自動車メーカーの中でも、世界屈指の技術を誇るトヨタですが、衝撃的なデビューを果たした初代プリウスの登場と同時にハイブリットカーが爆発的な人気となったわけではなく、しばらくは「最先端でスゴイけど、何か特殊な車」という扱いでした。そこから一転、爆発的大ヒットし、日本でハイブリッドカーを当たり前の存在にしたのが、3代目30系プリウスです。
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初代、2代目と最先端ではあったものの…という状況で登場した、3代目プリウス
1997年12月に華々しいデビューを飾り、215万円(21世紀へゴー!)という語呂合わせで決定した、赤字上等の新車価格で話題となった、初代プリウス。
トヨタ初にして、量販車として世界で初めて成功したハイブリッドカーでしたが、最初は「実験的な新世代自動車」として、興味半分、不安半分というイメージでした。
当時の自動車といえば実燃費15km/Lで優秀、10km/Lも出れば満足。しかも1990年代後半は、妙にガソリンが安く、レギュラーがリッター80円程度まで落ちた頃だったため、ハイブリッドカーほど燃費がいい車の必要性が大きかったわけでもありません。
ましてや低速時はモーター単独で、加速時や高速時はバッテリー残量がある限り非力なエンジンでもモーターアシストでそこそこ走り、エンジンだけでなく回生ブレーキでも充電するためエンジンへの負担が少ないと言われても、当時の人にとっては、「とにかくすごい(らしい)」という印象。きちんと理解が進むには、少し時間が必要でした。
そんなわけで、プリウスの年間販売台数は初代後期の2001年でも1万台程度。2003年にデビューした2代目20系(以下、「20プリウス)」も、2004年に約6万台を売りましたが、翌年は新車効果も落ちて販売が低迷。
2006年半ばからのガソリン価格の高騰後にようやく販売台数が上向きとなり、「排ガスをあまり出さず、環境に配慮した意識高い系の人や、お金持ちのアピール用」から脱却し、2007年に約5.8万台を販売してからは、年々販売台数が増えていきました。
折しも当時、同年2月にはホンダから2代目プリウスと同様の、5ドアハッチバックセダンなハイブリッドカー、2代目インサイトが登場。
税込189万円からという低価格(20プリウスは233.1万円からだった)と、プリウスより一回り小さい「5ナンバーサイズ」で、同年4月には10,481台を販売し、登録車の月販トップに立ちます。
それによりメディアも「トヨタ vs ホンダのハイブリッドカー対決!」と報道。新型プリウスへの注目が高まる中、2009年5月に3代目30系プリウス(以下、「30プリウス」)はデビューしました。
ライバルをガッチリ抑え、2代目のネガを潰し大ヒット!
30プリウスの価格は、装備を厳選した燃費スペシャルグレード「L」の205万円からで、ライバルの2代目インサイトより高額でしたが、なんとここでトヨタは驚く事に、先代20プリウスも廉価グレードは”プリウスEX”として継続販売します。しかも、価格を40万円以上下げ、インサイトと同じ189万円です。
古いとはいえ1.5Lエンジンで動力分割式の本格的なフルハイブリッドシステム「THS-II」を搭載したプリウスEXと、1.3Lエンジンとミッションの間に挟んだ薄型モーターで限定的なモーター単独走行/モーターアシストが可能なホンダのIMAシステムが同じ価格となると、ホンダとしてはたまったものではありません。
しかも、20プリウスや、後に30プリウスもタクシーとして大量に使われたのに対し、2代目インサイトは後席ドア開口部の大きさなどが当時の小型タクシー規定を満たしていないだけでなく、ホンダのタクシー用ハイブリッドカーとして普及していたシビックハイブリッドが、2代目インサイトデビュー後の2010年12月に販売を終了してしまいます。
これ以後も、ホンダはi-DCDやi-MMD(現・e:HEV)といった独自のハイブリッドシステムで対抗しますが、トヨタの圧倒的なアドバンテージは30プリウスと、20プリウスEXによって決定的となりました。
さらに30プリウスは、一回り大きく快適になったボディや、1.8リッターに排気量が拡大されたエンジンと新型の3JMモーターで大幅にパワーアップし、バッテリーの小型軽量化や冬場のヒーター利用時の負担を低減する排気熱循環システムで高効率化。さらには10・15モード燃費35.5km/Lを叩き出す、発展型THS-IIシステムが搭載されるなど、死角はありません。
とはいっても、増加した車重に対するサスペンションの熟成不足(あるいは限界)や、回生ブレーキと油圧ブレーキが切り替わる時のカックン感など、弱点は完全に克服されてはいませんでしたが、先代より圧倒的に広くて快適で、荷物ものせやすいなど、実用性が向上されました。
また、システムのパワーアップで、コンソールのスイッチを「PWR」モードにすればモーターのトルクで轟然と、「ECO」モードにすれば燃費よくしずしずと走り、エンジンが最大の効率を発揮する高速巡航でも排気量アップの恩恵で余裕の走りとくれば、もはや「ハイブリッドカーという特殊なスゴイ車」ではなく、「普通にイイ車」として大ヒットしないわけがありませんでした。
そしてデビューイヤーとなった2009年は前年の3倍近い約20.8万台を販売し、2012年には約31万7,000台とブッチギリのトップを獲得。それも軽自動車のミラ(約21.8万台)やN-BOX(約21.1万台)すら置き去りにする、「国民車」的な大人気を誇ったのです。
2013年以降は、よりコンパクトで安価、使いやすくて燃費もいいアクアのデビューでトップを譲りますが、それでもほとんどの期間で毎月の月販台数の2~5位を維持する人気モデルであり続けました。
プリウスPHVや、スタイリッシュなプリウスG’sも登場
30プリウスには、ユーザーから熱狂的な支持を受けた通常モデルのみならず、注目すべき派生車がいくつかありました。
ボディ形状まで変えたのは、2021年3月で生産を終了する40系「プリウスα」くらいですが、それより画期的だったのはトヨタの量産ハイブリッドカーとして初めて走行用バッテリーとしてリチウムイオン電池を採用し、EV(電気自動車)と同じように外部からのバッテリー充電も可能としたPHEV(プラグインハイブリッドカー)、「プリウスPHV」です。
限定的なユーザーに対するリース販売は2009年12月から、一般販売は2012年1月から始まり、30プリウスPHVでは外部からの充電で最高速度100km/h、最大26.4kmのモーター単独走行が可能。外部からの充電が切れた後は普通のハイブリッドカーとして使用できます。
さらに、一般市販時までに東日本大震災(2011年3月)が発生し、従来型のハイブリッドカーでもAC100V・1500Wで外部給電可能なコンセントが装備されていれば、停電時でも家電製品の利用に威力を発揮する事がわかり、それまでアウトドア用途が主と見られていたPHEVが「災害時非常電源」として脚光を浴びたため、輸入PHEVではあまり見られない、国産PHEVならではの外部給電能力が重視されるようになりました。
そのため30プリウスPHVは一般販売の開始と同時に、AC100V・1500Wコンセントがメーカーオプションで設定され、家電の利用だけではなく、V2H(Vehicle to Home)対応住宅への給電も可能になっています。
また、2011年12月にはGazooRacingがプロデュースしたカスタマイズブランド「G’s」(現在のGR SPORT)の「プリウスG’s」も発売されます。
スポット溶接を増やすだけでなく補強材の追加によるボディ剛性の向上や、スポーツサスペンション、スポーツタイヤ&アルミホイールの装着、さらにG’s専用バンパーなどのエアロパーツにより、走りも内外装も通常のプリウスとはかなり異なるスポーティなモデルに変身。ハイブリッドカーにもスポーティさを与える純正カスタマイズの先駆けと言えるモデルでした。
主要スペックと中古車価格
(30プリウス 主要スペック)
トヨタ ZVW30 プリウス Gツーリングセレクション 2014年式
全長×全幅×全高(mm):4,480×1,745×1,490
ホイールベース(mm):2,700
車重(kg):1,380
エンジン:2ZR-FXE 水冷直列4気筒DOHC16バルブ
排気量:1,797cc
最高出力:73kw(99ps)/5,200rpm
最大トルク:142N・m(14.5kgm)/4,000rpm
モーター:3JM 交流同期電動機
最高出力:60kw(82ps)
最大トルク:206N・m(21.1kgm)
JC08モード燃費:30.4km/L
乗車定員:5人
駆動方式:FF
ミッション:電気式無段変速(ハイブリッド動力分配機構)
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)トーションビーム
(中古車相場とタマ数)
※2021年1月現在
0.3~243.8万円・6,230台
(30プリウスPHV 主要スペック)
トヨタ ZVW35 プリウスPHV G 2015年式
全長×全幅×全高(mm):4,480×1,745×1,490
ホイールベース(mm):2,700
車重(kg):1,420
エンジン:2ZR-FXE 水冷直列4気筒DOHC16バルブ
排気量:1,797cc
最高出力:73kw(99ps)/5,200rpm
最大トルク:142N・m(14.5kgm)/4,000rpm
モーター:3JM 交流同期電動機
最高出力:60kw(82ps)
最大トルク:206N・m(21.1kgm)
JC08モード燃費:31.6km/L
プラグインハイブリッド燃費:57.0km/L
乗車定員:5人
駆動方式:FF
ミッション:電気式無段変速(ハイブリッド動力分配機構)
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)トーションビーム
(中古車相場とタマ数)
※2021年1月現在
49.9~199万円・113台
そして「ハイブリッドカーが当たり前の時代」へ
30系プリウスの登場により普及に弾みがついたハイブリッドカーは、それまでのプリウスやアクアのようなハイブリッド専用車や大型高級ミニバン、SUV以外にも随時追加されていき、「トヨタ」の礎となっていきました。
今や一部の本格オフローダーやスポーツカー、商用車、OEM車を除けば、ほとんどのトヨタ車にハイブリッド仕様が設定されています。
30プリウス登場までは「珍しい」、「特殊な」、「意識高い系」という印象のあったハイブリッドカーはすっかり一般的となり、これからいよいよEVの普及も本格化します。
そんな時代の流れに、日本でハイブリッド車の普及に大きく貢献した30系プリウスは、いずれ初代10系プリウスに次ぐ歴史的名車として、語り継がれていくことでしょう。
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