「す~いすいくるくるミゼットII」という軽やかな歌声とともに、犬に追い掛け回されるミゼットIIで終わるCMが印象的でした。ダイハツが1996年に発売した1人乗り軽トラック、ミゼットIIはひたすら大きくスペース広くと、画一化の進みかけていた軽自動車界に投げかけられた一服の清涼剤のような車で、2人乗りやカーゴを追加しつつ、新規格化からも生き残って2001年まで生産されました。販売台数ではヒット作と呼べなかったものの、その存在が果たした重要な役割は、案外知られていません。
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ミゼット工房で、技術を継承したエキスパート工員を養成せよ!
現在、国土交通省の肝いりで実証実験が繰り返され、いずれは策定される可能性が高い、軽自動車より小さく1人乗りのミニカーよりは大きくて2人乗れる「超小型モビリティ(超小型車)」。
軽自動車と違って高速道路の走行は想定していないので動力性能はソコソコ、必然的に小さなボディとなることが予想されていますが、「そう言われると軽自動車にも似たような車があったな」と、スズキ ツインと共に思い出されるのがダイハツ ミゼットIIです。
酒屋など軽トラに満載するほど積荷を運ばない商用、あるいはレジャー用途に向いた小回りの利く軽トラでしたが、この車が登場するにあたっては表向きの姿とは別のとても重要な役割を持っていたのです。
それが、大阪府池田市ダイハツ町にある、ダイハツ本社池田工場第2地区に設けられた、ある工房での作業。
下請け工場でプレスされたボディパーツを溶接して組み立てる。
量産工場の塗装ラインで塗装を終えたボディが帰ってくると、工員がボディに貼られた紙の指示通りに、グレードや指定されたオプションによって異なるパーツを選別し、組み込んでいく。
部品やパネルの製造工程、車体の塗装作業以外は自動車工場と聞いて連想するようなロボットの配備されたラインを使わず、組立作業は丸っきり手作業でした。
「ミゼット工房」と名付けられたそこは、熟練工が持っていた生産技術を次の世代へと継承させる「生産作業であり教育の場」でもあったのです。
ミゼットIIは決して販売台数の多い車ではありませんでしたが、それにも関わらず1998年10月に軽自動車が新規格へと変わると、新しい衝突安全基準を満たす改良を受けて生産・販売が継続されたのは、そのため。
結局2001年3月に終了する事になりますが、一部誤解があるような「不人気による販売終了」がその理由ではありません。
ミゼット工房では、そこで養成された人材を含むエキスパート工員によって皆さんもよくご存知の「ある車」を生産することが決まっており、2002年6月に迫った発売に向けた取り組みが始まっていたからなのです。
これ以上無いほどコンパクト!最低限を極めたミゼットII
ミゼットIIの姿を見ると、「スペースと機能を凝縮した、最低限の軽自動車」であることが一目瞭然。
基本的には1人乗り、後に並列2人乗り仕様が追加され、それに対応したギリギリ2人が乗れる幅の狭いキャビンと、まるまる張り出したフェンダーに覆われたフロントタイヤ、そしてキャビン後方には軽トラックのそれより狭く、3方どころか後方に開くわけでも無いアオリか簡素なバーで仕切られた荷台、またはテールゲートを持つカーゴスペースが設置されました。
寸法は旧規格軽自動車のそれよりはるかに小さく、四輪車でこそあるもののネーミングの通り、かつてのベストセラー軽オート三輪、ダイハツ ミゼットを連想させる姿となったのです。
同時にテールゲートを持つミゼットIIカーゴが追加され(それに伴い開放荷台を持つ従来型はミゼットIIピックとなる)、「ふたりで飼おう」「夢が膨らむ」とキャッチコピーを見ても、デートカーを想定した仕様。
エンジンはさすがに660cc3気筒のEFエンジンで、スペックはハイゼットトラックと比べても控えめな30馬力台でしたが、軽量かつ超ショートホイールベースで高速走行向きでは無いミゼットIIにはむしろちょうどいいくらいでした。
「大は小を兼ねる」あるいは「乗車定員の多い車は少ない車を兼ねる」、「同じ税金を払うなら少しでも大きい車がいい」と考える人にとっては受け入れがたい車ではあります。
しかし、そもそも1~2人しか乗らず余計なものは何もいらないと考える人にとっては、これほど最高な車は無いのもまた事実でした。
その愛らしいスタイルもあって熱烈な愛好者は少なからずおり、「親子2人乗って東北の宮城県から九州の大分までの旅を走りきった伝説のドライブ」などのエピソードを残しています。
カート感覚で楽しむ人からEVレース、伝説の「ミゼッパチ」など意外に活躍!
そんなミゼットIIですが、動力性能といいその姿といい、どう考えてもモータースポーツ向きでは無いだろうと思われがちですが、そんなことはありません。
むしろ「こんな面白い乗り物をいじくらないなんて嘘だろう」とばかりに、ノーマルから大改造を受けたマシンまで、多彩な活躍を見せています。
まずノーマル派。
ダイハツ車専門のジムカーナイベント「ダイハツチャレンジカップ」に出場するミゼットIIは、最軽量で車重600kg以下という身軽さを活かして、かなりの速さを誇りました。
しかし、ストレートを全開で突っ込んだ直後にフルブレーキングから360度定常円旋回などを行うと、簡単に横転してしまう車でもありました。
発売当時、カービデオマガジン「ベストモーターリング」の企画で現役レーサーなど豪華メンバーによるミゼットIIワンメイクレース(!)が行われましたが、その中でドリキン土屋 圭一 氏が「読者がこれ見て真似したらひっくり返るぞ~?」と言った通り、何も考えずひたすらアクセル全開で突っ込めばひっくり返る車だったのは確かです。
しかしある程度ノウハウがたまってサスペンションやタイヤ、さらにドライビングスタイルを見直して完走できるようになれば、その速さはNA(自然吸気)エンジンのクラスではミラやオプティにヒケを取らず、上位入賞できるポテンシャルも持っていました。
次に改造派。
改造派にはフルチューンで軽自動車レースに出ていたものと、日本EVクラスの「チャレンジEVミゼットIIレース」に出場していた車がありました。
フルチューン版はトレッドをさらに拡大、3気筒SOHCのEF-CK(旧規格版)に換えて4気筒DOHCターボのJB-JLにストーリアX4用JC-DETのパーツを組み込んで713ccDOHCターボ化したものが、関西のレースで走っています。
もちろん、直列3気筒エンジンをギリギリ詰め込めるスペースに直列4気筒エンジンを搭載しているのでキャビンにエンジンの一部がハミ出しているほどでしたが、3気筒ターボよりも圧倒的なポテンシャルアップを果たしました。
それは公道走行を前提としないレース用でしたが、マル改(改造時の車検記載内容変更)無しで載せられるアトレー用3気筒DOHCターボ、EF-RSなどを搭載した例もあります。
ただしノーマルのナロートレッドとショートホイールベースのままでのパワーアップは直進安定性に問題があったようで、高速道路での全開加速などは少々怖かったようです。
そしてEVレース用はダイハツ社内チームまで参加したかなり本格的なもので、構造が簡素なミゼットIIだけに、EV化だけでなく空力処理に工夫を凝らしたマシンも参戦していました。
ダイハツ社内チーム車は、ダイハツチャレンジカップ沖縄戦などにも参戦しています。
最後に超改造車。
数あるミゼットII改造車の中でも、神奈川県川崎市でアメ車やドラッグレーサーを得意としていたBlue MAXの故 中村 大吾氏が作った「ミゼッパチ」は伝説級の化け物ミゼットIIでした。
最初はNOSを搭載するなど比較的穏健なチューニングだったようですが、ミゼッパチとして仕上がった頃には超ロングホイールベースの先端にキャビンがチョコン、その後ろにV8エンジンという化け物になっていました。
作った本人が「これで走るのはさすがに怖い」と言っていたそうで、実際にドラッグレースに出走したかは定かではありませんが、アメ車のジムカーナイベントらしきものに出走した映像が残っています。
主要スペックと中古車価格
ダイハツ K100P ミゼットII ピックBタイプ 1997年式
全長×全幅×全高(mm):2,790×1,295×1,650
ホイールベース(mm):1,840
車両重量(kg):550
エンジン仕様・型式:EF-CK 水冷直列3気筒SOHC6バルブ
総排気量(cc):659cc
最高出力:31ps/4,900rpm
最大トルク:5.1kgm/3,200rpm
トランスミッション:4MT
駆動方式:FR
中古車相場:5万~90万円(各型含む)
まとめ
1996年4月から2001年6月まで販売された間に、販売台数以上に多くの人に愛され、見る人を驚かせ、あるいは笑顔にさせた軽マイクロピックアップ / カーゴ車、ダイハツ ミゼットII。
それを作り出したミゼット工房が、ミゼットII生産終了に伴い2001年3月にはその役目を一旦終えました。
しかし、それは単なるミゼット工房の終わりを意味しません。
工房は「エキスパートセンター」と名を変え、再び手作りで組み立てられて熟練工による最終仕上げを受けた車を10年にわたって作り続けることになるのです。
その車の名は、初代ダイハツ コペン。
現在も「コペンファクトリー」としてリニューアルされ、ローブ、X-PLAY、セロと3種のコペンを作り続けているその原点は、ミゼットIIを作ったミゼット工房と、そこで技術を継承した人々を含む熟練工たちにありました。
ダイハツが「ものづくり」の原点を思い出した場所で生まれたミゼットIIは、今もまだ数多く走り続けているのです。
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