経済不況や生活様式の変化、デザインの流行り廃りなど、自動車メーカーはその時代ごとのさまざまな脅威にさらされており、場合によっては「倒産」の2文字が見え隠れするほど、厳しい局面にぶち当たることも少なくありません。しかし、ピンチを糧に、形勢を逆転させた素晴らしい車を誕生させてきましたのも事実です。今回は、そんな危機的状況のメーカーを立て直してきた革新的な車を3車種、ご紹介します。
スバル レガシィ(2代目)
1989年にスバル 初代レガシィが発売され、世にツーリングワゴンブームが湧き起こるほどの人気を博しました。
しかし、社運をかけたレガシィの膨大な開発費用により赤字は膨らみ、スバルは創立史上類を見ない経営危機を迎えます。
そんな中、スバルの新社長に就任した川谷勇氏により、「レガシィの徹底的なコストの見直しと現状からの品質向上」という大々的な構造改革が執り行われました。
その改革のなかで1993年10月に発売されたのが、「継承・熟成」をテーマにした2代目レガシィです。
他メーカーの同型車が続々と3ナンバー化するなかで、レガシィはテーマ通りに初代モデルの方向性を残し、室内空間を拡大しながらも5ナンバーサイズを継続します。
そして上位グレードでは「ツーステージツインターボ」を採用することで、最高出力は先代の220psから250psへと拡大。
先代の課題とされていたターボラグを低減したことに加え、メルセデス・ベンツに在籍していたオリブエ・ブーレイがチーフデザイナーを務めるという、国産車では初の試みが行われるなど、話題を呼びました。
徹底したコスト削減を行いつつも、こだわりぬいた品質でさらなる人気を獲得した2代目レガシィ。
1994年には年間で過去最高となる販売台数を記録し、スバルはようやく黒字を取り戻し、経営危機を逃れる事ができました。
スバル レガシィ(2代目) 基本スペック
ボディタイプ ハードトップ ドア数 4ドア 乗員定員 5名 型式 E-BD4 全長×全幅×全高 4595×1695×1385mm
ホイールベース 2630mm トレッド前/後 1465/1460mm 室内長×室内幅×室内高 2010×1415×1155mm 車両重量 1370kg
エンジン型式 EJ20 最高出力 250ps(184kW)/6500rpm 最大トルク 31.5kg・m(309N・m)/5000rpm 種類 水平対向4気筒DOHC16バルブツインターボ 総排気量 1994cc 内径×行程 92.0mm×75.0mm 圧縮比 8.5 過給機 ツインターボ 燃料供給装置 EGI(マルチポイント・インジェクション) 燃料タンク容量 60リットル 使用燃料 無鉛プレミアムガソリン
駆動方式 フルタイム4WD トランスミッション 4AT LSD 標準 変速比 第1速 2.785 第2速 1.545 第3速 1.000 第4速 0.694 第5速 —- 後退 2.272 最終減速比 4.444 出典:グーネット https://www.goo-net.com/catalog/SUBARU/LEGACY/4502093/
マツダ デミオ
バブル絶頂期の1989年、マツダは元々の店舗に加え、ユーノス、アンフィニ、オートザム、オートラマという5つのチャネル体制を引っ提げ全国展開します。
マツダの狙いは各地域に販売チャネルを多数置くことで販売力を強化し、各店舗間で兄弟車を増やしていくことで、バリエーション豊かな販売ラインナップを展開しようと目論んでいたのです。
しかし、多すぎるラインナップと販売店舗により、新車種の開発費と店舗の建築費用はかさみ、マツダの経営状況は苦しくなっていきます。
さらにはバブル崩壊が追い打ちとなり、マツダは倒産もささやかれるほどの経営危機に陥ってしまったのです。
その後、1996年7月にマツダは資本提携していた「フォード」傘下に入り、その翌月にマツダ デミオを発売します。
「小さく見えて、大きく乗れる」をテーマにしたデミオは、コンパクトカーでありながら広い室内空間とシートアレンジが特徴のモデルです。
当時流行のミニバンにも劣らない実用的な室内や、性別を問わないスタイリッシュな外観、そして値段が95万円~と安価なこともあり、発売開始から大ヒット。
その結果、デミオは1996年に日本カーオブザイヤー、1997年はRCJカーオブザイヤーを受賞し、マツダが息を吹き返すきっかけとなりました。
マツダ デミオ 基本スペック
ボディタイプ ハッチバック ドア数 5ドア 乗員定員 5名 型式 E-DW3W 全長×全幅×全高 3800×1650×1500mm
ホイールベース 2390mm トレッド前/後 1420/1400mm 室内長×室内幅×室内高 1725×1375×1240mm 車両重量 900kg
エンジン型式 B3-ME 最高出力 83ps(61kW)/6000rpm 最大トルク 11.0kg・m(107.9N・m)/4000rpm 種類 水冷直列4気筒SOHC16バルブ 総排気量 1323cc 内径×行程 71.0mm×83.6mm 圧縮比 9.4 過給機 なし 燃料供給装置 電子制御燃料噴射装置(EGI) 燃料タンク容量 40リットル 使用燃料 無鉛レギュラーガソリン
駆動方式 FF トランスミッション 5MT LSD —- 変速比 第1速 3.416 第2速 1.842 第3速 1.290 第4速 0.972 第5速 0.775 後退 3.214 最終減速比 3.850 出典:グーネット https://www.goo-net.com/catalog/MAZDA/DEMIO/2501244/
ホンダ オデッセイ
アウトドアブームとともに、RV車が流行していた80年代から90年代、ホンダはRV車の開発が急務となっていました。
しかし、RV車のベース構造がトラックやバンなのに対し、乗用車タイプしか展開していなかったため、開発に着手できず、バブル崩壊を迎えます。
RV車ブームへの乗り遅れとともに、NSXなどのビッグプロジェクトに多額の投資をしていたこともあり、ホンダ経営陣は窮地に立たされました。
ホンダは新型車の製作に入りますが、適切なベース車と潤沢な開発資金が用意できないなか、苦肉の策として「アコード」をベースにしたオデッセイを1994年10月に発売します。
3列シート車にも関わらず、RV車と比べて車高が低いことや、スライドドアがないこともあり、社内でも販売は不安視されましが、低床設計の広い室内空間や、低ルーフの重心の低さを活用した走行安定性は、これまでのRV車とは違った上質な実用性を提供。
さらには海外の人気映画とのタイアップCMの効果もあり、オデッセイの販売は加速していきます。
その結果、オデッセイは「クリエイティブムーバー(生活創造車)」第1号として、3ナンバー車首位の売り上げを達成。
その後も「ステップワゴン」とともに、ホンダの窮地を救っていきました。
ホンダ オデッセイ 基本スペック
ボディタイプ ミニバン・ワンボックス ドア数 5ドア 乗員定員 7名 型式 E-RA1 全長×全幅×全高 4750×1770×1645mm
ホイールベース 2830mm トレッド前/後 1525/1540mm 室内長×室内幅×室内高 2810×1505×1200mm 車両重量 1470kg
エンジン型式 F22B 最高出力 145p96-mv1wさzs(107kW)/5600rpm 最大トルク 20.0kg・m(196.1N・m)/4600rpm 種類 水冷直列4気筒SOHC16バルブ 総排気量 2156cc 内径×行程 85.0mm×95.0mm 圧縮比 8.8 過給機 なし 燃料供給装置 電子燃料噴射式(ホンダPGM-FI) 燃料タンク容量 65リットル 使用燃料 無鉛レギュラーガソリン
駆動方式 FF トランスミッション 4AT LSD —- 変速比 第1速 2.736 第2速 1.566 第3速 1.081 第4速 0.731 第5速 —- 後退 2.047 最終減速比 4.428 出典:グーネット https://www.goo-net.com/catalog/HONDA/ODYSSEY/2001817/
まとめ
逆境に打ち勝ち、見事名車を誕生させてきた各自動車メーカー。
90年代はそれまでのプレミア厶志向から、コストパフォーマンスの高い実用的な車が好まれるようになった変遷の時代といえます。
100年に1度の破壊的イノベーションの渦中にあると言われるいま、各メーカーには再び試練が訪れています。
しかし、各自動車メーカーはこれまでも、逆境に立たされるたびに、ユーザーを驚かせるような革新的な名車を造り上げてきました。
奇しくも時代がEV志向に切り替わっていくこの時代、今こそが新たな名車誕生の瞬間かもしれません。