かつて『プリンス』という自動車メーカーが存在した頃、そのフラッグシップモデルだったグロリア。後にプリンスは日産自動車へ吸収合併されますが、日産 グロリアとしてその後も長らく販売され続けます。そんなプリンスが最後に開発し、そして日産で最初に販売されたグロリアとなったのが、1967年に発売された3代目でした。
『今度こそユーザーのために』開発と販売が力を合わせた3代目グロリア、始動
第2次世界大戦後、旧立川飛行機系の『たま自動車』と旧中島飛行機系の『冨士精密』が合併。
紆余屈折の末に『プリンス自動車工業』と社名が落ち着いたのは1961年の事でした。
とはいえそれまでも本格国産乗用車プリンス・セダン(実はトヨペット クラウンより早く1952年発売)などで『プリンス』ブランドを使っていたので、ようやくブランドと社名が一致したカタチとなったのですが、翌1962年に2代目S40系グロリアが発売されます。
スカイライン(初代)の上級版と言えた初代グロリアとは異なり、2代目では高級車路線となります。
トヨタ・クラウンや日産 セドリック、いすゞ ベレルと並ぶ高級車路線となった2代目グロリアですが、実は、発売とほぼ同時に次期モデルの開発がスタートします。
この次期グロリアの開発体制はプリンスとしては画期的な体制が取られ、それまでの技術陣(プリンス自工)主導での開発から、販売(プリンス自販)サイドも参加した合同企画委員会が立ち上げられました。
要するに技術偏重で高コスト体質な割にユーザーが求める時流に乗り切れておらず、作った車は自販に押し付け値引き販売で慢性赤字、という悪循環の改善を目論んだのです。
これだけ書くと、「やはりプリンスは無くなるべくして無くなったのか。」と思いたくなりますが、日産への吸収合併に至った直接的経緯は別な機会にでも……。
ともかくこの合同企画委員会方式はうまくいったようで、次期グロリアの開発は順調に進みました。
しかし、いよいよ3代目S6系グロリアとしての発売が迫り、カタログ写真まで撮影された1965年8月に事態は急転直下。
プリンスは日産へ合併するという、頭から冷水を浴びせられるような発表がなされたのです。
このようなタイミングで開発が進んでいたため、ボンネット前端の『P(プリンス)』マークは既に撮影の終わっていたカタログ写真ではそのままだったものの、生産型は『N(日産)』マークへと変えられる事に。
同時期に開発されていた皇室向け御料車『プリンス・ロイヤル』のみPマークのままだったのは、消えゆくプリンスのせめてもの意地だったのかもしれません。
ロイヤルルックやG7エンジンなどプリンスの意地から次第に『日産化』へ
本来プリンスS6系としてデビューするはずだった3代目グロリアは、日産の型式『A30系』を与えられる事となり、ボンネット先端のNマーク以外にも、日産からの要望により以下の改正が加えられました。
・リアサスペンションは先代のド ディオン式から保守的なリーフリジッドへ。
・日産 プレジデントと競合する3ナンバー大排気量車グランドグロリアは廃止。
・バンはOKだが、セドリックワゴンと競合するグロリアエステート(ワゴン)は廃止。
・2リッター直列4気筒エンジンはプリンスの新型SOHCエンジンのG20ではなく日産の旧型OHVエンジンH20へ(G20は後に初代ローレルへ搭載)。 etc…
つまり日産車との共用部分を増やしてコストダウンを図りつつ、プレジデントやセドリックといった日産でも重要ながら販売台数がそう多く無い車種と食い合わないよう調整が図られたのです。
ただしそれは『日産が自社製品のためゴリ押しで3代目グロリアの商品性を低下させた』というわけでなくて共倒れ回避の意味が強く、さらにド ディオンアクスルなどはプリンスでも2代目以来の異音問題を解決しきれていなかったので、むしろ渡りに船でした。
むしろ大事だったのは日産ブランド化したとはいえ3代目グロリアが無事に世に出られたことです。
1963年式のポンティアック・カタリナなどに影響を受けたと言われるデザインはほぼそのままで、次期型以降セドリックの兄弟車となるグロリアにとって、最後の独自デザインです。
上がハイビーム、下がロービームのタテ目2灯ヘッドライトや、5ナンバーサイズながら実寸以上にロー&ワイドに見せるルックスは御料車プリンス・ロイヤルと共通イメージで、『ロイヤルルック』として話題になりました。
また、ボディも2代目スカイラインから採用したモノコックボディの一種で応力外皮構造の『ユニットコンストラクション』を採用。
エンジンも先代から使われたプリンス渾身の直列6気筒SOHCエンジン『G7』だったので、その魂やデザイン、基本構造はプリンスそのもの。
ただし1969年のマイナーチェンジでG7は、より新しくハイパワーとはいえ日産の新型直列6気筒エンジンL20に変更されてしまい、もはやグロリアが『プリンス車』であり続けられる時間が残り少ないことを否応なく実感させられたのも、また事実でした。
主なスペックと中古車相場
日産 PA30 (プリンス S6) グロリア スーパーデラックス 1987年式
全長×全幅×全高(mm):4,690×1,695×1,445
ホイールベース(mm):2,690
車両重量(kg):1,305
エンジン仕様・型式:プリンスG7 水冷直列6気筒SOHC12バルブ
総排気量(cc):1,988
最高出力:77kw(105ps)/5,200rpm(グロス値)
最大トルク:157N・m(16.0kgm)/3,600rpm(同上)
トランスミッション:コラム3AT
駆動方式:FR
中古車相場:99.9万~198万円
まとめ
プリンスが日産に吸収合併されたことは今でも賛否両論あり、おそらくプリンスが存続できたならば、グロリアは4代目以降セドリックのエンブレム違いの兄弟車ではなく、もっと違った進化を遂げていたかもしれません。
ただ、3代目グロリアの企画・開発体制はユーザーを顧みない技術偏重への反省という意味でその後のプリンスに大変革をもたらした可能性もありましたが、折悪しく国の政策の影響を真っ先に受けてしまっただけでなく、改革が遅すぎた可能性も。
しかし、多少プリンスの血が薄まってしまったとはいえ、無事に世に出て『最後のプリンス高級車』として約4年のモデルライフを全うできたことを考えれば、あるいは3代目グロリアにとって日産との合併は悲嘆に暮れることばかりでは無かったとも思えます。
そして同時期に開発された御料車プリンス ロイヤルが長らく使われたこともあって、同じく国産乗用車では稀有な『タテ目』を持つ2代目グロリアのデザインは、多くの人に昭和の記憶を思い出させてくれる存在となりました。
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