短時間で新しい環境に適応していく能力

©︎Tomohiro Yoshita

まず驚かされたのが、初めての環境への適応能力の高さ。これまでヨーロッパを中心にレース活動をしてきたバンドーンにとって、日本の環境は全く異なり、そこに順応できるかが一番の壁にはなる。

実際に過去にも何人か有力な外国人ドライバーが日本にやってきたが、いずれも順応できず短い期間でシリーズを去っていくことがあった。

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しかし彼の場合は、いきなり上位に食い込むパフォーマンスを次々と披露。中でも印象に残っているのが、第3戦富士でのポールポジション。これまで実走行経験が全くない富士スピードウェイで、雨上がりという微妙なコンディションの中でライバルを圧倒してみせたのだ。

実際、彼自身も富士での予選は最も印象に残ったシーンだと語っており、ウエットから始まり、徐々に路面が乾いて行くという微妙なコンディションで、一番有利なラインを見つけて走行。それがポールポジション獲得の決め手にもなった。

この他にも、スーパーフォーミュラへの参戦経験が豊富なのではないかと思わせるほど、マシンやタイヤ、レースの流れ、そして各コースの攻略までが非常にスムーズだった。

もちろん、これまでのレースキャリアで培われてきた能力であることは間違いないが、現在は事前テストの機会が限られているF1においてはとても大きな武器になる。

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2017年はプレシーズンテストが8日間しかなく、アロンソとマシンをシェアすることになると4日間。万が一、トラブルなどが発生してしまうと、さらに乗れる時間が少なくなってしまう。

レースウィーク中もフリー走行が3回あるが、決して豊富な時間とはいえない。つまり、短時間でマシン、タイヤ、コースを攻略していかなければならなくなる。

そこで、スーパーフォーミュラでもみせた限られた時間でしっかりとしたパフォーマンスを引き出すという能力が発揮されれば、いきなり上位進出の可能性もひていできない。

 

ヨーロッパではなかった“苦労”をスーパーフォーミュラで経験

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もう一つは、スーパーフォーミュラでの参戦経験だ。

先述の通りポールポジション1回、優勝2回と1年目にしては上出来という結果を残した。

しかし、各レースを紐解いていくと、第2戦岡山はトラブルが原因でのQ1敗退だったが、第4戦もてぎでは速さを引き出せずQ2敗退。

その他にも不運なトラブルでのリタイアやチームのミスでグリッド降格ペナルティを受けるなど、浮き沈みの多いシーズンだった。

バンドーンは、これこそがスーパーフォーミュラで得られた経験だという。

「シーズンを通してアップとダウンを繰り返すことになったけど、たくさんのことを学べたよ。なんで、そうなったのか?どうすれば状況を改善していけるのか?その考え方とかを勉強することができた。間違いなくスーパーフォーミュラで良い経験をすることができたよ」

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3年目を迎えるマクラーレンとホンダのタッグ。昨シーズンは何度かポイント獲得し、ランキング6位となったが、最終目標とするトップ奪還となると、まだまだレベルアップが必要だ。

さらに今年に関してもパワーユニットの開発が順調に進んでいないという話もささやかれているため、少なからず苦戦を強いられる場面がでてくるだろう。

そこで、ドライバーとして苦しい状況をどのように打破していくのか?苦しい時こそ何をして行くべきなのか?が身についていれば、確実にチーム躍進を支える重要な原動力になり、それが彼自身の強さにもなっていきそうだ。

 

気がつけば日本語も上達、ホンダスタッフとのコミュニケーション強化に

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記者会見やプレス取材は英語で対応していたバンドーンだが、実はレースを重ねるごとに日本語で話す機会が増えているように感じた。

2017シーズンはマクラーレンチームはもちろんのこと、ホンダの日本人スタッフとも一緒に仕事をすることになり、彼らとともにパフォーマンスの向上をしていくことになる。

もちろん、F1では英語が公用語ではあるのだが、パワーユニット開発拠点となっている日本で働くスタッフともコミュニケーションが少しでも円滑にとれるように…という狙いがあるのだろう。

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「2017年からはマクラーレンもそうだし、ホンダの皆とも働いて行くことになる。彼らと強い関係を築くことが重要だ。そのために、この1年は日本にきて、レースだけじゃなくて日本の文化を学べたことが、僕にとっては大きなアドバンテージだと感じているよ。日本の文化を学ぶことによって、彼らがどういうプロセスで物事を考えているかも分かるからね」

基本的にはレース開催時しか日本に来ることはなかったバンドーンだが、その短期間でホンダのスタッフとも積極的にコミュケーションをとっていた様子。

これからのパワーユニット開発ではフィードバックなど意見交換をする上では、しっかりとした信頼関係も重要。相手(バンドーンの場合はホンダスタッフの住む日本)のことを知り、そこに合わせていくことで、より良い方向に進んでいくのは間違いないだろう。

そう考えると、スーパーフォーミュラに参戦したのは、彼にとって物凄く有益なものになっていたのだ。

 

まとめ

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最終的にはマシンとパワーユニットのパフォーマンス次第という部分はあるが、僚友アロンソに対して大きく劣るという要素は見つからず、勢いにのっていけば、彼より上位のリザルトを生み出す可能性もありそう。

数年後には、伝統の「マクラーレン・ホンダ」を引っ張っていく存在になるとともに、将来のF1を代表する強豪ドライバーの1人になっていく素質を持っていることは間違いない。

それだけに、3月から始まる2017シーズンが非常に楽しみだ。

 

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そして…記憶の一部に留め置いておいてほしいのが、そんな彼が1年間だけ日本でレースを行い、多くのことを学んだ上でF1に挑戦していくということ。

それだけ、スーパーフォーミュラをはじめ、日本のレースには一流ドライバーでも「勉強になる」ことがたくさんある貴重な存在なのだ。

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