8月20・21日にツインリンクもてぎで開催された全日本スーパーフォーミュラ選手権第4戦。今シーズンのチャンピオン争いは混戦を極めており、今回も誰が勝つのかに注目が集まった。そして、勝ったのは“遅咲きのルーキー”と言われていた関口雄飛。しかも予選でポールポジションを獲得し、決勝も全く相手を寄せ付けない完璧なレース運びだった。今回は、彼のコメントも交えながら参戦4レース目で掴み取った初優勝を振り返っていく。
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Q1でミディアムタイヤを選択!全てを完璧にまとめ上げ“取るべくしてとった”ポールポジション
今回限定で2スペックのタイヤが用意され、従来型の「ミディアムタイヤ」に加えて新導入の「ソフトタイヤ」が登場。各2セットずつ新品タイヤが各ドライバーに供給された。
ファンとしては見所満載なルールだが、各チーム・ドライバーは悩みどころ。特に予選では3ラウンドあるのにソフトタイヤは2セットしかない。理想としてはQ1をミディアムで突破し、Q2・Q3をソフトというパターンだが、今のSFは予選Q1から僅差の戦いとなっており、ここを突破するためにいきなりソフトタイヤを導入するドライバーが増えるのではないかと予想された。
14時10分にセッションが開始されると、午前中が雨だったこともあり新品のミディアムタイヤ1セット目を全車装着しタイムアタック。一旦ピットに戻って2セット目はやはりソフトタイヤを使用してきた。
しかし、今週末は走り出しから好調だったチームインパルは大きな賭けにでてミディアムタイヤを選択しコースイン。さらにソフトでタイムを伸ばす各車を尻目にジョアオ・パオロ・デ・オリベイラが1分33秒440、関口も1分33秒468をマークし、なんとワンツーでQ1を突破してみせた。
間違いなくチームインパルの流れとなり始めた予選だったが、続くQ2で明暗が分かれてしまう。
もてぎでは通算4勝を挙げ、得意としているオリベイラ。しかし、Q2では90度コーナー手前のブレーキング時にリアタイヤをロックさせてしまいタイムロス。なんと、この一つのミスで10番手に終わってしまいQ3進出を逃してしまった。
どんなに良いマシン、素晴らしいドライバーだったとしても、わずかなミスはノックアウトに直結してしまうのが、今のスーパーフォーミュラの難しいところ。そんな中で関口は集中力を切らさずに1分33秒214を記録しトップ通過を果たす。
そして、最終のQ3。
ライバルはすでに新品ソフトを2セット使い切っており、残る選択肢は新品ミディアムにするか、Q1で使ったソフトタイヤを再び使うか。その中で満を持して関口は最後まで温存できた2セット目の新品ソフトタイヤを投入。普通に考えれば間違いなく彼が有利なのだが、それでもQ2のオリベイラのように、一つでもミスをすればポールポジションは取れない。
そんなプレッシャーがかかる状況の中、関口は冷静だった。
しっかりと各コーナーを確実に攻めた走りで1分33秒002をマーク。2位以下に0.4秒もの差をつけ初のポールポジションを勝ち取った。
国内トップフォーミュラでの初ポールポジション。普通なら喜ばしいことだが、関口は特に嬉しがる様子はなく記者会見でも淡々とコメントしていくだけ。その理由はQ3で“自分だけ有利”だったことだった。
「Q1をミディアムで通れたことが全てでしたね。Q2もミスなく行けたし、Q3は僕が一番いい状況でアタックできました。僕だけソフトの新品を持っている状態でのポールだったので、ある意味イコールじゃない状況でとったので…嬉しさは半減していますね」と微妙な表情。もちろん、その状況を作るためにQ1でミディアムタイヤ選択という賭けにでて、そこでしっかり結果ののこしたからこそ得られたものなのだが、関口は正々堂々と勝負してライバルに打ち勝つことが一番価値があるものだと思っているようだった。
いずれにしても「今週の関口は速い」、そう思わせる予選だったことは間違いない。
わずか一瞬のために3日間かけて練習したスタート
翌21日の決勝日。ポールポジションには彼の到着シーンを撮影しようと、多くのカメラマンが待ち構えており、その注目度の高さが早くも伺えた。
グリッドでは冷静な表情も見せつつも生中継のJスポーツのインタビューでは「携帯電話をなくなっちゃって焦っています」という関口らしいコメントも出たが、実は彼の中には一番不安になることがあった。
それがスタートだ。
非常にレベルが高く、差も少ないスーパーフォーミュラでは唯一のオーバーテイクチャンスと言われているのがスタート。さらに今回のもてぎはコース特性上、追い抜くチャンスが非常に限られている。
しかし、関口はあまりスタートは得意ではなく、開幕戦鈴鹿でも予選3番手をゲットしたもののスタートで出遅れる結果になってしまった。
今回は走り出しから手応えをつかんでいた関口は、金曜専有走行の段階から何度もスタート練習を繰り返していた。
「スタートは苦手なので、重点的に人より多く練習しないと追いつけないと思っていました。でもやっぱり苦手でなかなか上手くいかなかった。オリベイラ選手の方がダッシュが良くて今朝も負けていて、自信はなかったです」
「でも、このレースで勝つことで自分のレース人生を大きく変えることになるから、今回だけは男を見せないといけないと思って、不安でしたけど自分に言い聞かせていました。いいスタートは切らなくていいから、とにかく普通のスタートで、石浦選手に並ばれてもいいから、普通のスタートを切ろうと心がけました」
絶対に1コーナーはトップを死守する。
その人一倍強い思いは、空回ることなく抜群のスタートダッシュへとつながった。
一方、一番けん制していた石浦宏明があまり伸びなかったため、余裕をもって1コーナーへ。そのあとは完全に関口のペースだった。
3周を終えて2位のアンドレ・ロッテラーに3.5秒の差をつけると、ラップを重ねるたびに徐々に差を広げていき、一時は10秒近いリードを築いた。
そして35周目に余裕をもってピットイン。チームも確実に作業を遂行し、順位を争っていたロッテラーや石浦の先行を許さなかった。
冷静に確実に走った後半スティント
後半スティントも関口は完全に一人旅。それでも、ラスト10周を切ったあたりから1分38秒台にペースを落とし始める。
まわりが1分37秒台でバトルをしている中、いくら後続と差はあるにしても、これは少し落としすぎではないか?と思ったが、彼自身はいたって冷静だった。
「最後はトラブルが起きないように、タイヤ、ブレーキ、エンジンをいたわって走っていました」
実際にはトラブルを気にしながら余裕はあまりなかったというが、最終ラップでは「やっぱり関口だな」と思う一面も。
なんとチェッカーまでまだいくつかコーナーがあるにも関わらず、ダウンヒルストレート終わりで観客に向かって手を振る余裕をみせた。
「昔、ナイジェル・マンセルがF1で手を振った時にキルスイッチ(エンジン停止ボタン)を触ってしまったことがあったので、気をつけましたが、さすがにストレートなら大丈夫だろうと思って手を振りました」とのこと。
しかし、星野監督から「ちょっと余分だよな」と記者会見でチクリと言われ、苦笑いをみせていた。
今回はキルスイッチを押すことなく無事にチェッカーフラッグ。
国内トップフォーミュラに新しいヒーローが誕生した瞬間だった。
一人のルーキーから一転し、ランキングトップへ
今回は関口自身の嬉しい初優勝だけではなく、週末で一気に11ポイントを稼ぎ合計17ポイント。ランキング首位に浮上したのだ。
ただ、これも偶然の産物という感じで驚いているようすはなく、レース前から今回にかけていたという。
「レースが始まる前はランキング10位でしたが、(逆転タイトルは)全くあきらめていませんでした。また今回しっかり上位で結果を残せば逆転できると思っていたので、それを達成できてよかったです。まだ何戦かあるので、最終戦になったらポイントのことは気にしようと思いますが、とりあえずは次の岡山と、その次のSUGOは勝つことだけを考えていきたいです」
全ての始まりは第3戦富士での3位表彰台
まさに完璧に予選から決勝まで走りきった関口。レース後も嬉しい表情はみせつつも、全体的に普段通りのクールさを装っていたが、本当は前回富士からの「悔しい気持ち」が生み出した結果なのだと思う。
第3戦富士では、終盤に次々と前のマシンを追い抜く活躍で3位表彰台をゲット。彼にとってはスーパーフォーミュラでの記念すべき初ポイントであり初表彰台だ。
しかし、レース後にできた彼の言葉は「3位という結果は満足できないので、嬉しいけど悔しい」だった。
常に勝つこと、結果を出すことに強いこだわりを見せ、それを達成するために、どんな時でも全力で攻めてきた関口。富士での3位に満足せず「まだ上を目指さなきゃいけない」という、貪欲な気持ちが、もしかすると金曜から繰り返したスタート練習にあったのだろうし、最後までミスのない集中した走りにつながったのだろう。
まとめ
正直、今年はチャンピオンの石浦をはじめ、開幕戦で独走優勝した山本尚貴、さらにオリベイラや、アンドレ・ロッテラー、中嶋一貴、そしてGP王者ストフェル・バンドーンと注目ドライバーが多かったが、関口に関しては「未知数」というところが多かった。
しかし、周りの評価を自分の走りで覆し、4戦目で優勝という快挙を成し遂げた。この「自ら流れを変えていく力」が関口が持つ本当の底力なのだろう。
残り3大会。彼を含めてチャンピオン争いはどうなっていくのか?大注目だ。