2019全日本ロードレース選手権J-GP3クラスで、現在シリーズランキングトップの長谷川聖選手が所属する『CLUB Y’s』レーシングチーム。チームの母体であるレーシングショップ『CLUB Y’s』は、ロードレースに参戦するライダーをサポートする為のレース専門ショップとして、1996年にオープンしました。

CLUB Y’sの『Y』は山田代表のイニシャルであり、ゼッケン『36』は代表の名前”オサム”から語呂合わせでつけているという。/ Phpto By TEIJI KURIHARA

働くレーシングライダーの拠点として出発

CLUBY’sエースライダーの長谷川聖選手(左)と山田修代表(右)/Photo By TEIJI KURIHARA

1996年、山田修氏(以下:山田代表)は、ミニバイクからロードレースまで、レース活動をするライダーの為のレーシングショップ、『CLUB Y’s』を大阪の西淀川区に立ち上げます。

自身がレーシングライダーでもあった山田代表はオープン当初、まわりのレース仲間を支援するような形で夜遅くまでお店を開けていました。

そして、レーシングパーツの購入、取付け、メンテナンスを行なうことにより、自営業やサラリーマンなど普段は別に仕事を抱えているサンデーライダー達の拠点として、その役割を果たしていました。

レースに対するスタンスについて、「ごく普通のバイクに、誰でも手に入るパーツを使用してもやり方次第では、ここまで出来るという結果をみせたい!」と語る山田代表の哲学は、オープン当初から現在に至るまで、一貫しています。

そして、オープンして4年目の2000年にレーシングチームとして全日本ロードレース選手権『GP125クラス』に初参戦し、その後10年に渡り本格的にレース活動をするライダー達のサポートを行なってきました。

そして2007年には『鈴鹿8時間耐久レース』に参戦し、初出場ながら予選を58位で通過して決勝レースを38位で完走を果たします。

8耐には、翌年も連続参戦をして着実にレベルアップを図りながら、レース活動の土壌を築き上げていきました。

しかし2009年、レーシングショップ『CLUB Y’s』に危機が訪れます。

前年の9月に始まった『リーマンショック』の影響で、仕事の減ってしまったサンデーライダーの殆どがミニバイクレースを一時的にやめてしまい、全日本ロードレース選手権に参戦するライダーまでが続々と出場を休止していったのです。

移転!併設カフェをきっかけに~街のバイクコミュニティへ

RACINGSHOP『CLUB Y’s』には、白い建屋のカフェスペースが併設されています。唐揚げ+チャーハンがおすすめメニューです。/ Photo by TEIJI KURIHARA

リーマンショックの翌年2009年に、景気の影響を受けたのか、西淀川区で借りていた店舗が売却される事になり、現在の店舗がある兵庫県尼崎市への移転を余儀なくされます。

移転後の物件スペースが予想以上に広かった事もあり、新店舗の横にカフェスペースを併設。

「カフェへ来てくれたお客さんに、レースの話とかを聞いてもらえたら良いかなと思って始めてみたんです。」と山田代表は話してくれました。

実家が中華料理店で調理を手伝っていた経験があり、学生時代にもカフェでアルバイトしていた山田代表は、漫画『よろしくメカドック』風のカフェ併設メカニカルショップとして、再スタートを切ります。

「結果的には、景気の影響で一時レースのお客さんが減ってしまっていたあの頃、お店を救ったのカフェの存在だったかもしれない。」と、山田代表はいいます。

リーマンショックの影響でレースの仕事が減ってしまっている中、カフェには街のライダー達が訪れるようになり、やがて「自分のバイクを整備して欲しい!」というライダーからの要望で、市販車の街乗りバイクのメンテナンスも受け付けるように変化していきました。

「『バイクショップ難民』ともいえる自分の納得できる技術力を持ったバイクショップを持っていない街乗りのライダー達が、ウチを訪れてくる様になったんです。」

その後、様々な街乗りライダー達を受け入れて、レースで培ってきた技術力を提供。

また、サーキットの体験走行なども積極的にサポートし、レースの世界を発信することによってレーシングショップ『CLUB Y’s』は、街のバイクコミュニティとしての役割を持ったお店へと、徐々に進化していったのです。

ライダー、メカニック、チーム員からみえてくる『CLUB Y’s』とは!

『CLUB Y’s』ライダー村田憲彦選手(左)と長谷川聖選手(右)/Photo by TEIJI KURIHARA

2019年9月1日(日)、岡山国際サーキットで行われた全日本ロードレース選手権で、『CLUB Y’s』のレーシングチームメンバーに、山田代表とレーシングショップ『CLUB Y’s』について聞いてみました。

ゼッケン#21

ライダー:村田憲彦選手(2005年ウエストエリアGP125チャンピオン)

マシン差の少ないJ-GP3クラスは、安心してライディングできるコーナーリング性能がレースの重要なファクターとなっている。/ Photo by TEIJI KURIHARA

「『CLUB Y’s』はフレンドリーなチームだと思います。山田監督(代表)の足まわりのセッティングはライダーのコメントに対して的確なので、安心して乗れるのも監督のおかけです」と語る村田憲彦選手。

自身が以前所属していたチームから、移籍先として薦められたのが『CLUB Y’s』レーシングチームだったという村田選手。

移籍後、2008年~2009年に全日本ロードレース選手権GP125クラスにフル参戦をするも、本業がリーマンショックの影響を受けた為に一時レース活動を休止。

2015年に鈴鹿8時間耐久レースへ別チームから参戦し、2018年から再びJ-GP3クラスに復活して、『CLUB Y’s』から全日本ロードレース選手権にフル参戦を再開し、今シーズンも得意の雨を中心に入賞を果たすなど健闘を見せています。

メカニック:兼末孝治氏(B.H.P.Factory)

兼末孝治メカニック/Photo by TEIJI KURIHARA

本業である『MAC TOOLS』の販売でレーシングショップ『CLUB Y’s』を訪れていた兼末孝治氏は、自身も過去にライダーとしてGP125クラスに参戦しながらマシンのメンテナンスをしていた経験をもっていた為、気がつけばレースメカニックとしてサポートメンバーに入っていたそうです。

2018年シーズンからは#21村田選手の担当メカニックとなり、自身の『MAC TOOLS』工具セットをチームに提供しながら、シーズンを通してマシンメンテナンスを行なっています。

「昔レースをやっていた時代に(1987年~89年頃)山田さん(代表)と知り合えていたら、もっとレースの成績を残せたのではと思います。バイクの足まわりセッティングに関しては間違いなく凄い人です。」と兼末氏は話してくれました。

ゼッケン#36

ライダー:長谷川聖選手(2015年鈴鹿、岡山国際ダブルチャンピオン)

長谷川聖選手が時折みせるリヤ進入ドリフトも『CLUB Y’s』のマシンセッティングが可能にしたものか!?/Photo by TEIJI KURIHARA

2019年、全日本ロードレース選手権岡山国際ラウンドで、見事ポールtoウィンを決め、J-GP3クラスのシリーズランキングトップに浮上した長谷川聖選手。

ミニバイク参戦時代に、近畿スポーツランドのサポートテントで足まわりのセッティングについてアドバイスをもらったことで、マシンの症状が飛躍的に改善するという驚きの体験を持っていて、その時のアドバイザーが山田代表でした。

その後『CLUB Y’s』に入り、長年に渡ってレース活動を共に歩んできたチームのエースライダー。

19歳の若さで、全日本タイトルにチャレンジしています。

「足まわりのセッティング技術に関していうと、あそこのコーナーでこういう症状ですと伝えてセッティングを変えてもらうだけで、ほぼ症状が出なくなります。マニュアル通りでは無く、山田監督(代表)自身のセッティングへの感性が凄いのだと思います。」

メカニック:川瀬和希氏

川瀬和希メカニック/Photo by TEIJI KURIHARA

川瀬和希氏は、『CLUB Y’s』レーシングチームから2009年に全日本ロードレース選手権GP125クラスにライダーとしてフル参戦。

その後、別チームから鈴鹿8時間耐久レースにも参戦を果たすなど、レーシングライダーとしての顔も持ち合わせています。

メカニックとしては、JSB1000参戦チームなどでメンテナンスを経験し、今年の鈴鹿8時間耐久レースでは、NCXX(ネクス)レーシングの502号車サポートメンバーとして活躍しました。

『CLUB Y’s』レーシングチームでのメカニック歴は3年目となり、今シーズンも長谷川選手の駆る#36号車のメンテナンスを担当しています。

「初年度よりも段々と要求されることが具体的になり、高いレベルでのメンテナンスが求められる様になってきました。」とチームの成績に比例して技術力が向上していることを語り、さらに自身が従事した大規模なレーシングチームでの経験をもとに

「まだ、ハードとライダー(長谷川選手)に依存する部分は正直少しあると思います。」とチーム全体の技術力を冷静に分析していました。

後藤俊輔氏(長谷川選手マネージャー)

後藤俊輔マネージャー(左)と長谷川聖選手(右)/ Photo by TEIJI KURIHARA

普段乗っているバイク(カワサキZZR1400)を、ちゃんとメンテナンスしてくれるお店を探し求めていたら、レーシングショップ『CLUB Y’s』にたどり着いたのだという後藤俊輔氏。

お店主催のサーキット走行会に参加したことがきっかけで、岡山国際地方選手権に参戦するクラブ員ライダーとなり、2017年ホンダCBRドリームカップ岡山チャンピオンを獲得。

山田代表については『感覚の神』と例え、「あそこのコーナーでこうなると伝えると「ちょっとだけこうしてみようか!」と自分の乗り方にあわせて、すぐに調整してもらえました。」と絶賛していました。

レース参戦にあたって、代表から「もっと痩せろ!(笑)」と言われて続けた結果、13kgの減量に成功。

見事チャンピオンを獲得したという後藤氏は現在、長谷川選手のマネジメントを担当し、『CLUB Y’s』レーシングチームに貢献しています。

『CLUB Y’s』ゼッケン#36号車紹介

#36号車はRS125用レーシングカウル(KDC製)を装着している。/ Photo by TEIJI KURIHARA

「エンジン部分は、ほぼノーマル状態なので、J-GP3クラスの他のトップチームより劣っているかもしれない。」マシンについて、隠すこと無くふつうにそう話してくれた山田代表。

その言葉が示すように、『CLUB Y’s』レーシングチームのマシンには、このクラスでは定番ともいえるラムエア・エアインテーク加工(走行風で空気の吸入圧を上げるシステム)すら、施されていません。

「エンジン差を、ライダーがライディングで頑張ってカバー出来る様な車体を造っている」という山田代表の言葉は、「普通のバイクを、やり方次第でここまで出来るというところをみせたい」という、自身のレース哲学に重なるものがあります。

サーキットで、一度見たら忘れられないと言われるピンクとグリーンの『CLUB Y’s』カラーの由来について尋ねてみると、緑色部分は山田代表がミニバイクレースに参戦していた時にお世話になっていたチームのイメージカラー、ミントグリーンを少しモデファイしたもので、ピンクは代表自身がロードレースに参戦していた時代のマシンに塗ったのが始まりということで、”その2色”のコラボレーションが、現在のカラーリングだと教えてくれました。

それでは、チームのエースライダーである長谷川聖選手#36号車の装着パーツを紹介し、『CLUB Y’s』製マシンの実力に迫ります。

全日本ロードレース選手権・J-GP3クラス『CLUB Y’s』レーシングチーム

NSF250R#36号車

Photo by TEIJI KURIHARA

・足まわり:ホワイトパワー(WP suspension)

・Fブレーキ:ブレンボ(Wディスクブレーキ)

・ホイール:アドバンテージ(ADVANTAGE)

Wディスクブレーキを装着するために足廻りはホワイトパワー製に変更している。   Photo by TEIJI KURIHARA

・チェーン:大同工業株式会社(D.I.D)

・エンジンオイル: 広島高潤株式会社(Hiroko)

・ECU:エーレーサー(aRacer)

タコメーター手前に有るのがaRacerのディスプレイ。タンク上には車載カメラを取付けている。     Phpto by TEIJI KURIHARA

・ステアリングダンパー:ホワイトパワー

・バックステップ:バトルファクトリー

・レーシングカウル:KDC・スクリーン:アクリポイント

*外観では、空力を意識した結果、RS125用のレーシングカウルを装着しているところが大きな特徴です。

⇒クラブワイズ・ホームページ

まとめ


『CLUB Y’s』はクラブ山田ーズだと笑顔で語る山田代表。/ Photo by TEIJI KURIHARA

山田代表が営むレーシングショップ『CLUB Y’s』レーシングチームは、ミニバイクレースで経験を積んだライダーに対し、岡山国際サーキットを拠点に鈴鹿サーキットなどで開催されている本格的なロードレースへステップアップさせる形で、20年以上サポート活動を行って来ました。

主旨である、10代~20代の若手ライダーの育成と二輪ロードレース競技者人口の増加を目標に、山田代表はサーキットに足を運び続けています。

2019年秋、その活動が大きく実りを付け、2019全日本ロードレース選手権第6戦 岡山国際ラウンドで、エースライダーの長谷川聖選手が、公式練習、公式予選、決勝全てのセクションでトップタイムをマークする偉業を達成。

圧倒的勝利によって優勝ポイントを積み重ねた長谷川選手は、シリーズ2位のライダーから23ポイントもの大差を付けて、ランキングトップに浮上したのです!

残すシリーズもオートポリス、最終戦鈴鹿の2戦となり『CLUB Y’s』にとって大きな目標であった『全日本ロードレース選手権でのチャンピオン獲得』という可能性が高まり、いよいよ現実味をおびてきています。

山田代表に、タイトル獲得について伺うと「聖(長谷川聖選手)がチャンピオンになったら岡山国際サーキットを走っているライダーや、ここ(岡山国際)でレースをしているチーム関係者など、皆んなの夢や希望になる!」と地元岡山国際サーキットでの地方戦に参戦している戦友へのエールともとれる想いを語ってくれました。

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