FFのホットハッチ車を見ていると、コンパクトで軽快に走る反面「でも後輪駆動も捨てがたい」と思ってしまう人もいることでしょう。実際、そのパワーユニットを後席スペースへミッドシップに搭載して後輪駆動車へ改造してしまう例もありますが、それをメーカー自身がやってしまったのがフランスのルノー。当初はグループ4ラリーマシンとして5(サンク)ターボを発売しましたが、その一般向けバージョンに当たるのが5ターボ2です。

 

ルノー 5ターボ2  / Photo by D – 15 photography

 

 

WRC勝利のため開発されたルノー 5ターボとターボ2

 

ルノー 5ターボ2  / Photo by Spanish Coches

 

1973年に始まったWRC(世界ラリー選手権)。

そこでは主に500台(1976年からは400台)以上を製造した2座席以上のクローズドキャビン車両、グループ4ラリーマシンによって、その覇権が争われていました。

その中で開催初年度の1973年こそアルピーヌ・ルノーA110で制したものの、その後はランチア ストラトス、フィアット 131アバルトラリーといったイタリアの強豪フィアットグループ勢に追従できなくなっていたのが、フランスのルノーです。

1972年に4(キャトル)の後継としてデビューしたFFコンパクトハッチバック、5(サンク)のスポーツバージョンとして5アルピーヌが1976年に発売されたのでそれを投入、1978年のモンテカルロラリーで次ぐ2位、3位を獲得するなど手応えを得るも、その後が振るいませんでした。

何しろエース級のドライバー『ジャン・ラニョッティ』はFF(フロントエンジン・前輪駆動)大嫌い人間で、「ボクは後輪駆動がいい」とSSのスタートをバックで発進した逸話すらあるほど。

FFの5アルピーヌでは気が乗らなかったのかもしれません。

そこでルノーは新規に後輪駆動のグループ4ラリーマシンを開発することにしたのです。

ただしその手法は、1979年に発売された5アルピーヌ・ターボ用の1.4リッターターボエンジンをパワーアップした上でパワーユニットを丸ごと5のリアミッドシップに搭載するという「誰もが考えるけど、普通はあまりやらない」方法で、思い切り広げた前後フェンダーとともに、「これのどこが5なんだ?」という迫力のラリーマシン、ルノー 5ターボが誕生しました。

そして一応5の形はしていたものの、内外装メカニズムともかなり5とは異なった5ターボは当然それまでのルノー車最高価格で販売されましたが、よほど人気があったのか、普及モデルと言える5ターボ2まで続けて発売される事になったのです。

 

スパルタンな5ターボから街乗りまで考慮した5ターボ2へ

 

ルノー 5ターボ2  / Photo by peterolthof

 

この5ターボ2が誕生したことで、従来の5ターボは「5ターボ1」と呼ばれたり、あるいは5ターボを「前期型」、5ターボ2を「後期型」と呼ぶようになります。

日本では5そのものの正規輸入が少なかったので、5ターボ2も多少輸入されたとはいえかなりマニアックな車でしたが、バブル時代にエンスー漫画『GTroman(作・西風)』で探偵の愛車として登場した事などをキッカケに、一般にも比較的広く知られるようになりました。

そして作中でも尾行に使われては「前から見れば普通のルノー5だから大丈夫」と言われたり、全開加速で前席背後からの猛烈な騒音(エンジン音)、それをミッドシップ車と理解した同乗の刑事が、違法改造車と思い込むシーンなどが描かれています。

もちろん現実には5ターボ、5ターボ2ともにれっきとしたルノー純正車両であり、いずれも1.4リッターOHVターボエンジンを前席の後ろで唸らせていることに変わりはありません。

ただし、5ターボ2は販売価格を下げるためのコストダウンや快適性を増すために内外装が変更されており、まず5ターボではアルミ製だったボンネットやドア、ルーフなどが、通常のスチール製に変更されています。

さらに大きく異なるのは内装で、市販型5ターボでは幾何学的で色彩も派手だった内装やシートが、通常版の5とほぼ同様のおとなしめのものに変わり、スイッチ類も同じく日常的な使い勝手を優先したものに変更されました。

そして、実用車として便利な小物入れも装備され、エンジンの後ろに若干あった荷室と合わせ、漫画の作中のように日常的な使用へ可能な限りの配慮がなされています。

 

ラリーでは引き続き5ターボや5マキシターボが走り続ける

 

ルノー 5 MAXIターボ  / Photo by Ashley Buttle

 

1982年秋頃に5ターボ2が発売されて以降も、WRCなど競技で使われるのはもちろん本来の競技用ホモロゲーションモデル、5ターボでした。

前述の後輪駆動大好きラニョッティも5ターボには満足したようで、1981年のモンテカルロラリー、1982年のツール・ド・コルスで優勝しています。

ただし、WRCが1983年から本格的にグループBラリーマシンへ移行すると、化物じみたハイパワーマシン、それもミッドシップ4WDターボまで登場する中で、小さく軽いミッドシップだけが取り柄で非力な5ターボは一時期勝利から遠ざかってしまいました。

それでも1985年にはエボリューションモデルの5マキシターボを投入、ツール・ド・コルスでは再びラニョッティが、翌1986年にもヨアヒム・モウティンホが優勝し、当時のルノーにとって貴重な勝利をもたらしたのです。

 

主要スペックと中古車価格

 

ルノー 5ターボ2  / Photo by Spanish Coches

 

ルノー 5ターボ2 1983年式

全長×全幅×全高(mm):3,665×1,750×1,325

ホイールベース(mm):2,430

車両重量(kg):1,012

エンジン仕様・型式:水冷直列4気筒OHV8バルブ ICターボ

総排気量(cc):1,397cc

最高出力:185ps/6,000rpm

最大トルク:22.5kgm/3,250rpm

トランスミッション:5MT

駆動方式:MR

中古車相場:ASK

 

まとめ

 

グループ4規定により400台生産すれば良かった競技用ホモロゲーションモデル、5ターボでしたが、一般普及用のミッドシップスポーツとして5ターボ2が3000台以上作られたことから、当時のグループ4 / グループBマシンの中では比較的目にする車となりました。

なお、ルノーではその後も2代目クリオ(日本名ルーテシア)でクリオ・ルノー・スポーツV6という5ターボの再来的ミッドシップスポーツを発売することになります。

レースや競技用にワンオフされたスペシャルモデル、あるいはホモロゲーション以外でこうした市販車を出す例はなかなあかりません。

日本でも過去にダイハツがシャレード926ターボのエンジンをDOHC化+ミッドシップ化したシャレード926Rをショーモデルとして展示したくらいで、期待された市販は実現しませんでした。

ホモロゲーションモデルとはいえ、WRCの歴史の中でもかなり異質な、そしてその一般向け普及版を作ってホモロゲに関係無く販売するなど異例のことで、今後もなかなかこうした車は登場しない貴重な1台です。

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