11月5・6日に鈴鹿サーキットで行われた2016全日本ロードレース選手権最終戦「MFJグランプリ」。最高のJSB1000クラスは中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)が5年連続7回目のシリーズチャンピオンを獲得した。すっかり国内では敵なし状態のように見えるが、決してそんなことはないという中須賀。今回も“記録”と戦った2日間を振り返る。

Photo by Tomohiro Yoshita

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最終戦を前に強力なライバルが登場

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今シーズンは開幕戦から連戦連勝。第8戦岡山で3位になってしまうものの、今年もチャンピオン獲得に圧倒的有利な状態で鈴鹿にやってきた。

いつも通り走ればチャンピオンが決まる状況だったが、今回は強力なライバルが登場。レオン・ハスラムだ。

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元WGPライダーのロン・ハスラムの息子で、今年はブリティッシュ・スーパーバイクに参戦。ランキング2位を獲得した。前述の通り鈴鹿8耐でも活躍経験があり、2013・2014年はMuSASHi RT HARC-PROから参戦し2連勝。今年はTeamGREENで大活躍し2位表彰台に貢献した。

スーパーバイクの経験は豊富だが、JSB1000でのレースは初めて。チームも鈴鹿8耐では組んだものの年間を通して一緒に活動しているわけではないという、ほぼ“ぶっつけ本番”という状況だったが金曜の専有走行ではトップタイムを記録した。

しかし、翌日の予選ではしっかり全日本のレベルの高さを見せつけ、ハスラムを圧倒。予選Q1は津田拓也(ヨシムラスズキシェルアドバンス)に敗れ2番手だったものの、予選Q2は中須賀がきっちりトップタイムをマーク。ハスラムが2番手につけるが、それ以上は寄せ付けずポールポジションを獲得した。

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レースウィーク前から脅威に感じていたという中須賀だが、金曜はやはり悔しかった様子「レオン(・ハスラム)だけにはポールポジションは取らせたくなかったです。昨日のフリー走行で彼がトップで終わって、非常になんとも言えない気持ちでした。いきなり来てそのままトップを取られても困るので、そこは日本人の底力じゃないですけど、Q1は津田選手が(ポールポジションを)とって、Q2では自分がレオンの前に出られたので、全日本のレベルも決して低くはないというのを示せたと思います」

 

ハスラムと激闘の末、チャンピオンを獲得「全日本のレベルが高いことを証明したかった」

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迎えた決勝レース当日。朝からトークショーなどイベント出演も忙しい中須賀だったが、その表情はタイトル獲得に向けて少なからずプレッシャーを感じているようだった。

Race1は予選Q2までの総合順位がグリッド順に。そのためポールポジションが中須賀、2番手にハスラムが並んだ。

スタートダッシュを決めたのは中須賀。トップを守りきり1コーナーへ。いつも通り逃げ切る展開になるかと思われた。ところがハスラムも序盤から積極的に仕掛け、2周目のデグナーでパス。これを皮切りに激しいトップ争いが展開。毎周にわたって抜きつ抜かれつのバトルを繰り広げた。鈴鹿ならではの難しいポイントをついて中須賀が前に出るがストレートスピードに定評があるカワサキのマシンをフルに活かしたライディングでハスラムも応戦。わずか8周の超スプリント戦がものすごく中身の濃いものになった。

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決着がついたのは7周目のシケイン。わずかな隙をついてトップに立った中須賀がファイナルラップも逃げ切り優勝。0.472秒という僅差を競り勝ちチャンピオンを決めた。

本来なら2位でもタイトルは確定したのだが、最後までアクセルを緩めずトライし続けた中須賀。純粋に勝負に勝ちたい以上に、こんな理由があったという。

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「久々のバトルで興奮しました。2位でもいいという気持ちは全然なかった。世界レベルの選手が来て、こうしてレベルの高いレースをすることによって、全日本もレベルが高いというところを証明したかった。全日本のライダーも世界で戦えるぞというのを証明できたのでよかったです」

常々、彼が口にしている「全日本のレベルの高さを証明したい」という気持ちが、この8周のガチンコ勝負に詰まっていた。

午後のRace2は序盤にアクシデントが発生し赤旗中断になる波乱はあったが、再開後も中須賀がきっちりレースを組み立て勝利。最終戦を2連勝で終え、最高の形でシーズンを終えた。

 

勝ち続けることは簡単じゃない…彼しか知らないプレッシャー

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シリーズ表彰でチャンピオントロフィーを受け取り、集まったファンの前で今シーズンを振り返った中須賀は「記録との戦いでプレッシャーもあった1年だった」とコメント。レース後の記者会見でも、ここまでチャンピオン獲得のシーンを振り返り、それぞれの瞬間の心境を語った。

「一番緊張したのは3年目(2014年)をとる年。過去に自分が一度挑戦して失敗していて、その取れなかった時の反省というか悔しさと、またその記録に挑戦するには、また2年連続でとらなきゃいけないというプレッシャーもありました。そこで、またチャンスが巡ってきて、これを逃したら次いつになるんだろうと思ってナーバスになっていて、自分の力も出し切れるかという不安もありました」

「次の4年目(2015年)は誰も取ったことがないので、自分もチャレンジャーとしてやっていました。今年も同じですね。誰もやっていないのでチャレンジする気持ちで臨みました。ただ絶対取りたいという欲はどんどん強くなっていったし、チャンスが巡ってきたら取りたいなと思っていました」

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その点、ずっと勝ち続けて来た中で前回の岡山で久々の“負け”を経験。それが彼をさらに強くさせる原動力にもなったようだ。

「あの負けが、この最終戦で良い薬になったと思います。簡単に勝っているわけじゃないし、でも勝ちを求めて毎回やっているわけで、そこ中で“記録って簡単に止まるものなんだ”という単純な気持ちと、久々の負けだったので、悔しくて次は絶対勝ってやるぞという気持ちになりました。初心に帰るじゃないですけど、良い薬になりました。今回はいいレース、いいバトルが見せられたので、良かったと思います」

もちろん、参戦しているライダー全員が優勝を目指して走っているのだが、それを実現できるのは各レースで1人だけ。その中で中須賀は今季も6勝をマーク。確実に勝つことを実現させ、それを継続させてきた。それを一番貪欲に追い求めていたことこそが、彼の真の強さなのかもしれない。

 

「この偉業は自分一人で成し得たものじゃない」

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また、中須賀は今シーズンを振り返って、チームのメンバーの頑張りもタイトル獲得には必要不可欠なものだったという。

「内容としてはいい1年になったんじゃないかなと思います。ただ(タイトル)を取れるのではなく、しっかりチャンピオンを取りに行く、優勝を取りに行くというのは非常に難しいこと。皆ひとりひとりがしっかり仕事をしないと、こういう結果は成し得ないし記録は生まれない。そういった意味でもチームを讃えたいです。僕一人だけの偉業じゃないです」

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ヤマハは設立60周年に合わせてファクトリーチームを復活。それに合わせて新型『YZF-R1』も導入。これまで以上に中須賀の強さが際立つことが多かったが、この5連覇はファクトリー体制なる前、さらに新型マシンになる前から連覇が始まっていた。バイクのパフォーマンスも重要だが、それ以上にチャンピオン獲得にチャレンジしてきた中須賀と、同じ目標で日々絶えず努力をしてきたチームスタッフ全員のサポートがあったからこその偉業なのだ。

 

まとめ

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記者会見が終わって、あたりも真っ暗になっている中、チームのピットでは恒例の記念撮影タイム。

用意されたマシンには、新しいゼッケン1番がすでに貼られていた。

スタッフが揃うまでのわずかな時間、今シーズンを振り返るように、新しい1番を見つめていた。

今年も、その“目に見えないライバル”と戦い続け、それに勝利しプレッシャーから解き放たれた、ある意味“ホッとできる”瞬間のように感じられた。

勝ち続けること。誰も抜けないような記録の樹立にチャレンジして行くということ。

それが、どれほどプレッシャーがかかるもので、難しいものなのか。きっと彼だけにしかわからないものなのだろう。

「毎回、簡単に勝っているわけじゃない」ということを常々強調して話していたが、その意味が心の底からわかったような2日間だった。

 

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