MotoGP™の歴史を語るうえで外せないマシンがホンダNSR500です。MotoGP™がまだWGP(ロードレース世界選手権)と呼ばれており、最高峰クラスが500ccだった時代の終盤期、常勝軍団と呼ばれたのはNSR500に乗ったライダー達でした。そして500ccクラス最終年となった2001年もバレンティーノ・ロッシがNSR500でチャンピオンを獲得。最強の2ストロークレーサーとして有終の美を飾りました。
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ホンダNSR500とは
NSR500はHRC(ホンダレーシング)が開発したレーサーバイクであり、WGP500ccクラスや全日本ロードレース選手権500ccクラスに参戦していました。
また、NSRは『New Sprint-racer of Research』の略称であり、250ccレーサーバイク『NSR250』や公道走行可能なレプリカバイクNSR250などに、その名は継承されています。
NS500から始まったホンダ2ストレーサー
1979年、ホンダはWGPへの復帰に4ストローク500ccエンジンを搭載したNR500で参戦するも3年間ポイントを獲得することができず、1983年から2ストローク500ccエンジンを搭載したNS500を投入しました。
また、ヤマハYZR500やスズキRGV-Γ500はV型4気筒エンジンを搭載していましたが、NS500はV型3気筒エンジンを採用。
絶対的なパワーではライバル車より劣るものの、小型・軽量・低重心なマシン設計によりコーナーリング旋回時や立ち上がりの加速を武器にWGPに挑んだのです。
そしてNS500投入元年となる1982年は片山敬済、マルコ・ルッキネリ、フレディ・スペンサーが起用され、開幕戦アルゼンチンGPでスペンサーが予選2位、決勝3位を獲得。
NR500ではポイント獲得すらできませんでしたが、2ストロークエンジンの採用でいきなり表彰台を手にするなどNS500がライバルと対等に戦えることを実証しました。
翌1983年には、スペンサーが念願のシリーズタイトルを獲得。
しかし、今後も戦えるマシンとして3気筒エンジンでは限界があると判断していたホンダ陣営は、1983年シーズン当初から4気筒エンジンの開発に着手。
そして1984年から2ストロークV型4気筒エンジンを搭載したNSR500を投入したのです。
その後1987年からエンジンの整備性を高めるため、エンジンVバンク角を90°から112°に変更し、お互いに向き合うシリンダー間にキャブレターを置くレイアウトを採用。
シリンダーの点火順序は90度等間隔爆発方式を採用していましたが、一時期はサーキットに応じてエンジン特性を変更するために180度等間隔同爆発方式のエンジンが使われていたとされています。
ちなみに、ヤマハとスズキは2軸クランクシャフト方式のエンジンを搭載しており、ホンダも同じ方式のエンジンを研究していましたが、当時のHRC代表だった福井威夫氏から「猿まねするな。」と却下されたそうです。
圧倒的な優位性を得たビッグバン・エンジン
1992年、年々ハイパワー化していく500ccグランプリマシンの中で、ホンダはNSR500のパワーを確実に路面へ伝えるため『ビッグバン・エンジン』をシーズン序盤から投入します。
また、当時のエースライダーであるマイケル・ドゥーハンが扱いやすいエンジン特性を求めたため、不等間隔位相同爆発方式と呼ばれる技術を採用してライダーに扱いやすいエンジン出力を実現。
これによりドゥーハンは、1994年から5年連続でタイトルを獲得することができ、NSR500の黄金期を迎えました。
スクリーマー・エンジンの登場
1997年にふたたび等間隔爆発の点火順序を採用した『スクリーマー・エンジン』を搭載。
理由は、ドゥーハンが乗り手としてこちらの方が面白く、ピークパワーがもっとほしい時でもライバルとの差を広げることをできると意見したからです。
そしてドゥーハンはスクリーマー・エンジンを搭載したNSR500に乗り、シーズン優勝12回・2位2回という驚異的な成績を記録します。
その後、ドゥーハンは残念ながら1999年第3戦へレスでの大クラッシュで引退する事になりますが、チームメイトだったスペイン人ライダー アレックス・クリビーレがシリーズタイトルを獲得。
2000年はスズキRGV-Γ500に乗るケニー・ロバーツJrにタイトルを奪われるものの、2001年にはバレンティーノ・ロッシがNSR500に乗り、シリーズタイトルを奪還する事に成功しました
NSR500の市販車レーサー『NSR500V』登場
ホンダはプライべーターにも高性能でリーズナブルな500ccレーサーバイクを提供するために、1996年12月に『NSR500V』を発売しました。
価格は車両本体で800万円、セットアップキット付きで920万円、エンジンアセンブリで320万円。
エンジンは499.7cc水冷2ストロークV型2気筒クランクケースリードバルブ式エンジンを搭載。
最大出力135bhpとNSR500に比べて非力でしたが、レギュレーションのより4気筒よりも重量を軽量化できたため、乾燥重量103kgとNSR500に比べてかなり軽量でした。
また、サーキットによってはNSR500Vでも4気筒のワークスマシンを抑えて上位に入ることもあり、NSR500Vを使ったサテライトチームはシーズンを通してコンスタントにポイントを獲得することができるほど!
2001年にプライべーターとしてNSR500Vに乗っていた青木治親はランキング17位となり、ベスト・プライベーター賞を獲得しています。
ホンダNSR500/NSR500Vスペック
NSR500 | |
---|---|
エンジン | 2ストローク水冷V型4気筒ケースリードバルブ |
排気量(cc) | 499.3 |
タンク容量(L) | 32 |
車重(kg) | 130 |
最高出力(bhp) | 180-200 |
フレーム | アルミ製ツインスパー |
フロントサスペンション | Showa製 倒立テレスコピック式 フォーク |
リアサスペンション | Showa製 モノショック |
ブレーキ | ブレンボ カーボンディスク |
タイヤ | ミシュラン17インチ |
1999年 NSR500V | |
---|---|
全長×全幅×全高(mm) | 1,975×600×1,060 |
ホイールベース(mm) | 1,360 |
最低地上高(mm) | 105 |
車重(kg) | 103 |
エンジン | 2ストローク水冷V型2気筒ケースリードバルブ |
排気量(cc) | 499.7 |
タンク容量(L) | 26 |
最高出力(kW[bhp]/rpm) | 101[135]/10,250 |
フレーム | アルミ製ツインスパー |
フロントサスペンション | Showa製 倒立テレスコピック式 フォーク |
リアサスペンション | Showa製 モノショック |
ブレーキ | フロント:290mmカーボンディスク、ブレンボ4ポットキャリパー リア:196mm鋳鉄ディスク、2ポットキャリパー |
タイヤ | ミシュラン17インチ |
ホンダNSR500でのチャンピオン獲得ライダー
MotoGP™
シーズン | ライダー | 優勝回数 | 表彰台回数 | 獲得ポイント数 | |
---|---|---|---|---|---|
2位 | 3位 | ||||
1985年 | フレディ・スペンサー | 7回 | 3回 | – | 141 |
1987年 | ワイン・ガードナー | 7回 | 3回 | 2回 | 178 |
1989年 | エディ・ローソン | 4回 | 6回 | 3回 | 228 |
1994年 | マイケル・ドゥーハン | 9回 | 3回 | 2回 | 317 |
1995年 | マイケル・ドゥーハン | 7回 | 3回 | – | 248 |
1996年 | マイケル・ドゥーハン | 8回 | 4回 | – | 309 |
1997年 | マイケル・ドゥーハン | 12回 | 2回 | – | 340 |
1998年 | マイケル・ドゥーハン | 8回 | 3回 | – | 270 |
1999年 | アレックス・クリビーレ | 6回 | 2回 | 2回 | 267 |
2001年 | バレンティーノ・ロッシ | 11回 | 1回 | 1回 | 325 |
全日本ロードレース選手権
シーズン | ライダー | 獲得ポイント数 |
---|---|---|
1985年 | 木下恵司 | 138 |
1990年 | 伊藤真一 | 157 |
1992年 | ダリル・ビーティー | 147 |
1993年 | 阿部典史 | 123 |
NSR500で活躍した主なライダー
フレディ・スペンサー
ワイン・ガードナー
エディ・ローソン
マイケル・ドゥーハン
アルベルト・プーチ
ルカ・カダローラ
カルロス・チェカ
岡田忠之
アレックス・クリビーレ
ロリス・カピロッシ
バレンティーノ・ロッシ
まとめ
NSR500が投入されてから4ストロークレーサーRC211Vに変わるまでの19年間で、ホンダはNSR500の基本構成をほとんど変えずに10回の個人タイトルと9回のコンストラクターズタイトルに輝きました。
そしてNSR500の技術はレースだけでなく、公道を走行できるレプリカバイクNSR250やCBR900RRにもフィードバックされています。
そんな、見ている我々を興奮させ、バイクの性能向上にも貢献したNSR500は、レースファンにとって忘れることのできない伝説のマシンです。
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