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かつて『ダブワン』と呼ばれ、現行モデルW800の祖先であるカワサキ650-W1。Z1やマッハシリーズなど、数々の名車を生み出してきたカワサキの全てはW1から始まりました。そんなW1の歴史について、ご紹介します。

カワサキ・W1S / 出典:https://www.motorcyclespecs.co.za/model/kawasaki/kawasaki_w2_650ss%2068.htm
始まりは目黒製作所から引き継がれたメグロK2
カワサキ W1と切っても切り離せないのが、戦前から二輪車の生産を行ってきた目黒製作所です。
目黒製作所は、250~650ccまでの二輪車をいくつも生み出し、中でも並列2気筒エンジンを搭載した排気量500ccのKシリーズや、650ccのセニアT1/T2などは後に紹介するWシリーズに大きな影響を与えるモデルとなります。
そんな目黒製作所は、できて間もない時期に、自動車修理と英国車トライアンフの部品製作を行い、英国二輪車から強い影響を受けていました。

BSA A7 / Photo by SUSSEX HONDA BIKE GUY..!
そして目黒製作所は、英国メーカー BSAのコピー車を生産するライセンスを得て1960年にメグロKを発売しますが、このときから業績が悪化し、1964年にカワサキに吸収合併されます。
そして、かつては小排気量メーカーだったカワサキが、目黒製作所との合併で僅かながら『カワサキメグロ』と名乗っていた時代もありました。
今では『ビッグバイク』と聞けばカワサキが思い出されるほど、カワサキの代名詞となっていますが、カワサキが大排気量バイクを製造するようになったのは、この目黒製作所を吸収合併してから。
そして、メグロの開発陣が主体となって制作し、カワサキ500 メグロK2が送り出され、1965年に開催された第12回東京モーターショーでW1のプロトタイプに当たるカワサキ650 メグロXを公開。
これら2台が、Wシリーズの初代モデル 650-W1の元となります。
メグロK2から650-W1へ!伝説のダブワンが誕生

カワサキ650-W1 / Photo by Hell strike A65
1966年、カワサキは650-W1を発売し、ここからWの伝説がスタートします。
カワサキ500 メグロK2の496ccエンジンをベースに、高速走行に対応させるためにエンジンボアを66mmから74mmに拡大して624ccに排気量アップ。
当時、同モデルは国内で最も排気量の大きいバイクとなります。
エンジンをここまで大きくした理由は高速走行だけでなく、海外輸出に対応させるためでもあり、W1はカワサキが初めて北米へ輸出したモデルでもありました。
W1SSからW2SSへ!北米市場開拓のためにスクランブラーモデル・W2TTも投入

カワサキ・W1S / 出典:https://www.motorcyclespecs.co.za/model/kawasaki/kawasaki_w2_650ss%2068.htm
W1が発売された同年、カワサキはシカゴに現地販売会社『アメリカン・カワサキ・モーターサイクル』を設立。
本格的に海外進出を狙うため、国内仕様をベースのW1にスポーティー路線を追求し、キャブトン型ショートマフラーや前後ショートフェンダーなどを装着した輸出専用モデル W1SSが作り出されます。
これが、カワサキモーターサイクルが世界に進出する先駆けとなりました。
そして、北米の大地を踏んだカワサキ製バイク W1SSは、翌年W2SSへモデルチェンジを果たします。
それまでミクニVW31キャブレターを1基しか搭載していなかったのを、VM28を2基搭載したツインキャブ化し、吸気バルブ径を36mmから38mmに拡大させたことにより、最高出力は53PSにまで向上。
1968年登場の国内モデル W1S(W1 SPECIAL)も、W2SSと同様にツインキャブ化され、キャブトンマフラーが装着されました。

カワサキ・W2TT / 出典:https://www.motorcyclespecs.co.za/model/kawasaki/kawasaki_w2_650ss%2068.htm
さらに左2本出しのアップタイプマフラーを装着し、ダート走行を意識したスクランブラーモデル W2TTを発売。
当時、ノートン コマンドーに代表されるスクランブラーモデルが人気だったこともあり、W2TTは北米でヒットします。
同時期にA1 SAMURAIやA7 AVENGERといった輸出モデルを充実させ、海外市場で徐々にカワサキブランドが浸透していきました。
生産台数1万台突破!W1SAから左足シフトチェンジ
1971年にWシリーズの累計生産台数が1万台を突破。
高性能な4気筒エンジンを搭載したホンダ CB750フォアやカワサキ Z1が大ヒットするなか、W1のバーチカルツインエンジンの独特なエンジンサウンドやスタイルに、根強いファンが増えていきます。
そんなW1は、英国式の右足チェンジ/左足ブレーキでしたが、左足チェンジが主流であったので、1971年のマイナーチェンジでW1SAになると同時に、シフトペダルを左に変更。
他にも、ヘッドライトが35Wから55Wに光量を引き上げ、ワンタッチ式タンクキャップ、速度警告灯も新設されましたが、デザインは変更せず、装備の充実が図れました。
Wシリーズの集大成・650RSが登場
1973年のフルモデルチェンジにより650RS(W3)が登場し、カワサキ車で初めてダブルディスクブレーキが装着されます。
シートはスプリングクッションからスポンジ製になり、キルスイッチやパッシングスイッチなど時代に合った装備を追加。
ウインカーやメーター、フロントフォークは、Z1やH2と共通化されます。
そしてW1シリーズは近代化され、国内で白バイや官庁用にも採用されていき、大排気量モデルにおいて憧れ的な存在になっていきました。
しかし、北米市場ではH1/H2やZ1と高性能なモデルのほうに人気が偏り、外国人からW1は、BSAの模範車というイメージがあったことや、基本設計が古かったので走行時の大きな振動や故障も比較的多かったことなどから、CB750フォアやヤマハ XS1と競売させることが難しくなっていきます。
そして、W1は1975年をもって生産終了となりますが、約4半世紀の空白の後、Wシリーズは劇的な復活を果たすのです。
1999年にWシリーズ復活!カワサキ・W650登場

カワサキW650 / Photo by Uberto
1999年、カワサキはWシリーズの復刻モデルとしてW650を登場させます。
搭載された空冷並列2気筒はオリジナルのWシリーズを忠実に再現され、SOHC4バルブはベベルギア駆動。
360度クランクによる等間隔爆発は、心地よい鼓動感を生み出しました。
そしてW650は大型バイクのネオクラシックカテゴリーに圧倒的な存在感を示し、現在、カワサキZ900RSやホンダCB1100、スズキ カタナなどリバイバルモデルのブームが起こっていますが、その中でもWシリーズの最新モデル、カワサキ W800だけは特別な存在です。
カワサキ・W1のスペック

カワサキ W1S / Photo by Hell strike A65
カワサキ500メグロK2 | カワサキ・W1 | カワサキ・W1S | ||
---|---|---|---|---|
全長×全幅×全高(mm) | 2,185×900×1,070 | 2,135×865×1,070 | 2,145×865×1,100 | |
軸間距離(mm) | 1,430 | 1,430 | 1,420 | |
シート高(mm) | 800 | 800 | 810 | |
乾燥車両重量(kg) | 194 | 199 | 199 | |
エンジン種類 | 空冷4スト並列2気筒OHV2バルブ | 空冷4スト並列2気筒OHV2バルブ | 空冷4スト並列2気筒OHV2バルブ | |
総排気量(cm³) | 496 | 624 | 624 | |
ボア×ストローク(mm) | 66.0×72.6 | 74.0×72.6 | 74.0×72.6 | |
圧縮比 | 8.7:1 | 8.7:1 | 9.0:1 | |
最高出力(kW[PS]/rpm) | 26[36]/6,500 | 35.0[47]/6,500 | 38[53]/7,000 | |
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm) | 41.1[4.2]/5,500 | 52.9[5.4]/5,500 | 55.8[5.7]/5,500 | |
変速機形式 | 4速(右チェンジ) | 4速(右チェンジ) | 4速(右チェンジ) | |
タンク容量(ℓ) | 15 | 15 | 15 | |
タイヤサイズ | 前 | 3.25-19 | 3.25-18 | 3.25-19 |
後 | 4.00-18 | 3.50-18 | 4.00-18 |
カワサキ・W1SA | カワサキ・W3(650RS) | カワサキ・W650 | ||
---|---|---|---|---|
全長×全幅×全高(mm) | 2,135×850×1,100 | 2,150×860×1,120 | 2,175×905×1,140 | |
軸間距離(mm) | 1,420 | 1,420 | 1,455 | |
シート高(mm) | 810 | 810 | 800 | |
乾燥車両重量(kg) | 199 | 215 | 194 | |
エンジン種類 | 空冷4スト並列2気筒OHV2バルブ | 空冷4スト並列2気筒OHV2バルブ | 空冷4スト並列2気筒SOHC4バルブ | |
総排気量(cm³) | 624 | 624 | 675 | |
ボア×ストローク(mm) | 74.0×72.6 | 74.0×72.6 | 72.0×83.0 | |
圧縮比 | 9.0:1 | 9.0:1 | 8.6:1 | |
最高出力(kW[PS]/rpm) | 38[53]/7,000 | 38[53]/7,000 | 36[50]/7,500 | |
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm) | 55.8[5.7]/5,500 | 55.8[5.7]/5,500 | 55.8[5.7]/5,500 | |
変速機形式 | 4速(左チェンジ) | 4速(左チェンジ) | 5速(左チェンジ) | |
タンク容量(ℓ) | 15 | 15 | 15 | |
タイヤサイズ | 前 | 3.25-19 | 3.25-19 | 100/90-19 |
後 | 4.00-18 | 4.00-18 | 130/80-18 |
まとめ

カワサキW650 / Photo by cotaro70s
世界最速を狙った絶版旧車といえば、Z1やマッハシリーズ、ZZR1100。
そして現行モデルでは、スーパーチャージャーを搭載したH2を登場させるなど、カワサキはどこよりも世界最速にこだわったメーカーです。
そんなカワサキが”ビッグバイクのカワサキ”として知られるようになったのは、かつて存在した伝説のバイクメーカー メグロと、W1によるもの。
そして、W650を復活させたダブワンの熱狂的なファンがいたからでしょう。
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