2019年1月現在、フルモデルチェンジをしないまま生産され続けた車の世界最多生産記録といえばフォルクスワーゲン タイプ1『ビートル』(2,152万9,464台)です。そして2位がフォード モデルT(1,500万7,033台)なのですが、その次に作られたクルマがルノー 4(813万5,424台)。正規輸入がほとんど無かったため日本ではかなりマイナーな輸入車ですが、実は1本の記事で紹介しきれないほどの歴史的名車なのです。

 

ルノー4  / © Groupe Renault 2019

 

日本では「ドラマで反町が乗ってた!」、世界的には史上第3位の生産を誇る超ヒット作

 

ルノー4  / © Groupe Renault 2019

 

1997年7月から9月までフジテレビ系で放映されていたTVドラマ『ビーチボーイズ』。

反町 隆史と竹野内 豊という当時のイケメン若手俳優のダブル主演で話題になりましたが、劇中で反町が演じた桜井 広海の愛車は日本車ではなかなかありえないシャレオツな輸入車。

それまで日本ではフレンチマニア以外全く無名だったにも関わらず、ドラマに出た途端「あの車はなんだ?!」と話題沸騰!中古車価格も高騰という、極めて日本的な要因でリバイバルヒットしたのがルノー4(キャトル)でした。

そもそもは1946年から作られていた4CV(キャトルシヴォ)が、フランス国内の道路事情の改善やライバル車の台頭で古臭くなってしまったため、1961年にデビューした新型の貨客両用大衆車です。

当時世界的に流行していたブルージーンズを参考に、時代の流れに順応しながら長く多くの人に愛される『ブルージーンズのような車』として作られました。

そして当初発表されたのはベーシック版のR4(キャトル)、上級モデルのR4L(キャトレール)、シトロエン2CVよりちょっと安い代わりにエンジンは603cc(R4/R4Lは747cc)で我慢した廉価版R3(トロワ)の3種類。

ルノー4  / © Groupe Renault 2019

 

R3は短命に終わったものの、R4シリーズはフランス車史上空前の大ヒット車となり、1992年までの約31年間でさまざまなバリエーションが813万5,424台も生産され、モデルチェンジ無しで生産された車としては史上第3位の生産台数を記録しました。

しかし日本では同じ輸入大衆車でもビートルやミニ、シトロエン2CVといった『古い輸入大衆車御三家』に比べると知名度は低く、特に前述の『ビーチボーイズ』以前は無名もいいところで、1980年代後半以前のルノー車自体、そう積極的に輸入されていません。

一応、1960年代からいくつかのインポーター(輸入業者)がルノー車を入れ替わり立ち替わりで扱ってはいたものの、ルノー4自体は1978年から生産された1,108cc版のGTLがキャピタル企業(現存せず)によって輸入されたくらいで、知名度を上げるキッカケはありませんでした。

しかし現在は『クラブ・ルノーキャトル・ジャポン』など愛好者団体の手によって定期的なミーティングやルノー車イベントへの参加もあるようで、日本でもかなりメジャーな存在となっています。

 

左右ホイールベース違いの特異なメカニズムや、優れた拡張性による豊富なバリエーション

 

ルノー4  / Photo by Rutger van der Maar

 

何しろ約31年もの長きにわたり、多数の派生型を含めれば無数のバリエーションを誇ったルノー4ですが、それだけ数多くのバージョンを作れた背景には、シンプルかつ頑丈なボディと、ストロークをたっぷりとったサスペンションがありました。

前後トーションバースプリングにフロントはダブルウィッシュボーン、リアはフルトレーリングアーム式としたサスペンション。
特に左右とも車体幅いっぱいのトーションバーを持つリアサスペンションはストロークもロードクリアランスもタップリです。

このリアサスペンションを実現したうえで車内スペースを犠牲にしないため、左右リアトーションビームを前後にずらして配置した結果、左右リアタイヤの前後位置が異なるため、ホイールベースも左右で異なるという割り切りぶり。

「それで真っ直ぐ走るのか?」と疑問に思う人もいるかもしれませんが、FF車の場合多少リアタイヤが明後日の方向を向いていてもまっすぐ走るものなので、ホイールベース違い程度は問題になりませんでした。

 

ルノー4ダブルサンルーフ仕様  / 出典:https://www.favcars.com/pictures-renault-4-1961-67-77642-800×600.htm

 

また、フロアを強化したセミモノコックボディはルーフへの負荷が少ないため、ルーフを支える各ピラーを細くでき、開口部の大きなダブルサンルーフ仕様やキャンバストップ仕様、開放感の高い軍用車両のようなフルオープントップすら設定可能です。

 

ルノー4フルゴネット / 出典:https://www.favcars.com/photos-renault-4-127732-800×600.htm

 

さらに当時としてはまだ数少ないハッチバック型乗用車だったルノー4は、1990年代の日本でちょっと流行った『ショートワゴン』(実態は5ドアハッチバックでしたが)的な貨客兼用車だったので、ラゲッジを大幅拡大したフルゴネット版も作られました。

そのため日本だとアルトハッスルやADバン/ワゴンMAXの元祖、ルノー車としてもエクスプレスやカングーの元祖という事になります。

 

ルノー4には、スバルのレオーネ4WDなどよりはるかに昔から4WD乗用車があった。これは1964年のルノー4 4×4 Sinpar  / Photo by Andrew Bone

 

さらに、後にルノーの一部門として吸収されるカスタマイズメーカー『サンパール(Sinpar)』が手がけた軍用車両バージョンやその民生版、フルオープンカーや4WDモデルもありました。

特に4WDモデルは、1970年代に入ってから4WDモデルを作り始めた日本のスバルなどより早く、1960年代には既に乗用4WD版のルノー4が販売されており、ヨーロッパの山岳地帯などではレオーネ4WDが輸出されるまでの貴重なアシとして活躍しています。

 

何とグループAモデルも存在し、WRCやパリ~ダカールラリーにも出場!

 

ルノー4  / © 2019 Gizmodo Media Group

 

カタログスペック的にはアンダーパワー傾向なため、『最高出力原理主義』的な人にとっては魅力の薄いフランス車ですが、低回転から発揮される最大トルクにストロークをたっぷり取って多少の荒れ地でも問題ない操縦性を誇るサスペンションは『実戦向き』。

それゆえ発売直後からオフロードイベントなどで活躍し、荒れた路面での強さは新興国でもアシ車として頼りになるため世界中でルノー4を生産。

フランス国内でのダートトラック レースや国内外のラリーでも活躍しました。

 

ルノー4 / 出典:https://www.motor16.com/noticias/renault-4l-trophy-comienza-la-aventura/

 

特記すべきはサンパール版の4WDモデルが参戦したパリ~ダカールラリーで、1979年には驚異の総合4位(4輪車ではランドローバー・レンジローバーに次ぐ2位)を獲得!

1980年にも4輪車部門で2台のフォルクスワーゲン イルティス(タイプ183)に次ぐ3位でゴールしました。

また、WRCにも積極的に参戦し、何とグループA公認をとって1991年のツール・ド・コルスや1993年のモンテカルロラリーに出場したほか、グループNにも参戦するなど、一発の速さこそ無いものの最新マシンの戦場に飛び込むタフさをアピール!!

そして、何しろ1992年までと比較的近年まで生産されていた事もあり、現在でもラリーイベントなどへチャレンジするルノー4の姿が絶える事はありません。

 

主なスペックと中古車相場

 

ルノー4  / COPYRIGHT© TOYOTA MOTOR CORPORATION.All Rights Reserved.

 

ルノー 4 1961年式

 

全長×全幅×全高(mm):3,670×1,485×1,550

ホイールベース(mm):(左)2,400・(右)2,450

車両重量(kg):630

エンジン仕様・型式:水冷直列4気筒OHV8バルブ

総排気量(cc):747

最高出力:20kw(27ps)/4,700rpm

最大トルク:50N・m(5.1kgm)/2,600rpm(※グロス値)

トランスミッション:4MT

駆動方式:FF

中古車相場:29.8万~270万円

 

まとめ

 

ルノー4 / 出典:https://www.motor16.com/noticias/renault-4l-trophy-comienza-la-aventura/

 

狭い日本で日本語だけの情報に触れているとなかなか気づかないものですが、世界には『日本が知らない名車』がゴロゴロあふれており、スーパーカーやスポーツカーのようにブームになる事も無かった無名の車が、実は歴史的名車だった!という事がよくあります。

中でもルノー4は「車に豪華装備なんていらないんだよ。私が食いたいのはコース料理じゃなく屋台のラーメンなのに、何でそんな車が無いんだ?!」というシンプル イズ ベスト主義な人には最高の車です。

愛好者団体もあるとはいえまだまだ知名度は低く、深く掘り下げるほど新鮮な驚きに満ち溢れた車として、これから新しくクルマの趣味を始めようという人には、ハマってほしい沼のひとつとして強くオススメしたい1台です。

 

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