MotoGP™の歴史を語るうえで外せないマシンがホンダNSR500です。MotoGP™がまだWGP(ロードレース世界選手権)と呼ばれており、最高峰クラスが500ccだった時代の終盤期、常勝軍団と呼ばれたのはNSR500に乗ったライダー達でした。そして500ccクラス最終年となった2001年もバレンティーノ・ロッシがNSR500でチャンピオンを獲得。最強の2ストロークレーサーとして有終の美を飾りました。

 

1985年 ホンダ・NSR500

1985年 ホンダ・NSR500 / © Honda Motor Co., Ltd.

 

ホンダNSR500とは

 

1997年式 ホンダNSR500

1997年式 ホンダNSR500 / © Honda Motor Co., Ltd.

NSR500はHRC(ホンダレーシング)が開発したレーサーバイクであり、WGP500ccクラスや全日本ロードレース選手権500ccクラスに参戦していました。

また、NSRは『New Sprint-racer of Research』の略称であり、250ccレーサーバイク『NSR250』や公道走行可能なレプリカバイクNSR250などに、その名は継承されています。

NS500から始まったホンダ2ストレーサー

 

1982年 ホンダ NS500

1982年 NS500 / © Honda Motor Co., Ltd.

1979年、ホンダはWGPへの復帰に4ストローク500ccエンジンを搭載したNR500で参戦するも3年間ポイントを獲得することができず、1983年から2ストローク500ccエンジンを搭載したNS500を投入しました。

また、ヤマハYZR500やスズキRGV-Γ500はV型4気筒エンジンを搭載していましたが、NS500はV型3気筒エンジンを採用。

絶対的なパワーではライバル車より劣るものの、小型・軽量・低重心なマシン設計によりコーナーリング旋回時や立ち上がりの加速を武器にWGPに挑んだのです。

そしてNS500投入元年となる1982年は片山敬済、マルコ・ルッキネリ、フレディ・スペンサーが起用され、開幕戦アルゼンチンGPでスペンサーが予選2位、決勝3位を獲得。

NR500ではポイント獲得すらできませんでしたが、2ストロークエンジンの採用でいきなり表彰台を手にするなどNS500がライバルと対等に戦えることを実証しました。

翌1983年には、スペンサーが念願のシリーズタイトルを獲得。

しかし、今後も戦えるマシンとして3気筒エンジンでは限界があると判断していたホンダ陣営は、1983年シーズン当初から4気筒エンジンの開発に着手。

そして1984年から2ストロークV型4気筒エンジンを搭載したNSR500を投入したのです。

その後1987年からエンジンの整備性を高めるため、エンジンVバンク角を90°から112°に変更し、お互いに向き合うシリンダー間にキャブレターを置くレイアウトを採用。

シリンダーの点火順序は90度等間隔爆発方式を採用していましたが、一時期はサーキットに応じてエンジン特性を変更するために180度等間隔同爆発方式のエンジンが使われていたとされています。

ちなみに、ヤマハとスズキは2軸クランクシャフト方式のエンジンを搭載しており、ホンダも同じ方式のエンジンを研究していましたが、当時のHRC代表だった福井威夫氏から「猿まねするな。」と却下されたそうです。

 

圧倒的な優位性を得たビッグバン・エンジン

 

1992年、年々ハイパワー化していく500ccグランプリマシンの中で、ホンダはNSR500のパワーを確実に路面へ伝えるため『ビッグバン・エンジン』をシーズン序盤から投入します。

また、当時のエースライダーであるマイケル・ドゥーハンが扱いやすいエンジン特性を求めたため、不等間隔位相同爆発方式と呼ばれる技術を採用してライダーに扱いやすいエンジン出力を実現。

これによりドゥーハンは、1994年から5年連続でタイトルを獲得することができ、NSR500の黄金期を迎えました。

スクリーマー・エンジンの登場

 

1997年式 ホンダNSR500

1997年式 ホンダNSR500 / © Honda Motor Co., Ltd.

1997年にふたたび等間隔爆発の点火順序を採用した『スクリーマー・エンジン』を搭載。

理由は、ドゥーハンが乗り手としてこちらの方が面白く、ピークパワーがもっとほしい時でもライバルとの差を広げることをできると意見したからです。

そしてドゥーハンはスクリーマー・エンジンを搭載したNSR500に乗り、シーズン優勝12回・2位2回という驚異的な成績を記録します。

その後、ドゥーハンは残念ながら1999年第3戦へレスでの大クラッシュで引退する事になりますが、チームメイトだったスペイン人ライダー アレックス・クリビーレがシリーズタイトルを獲得。

2000年はスズキRGV-Γ500に乗るケニー・ロバーツJrにタイトルを奪われるものの、2001年にはバレンティーノ・ロッシがNSR500に乗り、シリーズタイトルを奪還する事に成功しました

 

NSR500の市販車レーサー『NSR500V』登場

 

Honda NSR500V

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BBNSR500V

ホンダはプライべーターにも高性能でリーズナブルな500ccレーサーバイクを提供するために、1996年12月に『NSR500V』を発売しました。

価格は車両本体で800万円、セットアップキット付きで920万円、エンジンアセンブリで320万円。

エンジンは499.7cc水冷2ストロークV型2気筒クランクケースリードバルブ式エンジンを搭載。

最大出力135bhpとNSR500に比べて非力でしたが、レギュレーションのより4気筒よりも重量を軽量化できたため、乾燥重量103kgとNSR500に比べてかなり軽量でした。

また、サーキットによってはNSR500Vでも4気筒のワークスマシンを抑えて上位に入ることもあり、NSR500Vを使ったサテライトチームはシーズンを通してコンスタントにポイントを獲得することができるほど!

2001年にプライべーターとしてNSR500Vに乗っていた青木治親はランキング17位となり、ベスト・プライベーター賞を獲得しています。

 

ホンダNSR500/NSR500Vスペック

 

1997年式 ホンダNSR500

1997年式 ホンダNSR500 / © Honda Motor Co., Ltd.

 

NSR500
エンジン 2ストローク水冷V型4気筒ケースリードバルブ
排気量(cc) 499.3
タンク容量(L) 32
車重(kg) 130
最高出力(bhp) 180-200
フレーム アルミ製ツインスパー
フロントサスペンション Showa製 倒立テレスコピック式 フォーク
リアサスペンション Showa製 モノショック
ブレーキ ブレンボ カーボンディスク
タイヤ ミシュラン17インチ

 

1999年 NSR500V
全長×全幅×全高(mm) 1,975×600×1,060
ホイールベース(mm) 1,360
最低地上高(mm) 105
車重(kg) 103
エンジン 2ストローク水冷V型2気筒ケースリードバルブ
排気量(cc) 499.7
タンク容量(L) 26
最高出力(kW[bhp]/rpm) 101[135]/10,250
フレーム アルミ製ツインスパー
フロントサスペンション Showa製 倒立テレスコピック式 フォーク
リアサスペンション Showa製 モノショック
ブレーキ フロント:290mmカーボンディスク、ブレンボ4ポットキャリパー
リア:196mm鋳鉄ディスク、2ポットキャリパー
タイヤ ミシュラン17インチ

 

ホンダNSR500でのチャンピオン獲得ライダー

 

1994年 阿部典史

1993年 全日本ロードレース選手権500ccクラス 阿部典史 / © Honda Motor Co., Ltd. and its subsidiaries and affiliates. All Rights Reserved.

 

MotoGP™

 

シーズン ライダー 優勝回数 表彰台回数 獲得ポイント数
2位 3位
1985年 フレディ・スペンサー 7回 3回 141
1987年 ワイン・ガードナー 7回 3回 2回 178
1989年 エディ・ローソン 4回 6回 3回 228
1994年 マイケル・ドゥーハン 9回 3回 2回 317
1995年 マイケル・ドゥーハン 7回 3回 248
1996年 マイケル・ドゥーハン 8回 4回 309
1997年 マイケル・ドゥーハン 12回 2回 340
1998年 マイケル・ドゥーハン 8回 3回 270
1999年 アレックス・クリビーレ 6回 2回 2回 267
2001年 バレンティーノ・ロッシ 11回 1回 1回 325

 

全日本ロードレース選手権

 

シーズン ライダー 獲得ポイント数
1985年 木下恵司 138
1990年 伊藤真一 157
1992年 ダリル・ビーティー 147
1993年 阿部典史 123

 

NSR500で活躍した主なライダー

フレディ・スペンサー

 

1983年 フレディ・スペンサー

1983年 フレディ・スペンサー / © Honda Motor Co., Ltd.

 

ワイン・ガードナー

 

1987年 ワイン・ガードナー

1987年 ワイン・ガードナー / © Honda Motor Co., Ltd.

 

エディ・ローソン

 

1989年 エディー・ローソン

1989年 エディー・ローソン / © Honda Motor Co., Ltd.

 

マイケル・ドゥーハン

 

1998年 ミック・ドゥーハン

1998年 ミック・ドゥーハン / © Honda Motor Co., Ltd.

 

アルベルト・プーチ

 

1995年 アルベルト・プーチ NSR500

1995年 アルベルト・プーチ / © Honda Motor Co., Ltd.

 

ルカ・カダローラ

 

1996年 ルカ・カダローラ

1996年 ルカ・カダローラ / © Honda Motor Co., Ltd.

 

カルロス・チェカ

 

1996年 カルロス・チェカ

1996年 カルロス・チェカ / © Honda Motor Co., Ltd.

 

岡田忠之

 

1997年式 岡田忠之

1997年式 岡田忠之 / © Honda Motor Co., Ltd.

 

アレックス・クリビーレ

 

1999年 アレックス・クリビーレ

1999年 アレックス・クリビーレ / © Honda Motor Co., Ltd.

 

ロリス・カピロッシ

 

2000年 ロリス・カピロッシ

2000年 ロリス・カピロッシ / © Honda Motor Co., Ltd.

 

バレンティーノ・ロッシ

 

2000年 バレンティーノ・ロッシ

2000年 バレンティーノ・ロッシ / © Honda Motor Co., Ltd.

 

まとめ

 

1989年 WGP 500cc

© Honda Motor Co., Ltd.

NSR500が投入されてから4ストロークレーサーRC211Vに変わるまでの19年間で、ホンダはNSR500の基本構成をほとんど変えずに10回の個人タイトルと9回のコンストラクターズタイトルに輝きました。

そしてNSR500の技術はレースだけでなく、公道を走行できるレプリカバイクNSR250やCBR900RRにもフィードバックされています。

そんな、見ている我々を興奮させ、バイクの性能向上にも貢献したNSR500は、レースファンにとって忘れることのできない伝説のマシンです。

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