300馬力 スーパーチャージドエンジン

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998cc水冷4ストローク並列4気筒スーパーチャージドエンジン搭載、最高出力300馬力。

川崎重工グループの「ガスタービン&機械部門」、「航空宇宙部門」、および技術開発本部からの支援を受けた「モーターサイクル&エンジン部門」の設計者達の手によって設計されました。

このエンジンの最大の特徴はスーパーチャージャーです。

スーパーチャージャーは元々航空機の技術で、空気の薄い上空でエンジンのパワーを得るために強制的に空気をエンジン内に送るシステムです。

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世界最高峰の2輪レースである、MotoGPのバイクで240馬力以上と言われています。

この事から、レーシングマシンはレースごとにセッティングを変えるので確かな数値では表せませんが、このH2Rの300馬力が、どれほど桁外れなパワーなのかは理解していただけると思います。

 

ビッグパワーに耐えられるシャーシ

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フレームは最新の解析技術で新設計されたハイテンションスチール製のトレリスフレームが採用されました。

「トレリス」とは四角形をした格子状態のものを意味し、オートバイでは比較的オーソドックスなフレーム形状となっています。

ビッグパワーに耐えられる剛性はもちろん、安定性、柔軟性も兼ね備え、ストレートに特化することなくコーナーリング時の旋回性も高められているのです。

またサスペンションはカヤバ製で、フロントフォークはモトクロス競技用に開発されたフォークをベースとし、オンロード向けに開発された「KYB AOS-Ⅱ」φ43mmフォークを採用しています。

ブレーキは前後ブレンボを装備、フロントはセミフローティングディスクにラジアルモノブロック4ポッドキャリパー、リアは2ポッドでABSを装備という、かなりのこだわりが見て取れます。

さらにタイヤはブリヂストン製のレーシングタイヤ、それにオーリンズのエレクトロニックステアリングダンパーにより安定したハンドリングを実現しました。

 

細部までこだわられたエアロダイナミクス

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カワサキの高い技術に「空力解析技術」があります。

航空機や新幹線は高速域での空気、大気の抵抗が大きな障害になるので、その抵抗を軽減するために「空力解析技術」が必要となるのです。

H2Rはその技術により超高速域においてもライダーの制御下においた走行が可能となるように、空気抵抗と空力特性を計算。

カーボンファイバー製の派手なウイングレットを纏い、強烈なダウンフォースと斬新なスタイルが与えられました。

 

フィールドはサーキット

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H2Rは市販バイクですが、サーキットなどクローズドな場所専用、ナンバーを付けて公道を走ることはできません。

排気音は120dBに達する為、サーキットを走るときは騒音規制の確認をすることをお薦めします。

そして、8000回転以上で15時間走行するたびに定期点検が必要とされ、メーカー保証の対象外になっています。

また、購入時にはレーシングスタンドとタイヤウォーマーが付属されます。

 

記録破りのスピード

H2Rは発売当初から様々な挑戦を経て、多くの記録を打ち立てています。

マン島TTレースで時速331kmをマーク

1907年から開催されている伝統ある公道レース、マン島TTレース。

「世界一危険なコース」と呼ばれるこのコースで、最高速記録を塗り替える最高時速331kmをマークしました。

しかも、この日のマシンコンディションはエンジンなどに大きく手を加えることなく、サスペンションの調整を行っただけ。つまり、ほぼノーマルの状態でこの記録を叩き出したのです。

そして、ライダーであるジェームズ・ヒリアーは「正気じゃなかった。単純に常軌を逸していた」と語っています。

 

公道で時速400kmの大記録を樹立

トルコ最大の都市イスタンブール近郊の巨大な橋「イズミット・ベイブリッジ」。

2016年7月1日に開通した、そのオープニング・セレモニーが2016年6月30日に行われました。

カワサキはH2Rのこれまでの速度記録である、時速380kmを超えて“時速400kmに到達させる”という夢を持ってそのイベントに挑みました。

カワサキと共にこの記録に挑んだのは世界スーパースポーツ選手権王者でもあるケナン・ソフォーグル。

ソフォーグルはこの日の為に、4カ月間トレーニングに励んだそうです。

この時も、タイヤを交換するなどの変更点はありましたが、基本的にノーマルコンディションでした。

ほぼノーマルにも関わらず、1.5kmの橋の上を26秒でフィニッシュ、最高速度は目標の時速400kmに到達したのです。

その他にも、4輪とのゼロヨン対決も何度も行われていますが、相手の4輪車のほとんどがフルチューンだった事からも、H2Rの性能を認めている証ではないでしょうか。

 

公道仕様「H2」

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H2Rは、公道で楽しむことはできませんが、H2Rの公道仕様「Ninja H2」がラインナップされています。

H2はエンジンパワーが200馬力に抑えられていますが、ライバルメーカーのフラッグシップモデルと比較しても十分なパワーです。

H2Rとのパワーユニットの主要パーツの違いはカムシャフト、ヘッドガスケット、クラッチ、マフラー。

よく日本国内仕様のバイクに海外仕様のパーツを組んでフルパワーにするライダーもいますが、H2にH2Rのパーツを組むことは難しいようです。

しかも、H2Rのオーナーであることが証明できないと、パーツは手に入れることができないシステムになっています。

最近では「ECUを書き換えてフルパワー」と宣伝しているショップもありますが、真意のところは不明です。

そして、エンジン以外でのH2RとH2の大きな違いは保安部品の有無です。

公道を走行するので当たり前ですが、フロントカウルのセンターにヘッドライトが埋め込まれ、ウィングレットの位置にバックミラーが装備されています。

しかし、H2Rのスタイリングと見比べてもフォルムが崩れた印象はありません。

そして、電子デバイスにより、状況に応じて自分にあった走行モードを選択でき、ロケーション、コンディションによって自由にマシンフィーリングをカスタマイズできます。

また、車両重量はH2Rが216kg、H2が238kg、とH2の方が約20kg重たくなっていますが、公道用のマフラーや保安部品を考慮すると許容の範囲内ではないでしょうか。

 

2015・2016・2017モデル

H2Rは受注生産、販売になっています。毎年11月あたりから受注を開始して、2~3ヶ月ほどで締め切られます。

年式ごとに変更されるのがカラーリングで、他の車種には見られない手の込んだ仕上がりになっています。

 

2015年モデル ミラーコートブラック×リアルカーボン

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2016年モデル ミラーコートスパークブラック×リアルカーボン

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2017年モデル ミラーコートマットスパークブラック

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いずれも銀鏡塗装が施され、光の反射を美しく演出。また、各部溶接やボルトのデザインもこだわりを持った仕上がりになっています。

性能面では2016年モデルからスリッパークラッチを装備。2015年モデルと比較して40%ほどクラッチ操作が軽くなり、また急なシフトダウンの際に起こる、リアタイヤの不安定な挙動も軽減されています。

2017年モデルでは、6軸センサーの搭載によりデバイスが強化され、走行時の状況が把握しやすくなっています。

そして、ECUのセッティングの見直しや、リアサスペンションをオーリンズ製に変更、そしてウィングレットの形状を見直しダウンフォースの向上を図ったり、クイックシフターはシフトアップに加えてシフトダウンも可能とするなど、扱いやすさの向上が施されました。

また、H2の主な変更点はユーロ4排ガス規制対応化に加え、120台限定の「Ninja H2 Carbon」がラインナップに追加され、H2Rと同様のカーボンアッパーカウルが装備されたり、エンジン右側のスーパーチャージャープレートにはシリアルナンバーが刻まれた仕様となりました。

 

まとめ

©︎Kawasaki

川崎重工業の製品の中でも歴史的意義を持つものだけに与えられるエンブレムであるリバーマーク。H2Rには、そのリバーマークが付与されています。

スペック、スタイリング、記録、全てが規格外!クローズド専用でありながらレースレギュレーションへの適合を考慮しない姿勢は「Fun To Ride」を追求したモデルと言えるのではないでしょうか。

H2Rは現在進行形、これからも色々な記録や伝説を見せてくれるに違いありません。「オートバイが好きで良かった」そんな気持ちにさせてくれるH2R。名車と呼ばれる日まで眼が離せない、ワクワクさせてくれる1台です。

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