カワサキのバイクといえば、多くの方はライムグリーンのカラーリングを思い浮かべると思います。カワサキは、ホンダ、ヤマハ、スズキに比べてバイクレースへの参入スタートは遅めでしたが、現在は多くのライダーがレース参戦にカワサキのバイクを起用しています。それではなぜ、カワサキのバイクがサーキットで愛されるのでしょうか。活躍したライムグリーンのカワサキバイクとそのライダーをまとめてみました。
あえて不運の色にカラーリングしたカワサキのグランプリレーサー
カワサキは、1968年のデイトナレースで初めてグランプリレースに参戦しました。
このとき投入したマシンは250ccレーサーマシンのA1Rで、マシンのカラーリングをあえて“不運”の象徴とされていた緑色に。
それは、色の種類によるジンクスなんて関係ないという考えから、あえて周囲が嫌がるライムグリーンを採用し、海外レースへの挑戦状を意味していたのかもしれません。
そしてカワサキは、現在に至るまでライムグリーンのカラーを変えることなく、つねに自らが挑戦者であり、スピードとラップタイムを追求しながらも、独自の技術で勝負に挑んでいるのです。
そんなサーキットをライムグリーンで彩ったカワサキのマシンとライダー、さらに名勝負までまとめて紹介していきます。
H2R・KR750
カワサキは、1972年に市販レーサーH2Rを作り出しました。
1971年に発売した750SSのエンジンをベースにチューニングしたものを、市販レーサーH1Rのフレームに搭載したマシンで、かなり戦闘力の高いマシンでした。
しかし、最大のライバルであったヤマハTZ750に対抗するのが難しくなったことを機に、1975年にカワサキはH2Rの空冷エンジンを水冷化し、KR750を登場させたのです。
H2R・KR750に乗った名ライダー:イボン・デュハメル
H2R・KR750はAMA、国内レース、FIMのF750クラスのレースを主に出場していましたが、暴力的な加速や不安定なハンドリングで「グリーンミーニー」(green meanie – 意訳「緑の意地悪な奴」)と呼ばれていました。
しかし、イボン・デュハメルというカナダ人ライダーはKR750をうまく乗りこなし、FIM750シリーズでカワサキを総合優勝へ導く活躍を見せたのです。
そして彼は「スーパーフロッグ」と呼ばれるようになり、ライムグリーン伝説の礎を作ったライダーとなりました。
イボン・デュハメルの名レース:1975年FIM F-750シリーズ オランダ・アッセン
1975年のFIM F750シリーズは、全9戦のレースが開催されました。
出場ライダーには、ジャコモ・アゴスチーニなど強敵が多い中、イボン・デュハメルは7月に行われたオランダ・アッセンのレースで2ヒートとも優勝する健闘を見せ、1975年にカワサキはマニュファクチャラーズタイトルを獲得することができたのです。
KR500
1980年、カワサキはロードレース世界選手権(以下:WGP)500ccクラスにKR500を投入しました。
KR500は、水冷2ストローク2気筒エンジンをタンデム配置した500ccスクエア4エンジンをモノコック構造のアルミフレームに搭載し、当時のグランプリマシンに比べて斬新な構造が特徴的な1台でした。
KR500に乗った名ライダー:コーク・バリントン
コーク・バリントンは南アフリカ出身のプロライダーで、1978・1979年に250ccと350ccクラスのダブルタイトルを獲得するほど実力のある選手でした。
そしてカワサキが1980年の500ccクラスにKR500を投入した時も、ライダーにはコーク・バリントンが起用されたのです。
コーク・バリントンの名レース:1981年WGP500cc第6戦イギリスGP
1981年シーズンにシルバーストーンサーキットで行われたい第6戦イギリスGPで、KR500 は素晴らしい走りを見せます。
KR500に乗るコーク・バリントンが、ヤマハのケニー・ロバーツ、スズキのランディ・マモラと終盤までトップ争いを繰り広げ、最終的にロータリーディスクの粉砕でリタイヤとなってしまうのですが、次の第7戦フィンランドGPで3位表彰台を獲得し、そのリベンジを果たす形でKR500の戦闘力を世界へ見せつけたのです。
ZX-7RR
ZX-7RRは1996年から1997年まで販売された750ccのスポーツバイクです。
カワサキとしてはツーリングを楽しむライダー向けにZX-7Rをメインで販売し、一方でZX-7RRはレースに出場するためのホモロゲーションモデルとして台数限定で生産されていました。
そしてカワサキワークスチームは、世界スーパーバイク選手権(以下:WSBK)や全日本ロードレース選手権にZX-7RRを投入し、ホンダRVF750やヤマハYZF-R7、ドゥカティ996と互角のレースを繰り広げ、2000年の全日本ロードレース選手権スーパーバイククラスで当時のカワサキワークスライダーであった井筒仁康(いづつ ひとやす)がシリーズチャンピオンを獲得したこともありました。
ZX-7RR に乗った名ライダー:柳川明
カワサキを代表する日本人ライダーといえば、柳川明(やながわあきら)を挙げる方が多いでしょう。
1995年からカワサキのワークスライダーとしてレースに参戦し、現在もテストライダーやレースでのスポット参戦で活躍しています。
主に全日本ロードレース選手権JSB1000クラスを主戦場にするも、1997年から2001年まではWSBKにワークスチームから参戦していました。
柳川明の名レース:1997年WSBK第8戦オーストリア
1997年WSBK第8戦オーストリアGPで、柳川明は2ヒート目のレースで初優勝を飾ります。
レースは終始、DUCATI916のカール・フォガティ、ホンダRVF750のジョン・コシンスキーとZX-7RRの柳川明が三つ巴のトップ争いを繰り広げ、終盤でフォガティがコシンスキーに接触しフォガティが転倒。
その後、コシンスキーとの一騎打ちを柳川明が制し、トップでチェッカーを受けました。
ZX-RR
ZX-RRはカワサキがMotoGPへ参戦するために開発したマシンで、2002年後半からMotoGPに出場を開始しました。
カワサキは1983年以降、WGP500ccクラスへの参戦から遠のいていましたが、WGPがMotoGPへと名称を変更し、最高峰クラスも500ccクラスからMotoGPクラスへ変更、レギュレーションは2ストローク500ccエンジンから4ストローク990ccへ変わり、それをきっかけに参戦を発表し、990cc直列4気筒DOHC16バルブを搭載するZX-RRを制作したのです。
ちなみに、柳川明もZX-RRの開発ライダーを務め2002・2003年にMotoGPへスポット参戦をしています。
ZX-RRを乗った名ライダー:中野真矢
中野真矢は2004年から2006年までカワサキワークスチームへ入り、MotoGPクラスにZX-RRで参戦していました。
それ以前は、ヤマハのマシンで全日本ロードレース選手権250ccクラスのシリーズチャンピオンやWGP500ccクラスのルーキーオブザイヤーを獲得するなど、ヤマハで輝かしい成績を残してきたため、カワサキ移籍で多くの人々を驚かせたライダーです。
中野真矢の名勝負:2004年MotoGP第12戦日本グランプリ
中野真矢はカワサキがZX-RRを投入してから初めて表彰台を獲得したライダーです。
2004年MotoGP第12戦日本グランプリで、予選12位から徐々に追い上げ最終的に3位までジャンプアップし、ゴールを果たします。
カワサキにとっては500ccクラスからMotoGPクラスに変わってから初の3位入賞であり、母国でライムグリーンの速さ復活を思わせる結果となりました。
しかし、MotoGPへの挑戦で表彰台に上ることはあっても優勝することはできず、カワサキワークスから参戦したライダーの年間ランキングが10位以下だったことも影響し、2008年をもってワークス活動の終了を決定しました。
ZX-10RR
ZX-10Rは2004年から発売された排気量1000ccの大型スポーツバイクで、ZX-10RRのほうはZX-10Rに、さらにサーキット向けのチューニングを施したものです。
カワサキはワールドスーパーバイク選手権(WSBK)にZX-10RRでも参戦しています。
ZX-10RRを乗っている名ライダー:トム・サイクス
トム・サイクスは、カワサキ・レーシング・チームからWSBKに参戦しているライダーです。
2009年からZX-10R、ZX-10RRでWSBKに参戦し、2013年にはWSBKシリーズチャンピオンを獲得。
カワサキとしては、1993年以来20年ぶりのシリーズチャンピオン獲得で、速いライムグリーンを復活させました。
トム・サイクスの名勝負:2013年WSBKイタリア・モンツァGP
2013年WSBK第4戦イタリアGPは、モンツァサーキットで行われました。
トム・サイクスはポールポジションを獲得し、ヒート1レースではBMWを駆るマルコメランドリー、アプリリアのユージーン・ラバティと激しいトップ争いを繰り広げます。
そしてコンマ数秒の差で2位となりましたが、その戦いは海外メーカーとデッドヒートを繰り広げたZX-10Rの高いポテンシャルを感じさせるものでした。
まとめ
バイクレース界において不運のカラーリングとされたライムグリーンを身にまとい、ジンクスなど関係なく速さを探求し続けるカワサキは、バイクメーカーの中で類い稀ない技術力の高さを証明し続けています。
これからも、サーキットでの活躍や、MotoGPの復活など期待していきたいです。
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