スバルと聞いて、「デザイン」というキーワードが思い浮かぶ様になったのは、ここ最近の話ではないでしょうか。それまでのスバルは頑固一徹、いいクルマは作っているけど万人受けとは言えない。でもそこがいい、そんなメーカーでした。ところが、近ごろ街中でスバルを見かけると、ふと無意識に目を奪われている自分に気付かされる。彼らのデザインはどうして変わったのでしょうか?
掲載日:2018.11/25
ブランドづくりへの道
スバルは、国内各社の中では比較的規模が小さな自動車メーカーと言えます。
2000年代半ばには、国内でのシェアは僅か2%ほど。
100台中2台がスバル車という計算になるので、決して多い数字ではありません。
それでも、独自の水平対向エンジンやシンメトリカルAWD、そして世界ラリー選手権(WRC)3連覇の偉業など、技術面での評価は群を抜いて高く、世界中に熱狂的なファンを抱えています。
しかしかつては、一般に広く知られているメーカーとは言えない状況でした。
どちらかと言えば「知る人ぞ知る」という言葉が似合う、孤高の存在だったのです。
しかし、スバルという社名をもっと広く知ってもらわなければ、新たなユーザーにステアリングを握ってもらう機会は生まれません。
そこで彼らが取り組んだのが、最初にユーザーの目に触れる重要な部分であるデザイン性の向上でした。
スバルにファミリーフェイスを
まずスバルは、欧州のメーカーに習いグリルデザインの統一によって「ファミリーフェイス」を決め、自らのブランドを確立しようとしました。
スバルのルーツである航空機にちなんだ「スプレッドウイングスグリル」を採用し、インプレッサからR2といった軽自動車に至るまで、幅広いラインナップに順次採用していきます。
しかし、これはイマイチ浸透せずに終わってしまう結果に。
成功しなかった一因は、ユーザーが描く硬派な「スバルらしさ」が、この新しいデザインで表現出来ていなかったからかもしれません。
また、スバル社内ではエンジニアリング(設計側)の意向が強く、デザイン側が妥協する事が多かったという事情もありました。
その為、他メーカーに比べるとクルマのそもそものプロポーションを追求することが難しい状況だったのです。
スバルをどうデザインする?
これらの経験からスバルは、改めて自らのアイデンティティを整理してデザインとして確立することを目指し、デザイン部の大規模な組織変更を行いました。
更に、それらを統括するチーフデザイナーとして、カーデザイナー・難波治氏を新たに起用しています。
難波氏はスズキで10年以上デザインを手がけた後、名門カロッツェリアとして知られるミケロッティでも活躍。1994年以降はフリーランスとして、国内外問わず多くの自動車メーカーのデザインに携わっていました。
そして新たにスバルのデザインを統括することになった難波氏は、改めて「スバルをデザインする」ことに着手していったのです。
まず彼が取り組んだのは、カーデザインのセオリーに忠実な美しいプロポーションを追求する事でした。
スバルは社内の安全基準が非常にシビアで、その影響から他社に比べてAピラーの角度がきついなど、デザイン面で不利な条件をいくつか抱えていました。
例えば、構造上フロントオーバーハングが長くなる水平対向エンジンも、横から見た時にタイヤが理想位置より内側に来てしまい、デザイン面での制約となっていたのです。
難波氏はこういった部分に手を入れ、デザインを向上させる為にエンジニア側の譲歩を求めました。
表面だけでなく骨格の段階から変えなければ、良いデザインは作れないのです。
こうしたプロポーション改善のための地道な「ネガ潰し」を行った上で、スバルがとるべきデザイン・コンセプトが丁寧に練られていきました。
デザインするのは機能性
スバルと言えば、AWD(全輪駆動)を生かした走破性がまず頭に浮かぶ人は多いと思います。
また、スバルの中で最も販売台数が多いのは北米の特に雪の多い地域であり、それもまたスバルの逞しさを物語っていると言えるでしょう。
そしてエンジニアとデザインの擦り合わせを経てもなお、安全性と耐久性を追求したモノコックは、依然として筋肉質で無骨さが際立つものでした。
そこで難波氏は、都会的でスタイリッシュな路線は狙わず、タフな環境にも耐える「強さ」「塊感」を強調し、これをスバルらしさとして前面に押し出すことにしたのです。
また新しいデザインの”顔”として、4代目レガシィで評価の高かった「ヘキサゴン・グリル」を、全ラインナップの共通アイコンとしてフロントに採用することも決定しました。
ちなみにヘキサゴンとは六角形の事であり、これはスバルのエンブレムである六連星(むつらぼし)に由来しています。
安定感のある六角形からすべてのデザインが始まり、逆に言うと他の部分には「強さ」「塊感」「安定感」という概念だけがある。
頑なに法則・決め事で縛る事なく、デザイナーの閃きや新しいアプローチを潰さないよう表現に自由が与えられているのも、難波氏の描くスバル車の特徴なのです。
スバル・レヴォーグのデザイン
デザインに再起をかけたスバルにとって、真のブレイクスルーとなったクルマと言えば、このレヴォーグでしょう。
スポーツとユーティリティを融合した実用的でタフな、まさにスバルらしいクルマと言えます。
このクルマはレガシィと同じ「ツーリングワゴン」にカテゴリー分けされるものの、知らずに街で見かけた人には様々な印象を与えるはずです。
レヴォーグのインスピレーションとなったのは、いわゆるシューティングブレイクと呼ばれるスタイル。
最近だとフェラーリ・FFの様に、スポーツクーペのキャビンを伸ばし、荷室の容量を増やしたカタチの事を表します。
どちらかと言うと、スポーツカーとしての成り立ちを持ったクルマと言えるかもしれません。
また、実用面では荷室の広さは4代目レガシィ並みという厳しい条件を課し、見事これをクリアしているのです。
注目のスタイリングは、まず正面を睨みつけるようなヘッドランプと、これをコの字型のポジションランプが覆う端正なライトユニットが目を引きます。
続くヘッドランプ端部の延長線上にはリヤめがけて真っ直ぐに伸びるショルダーラインがあり、傾斜のなだらかなCピラーを持つ流麗なシルエットをグッと引き締めているのです。
このショルダーラインは、スバル独特の「塊感」を生み出す要素として現行モデルの殆どに取り入れられているもの。
加えて、かつてのラリーカーを彷彿させる力強いフェンダーラインにもスバルらしさが漂います。
そんなレヴォーグのスタイリングは、新たなスバル車のベンチマークと呼べるものかもしれません。
スバル・WRXに見るスピリット
スバルのスポーツ・フラッグシップと言えば、長きに渡ってラリーで活躍してきたインプレッサ・WRXでした。
しかし新生スバルは「インプレッサ」と「WRX」を完全に分け、それぞれに全く異なったコンセプトを与えています。
これによりWRXのスタイリングは、ベース車に縛られない純粋なスポーツセダンとしてより端正に磨き上げる事が出来たのです。
とはいえWRXには、私たちが知っている「あの」インプレッサの要素がふんだんに見て取れます。
現行のインプレッサより、ある意味「らしい」と思えるそのスタイリングには、WRCなど過去のヘリテイジに対するスバルの誇りが滲んでいるのかもしれません。
これはデザインではなくメカニズムの話ですが、スバルは頑なに低床・低重心とされる水平対向エンジンに拘ってきたメーカーとして知られています。
しかしこのエンジンは、効率や性能の面だと必ずしもベストな構造ではないという意見も少なくありません。
それでも、長きに渡り水平対向+AWDという同じパッケージングに拘り、基本設計を変えることなく徹底的に煮詰めているからこそ、このクルマの完成度は他を圧倒するレベルにあるのです。
これらの機構を鍛えたのは、言うまでもなくラリーという過酷な舞台でした。おかげで主にヨーロッパでは、スバルは今も尊敬を集める存在です。
そんなスバルの魂、歴史が表現されているからこそ、このWRXの外観には唯一無二の存在感が備わっているのではないでしょうか。
まとめ
零戦も作った航空機メーカーとして名を馳せた後、戦後の混乱とともに会社を解体され、その後ひとつの会社に再び集まったという、特殊な創業の歴史を持つスバル。
夜空に輝くプレアデス星団にちなんだロゴマークの6つの星は、その時に集った6つの会社に由来しています。
彼らは飛行機屋のプライドを胸に質の高いクルマを数多く生み出し、航空機用エンジンのノウハウを生かした水平対向エンジンで独自の技術を確立してきました。
そんなスバルが今立っている場所は、まだまだ真のブランド化へのスタートラインです。
これまで培った歴史と技術をデザインという器で包み、より多くの人の心に届くクルマを作ることがスバルの未来を切り開いていくはず。
六連星(むつらぼし)のロゴがその歴史に似合う、格式あるブランドに育つその日まで。
スバルのデザインは、まだまだ向上していくことでしょう。
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