆動車』としてドイツ(1974年当時、西ドイツ)で初めて量産自動車に採用し、販売されたクルマという重要なヒストリーが秘められていたのです。
2008年に、16年間の沈黙を打ち破り販売を再開した3代目VWシロッコは、水平基調のフロントグリル以外は全く異なる『ウィンドウ グラフィックデザイン』として登場。
先代モデルと同じなのは、ただベースがVWゴルフということのみです。
そんなカルマンの手掛けていないシロッコは、新しい時代にあわせて2代目モデルまでとは異なる歴史を刻み始めたのです。
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