各メーカーにおいて、最強の車に与えられる称号。スズキの「最強」とは何でしょうか?現在ならスイフト「スポーツ」やアルト「ワークス」でしょう。しかし、ちょっと古い自動車ファンなら「GT-i」と答える人もいるかもしれません。軽自動車より安いコンパクトカーに搭載された熱い心臓のホットモデルにだけ与えられた、最強の称号とはどのようなものだったのでしょうか。

 

Photo by Tony Harrison

 

 

スズキの「最強」昔ならSS、今なら「スポーツ」か「ワークス」?

 

Photo by FotoSleuth

 

軽自動車とコンパクトカーの開発・販売では日本のみならず世界有数の実力を持ち、かつてはGMが「敵に回したくないメーカー」としてGMグループに取り込んでいた時期もある、スズキ。

現在はトヨタ陣営に属するとはいえ、ダイハツや日野のような子会社でもスバルほど濃い関係でも無く、マツダと同じく独自の立場を持ったメーカーであることには変わりません。

そのスズキですが、四輪車への進出以来、1960年代わずかに販売したフロンテ800を除き、かなりの期間にわたり「ほぼ軽自動車メーカー」でした。

そのため特別な最強グレードといっても「コークボトル」と呼ばれた2代目フロンテの「SS」や「SSS」くらいで、フロンテクーペや初代セルボなど「とがったモデル」はあったものの、他社のように「最強の称号」を持ったモデルにはあまり縁が無ありません。

後に軽自動車アルトの最強版「アルトワークス」やコンパクトカーのスイフトにも同様に「スイフトスポーツ」という最強版を持ちましたが、専用エンジンを搭載した特別な存在かと言えば、少し違う気もします。

(例外はアルトワークスの競技ベースモデル、アルトワークスRくらい)

その意味でスズキの車づくりは日本メーカーの中でもかなり独特と言えますが、唯一の例外がコンパクトカー「カルタス」に専用の高回転高性能エンジンを搭載した「GT-i」でした。

 

日本国内ではスイフトの先代、「軽自動車より安いコンパクトカー」だったカルタス

 

Photo by Spanish Coches

 

1983年に登場し、上級版「カルタスクレセント」を含めれば2台が16年にわたって販売されたコンパクトカー、カルタスはスズキがフロンテ800以来、14年ぶりに発売した「普通車」でした。

軽自動車とそれをベースに軽規格を超えるエンジンを搭載したモデル(ジムニー8など)しか作っていなかったスズキですが、1981年にアメリカのGM(ゼネラルモーターズ)と提携し、GMグループへコンパクトカーを供給するようになります。

その第1号がカルタスで、海外ではさまざまなGMブランドで販売されましたが、スズキブランドでの海外名は「スイフト」でした。

つまり2017年1月に発売された4代目スイフト、その初代モデルが2000年に登場する前から存在しており、厳密に言えば現在の4代目スイフトは「通算6代目」と言えるかもしれません。

(もっとも、日本の「スイフト」は海外では「イグニス」として販売されることも多かったのですが)

ただし、ここではあくまで日本市場での名称を優先し、1999年以前のモデルは「カルタス」、それ以降を現在までの4代にわたる「スイフト」として紹介します。

2代にわたり販売されたカルタスおよび初代スイフトは、2代目以降のスイフトと異なり「低価格の簡便なコンパクトカー」として開発されました。

「軽自動車より安いコンパクトカー」として、同時代の軽自動車廉価グレードと同程度、時にはそれよりチープな装備で、既に高付加価値化・高価格化が進み始めていた軽自動車より安価に購入でき、走行性能は最低限、満足いくレベルを確保。

要するに「安価ながら、”軽自動車ではない”ことも含め、ユーザーに最低限度の満足度を提供する車」だったわけです。

 

スズキとしては特異なホットモデル「カルタスGT-i」の誕生

 

 

Photo by Spanish Coches

 

そうした「最低限の自動車」とも言える存在だったので、性能的には平凡そのものでした。

しかし、気持ちよく回るエンジンや運転が楽しくなるハンドリングより「とにかく価格」と考えるユーザーにとっては歓迎すべき車で、平凡とはいっても日常的な使用には全く問題の無い、実用的な車だったのです。

一応、デビュー翌年には世の中なんでもターボという時期だったのでターボ車や1クラス上の1,300ccエンジン搭載車が設定されましたが、「とにかく安い」というカルタスのポジションはそのままでした。

しかし1986年、サスペンションの変更なども含むかなり大がかりなマイナーチェンジが行われた際に、現在に至るスズキの歴史ではかなり特異なホットモデル「GT-i」が追加されたのです。

 

1.3リッターDOHC高性能NAの、熱い心臓

 

Photo by André

 

初代カルタスGT-i(AA33S)に搭載されたG13Bは、従来からカルタスの1,300cc版に搭載されていた1,324ccのG13Aを若干ショートストローク化して1,298ccとした上でDOHCヘッドを載せ、ハイカムを組むなどして97馬力を発揮しました。

既に前年、アルトツインカム12RSが登場していたので初のDOHCエンジンではありませんでしたが、「スズキ初の普通車用DOHCエンジン」です。

今なら「1.3リッタークラスのDOHCで97馬力なんてフツーすぎる」と思うかもしれませんが、何しろ1986年の話で車重も730kgしか無かったので、今でも「軽くてハイパワー」の部類に入ります。

モデル末期には110馬力までパワーアップ、2代目カルタスGT-i(AA34S)では810kgまで車重が増えていたとはいえ、115馬力になっていたので、その傾向は続きました。

なお、初代 / 2代目カルタスの同時期同クラス車と動力性能を比較すると以下の通りです。

スズキ AA33S カルタスGt-i:1.3リッター4気筒DOHC16バルブ 110馬力

スズキ AA34S カルタスGt-i:1.3リッター4気筒DOHC16バルブ 115馬力 / 11.2kgm

ダイハツ G100S シャレード GTti(後にGT-XX):1リッター3気筒DOHC12バルブターボ 105馬力 / 13.3kgm

ホンダ GA2 シティCR-i / CZ-i:1.3リッターSOHC4気筒16バルブ 100馬力 / 11.6kgm

トヨタ EP71 スターレット Si / Ri:1.3リッターSOHC4気筒12バルブ 82馬力 / 10.5kgm

トヨタ EP82 スターレット Si / Gi:1.3リッターDOHC4気筒16バルブ 100馬力 / 11.8kgm

ダイハツのみ1.3リッターNAのホットモデルが無かったので1リッターターボで紹介していますが、スズキが当時のNAエンジンとしてはかなりの高出力エンジンを搭載していたことがわかります。

ただし、1989年には既にホンダから初のDOHC VTECエンジンが登場しており、「高回転高性能型DOHCエンジン」の時代が到来していたにも関わらず、低回転トルクの細い1.3リッタークラスではあまりNAハイパワーエンジンは流行りませんでした。

トルクを補うため流行ったのはターボエンジンで、カルタスGt-iのG13BもNA高出力エンジンとはいえ、好評の理由はむしろ低速トルクに配慮した実用性の高さだったのです。

しかし、カルタスGT-i用のG13Bはその専用エンジンであり、現在まで1.3リッターNAエンジンで「もっともリッター100馬力に迫った」エンジンなのは確かでした。

このエンジンを搭載した「GT-i」グレードは、スズキにとって特別な「最強の称号」だったことは間違い無いでしょう。

 

まとめ

 

Photo by André

 

2代にわたって作られたカルタス「GT-i」ですが、その称号が以降のスイフトなどに受け継がれることはありませんでした。

1992年に受注生産扱いとなり、上級版カルタスクレセントが登場して従来のカルタスが廉価版として併売される頃にカタログ落ちしたのが最後のようです。

モータースポーツではホンダ GA2シティ登場以前はトヨタ EP71スターレットともども1.3リッター未満のクラスでは主力車種でしたが、GA2シティの飛び抜けた性能や軽ターボの台頭で、ひっそりとその役目を終えた形になります。

スズキではその後もスイフトスポーツやアルトワークス以外に、スイフトRSやアルトターボRSといった「RS」グレードを登場させていますが、いずれも最強とまではいかないモデルばかり。

いつか「スイフトスポーツGT-i」のような形で復活する日は、来るのでしょうか?

 

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