2020年シーズンから、MFJ(日本モーターサイクル協会)が主催のロードレースシーンに登場するNewカテゴリー『ST1000』クラス。ホンダCBR1000RR 、カワサキZX-10RR、ヤマハYZF-R1などの市販人気リッターバイクをベースに、高価なECUの使用を制限する上限価格を設定、ワンメイクタイヤ制度の導入などイコールコンディションをコンセプトに開催されるこのカテゴリーの魅力を紹介します。

ST1000エキシビションレースで57秒台に突入した藤田拓哉選手&YZF-R1(speed heart DOG FIGHTR YAMAHA)/Photo by TEIJI KURIHARA

グローバルスタンダードを目指す全日本『ST1000』クラス

MFJ(日本モーターサイクルスポーツ協会)によるST1000クラス記者会見/Photo by TEIJI KURIHARA

2019年6月、全日本ロードレース選手権が開催された筑波サーキットのプレスルームで、来シーズンからスタートする『ST1000』の、MFJ(日本モーターサイクルスポーツ協会)による記者会見が行われました。

まず冒頭では、ワールドスーパーバイク、世界耐久選手権をはじめ各国のナショナル選手権などで世界的に主流となっている1000ccのプロダクションクラスを視野に入れつつ、今後展開しやすいローコストなグローバルスタンダードを目指した新設カテゴリーが、全日本ロードレース選手権の『ST1000クラス』だと説明されました。

グローバルスタンダード具体例

1. 鈴鹿8時間耐久レースSSTクラス⇒『ST1000』仕様に灯火類など耐久に必要なパーツ(耐久仕様)を追加するだけで参加可能。

2. アジアロードレース選手権ASB1000⇒ECUとタイヤをASB1000仕様のものに変更すれば『ST1000』仕様で参戦可能。

これにより来シーズンは、全日本ロードレース選手権『ST1000』に参戦しながら、6月のアジアロードレース選手権・日本ラウンドや、鈴鹿8耐にもローコストで参加可能となるため、グローバルな展開を視野に入れた各チームの前向きな参戦計画が期待されます。

全日本ロードレース選手権各クラスと世界のロードレース相関図

JSB1000 ⇒ スーパーバイク世界選手権・世界耐久選手権EWC
ST1000  アジアロードレース選手権ASB1000

鈴鹿8時間耐久ロードレースSSTクラス

ST600  ⇒ アジアロードレース選手権SS600
  J-GP3 ⇒ アジアタレントカップ

全日本ロードレース選手権において、ST600とJSB1000の中間カテゴリーとなる『ST1000』クラスは、市販車に近いST600クラスの1000cc版ともいえ、マシンをイコールコンディションにする事で生まれる、大排気量マシンによる接近戦の熱いバトルが期待されます。

また、会見翌日の6月23日(日)には、筑波サーキット2000において15周の『ST1000』エキシビションレースを開催。

ヤマハYZF-R1、カワサキZX-10Rからドゥカティ・パニガーレ、アプリリアRSV4など世界の市販リッターバイクが迫力のある走行を繰り広げ、全日本の筑波ラウンドを観戦に訪れていた、ロードレースファンの眼を楽しませてくれました。

『ST1000』クラスへは、既存のJSB1000クラスに鈴鹿8耐のSST仕様(ストックに近い)車両で参戦中のチームや現在J-GP2クラスに参戦するチーム、ST600クラスからのステップアップを考えるチームなどのエントリーが予想されます。

全日本選手権と地方選手権で開催される『ST1000』クラス

ST1000エキシビションレースで優勝した新庄雅浩選手&ZX-10RR(AUTOBOY & RS-ITOH)/Photo by TEIJI KURIHARA

全日本ロードレース選手権『ST1000』

全日本ロードレース選手権における『ST1000』クラスは、JSB1000クラスとの混走ではなく、単独の開催クラスとしてレースが行なわれ、改造範囲の制限やワンメイクタイヤ制度など、JSB1000クラスとの違いを明確にした独立したレースとしての開催となります。

また、レースの距離は、公認車両の燃料タンク容量を考慮した周回数(70km程度)が予定されています。

ロードレース地方選手権『ST1000』

地方選手権においては、ナショナルST1000、インターナショナルST1000、インターナショナルJSB1000の各クラスが設られ、参加台数によっては混走での開催が予定されています(その場合、賞典とランキングポイントはクラス毎となります)。

地方選手権クラス区分

クラス ライセンス区分 ワンメイクタイヤ
1 ナショナルST1000 国内ライセンス 対象 *JSB仕様の暫定措置有り
2 インターナショナルST1000 国際ライセンス 対象
3 インターナショナルJSB1000 国際ライセンス 対象外

*ナショナルST1000クラスには、移行措置として、ナショナルJSB1000仕様(2019年モデルまでの公認車両)での参加が認められ、同一の賞典、昇格ポイントの対象となっています⇒現在のところ2025年までの暫定措置として予定。

DUNLOPのワンメイクタイヤなど発表された『ST1000』レギュレーション

エキシビションレースに登場したドカティPanigale(砂塚和男選手)/Photo by TEIJI KURIHARA

ST1000クラスの車両規則の概要(*暫定版)も発表されました。

技術規則はST600クラスをベースにしているそうですが、作成段階である『ST1000』クラス独自の車両規則部分をピックアップして以下に簡単にまとめています。

1. 参加可能車両

・MFJ公認車両ならびにFIM ST公認車両として登録された車両。

・改造範囲が限定されていることから、レース性能に特化した高価な車両の参加を制限するために、車両市販価格の上限を設ける予定。

気筒数ごとの排気量区分

600cc~1000cc 4ストローク 4気筒
750cc~1000cc 4ストローク 3気筒
850cc~1200cc 4ストローク 2気筒

2. ECU

・ST1000用MFJ公認ECUへの変更が認められます。

・公認車両のECUに限り、MFJ公認サブコンピューターを追加可能です。

・公認ECU及び公認サブコンピューターは一般に市販されている製品で、販売価格の上限を設けて、過度に高価で高性能な製品を使用出来ない様に定められます。

この他、レースで6位以内に入賞した車両のECU、サブコンピューター及びワイヤーハーネスセットは購入希望者があった場合、『買い取り規則』に従い販売しなければならないレギュレーションが設定されます(MFJにおいて販売上限価格、買い取り価格を検討中とのこと)。

3. タイヤ

イコールコンディションを目的に、『ST1000』クラス装着タイヤはワンメイクタイヤ制度が導入され、2020年から3年間は『住友ゴム工業株式会社(DUNLOP)』がワンメイクタイヤサプライヤーを受け持つことが発表されました。

ワンメイクタイヤサプライヤー住友ゴム工業株式会社(DUNLOP)による会見 / Photo by TEIJI KURIHARA

『ST1000』クラス用ワンメイクタイヤは、一般に市販されており、誰でも購入出来るスリックタイヤとレーシングタイヤのことを指していて、全日本ロードレース選手権では1大会あたりドライ用2セット、地方選手権ではドライ用1セットを使用可能なレギュレーションとなっています。

また、エントラントサポートとして、タイヤが特別販売価格で購入可能になるほか、全日本ロードレース選手権『ST1000』クラスでは、”DUNLOP賞”として1位~10位までに賞金が設定されることも公表されました。

ダンロップによるスカラシップ制度も創設され、全日本ロードレース『ST1000』クラスチャンピオンには、翌年のアジアロードレース選手権ASB1000の年間参戦代が半額サポートされたり、アジアロードレース選手権のASB1000ワイルドカード(MFJ枠)のエントリー代の全額サポートなどが行なわれます。

その他、2020年の全日本ロードレース選手権ST1000クラスチャンピオンには、翌年の鈴鹿8耐参戦時のドライタイヤ無償サポート(本数制限有り)が受けられるなど、グローバルな展開を支援する試みが住友ゴム工業株式会社により行われる予定です。

4.その他

・最低重量は4気筒マシンでJSB1000クラス+5kgの”170kg”(バラストの利用不可)となっている他、オイルクーラーが装着されている公認車両は、オイルクーラーの変更が可能です(オイルクーラーがない公認車両に装着することは出来ません)。

・その他、ブレーキのフロントマスターシリンダーの変更は、可能となっています。

[2019.6.22MFJ資料より抜粋]

今シーズン限りで終焉する『J-GP2』クラス

J-GP2クラス#634名越哲平選手と#71榎戸育寛選手によるHP-6q同士のバトル/Photo by TEIJI KURIHARA

今年で開催9年目を迎える『J-GP2』クラスは、今シーズン限りで全日本ロードレース選手権のカテゴリーから姿を消すことが決定しています。

『J-GP2』クラスは、日本独自のレギュレーションにより、KALEX、MORIWAKIなどフレームビルダーの製作するオリジナルフレームに市販の4ストローク600ccエンジンを搭載したマシンと、ZX-6R、YZF-R6など市販600cc車両を改造したマシンの混走で繰り広げられてきた人気カテゴリーです。

次世代の世界選手権モト2クラスに参戦するライダーを育てるという趣旨で、日本グランプリでのmoto2クラスへの”ワイルドカード参戦枠”は『J-GP2クラス』の参戦ライダーから選出されてきました。

しかし、今シーズンから、世界選手権”モト2”クラスのエンジンサプライヤーメーカーがホンダ(4気筒600cc)からトライアンフ(3気筒765cc)に変更されたのと同時に、日本GPの”モト2”クラスワイルドカード参戦枠”が無くなってしまい、結果的に、日本人ライダーが世界選手権に参戦することがむずかしい時代へと突入してしまったのです。

究極のJ-GP2マシン・アサヒナレーシングのZ600(朝比奈正選手)が観られるのも残り僅か…… / Photo By TEIJI KURIHARA

とは言っても、グローバルな展開先として目論んでいた世界選手権”モト2”クラスとは、エンジン、排気量、そしてフレームも異なる(当初からエンジン、最低重量などレギュレーションが大きく異なっていますが)カテゴリーとなってしまい、ガラパゴスカテゴリーと化していた『J-GP2』クラスが、10年目のシーズンを前に終焉を迎えるのは仕方のないことかもしれません。

2011年『J-GP2』クラスチャンピオンである中上貴晶選手が、世界選手権の”モト2”クラスでの活躍を経て現在のモトGPクラスで活躍している姿を鑑みると、全日本ロードレース選手権において中量級クラスで、グローバル展開が可能なカテゴリーが、新たに新設されることを期待したいところです。

まとめ

筑波サーキットで開催されたST1000エキシビションレース、ランオフエリアの狭い筑波でST1000開催となるか?  / Photo By TEIJI KURIHARA

世界的に主流となりつつある1000ccのストック車両によるカテゴリーが、日本でも始まろうとしています。

そしてMFJ(日本モーターサイクルスポーツ協会)が掲げるグローバルな展開のひとつに、『ST1000』車両の鈴鹿8時間耐久ロードレースSSTクラスへの参戦が挙げられています。

そんな中、来シーズン『ST1000』クラスにエントリーを思案するチームの中から、早い段階での”8耐トライアウト制”のルール構築を望む声が聞こえてきています。

”8耐トライアウト制”によるシード権のないチームへの出場権獲得対象レースが、来シーズンの8耐ではEWCクラスとなる『JSB1000』と8耐SSTクラスの『ST1000』では別開催のカテゴリーとなってしまうため、選抜方法や各クラス台数の割り当てルールなどを構築して公開することが急がれます。

なぜなら、8耐を目指すシード権のないチームが、どちらのカテゴリーからトライアウト突破狙うかの重要な指針となってくるからです。

別の観点では、MFJ(日本モーターサイクルスポーツ協会)からは、記者会見の冒頭において『ST1000』クラスから次世代の『JSB1000』や世界選手権”モト2”で通用するようなライダーを輩出するクラスとなることを期待すると説明がなされました。

しかし、全日本『ST1000』の役割として『JSB1000』の育成という目標は問題ないのですが、現実的にフレームビルダーが作成したレース専用フレームに、フリクション・ロスの少ないレーシングチューン・エンジン搭載車両で戦う、世界選手権”モト2”クラスで通用するライダーを育てるカテゴリーとしては、現状の『J-GP2』クラスに比べても残念ながら一歩後退したといわざるを得ないでしょう。

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