軽スペシャリティカー初期の傑作として名高いフロンテクーペ。1976年に軽自動車規格が改正された事により、若干の中断期間を挟んでモデルチェンジ。1977年に改名の上で登場したのがセルボです。当時、厳しい排ガス規制の中ではスポーツ性の維持が困難であったこともあり、女性ユーザーを意識してフロンテクーペとはだいぶ性格の異なる車となりました。
排ガス規制強化と軽規格改訂で揺れる中登場した、初代セルボ
フロンテクーペが1976年で生産・販売を終了して以来、軽スペシャリティカーの販売を一時中断していたスズキですが、それには1976年1月の軽自動車規格改訂に対する対応という背景もありました。
第1次オイルショック(1973年)以来の省燃費志向と厳しくなる一方の排ガス規制に対し、軽自動車に限らず各自動車メーカーはその対応に追われて青息吐息。
何とか規制を通過したエンジンでもレスポンス悪化などカタログスペック以上の劣化は避けられませんでしたが、登録車(小型車や普通車)の排気量増加やターボ化でパワー不足を補ったのと同様、軽自動車も1976年に排気量上限が550ccに引き上げられました。
それと同時に、1950年7月の改訂以来変化の無かったボディサイズ上限も広げられ、軽自動車はその過渡期にあったのです。
そのような事情もあってか、初代セルボはフロンテクーペの生産終了から1年以上たった1977年10月にようやく発売されました。
大型化と重量増加で女性向けスペシャリティカーへ転身
セルボは、一見するとデザインが似ていてRRレイアウトのクーペという点は共通な事から、フロンテクーペの寸法を拡大してヘッドライトを丸目にするなど、軽自動車規格改訂に合わせたビッグマイナーチェンジ版にも見えます。
また、モデルチェンジでFF化(1979年)が予定されていたフロンテと区別したかったのかも?と考えれば『セルボ』に改名したのも納得できるところ。
しかし、寸法拡大と同時に素材を厳選し、重量増加を最低限に抑えるなど、現在の車ではありがちな手法はこの当時まだ存在せず、しっかりと重量を増加。
さらに2気筒359ccのL50型に1気筒追加、539ccとしたT5Aは排気量アップの恩恵で低回転からのトルクはソコソコあり、スズキ特異の2ストローク3気筒は騒音や振動の面でも有利でしたが、いかんせんピークパワーや高回転でのレスポンスに難がありました。
その上、排ガス規制が商用車より厳しい乗用車用エンジンゆえ、酸化触媒の追加などでフロンテクーペ時代のLC10Wのように小さいながらもビンビン回るエンジンとはいかず、姿形は似ていてもスポーツカー路線は厳しいものがあったのです。
そのため、主要ユーザーとして女性をターゲットにした販売戦略がとられ、リアシートを可倒式に、リアウィンドウを開閉可能なガラスハッチにしてラゲッジスペースの使い勝手を改善したり、内装色なども女性向けに重点を置かれまました。
ちなみに、1980年代自動車チューニング漫画の金字塔『よろしくメカドック』でも、婦警の優ちゃんが初代セルボのミニパトに乗っています。
また、スポーティグレードとしてフロントディスクブレーキを装備したCX-Gもあり、加速志向のファイナルギアゆえ実用域での加速域は確保していましたが、最高速度は公称120km/h、実際には110km/h台に留まりました。
ただ、4サイクルの800cc(F8A)や1,000cc(F10A)エンジンを積んだ輸出版(ウィズキッド、またはSC100)は当然もっとパワフルで、低く構えて空気抵抗も少ないボディ形状から最高速度も140km/h台に達しています。
主なスペックと中古車相場
スズキ SS20 セルボ CX-G 1977年式
全長×全幅×全高(mm):3,190×1,395×1,210
ホイールベース(mm):2,030
車両重量(kg):550
エンジン仕様・型式:T5A 水冷直列3気筒2ストローク
総排気量(cc):539
最高出力:21kw(28ps)/5,000rpm(グロス値)
最大トルク:52N・m(5.3kgm)/3,000rpm(同上)
トランスミッション:4MT
駆動方式:RR
中古車相場:108万円
まとめ
フロンテクーペの時には多数が参戦していたレースには、ほとんど参戦歴が見られず、メジャーイベントでは初期の全日本ジムカーナ選手権に改造がかなり自由なD車両のベース車としていくらか参戦例が見られる程度。
さらにホンダが初代シビックや大型バイクへの注力のためTN(軽トラ)を除く軽自動車から撤退してしまい、最大のライバルだったホンダZを失ったこともあり、フロンテクーペと47万円アルトやアルトワークスに挟まれた初代セルボは、どうしても印象が薄くなってしまいます。
しかし後年になって様々なチューニング手法が知られるようになると、T5Aも点火系をポイント式からフルトラ化すれば全域トルクアップ&著しいレスポンスアップが可能なエンジンだと知られるようになり、初代セルボはそうしたチューニングの素材として最適で、マニアにとっては『イジりさえすればフロンテクーペの最強版』的存在になったのです。
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