エンジンの吸気圧を上げてパワーアップを実現する「過給機」で、ターボチャージャーとともに双璧をなす「スーパーチャージャー」ですが、チューニング用のアフターパーツやコンプリートカーを除けば、近年はあまり見かけなくなりました。「減った」というより、そもそもあまり広まらなかったスーパーチャージャーですが、なぜなのでしょうか?

ターボやDOHCと同様、「SUPER CHARGER」のデカールを誇らしげに貼っていた時代もあった。画像はトヨタAW11型MR2 / Photo by orion

過給機らしいスーパーチャージャーは国産車だともはやゼロ?

スーパーチャージャーとしても使える「高応答エアサプライ」を組み込んだ、マツダのSKYACTIV-X2.0「HF-VPH」/ 出典:https://www.mazda.co.jp/beadriver/dynamics/skyactivg_skyactivd/03/

2020年代に入ってから、どうも2030年代に何らかの電動化を行った車以外は、少なくとも先進国では新車販売が皆無、あるいは緩和されたとしても非常にやりにくくなるようで、世界的には早々に、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなど内燃機関へ見切りをつける自動車メーカーも出てきています。

それゆえ今までのようにユーザーの心を熱くさせるようなエンジン、特に純ガソリン車や純ディーゼル車用のものは、今後そうそう出ないのではないかとまで考えられる世の中になってきましたが、中でも国産車では早々に消えかけているのが機械式過給機、「スーパーチャージャー」を採用したエンジンです。

1.2リッタースーパーチャージャーエンジン「HR12DDR」を搭載した日産の2代目ノートも、2020年11月のモデルチェンジで3代目になると、自然吸気仕様のHR12DEを発電機としたe-POWER専用車になり、残るはカワサキのオートバイ、「ニンジャH2」くらいでしょうか?

一応はマツダのMAZDA3やCX-30のSKYACTIV-X2.0に搭載された「高応答エアサプライ」がスーパーチャージャー扱いを受けていますが、実際には吸気量コントロールを行っている程度で、過給とまでは行かず、今後の展開次第では過給機としての応用も可能なものの、厳密にはスーパーチャージャーではありません。

チューニング用のアフターパーツでは後付けのスーパーチャージャーキットが販売されているものの、国産四輪車メーカーが販売する車に採用されている過給機は全てターボチャージャーで、少なくとも2021年4月現在ではスーパーチャージャーの自動車は新車販売されなくなりました。

輸入高級車でも電動スーパーチャージャーを用いた車がメルセデス・ベンツSクラスなどの一部にあるのみで、すっかり影を潜めた形です。

そもそも主流になりえなかったスーパーチャージャー

リショルムスーパーチャージャーを組み込んだ世界初の量販車用ミラーサイクルエンジン、マツダ「KJ-ZEM」 / 出典:https://www.favcars.com/mazda-millenia-1995-99-pictures-305942.htm

ここで国産車の歴史を振り返ってみると、乗用車でスーパーチャージャーを初採用した市販車は、1985年9月に発売された「トヨタ クラウン2000ロイヤルサルーン・スーパーチャージャー」で、2リッター直6DOHCの1G-GZEUを搭載していましたが、1970年代末に日産がターボ車を発売するよりずいぶん後の話です。

その後、1987年にはスズキ キャリイ、ダイハツ ハイゼット、三菱 ミニキャブといった550cc時代の軽商用車で採用されるも、1990年からの660cc化による排気量の余裕から、トルク不足が解消されると姿を消していきます。

日産がマーチR/マーチスーパーターボでターボとスーパーチャージャーを組み合わせたツインチャージャーを採用したり、マツダがカペラやクロノスのディーゼル用にプレッシャーウェーブ・スーパーチャージャー、ユーノス800/ミレーニア用としてリショルムスーパーチャージャーで過給するミラーサイクルエンジン「KJ-ZEM」を搭載した事もありましたが、いずれも一般に普及するには至りませんでした。

唯一スーパーチャージャーを多用したのがスバルの軽自動車で、2気筒末期のEK32-Zや550cc4気筒のEN05Z、さらに660cc4気筒のEN07系でもDOHCにSOHC、インタークーラーの有無など、数種類のスーパーチャージャーエンジンを採用し続けましたが、2012年のスバル軽自動車自社生産終了とともに、全て廃止されています。

2000年代に入って一部で環境性能と出力を両立したいエンジンや、ツインチャージャー用として復権の動きはありましたが、ツインチャージャーはVWやアウディが一時期熱心だったもののターボのみに切り替わり、今やボルボくらいしか使っていません。

そのボルボも早々に全販売車種のEV化を決めたため、機械式スーパーチャージャーの命運は風前の灯火となっており、近年になってエンジンへの負担が少ない電動式スーパーチャージャーをターボと組み合わせる方式が残るくらいです。

そもそもスーパーチャージャー単体を搭載する車種自体、自動車用ターボが普及する以前を除けばスバルの軽自動車が盛んに使ったくらいだったため、減るもなにも、そもそも全く流行りませんでした。

スーパーチャージャーはなぜ普及せず、ただ減り続けたのか

国産車でもっともスーパーチャージャーを多用したスバルの軽乗用車、ヴィヴィオ / 出典:https://www.subaru.jp/brand/technology/history/

「ターボラグでレスポンスが悪く、低回転域では過給しない」など、ターボエンジンに比べ、低回転から過給してレスポンスのよい大排気量エンジンのように使えるメリットを評価する声はあったものの、複雑でかさばり、重く高コスト、高回転域ほど効率が落ちるというデメリットがあるスーパーチャージャーは、最初から先が見えていた過渡期のメカニズムだったと言えます。

確かに昔のターボはノッキング対策で圧縮比が小さい事もあり、低回転ではスカスカなトルク、かと思えば「どっかんターボ」と呼ばれるほど乱暴に過給が立ち上がり、「速いけれども扱いにくい」というイメージが染みつき、さらに燃費が悪い、オイル管理が面倒といったデリケートな部分もあるなど、あまり一般ユーザーが乗る実用車向きとは言えませんでした。

しかし、技術の進歩でターボのデメリットが次々に克服されると、制御が容易で構造は単純、低回転からも過給が立ち上がって、大排気量エンジン並の太いトルクがフラットに続くため運転しやすく、エンジンの可変バルブ機構やミッションとの統合制御で低回転実用志向でも高回転域ハイパワー志向でも、制御を分けるだけで作りやすいと、いい事づくめ。

気がつけば世の中の車は、ほとんどが可変バルブ機構つき直噴DOHCマルチバルブのターボエンジンになっており、少々面倒なターボチャージャー用の配管レイアウトがいらないという以外にあまりメリットのないスーパーチャージャーは、採用され続けるわけもありません。

この傾向は自動車の電動化が進むとますます強まり、スーパーチャージャーが得意とする低回転トルクも、停止状態から大きなトルクを発揮するハイブリッド車のモーターの方がよほど有利です。

そのため、唯一エンジンの力で駆動するためパワーロスがあるという、機械式スーパーチャージャーの欠点を、電動モーターで駆動して克服した電気式スーパーチャージャーが取って代わり、高級車へ採用されるくらいになってしまいました。

今後もハイブリッド車やレンジエクステンダーEV用の発電機に過給機の必要性は薄く、マイルドハイブリッド車などで求められても大抵はターボで事足りるため、スーパーチャージャーが大々的に使われるような時代は、もうないと考えてよいでしょう。

ミャーミャー言っていたスバルの軽スーパーチャージャーが懐かしい

今や「スーパーチャージャー」といえば、テスラの充電スタンドの方が有名かも? / Photo by Open Grid Scheduler / Grid Engine

国産スーパーチャージャー車で活躍したものというと、まだ16バルブ時代に低速トルクが細かった4A-GEのスーパーチャージャー仕様の4A-GZEを搭載した、トヨタAE92カローラレビン/スプリンタートレノや、AW11型MR2がまず思い出されます。

AE101の時代になると、もう20バルブ仕様4A-GEがあったので、スーパーチャージャーの影は薄かったものの、AE92やAW11の時代は威力を発揮し、ジムカーナでは凄腕ドライバーが乗ったAE92のスーパーチャージャー仕様が、まだ熟成前のDC2インテグラタイプRを破るという番狂わせさえありました。

さらに印象深いのはスバルの軽自動車で、それも特にヴィヴィオのRX-RやRX-RA。

高回転までブン回すと独特のミャーミャー音を響かせており、等長エキマニ採用前でドコドコと排気干渉音を響かせていたインプレッサなどのボクサーエンジンとともに、スバル車が走ると独特な音ですぐわかったほどでした。

モータースポーツならトヨタエンジンに、イートン製ベースのスーパーチャージャーを組み込んだ、ロータス エキシージもエンジン音が独特でしたが、ロータスはエリーゼもエキシージもエヴォーラも生産終了を決めています。

あまり流行らなかったスーパーチャージャーですが、いよいよ出番がほとんどなくなると、独特の存在感が消え、少々寂しいような気がしなくもありません。