2017年6月22日の保安基準改正で自動車のカスタマイズが一部規制緩和となりましたが、その中で話題となったのが「タイヤのラベリング等の厚み部分については、タイヤの突出禁止規定対象外」。いわゆる「ハミ出しタイヤOK」という誤解もありましたが、実際はラベリング面のみの話。そしてそのラベリング面を使った画期的なタイヤが開発されていました。
掲載日:2017/08/06
CONTENTS
ハミタイOK?ラベリング面なら10mmまでOK
専ら乗用の用に供する自動車(乗車定員 10 人以上の自動車、二輪自動車、側車付二輪自動車、三輪自動車、カタピラ及びそりを有する軽自動車並びに被牽引自動車を除く。)であって、車軸中心を含む鉛直面と車軸中心を通りそれぞれ前方 30°及び後方 50°に交わる 2 平面によりはさまれる範囲の最外側がタイヤとなる部分については、外側方向への突出量が 10mm 未満の場合には「外側方向に突出していないもの」とみなす。
独立行政法人自動車技術総合機構・審査事務規程の一部改正について(第 11 次改正)
「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示(平成 14 年国土交通省告示第 619 号)等の一部改正に伴う改正」より抜粋。
保安基準改正による規制緩和で注目されたのが「10mmまでならハミタイ(ハミ出しタイヤ)が許可された!」というもの。
しかし、それはあくまでタイヤのサイドウォール、具体的には下記部分に限られます。
ラベリング面:タイヤのメーカーや銘柄、サイズなどが記載された面
リムガード:ホイールのリム(縁)を縁石などから保護するため、リムより少し外側になる部分
ここは外側へ10mmハミ出してOKですが、例えばホイールのリムがリムガードより外側になる引っ張りタイヤでリムがハミ出すのはNGです。
これはサイドウォール部が分厚いタイヤを装着したり、日本の保安基準に合わせてハミ出しタイヤと解釈されるのを防ぐ「日本仕様フェンダー」の緩和が目的とも言われています。
そのため、いわゆるUSDMなどで若干カスタマイズの幅が広がるものの、それ以外で恩恵を受ける車はあまり無いかもしれません。
テレーンタイヤなどに増えているガッチリしたサイドウォール
ここで「10mmハミ出し」が許されることになったサイドウォール面ですが、ラベリング面と言われることからも、通常はあくまでタイヤの「ラベル」として機能しているだけで、さほど凹凸はありません。
しかし、最近ではテレーンタイヤと呼ばれるオフロード用タイヤでショルダー部分を超え、サイドウォール部分まで半分くらいガッチリとブロックパターンのあるタイヤも出てきていますし、タイヤ自体もかなり補強されています。
そうしたタイヤを履いて走行する際、サイドウォールがハミ出しても10mmまではOKになったことで、車種によってはタイヤの選択肢が広がりました。
サイドウォールを積極的に使う横浜ゴムの「エアロダイナミクスタイヤ」
また、保安基準改正以前からサイドウォール部を単なるラベリングだけではなく、もっと積極的に使おうというタイヤメーカーがあり、その代表例が「ADVAN」ブランドのスポーツタイヤなどで知られるヨコハマタイヤ(横浜ゴム)です。
車のボディを使ったエアロダイナミクス技術(空気の流れをコントロールする技術・空力技術)は、空気抵抗を低減した燃費改善、あるいは空気抵抗で車体を路面に押し付けるダウンフォースにより高速安定性を得る技術として、よく知られています。
しかし、単純に空気抵抗を低減すればダウンフォースは減少し、高速安定性やトラクション(タイヤが路面に対して働かせる力)は不足気味。
逆にダウンフォースを増やせば空気抵抗も増加するので、高速走行にはより動力性能が必要となりますし、燃費も悪化します。
このバランスが重要なため各社工夫のしどころで、中には日産 R35GT-Rのように空気抵抗を減少させながら、高速安定性やトラクションのため車重を重くしている例もあるほどです。
ならばタイヤについても同じことが言える、そう考えた横浜ゴムでは、2010年からエアロダイナミクスタイヤを開発してきました。
同年に発売した同社の低燃費タイヤ「BluEarth-1 AAA spec」では、ゴルフボール表面と同じように無数の凹みがある「ディンプルサイドデザイン」も、エアロダイナミクスタイヤの一種です。
試行錯誤の初期「インサイドフィン」
横浜ゴムによれば、60km/h前後でタイヤの転がり抵抗と自動車の空気抵抗はほぼ同程度、それ以上では空気抵抗が急激に増加していき、かつ車体の下に入り込んだ空気で車体を浮かす力、リフト量が増大し、高速安定性やトラクションを奪っていきます。
それにはタイヤの周囲を流れる空気の乱れも大きく関わっており、これを改善して空気抵抗とリフト量を低減できれば、車全体のエアロダイナミクスに大きく寄与できると考えたのです。
そこで最初はタイヤの内側サイドウォールにフィン(突起)を設けました。
しかし、この「インサイドフィン」で発生させた空気の渦は、車を前方に押し出す一方でリフト量を増加させ、空気抵抗も減少しにくいことがわかりました。
アウトサイドフィンの形状を工夫し「空気抵抗とリフト量の低減」
逆に外側へフィンを取り付けた「アウトサイドフィン」では、リフト量も空気抵抗もインサイドフィン以上に増加するというシミュレーションが出ていました。
しかし、フィンの形状を工夫すれば改善可能と考えられたので、さまざまなフィン形状が試行錯誤されます。
その結果、高さ3mm程度のフィンで車体下の空気を外側に逃がし、気圧を下げて車体が浮きにくなり、リフト量を減らせることがわかりました。
さらにタイヤ上部表面で整えられた空気はスムーズに車体サイド側を流れるようになり、空気抵抗を減少させたのです。
まさに「一石二鳥」の効果で、このエアロダイナミクスタイヤは東京モーターショー2015に展示され、好評を得ました。
製品への応用はいつになるか?
アウトサイドフィンは高く、あるいは大きくすれば空気抵抗は増える反面、車体の下の気圧をより下げてダウンフォース効果も期待できそうです。
市販品に応用する場合は、用途ごとにフィンの高さや形状が工夫され、さまざまな製品が登場すると予想できます。
その過程で、従来はラベリング程度だったサイドウォールのラベリング面に取り付けられたフィンが、「ハミ出しタイヤ」と受け取られないか?は重要なところでした。
2017年6月の保安基準改正は、単にハミ出しタイヤの可否だけでなく、エアロダイナミクスタイヤの実用化に向けた大きな一歩、とも考えられます。
まとめ
保安基準改正で認められた「ラベリング面の10mmハミ出しOK」。
エアロダイナミクスタイヤを開発しているメーカーにとっては、日本市場で販売する上での障害が取り払われたという意味で、大きな朗報です。
合わせて読みたい
3秒かかると「遅い!」と言われるF1のタイヤ交換、どうしてそんなに早いの?
[amazonjs asin=”4534009585″ locale=”JP” title=”自動車のメカ これだけ知っていれば大丈夫―シロウトのための整備、点検から タイヤ交換、トラブル処理まで (エスカルゴ・ブックス)”]
Motorzではメールマガジンを始めました!
編集部の裏話が聞けたり、月に一度は抽選でプレゼントがもらえるかも!?
気になった方は、Motorz記事「メールマガジン「MotorzNews」はじめました。」をお読みいただくか、以下のフォームからご登録をお願いします!