「大抵は直6かV8の水冷大排気量エンジンをフロントに積んで後輪駆動。そして何より、ひたすらデカイ!」これはアメ車、それも1950~1970年代のモデルに対する先入観であり、ある意味では真実でもありますが、それをことごとく裏切る特異なモデルがシボレー コルヴェア。何しろせいぜい2.7リッターの空冷水平対向6気筒エンジンをリアに積み、ホイールベースを除けば当時の日本の5ナンバーサイズに収まるボディです!
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アメ車でコンパクトカー?いや本当です!シボレー・コルヴェアってそんな車
何かと大きく派手でパワフルなアメリカンマッスルカーが大好き、それがカリフォルニアともなれば、みんなオープンカーに乗っていそうなイメージのあるアメリカ合衆国。
しかし本当にその通りであれば誰もコンパクトで燃費のいい日本車になど乗らないわけで、1980年代に激しいジャパンバッシングを巻き起こした日米貿易摩擦は何だったのかという話になりかねません。
アメリカ人にも小型軽量で走りもよく燃費もいい車が大好きなユーザーは多く、日本車が台頭し始める1960年代以前は主にヨーロッパの小型車が受け皿になっていました。
当然アメ車メーカー、特にシェア争いの激しいビッグ3(GM、フォード、クライスラー)がそれを見逃すはずも無く、「ステイツのメーカーだってコンパクトカーくらい作れるぜ!」とばかりに、1950年代末から小型車市場へと参入していきます。
それらのほとんどはサイズやモノコックボディの採用はともかく、メカニズム的には保守的な『小さなアメ車』そのものでしたが、1台だけ違うベクトルを向いて頑張った車がGMのシボレー コルヴェアでした。
「フォルクスワーゲンの手法でアメ車を解釈したらこうなった。」としか言いようの無いコルヴェアは1959年に1960年型がリリースされた初代モデルから始まり、日本車基準ですら本当にコンパクトな小型軽量ボディを活かして、短くも華やかな一時代を築いたのです。
もしもフォルクスワーゲンやポルシェがアメ車を作ったら?たぶんこうなる
コルヴェアは何もかもが当時のアメ車、それもビッグ3が作る車としては規格外な車であり、それゆえ後にあまりに個性的すぎた高コスト体質、融通の効きにくい設計で寿命を縮める一因となりますが、当初はとにかく歓迎されました。
何しろ寸法はホイールベースを除けば日本の5ナンバーサイズに収まり、それでいてキャビンスペースは当時のフルサイズセダン並を確保。
それを実現するべく、プロペラシャフトを廃して低床化し、パワーユニットをコンパクトに収めてエンジンルームを最小限にすべく、当時のアメ車としてはかなり異例な2.3リッター空冷水平対向6気筒エンジンをリアに搭載していました。
また、これで後輪を駆動するのでトラクションは抜群。
フルモノコックボディやエンジンへのアルミブロックの採用と合わせて軽量化されており、大型セダンの廉価モデル程度の動力性能は確保しています。
それでいてフロントは軽いのでパワステ無しでもハンドリングは軽快。
スイングアクスル式独立懸架のリアサスペンションは後に走行安定性問題でかなり物議をかもしますが、それすら発売から5年経って外部の告発があるまで、対した文句はつかなかったほどです。
ボディバリエーションはベーシックな4ドアセダンのほか、2ドアのクーペとコンバーチブルが存在し、バケットシートを採用したスポーティグレードの『モンザ』もあり。
また、コンパクトなエンジンルームに水平対向6気筒を押し込んだのでエンジン換装や大排気量化によるパワーアップが困難な事への対策として、オプションながら市販車としてもっとも初期の1台となる自動車用ターボチャージャーが設定されていました。
そんなターボ仕様は『スパイダー』と呼ばれ、エンジンルームに許されるスペースの都合上、同じくオプションのエアコンとターボどちらかしか選べないという、後に日本でダイハツやスズキの軽トラ用スーパーチャージャーに起きたのと同種の問題があったのが難点。
それでも高性能版ですら98馬力(※SAEグロス値なので、現在のネット値では82馬力程度)だったのがターボ化で150馬力(同125馬力)と、約65%もパワーアップできた恩恵は大きかったはずです。
リアエンジンでも水平対向エンジンゆえに生まれた、初代コルヴェアの派生型
コルヴェアは少なくともGM車では他に例が無い特異な車だったので、そのままではコルヴェア専用パーツが多くなってしまい高コスト体質になってしまいますが、ジャンルは低価格コンパクトカー。
安く売るためには派生モデルが必須です。
そこで多数のコルヴェア派生型が開発・販売されましたが、もっともベース車に近かったのがステーションワゴン版のレイクウッドでした。
水平対向エンジンを採用したのはある意味こうした派生型の開発も見越しての事だったようで、レイクウッドでも荷室の下へ平たい(全高が低い)エンジンが収まっています。
続いて1BOXワゴン版がグリーンブライアで、水平対向エンジンをリアに搭載。
後輪を駆動するRRレイアウト乗用車ベースで1BOX車を作る手法は、フォルクスワーゲン・タイプ2(通称ワーゲンバス)を思わせます。
グリーンブライアはいわゆる『ミニバン』でもっとも初期の1台とされており、乗用車ベースで作られたミニバンという意味でも、現代のミニバンに近い存在。
これもやはりフォルクスワーゲン・T1(タイプ2のピックアップトラック版)同様の手法で作られた、ピックアップトラック版コルヴェアです。
ロードサイドはフォルクスワーゲン・T1や日本のサンバートラック初期モデルのように荷台が平面ではなく段差がありました。
これはフロントへのプロペラシャフトが無いので荷台前部を低床化できたため重い荷物を積むには好都合で、それを生かすべくロードサイドの側面にランプドアを設けて重量物の積み下ろしを容易にしたのがランプサイドだったのです。
主なスペックと中古車相場
シボレー コルヴェア(初代) 700デラックス 1961年型
全長×全幅×全高(mm):4,572×1,699×1,303
ホイールベース(mm):2,743
車両重量(kg):1,140
エンジン仕様・型式:水冷水平対向6気筒OHV12バルブ
総排気量(cc):2,287
最高出力:71kw(96ps)/4,800rpm(※グロス値)
最大トルク:170N・m(17.3gm)/2,800rpm(※同上)
トランスミッション:2AT
駆動方式:RR
中古車相場:皆無
まとめ
シボレー コルヴェア、特に今回紹介した1964年型までの初代モデルといえば、ラルフ・ネーダーが告発したスイングアクスル式リアサスペンションなどを起因とした横転事故など走行安定性に関する問題によって、ネガティブな印象もつきまといます。
結果的には「メーカーが指示した通りのタイヤ空気圧を守り、さらに改良型では大きな問題とならなかった。」あるいは少なくともポルシェやフォルクスワーゲンなど、同種のメカニズムを持つ車と同程度のリスクに留まると言われていますが、一度立った悪評はなかなか収まるものではありません。
しかし、最終的な(2代目の)生産終了から50年ほど経った今でも走行可能なコルヴェアが多数残っている事からもわかる通り、まだまだコルヴェア愛好家は数多く存在しています。
そしてこれからもアメ車の歴史上非常にユニークな車として、まだまだ愛され続けることでしょう。
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