「こういう車をどこか作ってくれないかな、ちょっと高くてもいいから台数限定で売ってくれないかな。」車好きなら誰でも1度は思った事があると思います。しかし、デザインはちょっとやそっとで直せず、大抵はフロントマスクやボディパーツをチョコチョコ変えて終わりというのが現実なのですが、既存車ベースで全く異なるデザインの車を発売したのが日産パイクカーシリーズでした。発売された3部作のうちの第1号は、1987年に登場したBe-1でした。
社会現象となった『パイクカー第1弾』、Be-1
1985年、第26回東京モーターショー(10月27日~11月8日)の日産ブースに展示された『Be-1』という名の1台のコンパクトカーが、多くの来場者の目を引きつけました。
この年のモーターショーに日産自動車は、スーパーカーの『MID4』や近未来的なコンセプトカー『CUE-X』といった派手なクルマを展示させました。
上記の2台は当時流行りだったクサビ型のウェッジシェイプを採用した、カクカクした見た目だったのに対し、Be-1はコンパクトカーで、しかも「これでもか!」というくらい柔らかく曲線的なフォルムでその存在感を際立たせたのです。
コンセプトカー的な非現実さは感じさせず「モーターショー終了次第発売します」と言われても不思議ではありませんでした。
実際に「いつ発売するの?今予約したら買えるの?」と問い合わせが殺到したほど完成度は高く、発売が熱望されます。
そして、それから約1年2ヶ月後の1987年1月、デザインはそのまま、車名もそのままの『Be-1』が1万台限定で発売されました。
販売期間は1年の予定でしたが発売2ヶ月でそれ以上の予約が殺到、急きょ抽選販売に切り替えられたため、欲しくても買えない人が続出。
半分以上手作りのため生産が追いつかなかった事もあり、中古車価格が新車価格を超えるという異常ぶりが報道されるなど『Be-1ブーム』は社会現象になり、東京の青山にオープンしたアンテナショップのオリジナルグッズも大成功を収めました。
2代目マーチを目指したデザインスタディからのスピンオフ
このBe-1については現在まで、自動車メディア以外にも”時代を象徴する1台”として様々なメディアで紹介されてきました。
『バブルに向かってまっしぐら』という日本の歴史上、希にみる明るい時代を経験した者にとっては、まさしく時代を象徴する1台だったと言えます。
Be-1という車そのものは、アッサリ言ってしまえば『初代マーチ(K10型)のガワ違い』にすぎず、ベースは当時60万円台から購入できた普通の自然吸気エンジン車なワケです。
つまり、異常な人気の秘訣はデザインにあり、当時としては珍しいほど曲線を多用したことと、その実現のためフレックスパネルなど樹脂製パーツを多用したり、樹脂と鋼板という異なる素材を使いつつ、同様の品質を保つ塗装法などにありました。
さらに言えばミドルクラス以上でも月販1万台が珍しく無かった当時、『1万台しか買えない!』という現実は今でいう限定商法と同じインパクトが人気を後押ししたのもまた事実だったかもしれません。
その背景には、当時の日産が置かれていた2つの悩みがありました。
・901運動で開発された車種が人気を得る以前の販売不振期で、企業イメージを変えたかった。
・1982年10月に発売された初代マーチのマイナーチェンジ(1985年2月)と同時期にモデルチェンジ版の開発もしたかったが、日産の販売不振はマーチのモデルチェンジを許さず、10年程度のロングライフを覚悟せねばならなかった。
その一方で2代目マーチに向けたデザインは続いており、その中のB-1案、後の『Be-1』に日産の企業イメージ一新が託されて、1985年の東京モーターショーで手応えも得られます。
こうして1万台限定ながら世に出たBe-1は、性能はともかく新鮮味の薄かった当時の日産車のイメージを、確かに大きく変えたのです。
ある意味、1990年前後に次々と後世にまでその名を刻む名車を連発した日産が最初に世に問うた革命、それがBe-1でした。
主なスペックと中古車相場
日産 BK10 Be-1 キャンバストップ 1987年式
全長×全幅×全高(mm):3,635×1,580×1,395
ホイールベース(mm):2,300
車両重量(kg):710
エンジン仕様・型式:MA10S 水冷直列4気筒SOHC8バルブ
総排気量(cc):987
最高出力:38kw(52ps)/6,000rpm
最大トルク:74N・m(7.6kgm)/3,600rpm
トランスミッション:3AT
駆動方式:FF
中古車相場:25万~138万円
まとめ
Be-1以降、日産はパオ、フィガロを発売していずれも人気を獲得。
『パイクカー3部作』と呼ばれて、商用パイクカーのエスカルゴともども現在まで根強いファンを生み出します。
さらに、当時は『レトロカー』として機能より優先されたデザインは、その後のコンパクトカーに大きな影響を与え、スバル・ヴィヴィオ ビストロやダイハツ・ミラジーノといったフォロワーが続いていきました。
とはいえ、後に乱発されたレトロカーがいずれも大きなフロントグリルを持つのにくらべればグリルレスに近いBe-1のデザインは全く違い、過去の国産車にさかのぼってもスバルR-2などわずかな例のみしかない異質なものです。
むしろ最近のダイハツ・ミラトコットや同ムーヴキャンバスなどでようやくBe-1的なデザインが見直されつつあると感じるほどで、社会現象になるほどだった割には、そのデザインは長らく日本車から忘れられていました。
そのため、Be-1は発売から30年以上たった今もなお、あるいは今だからこそ、そのデザインは新鮮に感じます。
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